22 エリアボス到達
大岩を何とかやり過ごした後、俺達は下に下っているのか、それとも上っているのか分からない儘、巨大ピラミッドの中を進んでいった。
少し前に突破したパーティーが先にいるらしく、罠の起動も、魔物の出現も思ったより少なかった。
「……今何階にいるんだろ?」
”女王”さんの疑問に、
「さぁ? 全然わからん」
「これじゃ方向感覚なくなるヨ。上ったり下ったり横にいったり忙しいネ。というか、ワザとこんなに入り組んだ道にしてるとしか思えないヨ」
うん、俺もそう思う。
このゲームの運営は時々こういう意地悪をするんだよなぁ……。
いやまぁ”迷宮”なんだから仕方がないといえば仕方がないんだが。
「……多分地下」
突然のゾン子の発言に、俺達は目を驚いてゾン子を見た。
ゾン子は手でVの字を作り、
「……全体的には上ってるよりも下りの方が長い」
そう言った。
どうやらゾン子はちゃんと道を覚えていたようだ。
よくもまぁ戦ったり罠を回避してたりと忙しいのに覚えているもんだ。
ゾン子の言う事を信じる事としよう。
「……じゃ、最後は地下になるのか」
「ピラミッドって上に部屋がなかったっけ?」
「ま、ゲームだし、ちゃんと再現してる訳じゃないんだろうけどネェ」
まぁいいや。
取り敢えずどんどん進もう。
「……随分装飾が豪華になったネ」
李の言う通り、下に下れば下る程、構造は黄土色の土壁から黄金に輝く装飾豊かな壁へと変化していった。
ここを見ていると、実に王家の墓っぽい。
「壁の色が変わったって事はそろそろ最下層なんじゃない?」
「……うん。多分」
「だといいけどな」
そこを抜けると、巨大な階段に出た。
階段も全て黄金で作られており、なんだか眼がチカチカする。
遠くには巨大な黄金に光り輝く扉が見えており、その前に休憩しているのだろう。四人程の人がいた。
「凄い。広いねぇ……」
”女王”さんが感心した様に呟き、歩き出す。
どうやら敵も罠もないらしく、俺達は安心して扉の前まで歩いて行った。
「おや、李さんじゃないか」
「あ、勇者ダ。この間のイベントぶりネ」
そこにいたのは、この間のイベントにも参加していた”勇者”のハルトのパーティーだった。十代後半位なのだろう。端正な顔立ちのイケメンである。
ハルト一人に女性三人の組み合わせで、騎士、魔術師、僧侶のお手本の様なパーティー構成だ。
ハーレムか。羨まし……くはないな。気疲れしそう。
「それにスカーレットさんも。……ゾン子さんは久しぶりだね」
「久しぶりー……とはいえこの間のイベントで顔は合わせてるけど」
「うん。……久しぶり」
どうやら”女王”さんもゾン子も知り合いの様で気軽に挨拶をする。
ふーん、女性の知り合いが多いんだねぇ。
いつか刺されてもしらんぞ。
「えっと……彼は?」
ハルトが俺の方を見る。
まぁ俺の方が一方的に知ってるだけだしな。有名人だから。
方や俺の方は知名度はない。
トップレベルではないし、国にも所属していないし。……あ、この間のイベントはランキングに入ったけど。
「ヘキレキ。暗殺者のオッサンだヨ」
……オッサンって。いやまぁ自称はしているけど、俺まだ二十六歳だぞ。
十代から見れば立派なオッサンかもしれないが。
「ハルトです。宜しく」
そういって手を出してきたので、俺も手を出して握手をする。
きゃー、有名人と握手しちゃった! ……なんてな。
「で、此方が――」
そういって、ハルトが自身のパーティーメンバーを紹介する。
女騎士はアヤ、魔術師はアオイ、僧侶はフミナだとそれぞれが名乗る。
全員本名っぽいなぁ……。
「全員リアルで知り合いなんです」
あー……これがリア充ですか。ハーレムですか。
アニメとかでありそうな関係だなぁ。
「良くあの罠突破出来たネ。どうやったノ?」
李の質問に、ハルトは、
「アオイが魔術で罠を感知して、一つずつ地道に回避しましたよ」
「大変でしたけど」とハルトは苦笑する。
あ、ここにちゃんと攻略した奴等いたんだ。
なんか俺等ズルした感半端ないんですけど。
「そっちはどうやって?」
逆に質問してきたので、李が俺達がやった方法を話す。
それを聞いて、アヤと名乗った女騎士が「え、それ有りなの?」という顔をするが、
「成程。そういう方法もあるんですね。召喚士がいないから確かめられないのが惜しいな」
ハルトは素直に感心していた。
ってか召喚士がいたらお前もやるんかい。
一通り話した後、
「この先がボスだと思います」
ハルトが黄金の扉を見上げる。
改めて見ると凄いでかいな。
人何人分だこれ?
俺達が扉を見上げていると、
「……提案なんですけど、協力しませんか?」
そうハルトが切り出す。
「協力? 良いの?」
”女王”さんが聞き返と、
「はい」
ハルトは即座に答えた。
「今までのボスの傾向から見て、複数パーティーで相手をしてやっとっていう可能性が高いですから。其方が良ければですけど」
ハルトの提案は、此方にとっては願っても無い話だった。
普通ならば早い順といって自分達パーティーで討伐をしてみて、不可能なら協力を仰ぐのがこのゲームのトッププレイヤー達である。
俺達は顔を見合わせて頷く。
「有難いネ。協力するヨ」
李が手を出す。
ハルトがそれを握り返して、協力成立だ。
このゲームにおいてはリーダー同士がパーティーの統合を決定すれば自動的にパーティーが統合される。
丁度、一パーティーの限度である八人だ。
パーティーが統合されたのを確認し、全員の準備が整ったのを確認し、
「――じゃ、開くぞ」
ハルトが扉に手を掛けた。
重厚そうな扉は、ギイと音を立てて開かれる。
扉の中にあったのは広大な部屋――ではなく、扉に比べると小さな部屋だった。
とはいえ、部屋全体が扉と同様黄金に輝いている。
そこら中に宝箱や金銀財宝が置かれており、どうやら宝物庫の様だった。
「……何もいない?」
フミナが部屋を見渡して呟いた言葉が、全員が考えた事を代弁していた。
全員が不思議そうにしながらも、中に入ると、再び扉が音を立てて閉じた。
「――しまった! 罠か!?」
「全員、警戒するヨ!!」
リーダー二人の叫びで全員が周囲を警戒し始めた。
『侵入者共よ』
ふと、何者かの声が響く。
だが、俺達の視界には誰も映らない。
『――我等王家の墓に侵入した罪は重い』
「誰だ!?」
ハルトが叫ぶと同時に、俺達の視界が光で覆われ、次の瞬間、俺達は広大な部屋の中央にいた。
「――だが宝物庫まで辿り着けたのは驚嘆に値する」
先程の声が、今度は鮮明に聞こえた。
俺達が声の方向を見ると、そこには黄金に輝く玉座、その背後には巨大な写し鏡、そしてその玉座には金髪で色白の女性が座っていた。
「――我が名はニトケルティ。またの名をネチェルカラー」
ニトケルティと名乗った女王は立ち上がり、傍らに突き刺さっていた杖を手に取ると、
「――汝等、侵入者に天罰を!! ホルスの化身たる我が、汝等を死の世界へと導いてやろう!!」
そう言った。
ニトケルティ? 聞いた事ない名前だな。




