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21 ゾンビが可哀そうだなって話

「――オ、オオオォォォォォッ!!」


 その断末魔を最後に、スフィンクスの石の身体が砂煙を上げながらガラガラと崩れていく。


「ふー、倒したネ。じゃ、先に進むヨ」

「了解」

「……うん」

「あいよ」


 李と俺を先頭にして、”女王”さん、ゾン子の順でピラミッドの中に入っていく。

 ピラミッドの中は、思ったより狭かった。

 大人二人分程の大きさの黄土色の土壁の通路が奥まで広がっている。

 接敵に注意しながら、俺達は奥を目指して歩き出した。





 構造は俺が思っていた以上に複雑で、上に向かっているのか下に向かっているのか、よくわからなくなっていた。

 一応マップは表示されているものの、自分が通った道しか表示されない上に、ただでさえ同じ景色がずっと続いている為、何処かどうつながっているのかがわかり辛い。

 なんとかかんとか一階を抜けてると、下に通じる階段があった。

 降りようと歩き出そうとした時、ふとゾン子が忠告してくる。


「……ここから先は面倒。罠とか、沢山ある」


 罠、ねぇ。

 階段を降りながら、会話を続ける。


「俺も李も”女王”さんも盗賊系はとってないから罠は面倒だな」

「そうだね。とはいえ一々罠に引っかかるのは面倒だよ」

「例えばどんな罠があるネ?」


 李の質問に、ゾン子は指を数えながら、


「えっと……ナイフとか毒針が出てくる……とか……大岩が転がってくる、とか」

「またベターな」


 呆れる程にお決まりな罠だ。

 階段を降りきると、そこは一本道だった。

 天井や壁の所々には小さな穴が開いている。

 ……うわぁ、何かもう「ここに罠がありますよ」みたいな雰囲気ありありだ。


「絶対あれ、さっき言ってたナイフとか毒針が飛んでくるって奴だよね?」

「だろうネ。……こりゃ確かに面倒だヨ」


 どう進もうかと俺達が考えていると、


「……任せて」


 とゾン子が言った。

 俺達が見守る中、ゾン子は杖を掲げ、


「……【召喚(サモン)・ゾンビ】」


 ゾンビを一体召喚した。

 なんら変哲もない、下級ゾンビである。

 そして、


「……ゴー」


 ゾンビに命令を下した。

 下した命令は単純明快。『ただ真っすぐに突っ切れ』である。

 命令されたゾンビは召喚者(ゾン子)の命令を忠実に聞き、俺達程の速度はないが、それなりの速度で目の前の一本道を真っ直ぐ駆け出す。

 すると、


 バシュン!!


 という音と共に、幾つもの穴からナイフや針が飛び出し、ゾンビに当たった。

 だが、ただのNPCであるゾンビは、痛みを気にする事なく、ただ愚直にHPが減る迄進んで行き、幾つかの罠に嵌り、HPが尽きると光となって消えた。

 それを呆然と見ていた俺達をゾン子が俺達を振り返り、


「……罠の再装填にはそれなりの時間が掛かる。……今の内、行こ?」

「……えぐい事するねぇ」


 ”無法の女王”なんて渾名を付けられている”女王”さんが思わずと言った様子で呟く。

 うん、俺もそう思う。

 だが、何故鴆がゾン子(コイツ)が相応しいと言ったのかの理由がわかった。

 こんな事を出来るのは召喚士等だけだろうが、これが出来るのならば随分と攻略が楽になる。

 まぁ召喚者(サモナー)達にはヘイト稼ぎにしか使われないという下級ゾンビだ。

 存分に此処で活躍してもらう事としよう。







 その後も順調に、攻略は進んだ。

 相変わらず一直線の道が多く、毒針やナイフ等の罠が多い為、ゾン子の召喚する下級ゾンビの突撃で罠を突破するという方法は、非常に有効だった。

 まぁパーティーに召喚者がいないと無理だし、それも大量に召喚する為、高レベルの召喚者か魔力回復の手段を多く持ってかないといけないから、若干ハードルは高めだが。

 というか、正攻法で突破してる人間っているのか?

 NPCの魔物達もレベルは相当に高いし、罠も毒だ麻痺だと種類も多いから面倒だと思うんだが……。

 俺達がズルに近い事をしてるのか?

 いや、運営から警告文が来ないからこれも突破方法として”あり”っていう判断なのだろうが。

 恐らく、俺達以外にもこの方法で突破しているパーティーもいるだろう。

 掲示板とかには既に攻略方法として載ってたし。





「――ゴー」


 相も変わらず、ゾン子は罠がある度に下級ゾンビを召喚、突撃させる。

 ……なんだか見てたら可哀そうになってくるな。

 ゾン子はそんな事考えてなさそうだが。

 ゾン子――というかゾン子が召喚した魔物――ばかり働かせるのは申し訳ないが、それ以外の魔物との戦闘は……すまん、そっちは”女王”さんに任せっぱなしだわ。

 そんな余計な事を考えて歩いていたからだろう。


 カチッ


「……スマン。何か踏んだ」

「何って。何を踏んだネ」

「わからん」


 俺がそう答えると同時に、


 ゴゴゴゴゴゴゴ!!


 地揺れと共に、大きな音が聞こえてくる。


「……あれ」


 ゾン子が指を差した方向を見ると、いつの間にか、そこには巨大な大岩が出現し、此方へ向けて転がって来るではないか――って!


「――逃げるヨ!!」


 李の指示に、全員が駆け出す。


「……ピンチ」

「ヘキレキ、何踏んでるネ! 暗殺者なら罠くらい用心するヨ!!」

「悪かったって!!」


 いや、マジでスマン。

 ホント、余計な事を考えながら進むもんじゃないな。

 これが現実(リアル)だったらミスどころの騒ぎじゃない。

 暗殺者として失格だろう。


「ちょっと壊せるか試してみよっか?」


 ”女王”さんの提案に、


「――頼むヨ!!」


 李は速攻で頷いた。


「ちょっと多めに魔力使っちゃうけど仕方がない。思いっきり行くよ!」


 ”女王”さんは足を止めて振り返り、


「撃鉄を起こしなさい。――【列車砲(ドーラ)】!!」


 いつもより早口でそう詠唱すると、”女王”さんの後ろに超巨大な砲塔が二つ現れ、一斉に火を噴く。

 砲撃は一直線に大岩を直撃した――が、


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!


 大岩は壊れることなく、更に勢いを落とす事なく此方へと転がってくる。


「――はい無理! 撤退!!」


 ”女王”さんの判断は早く、一撃を加えて壊れないと確信すると、走り出した。

 それを見て、俺達も遅れて走り出す。


「マジか。”女王”さんの一撃でも壊れないか」

「どんだけ固いヨあのバカ岩ハ!」

「……”女王”が無理……なら、私達でも無理」


 純粋な攻撃力(STR)を見れば、ゲーム内でもトップクラスであろう”女王”さんの中でも、恐らく最上位に入る攻撃でも壊れないのだ。

 元々壊れない様に設定されているか、余程固いのだろう。


「仕方がないか! ――撃鉄を起こしなさい。【カノン砲(ラッチュ・バム)】!! 皆ここに入って!」


 ”女王”さんが砲撃で生み出した窪みに、俺達は転がる様にして入り込んだ。

 直後、俺達が先程までいた場所を大岩が転がっていく。

 ……あ、危なかった。

 ”女王”さんの素早い判断と、建物はある程度壊せるっていうゲームの仕様がなけりゃ死んでたな。

 感謝感謝。





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