16 イベントボス4
区切りが良いので短めです。
お待たせしてすいませんでした!
……月餅の一撃でHPゲージごっそり減ってるんだけど。
もしかして、物理耐久が紙だから触手で守って近付かせない様にしてたの?
仕方ない事だが、今までの魔術重視の戦闘はなんだったのか……。
まぁ確かに今までの植物系も物理耐久は低かったけど、レイドボスでも当てはまるのか。
「……ほら見ろレキ! やはり物理最強だな!」
ぐん、と減ったHPゲージを見て、ご機嫌な様子で月餅が笑う。
いや、ただ相手の魔術への耐久が高くて物理耐久が低いだけだろ。
とはいえ、これなら俺の基本的な戦法も使えるってものだ。
「後衛職の奴等にとっては残念なお知らせだけど――なっ!!」
ゲーム内でもそれなりに上位だと自負しているAGIにものを言わせ、暴れるヤ=テ=べオの攻撃を掻い潜りながら瞬時に近付いて斬り付け、即座に月餅の隣に戻ってくる。
俺以外にも、月餅の攻撃によってヤ=テ=べオのHPゲージがぐんと減ったのを見て物理耐久の低さに気付いた連中が接近攻撃を仕掛け始めており、ヤ=テ=べオのHPゲージは先程以上に減りが早い。
さっきとは逆で、『後衛職が触手を吹き飛ばし、前衛職が本体を叩く』という戦法が即座にプレイヤー達に共有され、状況についていけていなかったプレイヤー達も触手の攻撃を掻い潜り、ヤ=テ=べオの本体へと近付き、攻撃を始めた。
すると、あっという間に赤のHPゲージは削られ、緑色のゲージへと到達する。
「HPは後半分だぞ!!」
「総攻撃だ!!」
「一気に削り切れ!!」
「スイッチ!! ――俺の番だ!」
あちらこちらからプレイヤー達の声が聞こえ、それまでの鬱憤を晴らすかのように前衛職のプレイヤー達が更にヤ=テ=べオに押し寄せ、斬ったり、突いたりしている。
属性攻撃なんて武器で補えるので、こうなったら月餅を始めとしたSTR特化の脳筋共の独壇場だ。
砲術師系からの派生の”女王”も、流石に出番は――
「――【フレイムウィップ】!!」
俺達に振り下ろされようとしていた触手が、伸びてきた鞭によって炎と共に弾けた。
鞭を操っていたのは”女王”だった。
「二人だけにはやらせないよー」
そう言いながら、俺達のところに近付いてくる。
その後ろで、李とヒッキーが廃人にはついていけないといった表情を浮かべていた。
そっか、女王の得物は鞭かい。……そっちの気のある奴らには人気が出そうだ。
「やれやれ……”女王”は好戦的ネ。流石闘技会に出る人間は違うヨ。じゃ、サポートはヒッキーに任せるネ」
「了解した。……では【風林火山・火】!!」
STR上昇のスキルをヒッキーが俺達に掛けてくれるのと同時に、俺達は一斉にヤ=テ=べオへと肉薄し、攻撃を加える。
なんかこう……こうやって巨体に群がっていると、死体に群がって運ぼうとする蟻を連想してしまう。
それ程相手が巨体なのだ。
だが、それでも勝てない相手じゃない。
俺達はヤ=テ=べオから放たれる触手を回避したり撃退しながら、本体に攻撃をし続けた。
どれだけ時間が経っただろうか?
「――もう少しでラストのゲージだ!!」
誰かの叫ぶ声が聞こえ、ふと頭上のヤ=テ=べオのHPゲージを確認すると、最後の黄色ゲージに到達するまであとコンマといったところだった。
そして――
「――――――――!!」
言葉にならないヤ=テ=べオの絶叫と共に、HPゲージが到達する。
ヤ=テ=べオはぶるりと身体を振るわせると――
「――何か来るぞ! 全員逃げろ!!」
「レキ二人を!!」
「あいよ!!」
誰かの叫び声に思わず反応して、李の叫びに従って月餅と”女王”の手を取ると一気に後ろに飛び退り、攻撃範囲外にいたヒッキーの隣に戻る。
次の瞬間、ヤ=テ=べオの口から、薄黄色の液体が噴出し、周囲に濁流が如く押し寄せる。
なんだこの液体?
「――【土壁】!!」
ヒッキーが即座に術を使い、土で出来た壁を俺達の目の前に生成すると、そこに薄黄色の液体がぶつかり、霧散した。
耐久値を超え、土壁が消失して俺達の視界に映ったのは、何十という死亡した事を示す青白い粒子が天に昇っていくという光景だった。