11 イベント専用ザコ
次の投稿は土曜日の予定です。
グウィンドリン大森林に集まったプレイヤーの総数は万を超える。
運営がこの人数を想定しているかはわからないが、今までのイベントの規模を少しだけ超える。
一番先頭に立っている”勇者”のユニーク職業を持っているハルトが剣を空に翳して声を張り上げる。
「良し! この中に入ったら後は自己責任だ! ――皆、準備は良いか!?」
「「「「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」
鼓膜がビリビリと揺れる様な錯覚をする程、皆が声を張り上げる。
こういうのはノリも重要だし、俺もそういうのにノる事は楽しいので、俺も声を張り上げる。
隣では李も月餅もヒッキーも俺と同様、野太い声を張り上げていた。
”女王”の方をチラリと見たら、”女王”も元気良く拳を突き上げて「おー!!」と叫んでいた。
そこら辺、ガチの十七歳はノリが良い。流石JK。
「――行くぞ!!」
ハルトが振り返り、森を目指して突入していったのと同時に、他のプレイヤー達も森へと入っていく。
「じゃ、俺達も行くヨ」
肩を鳴らした李が俺達を見て挑戦的な笑みを浮かべる。
李の笑みに最初に返したのは月餅だった。
「ハッハッハ!! ”勇者”ばかり目立つのはズルいな。これは俺達でオイシイところを持っていってやらんとな!!」
そう言って月餅は得物である偃月刀をブンブン振り回す。
……当たりそうだからやめて欲しい。
「あぁ、既に準備は整っている」
ヒッキーも冷静に眼鏡をくい、と持ち上げて答える。
「おっけー!! まっかせなさい!!」
”女王”は快活に笑って胸を張る。
胸を張った拍子に、軍服が少し持ち上がった。……意外と胸あるのね。
実際がどうかは知らんけど。
「俺もいつでも良いぜ。……とっととあのでかい触手んところに行こう」
「じゃ、行くヨ! 即席パーティー”女王と哀れな下僕共”出発ネ」
どうせ今回のイベントはあれを倒せばクリアだろうが、そう簡単には到達出来ないってのもお約束だ。
というか、そのパーティー名はどうにかならんかったのか?
ネーミングセンスが壊滅的過ぎると思うぞ。まるで姫プレイをしてるみたいじゃねぇか。
……いや、別に姫プレイ自体をを批判する訳じゃないけどさ。
グウィンドリン大森林に入ってから数分、漸く最初の敵とのエンカウントになったのだが、
「うわぁ……気持ち悪いね」
隣で”女王”が呟く。
その表情には嫌悪感がありありと浮かんでいた。
それも無理はない。
「……確かにこれはキモイな」
俺も思わず”女王”に同意した。
森の奥から数十もの群体で近付いてくるのは植物系の魔物だ。
だが、外見がキモイ。
植物の茎から生えた、身体には不釣り合いな程に巨大な人間の頭に似た頭部を左右にゆらゆらゆらしている。
その根は地面に埋まっておらず、まるで陸生動物の様に器用に足の様に動かしていた。
俺は徐々に近付いてくるその敵に眼を向け、【解析】を使った。
D・プラント Lv:132
HP:15300/15300
脅威度:B
属性:草・???
スキル
【増殖】
【???】
ステータス的には大した事はない。
植物系の魔物が多く持つ増殖のスキルを持っている……が、名前にある”D”ってのが何を意味するのか解らないし、一部の属性とスキルが解析してもわからない。
今までのイベントでもこういった演出はなかった訳ではないが、ザコ敵でそれがあるのは非常に珍しかった。
「……複数属性持ちとはな」
複数属性を持つのはボスクラスが多い。
これまでのイベントとは、どこか違う気がした。
「……兎に角この儘増殖されると厄介ネ。ボスにとっとと行きたいから、強行突破するヨ! ――月餅準備は良いネ!?」
「応よ!!」
李の指示で、盾も務める月餅が俺達の前に陣取り、得物である偃月刀を構えた。
「月餅を先頭に、その後ろに俺とレキ、その後ろに蟇、最後尾に”女王”で進むヨ! じゃ、月餅突っ込みナ!」
「良し来た! ――【戦気咆哮】!!」
月餅がヘイト集中とSTR上昇の効果を持つスキルを使う。
そして、偃月刀を振り回し、
「――では突っ込むぞ! おおおぉぉぉぉぉぉっ!!」
咆哮を上げながらD・プラントの群体の中に突っ込んで行った。
俺と李、”女王”の三人で近接戦闘に弱いヒッキーを囲いながら進む。
付いていくこと自体は月餅のAGIが低めな事もあって余裕だ。
だが、
「――レキ、右方からくる敵は任せるヨ!!」
不意打ちが得意な”暗殺者”にとってこれ以上ない程やり辛い状況だ。
そもそも俺は、ロールプレイの為にとどちらかと言えば対人に比重を置いたステータスにしているから、対魔物、しかも集団戦は向かないのだ。
とはいえ、文句を言える状況ではない。
「分かってるっての! ――ヒッキーは走れよ! 後ろから通すなよ"女王さん”!!」
俺は李に乱雑に返し、ヒッキーと”女王”に声を掛ける。
「無論……だ!」
ヒッキーは走るのに必死な様子だ。
まぁそもそもヒッキーは後衛職だし、職業もプログラマーだしで運動は苦手なのだ。
幾らゲーム内だからと言っても運動センスはどうしようもない。
「はいはい任せてー。とはいえこんなに密集してたら私のスキル使えないけど、それならそれでやり様はあるからねっ――っと! 【フレアボール】!」
一方、”女王”は余裕な様子で――寧ろ笑みを浮かべて、最後尾を付いてくる。
後ろから追ってくるD・プラントを簡単な火属性の中位魔術で撃退している。
……そう言えば”女王”の得物を見た事がないんだが、普段何使ってるんだ?
「――キシシシシ!!」
そんな事を考えていながらも、俺もD・プラントを倒す。
普通に戦っている状態の俺でも二・三撃で倒せるという事は防御面は紙だろう。弱い。
【増殖】スキルは面倒だが、これなら意外と苦労せずに進めそうだ。
つーかこいつ等外見だけじゃなくて声も気持ち悪いな。断末魔が笑い声って相当趣味悪いぞ。
……いや、一番大変なのは――
「ったく、植物の擬態とはいえ人の頭を手やら足やらで潰さなきゃいけない”格闘家”は辛いヨ――っと!!」
”格闘家”であるが故に素手で戦っている李だろう。
素手で戦う”格闘家”は触覚が再現されたこのゲームでは人気がない。
何せウルフとかマトモな魔物は良いが、ファンタジーに多い外見がキモイ魔物も殴ったり、蹴ったりしなきゃならないのだ。
その感覚は李曰く「二度とリアルで人に暴力をしないと心に決めさせた」程らしい。
慣れたらどうでも良くなったらしいが。
「――そら【一掌】! そっから繋げて【回天】ネ!!」
現に、俺の横を駆けている李は愚痴りながらも躊躇う事なくD・プラントの頭を拳で撃ち抜き、足を振り回して別のD・プラントの茎の部分を蹴り折って倒す。
……かっけー!!
「――避けろ!!」
と、急に先頭の月餅からの怒声が聞こえ、俺達は左右に身を転がして回避行動をとる。
すると、次の瞬間、再程まで俺達がいた場所を、太い何かが通り過ぎ、
ドスン!!
轟音と衝撃が広がった。
俺達を追いかけていたD・プラントの何体かが、それに巻き込まれて消える。
音と衝撃の正体は、巨大な、しかし長細い腕だった。
「今度はなんだ!?」
前転の要領で直ぐに起き上がって、その腕の持ち主を見る。
「……き……のこ?」
腕を振り下ろしたのは、巨大なキノコの頭部を持った巨体だった。