金持ちのボンボンに彼女を寝取られたので、取り巻き連中を引き連れてケジメをつけさせに行った話
忙しいから連載作の一週休みを宣言したのに、衝動的に思いついたしょうもない短編はさっと仕上げてあげていくスタイル
「タケシさん。オレを含めて呼び出された二十三人、全員そろいました」
「おう、そうか」
郊外の廃工場。
俺たちが使ってる拠点の一つであるそこに集まった連中の前に俺が現れると、途端に静まり返り、全員が俺に注目する。
世間では俗に不良だのチンピラだの言われる連中だが、俺にとっては大切な仲間。
だからこそ、今回の問題でも、恥を忍んで頼らせてもらうことにしたのだ。
まあ、事情が事情だし、しかもきっとみんな話は聞いてるだろうから、こいつらの前でしっかりとケジメを向こうにつけさせたんだってところをアピールしないと、ヘッドとしてこの先が色々マズいからな。
「お前らも聞いてるかも知れねえが、マイのやつが……寝取られた。相手は、ミチルとかいうボンボンの大学生だ」
「三高の『皆殺しのタケシ』さんをコケにするなんて、ふてえ野郎だ!」
「世間知らずのボンボンに、きちんとケジメってやつを教えてやらねぇとなぁ!」
「みんな、ヤってやろうぜ!」
「まあ落ち着け、お前ら。万が一にも、そんな連中のためにカンベ(※少年鑑別所)でマズい飯と監視だらけの生活とかになったらバカらしいだろ? だから、もっと文明的に『お話』で解決しようじゃねえか。ちょうど今日、あの二人がデートするって場所も、すでに入手済みなんだよ」
俺の言葉に雄たけびを上げる仲間たちを見て、計画の成功を確信する。
もやしなボンボンと女一人に、総勢二十四人は明らかに過剰戦力。
だけど、だからこそ、面倒なアレコレをすっ飛ばして分かりやすく力の差ってやつを見せつけてやるには最適。
そうして心をへし折ってやれば、話も早いってもんだ。
そう。俺と奴の格の違いってやつを分かりやすく示せるってもんだ!
そうすればきっと……くくく……完璧だ、完璧すぎる……!
自分の天才性が恐ろしくなって来るぜ!
「って、訳でよぉ。きちんと『誠意』ってやつを見せてほしいのよねぇ、ミ・チ・ル・くん?」
「ちょっとタケシ! やめてよ!」
「ダメだ! 下がるんだ、マイちゃん!」
隙を見てマイを連れ出し、そこから男の方を釣り出す。
俺の考えた完璧すぎる作戦の前に、マイとミチルの二人は、裏道にある人がほとんど寄り付かない昼間から薄暗い空き地に誘い出されていた。
にしても面倒だ。
拳の握り方すら分かってなさそうなもやし男のくせに、反抗的な目をしてやがる。
虚勢だろうが、まずはそこを引っぺがしてやらねぇとなぁ。
「ガタガタぬかしてんじゃねぇ! さっさと『誠意』見せろや!」
「きゃっ!?」
「わっ!!」
手近なところにあったゴミ箱を蹴飛ばしてやれば、二人そろって尻もちつきやがった。
あーあー、仲がよろしいことで……。
「ふん。この程度でビビるとは、大したことねぇなぁ。マイ、今詫び入れて戻って来るってんなら特別に――」
「そもそも、誠意とは言うが、一体何を求めてるんだ? そこをはっきりしてもらおうじゃないか」
……まあ、その通りだ。具体的になんだって言われりゃ、とりあえずはこっちから提示するべきだろう。
さて。まあ、一番わかりやすいところだと金になるが……いくら請求すればいいんだ?
なんか、少なすぎても舐められそうだし、大金を請求した方がいいのか?
「そうだな。百万円出せば許してやるよ」
「なっ!? タケシ、本気で言ってるの!?」
「ひゃ、百万円だって!?」
ふん、二人して慌ててやがる。
まあ、百万円なんて大金、想像も出来ねえような金だしな。
こんなみっともない姿を見れるなら、とんでもなく吹っ掛けた甲斐もあるってもんだ。
「お前! ふざけてんのか!? マイちゃんを失ったんだろ!? その苦しみが、たったの百万円ぽっちで癒されるものか!」
「そうよ、タケシ! ふざけてんじゃないわよ!」
「え……? あれ……?」
俺が間違ってるのか?
金額として、安すぎた……?
あれでも何か、言われてみれば、確かにもっと思い切った要求もして良い気がしてきたぞ。
「じゃ、じゃあ、い、い……一千万円だ!」
今度こそ!
「まあ、一千万円なら理解できるかなぁ……」
「そうね、ミっくん」
よーし、これで後ろの連中にも示しがつくぞ。
安すぎたら、イモ引いたみたいでかっこ悪いからな。
しかも、かっこ悪いでは終わらず、ヘッドがかっこ悪いままじゃ仲間たちまで悪く言われかねないし、最悪は仲間たちに見捨てられかねない。
こういう世界、見栄とかケジメとか威厳とか風評とかは大事なんだよ。
「あの女に一千万円、ですか?」
一つ問題を乗り越えて、さあこれからどうしようかと喜々として考えてるところに、後ろからそんな声が聞こえてきた。
「確かになぁ。タケシさんと付き合いながら、浮気して。しかも金に目がくらんで向こうに鞍替えするようなクソ女に一千万円って高くね?」
「そうだよな。いっつも約束の時間に遅れて来て、当然って顔してたんだろ? 約束を守れない奴はロクな奴じゃないって、ばあちゃんが言ってた」
「そういえば、いつも香水つけ過ぎだったな」
「しかも、卵焼きにソース派だぜ?」
「うわぁ……これ、百万円でも高すぎじゃね?」
あれ? 何か、話の流れがおかしくね?
てか、何というかこう、俺ってそこまで言われるような女と付き合ってたって思われてたの?
「ちょっと、あたしがそんな安い女って、酷くない!?」
「そうだぞ! マイちゃんはそんなに安い女じゃない! 彼女を失った日々なんて考えられるものか!」
「ミっくん……!」
「マイちゃん……!」
くっ……!
二十人以上に囲まれながら、急に抱き合って二人だけの世界に入りやがって……!
「お前みたいなクソ女、タケシさんには元々釣り合わねえんだよ! それがタケシさんにちょっと相手してもらえたからって調子に乗って、タケシさんの顔潰しやがって!」
「そうだそうだ! ねえ、タケシさん! あんなクソ女のこと、もうどうでもいいですよね?」
「え?」
そこで話を振られ、仲間たちをぐるっと見回す。
それだけで、こいつらの気持ちは痛いほど伝わってきた。
「……も、もちろんだよなぁ! こんなクソ女、欲しけりゃいくらでもくれてやるよ!」
「ヒュー! さすがはタケシさんだ!」
「思い知ったかクソ女!」
とりあえず、スマホに入ってるマイの写真は、万が一にも誰にも見つからないようにハードディスクの奥底にでも移動しておこう。
「ひ、ひどい! そこまで言わなくてもいいじゃない!」
「貴様もマイの彼氏だったんだろう!? よくそんなことが言えるな!」
「うるせぇ! クソ女と節穴男が、タケシさんに偉そうにガタガタぬかすんじゃねえ!」
「そうだぞてめぇら! 思い上がりもいい加減にしろよ!? タケシさんみたいな立派な人と対等にでもなったつもりか!?」
「ごめん……ごめん、マイ。僕にもっと力があれば……」
「いいの、ミっくん。悪いのは、あたしなのよ、きっと……」
そう言いながら銀行前から去っていく二人の男女。
俺の手には、男の方から巻き上げた百四十九万九千九百九十円入りの銀行の封筒。
「やりましたねタケシさん! あのクソ女の値段、かなり値切ってやりましたぜ!」
「あいつら、最後にはオレ達に何も言い返せなくなって半泣きだったですぜ! みっともねぇ!」
「お、おう……」
最初に吹っ掛けた以上に慰謝料を巻き上げてケジメはつけさせられたし、そのお蔭で最終的にイモ引いた訳じゃないからヘッドとしての威厳も守られた。
目標は達成できたはずで、しかも去っていく二人の背中はどう見ても敗者なんだ。
なのにこう、どうしようもない虚無感しか残ってないのはなんでなのだろうか――