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第38話 決着と真相(酷いのとまともなの)




 ◆決着?◆


 とっぷり日が暮れて夜になっているけれど、誰かが作った魔術の照明があちこちにあるので周囲は明るかった。

 ……まるで夜襲のような光景だな。あ、正しく襲撃なんだった。


「……やったか!?」

「それ言っちゃいけないセリフ」

「フラグ立てんな」


 幻獣共が瓦礫の城を囲ってそんなやり取りをしている。

 瓦礫なのに城って何? と思うだろうけど、一定以上離れて眺めると何故か城っぽい形に見えるんだよ。

 さて、うさ姿になりますかね。あの瓦礫ごとビームで仕上げないと。

 そうして私がうさ姿になった直後、状況に変化が起きた。


「あ、生きてる」

「ほらね」

「しぶといなー」


 瓦礫の城の一画から光の柱が立ち上る。その中に四対の羽を生やした女性っぽい人影が見えた。

 そういや背中に羽があったっけ。その設定すっかり忘れていたよ。

 やがて光の柱が消え、予想通りキラキラした光の粒に囲まれたメリッサの姿が現れた。何かを抱えているよ、う、だ……!?


「っ……げーっ!!」


 我々は一斉に叫んでいた。

 メリッサが男性性器を抱いていたのだ。しかも玉付きであった。何とそれを愛しそうにおっぱいに挟んでいる!

 色ボケ極まったその姿にツッコミの言葉すら浮かばないのは私だけではなかったようで、皆言葉を失って固まっていた。


「再び二人の、二人だけの愛の世界を築く為に今は退きます」


 うおっ!? 

 悲愴な決意を固めた健気な悲劇のヒロイン的発言が追い討ちをかけてきたー!!

 ツッコミ入れたいのに口が動かん!? つーか体が動かんね……。ぐぬぬ、呆れ過ぎて何の行動も取れぬとはっ!

 ……ローゼルたちも同様か。私以上のツッコミ力を持つツバキさんとか、どんな時も斜め上の行動で状況をひっくり返して来たレアとペンネですら固まったままとは……!

 何が驚きかと言うと、これって魔術とかじゃなくて単純に言葉の力なのだよ。

 ぐう、ある意味強敵だなメリッサ!

 ああ、本当にうさ姿になってて良かったわ。魔石の奴めが勝手にうさビームを発射しおった。

 グッジョブ魔石!


「同じ手はっ、あーっ」


 ぢゅどんっ

 おそらくゲス色に染まった女共を盾にして飛び去ろうとしていたのだろう。けれどその盾に裏切られてビームが直撃してしまった。


「ふざけないでよ、この色ボケッ!」

「ユニコーン様に何てことするのっ!」


 ゲス色女共に文字通り足を引っ張られてやんの。ざまぁ!

 でも落ちただけで無傷なのな。当たったのは上半身なのに当人も抱えているブツも無事。何かカラクリがあるのか?


「あぁん、ユニコーン様ぁ! エリが今治して差し上げますぅ」


 女の子が一人、地面にしゃがんでそんな事を叫んだので、そちらを見てみると……。

 うーん? ゲスコーンのボディはそこにあって、でもメリッサはそちらには用が無いっぽくて……どうなってる?


「ちょっと、抜け駆けしないでよ!」


 メリッサに噛み付く者と抜け駆けを許さない者のグループに分かれ、ゲス色女共のケンカが始まった。

 そんな女たちの争いを横に、硬直が解けた私は当初の予定通りビームを放って瓦礫を始末していく。

 あえて彼女たちには当てない。どうぞ好きなだけ足を引っ張り合ってくださいな。ほれほれ、もっとやれー!


 ◇◇◇◇◇◇


 残念ながら女の争いはそこそこの長さで打ち切りになってしまった。


「かくなる上はっ」


 メリッサがそう言って周囲の女共を吹き飛ばし、抱えていたブツをINしやがったのだ。

 どこにって? あそこしか無いでしょ、股の中だよ。詳しい解説や描写は勘弁してくだされ。

 ブワッと白とピンクの薔薇が咲き誇り、ピンク色の靄が広がる。

 うあー、もうやだこいつ。これ以上相手したくないよぅ。

 そんな思いを込めてハテ奈さんを見ると、準備完了の合図が出たのでメリッサのみ放置する事にした。


「このような(よご)(けが)れた者たちをユニコーン様に近付ける訳にはまいりませんっ! やはりわたくしとユニコーン様、二人だけの世界こそが清らかで輝かしい理想郷なのです!!」


 自分の言葉と行動に酔いに酔ったまま、メリッサは空の彼方へと向かって飛び立って行った。

 あんまり速度無いな……けど元々追う気無いし、このまま見送っていいっしょ。うん、もう出て来んな。さよーならー。ハンカチを出してヒラヒラ振るぞ。

 メリッサの追跡は神様の部下に任せよう。私はもう奴の姿は目に入れたくない。あーあ、苦手な物が出来ちゃったよ……。


 さて、気を取り直してゲスコーン・ボディの方だ。あれ、どーゆーこっちゃ? 抜け殻で意識はもう無いって事はないよね?


「逃がした!?」

「わざとね!」

「あのクソうさぎをやっつけるわよ!」


 あれれ、ハンカチをヒラヒラ振ってたからかこっちにヘイト来ちゃったよ。ゲス色女共が痛々しいステッキを出して変身シーンに入りましたわ。


 ボンッ! ←おっぱい増量の音

 キュッ! ←腰がくびれた音

 ボンッ! ←尻肉増量の音


 久しぶりに見る痴女スタイルだ。こちらは衣装チェンジとボディ変化がセットなのな。いつぞやの奴らとはシステムが違うんだねー。……細かい違いとかどうでもいいわ。

 あの時同様ビーム一発で片がついちゃったよ。何というアッサリ感。痴女スタイルの人はもれなく弱いのね。


 ◇◇◇◇◇◇


 ゲスコーンの意識は健在だった。女共も瓦礫も全て片付け、残るは彼のみだ。

 ハテ奈さんが用意してくれたドラム缶風呂(五右衛門風呂仕様)に突っ込み、尋問を始める。

 あ、私は再び人間姿になったよ。理由? 相手に冷静になってもらう為さ。うさ姿だとどうも反発されそうだったんだよね。


「あ、オマケ付けとくね」


 私はアヒルのオモチャをゲスコーンの側にポチャンと入れた。プッカプッカと黄色いアヒルさんが浮く。ほのぼのするねー。


「馬鹿にすんな!?」


 言葉ほど怒ってはいない。ほとんどただのツッコミになっている。

 これはアヒルさん効果だ。このアヒルのオモチャは精神を鎮める効果があるのですよ!

 ……とハテ奈さんに説明されたんだけど、マジっぽいな。


「えー、離婚の理由何だっけ? あまりにも気に入った相手と気に入らない相手の態度が酷すぎて、仲の良い友だちを悪く言われた奥さんがついて行けなくなって? そんでもって子供も奥さんの味方で? 家庭に居づらくなって浮気して、それがバレて逆ギレして暴れて離婚決定したんだっけ? やけっぱちで酒飲んで、酔っ払って川に落ちて異世界に転移かい」


 そんな状態で若返ってチート貰ってヒャッハーしてハーレム作ったんだな。欠点そのままなのな。


「……なあ、お前ってもしかして」


 気付いたか? でも情に訴えても無駄だよ。


「君が知っている人と同名だけど、違う魂だから。いくつも地球あるの知ってるでしょ?」

「あー、そーゆー事か。……俺はよぉ、ずっと側に居てくれる女が欲しかったんだ。文句の一つも言わず、いつも笑顔で家事をこなして……」


 うん、こいつは反省という言葉の意味を永遠に理解しないな。二十代後半頃、結婚を諦めた時の私の言葉をそのまま贈ろう。


「理想のメイドロボの開発に生涯を捧げてろ」

「それいいな! それだな! それがベストだな! 全ての悩みが解決したぜ!」


 おうよ。これが平和的解決って奴だよ。


「質問にしっかり答えてくれれば解放するよ」


 このドラム缶風呂から出すという意味であって、行動の自由が認められる訳じゃないんだけどね。


「いいぜ、さあ来い!」


 ドンドン魂が綺麗になっているのはこの風呂のおかげ。冥土院一族秘蔵・ドラム缶型五右衛門風呂だ。

 扱いが難しいので一族の人以外は使用禁止にしているらしい。アイテムレシピも門外不出扱いだそうな。

 あ、もちろん今はハテ奈さんが風呂の温度調節をしてくれているよ。筒でフーフーやってるその姿は、着物と割烹着という格好のせいかとても似合っていた……。



 ◆一問一答◆


 Q.女共のあの極端な体型は何? あと素材は何を使っている?

 A.理想の極上エロ体型を目指して色々追求していたら、途中から女たちが進んで改造し始めたんだ。素材の事は知らねー。

 (これについては各地下都市突入部隊の方が期待出来るので深くは切り込まなかった)


 Q.レベル表記やステータスの嘘っぱち理論について

 A.誰かが適当にこじつけたんだと思う。でもそれを本当だと思い込む奴が出てきて、修正されずに定説になった。

 (予想通り、かなりいい加減な連中だったようだ)


 Q.どうして東日本エリアのみに仕掛けを?

 A.東京の方が美人が多いから! ってゆーのもあるけど、何故か西日本エリアは仕掛けるのに失敗し続けた。日本以外の国は文化の違いとか面倒な部分が大きいから避けていた。

 (日本以外の国については納得したが、西日本エリアがなー。はて、何かあったのかあそこ)


 Q.何で女の子たちはほとんど裸? あと何で天使?

 A.エロい方がいいから! そして天使って裸じゃん? 乳揺れ最高!

 (何か色々ツッコミたいけどやめておいた……)


 Q.母乳で回復って本気?

 A.牛は毎日乳出すじゃん? あれだけデカい乳から母乳出ない訳ないじゃん? 有効利用で回復効果を高めようとするの、何がおかしいんだ?

 (こいつは乳牛の搾乳に関する知識がゼロであった。さらに母乳は出産後の一定期間にしか出ないという基本的な知識すら持っていなかった。つーか牛と人間を一緒にすんな! と叱ったら、物凄く衝撃を受けていた。うん、お前何でそんな考えに至れるんだよ。私にとっちゃそっちのが衝撃だよ)


 Q.他の分体との関係

 A.気が合う連中を集めて、魂の一部を融合していったんだ。その辺りから考え方が変わっていった気がするかな。

 (成る程、一番お手軽な分体の作り方を選んだのな。そして現在、他の分体とは切り離されている模様。思考に多少の名残があるようだが、少しずつ抜け始めているみたいだね)


 Q.メリッサが取った手段について

 A.最終手段を実行して魂を分裂させたんだよ。そしてあれは権能を含めて俺の全てが詰まっていた。もう片方の俺がミントの中で生まれ変わる予定だぜ。俺は残された神核に宿ったままミントが受ける分のダメージを引き受け、逃げるのを補助する役目があった。もう片方の俺との繋がりが完全に消えた時、俺も消えるはずだったのに……。繋がり切れても大丈夫なの何で?

 (メリッサの事を説明したが、それでも彼女の事を「ミント」と呼び続けていた。ブツのダメージはメリッサが受け、そのメリッサのダメージはこいつへ行っていたという事らしい。そういうカラクリか。最後のこいつの疑問は、私が少々魂を回復させたからなんだけど。それを言ったら素直さに拍車がかかった)


 Q.宇宙創造後は何をするつもりだった?

 A.ウハウハ美少女ハーレム以外、何も考えていなかった。

 (それって宇宙創造をするまでもないじゃん? ってツッコミ入れたら、頭を抱えて「その通りだ~」と叫びおった。アホ過ぎてこれまでを振り返ると色々と切ない……)


 Q.君の恋愛対象の年齢は?

 A.五歳から十八歳だな! 十九歳以降はババアじゃん。結婚して大人の女は懲りた。

 (年齢が下がるほど扱いが容易(たやす)くなると考えたのだろう。根本的に間違っているのだが、こいつに限らず大半の男が似たような考えを持っている。訂正のための説明とか面倒くさいのでツッコミは入れなかった。この辺りは中々変わりそうに無いから、問題が起きる度に誰かが叱るしかないね)


 Q.大宇宙の太陽の権能無いの気付いてた?

 A.えっ……!? それで弱くなってる気がしてたのか!!

 (何かおかしいとは思っていたみたいだ)


 Q.権能を奪う能力も消えてたの気付いてた?

 A.ええっ……!! じゃあ、あっちの俺は、もう無敵無双出来ない……?

 (ブツの方は復活しても多少の魔術が使える程度だろうな。分体は個別に取り込んだ権能があるらしい。ふむ、参考になった)


 Q.何で私を見た時権能を奪う能力使わなかったの? その時はまだ持っていたよ。

 A.えっ!? 有用な権能はミント(メリッサ)が教えてくれるから……。教えて貰えなかった……。

 (どうやら女とアレコレする以外はメリッサが言わないと何の行動も起こさなかったらしい。うむ、実に見事なダメ男だな)


 Q.神話の神様の特性を輝夜さんこと通称御月様から聞かなかった?

 A.何それ。少し離れた場所から権能を奪おうとしたけど、失敗したから直接さらったんだよ。もしかして元々……?

 (奪っても効果は得られず、相手の存在が消えてしまうだけと説明したら頭を抱えた。何でか知らないけど反省し始めたぞこいつ。段々まともになって来たな)


 Q.君はどの程度の存在かな?

 A.……ただの一般人です。俺つえーなんて出来ません。大人しく理想のメイドロボを開発していきます。そして助けていただいてありがとうございました。



 ◆神様に報告◆


 気が付けば深夜になっていた。いやー、時間過ぎるの早いねー。

 ゲスコーン・残りカスの尋問をまとめ終えた私は、その報告書を直接渡す為に冥府を訪れていた。

 こんなに遅くても神様は働いている。ってゆーか、報告を待っていたみたいだね。


「あれはやっぱり残りカスだったんだ。よしよし、泳がせて正解だったね」

「残りカス君の方は要注意の一般人扱いにして、ゲーム作成班のどこかに入れるようにしてやって。ハテ奈さんから理想のメイドロボ作りたい男って一定数いるって聞いたよ」

「ああ、いいね。そこにブチ込んでおくよ。管理名は?」


 私は机の上にあったメモ用紙に文字を書き、それを神様に見せた。

「 ”霞原(かすみばら)“ なんちゃらにしとけば? 残りカス(・・)なんだから」


 あまりにも直接的な言葉は受け入れてくれんだろう。この程度なら気付いても妥協してくれるんじゃないかな……と思いたい。


「今は魔術も使えない、ただの一般人って理解しているから。どうもそっちの方はメリッサが抱えていたブツの方に注ぎきったみたい。私もう直接関わりたくないから、ゲス叩きは他の皆さんでやって」


 神様に渡された書類に惑星名を書き込んでいく。

 フッ、ゲス馬鹿っプルが練習に使っていた惑星は ”サゲマーン“ だ。そしてゲス共が移住した惑星が ”クズデゲス“ だな。

 これアンケートだから採用されるかは分からないけど。さて皆さんは何と名付けるかな?


「あれ? もういいの?」

「私の分はね。うちの子たちの分は、うちの子自身が晴らせばいい」


 だってこれから忙しいんだもの。それにちゃんと宇宙を再生させる方がお仕置きになると思ったんだ。

 そう伝えたら、いつでも中継出来るようにしてよかったと言いおった。

 これは色々あちら側の内部に仕掛けを施してるな。ざまぁの舞台を着々と作ってるんだね。陰湿なんだから、もう。


「中にいる神々を出す場所なんだけど、ついでにリハビリ出来るようにしたい」

「惑星を一つ贈る予定だったから、そこを使って。あと幻獣たちもね」


 あいつらか。憧れの眼差しがやりにくいったらないよ。


「その惑星とあの世日本支部との転移陣も設置お願い」

「うん、許可を出しておくよ。で、他に言いたい事があるんじゃないかな?」


 確かに言いたい事が、聞きたい事がたくさんある。でも一番引っかかるのはこれだ。


「 ”運命“ に関してなんだけど……」


 神様は困ったような笑顔になった。やはり色々あるらしい。

 無理しなくていいと伝えようとしたら、神様は輪廻の輪の事を話し始めた。



 ◆輪廻の輪と ”運命“ の関係◆


[久しぶりだな]

「久しぶりだね、ノワさん」


 おお、ピッカピカのツヤツヤですやん。新品の輝きステキ! キレイ! カッコイイ!

 すっかり直ったノワさんと並んで雑談をしながら宇宙輪廻の輪への通路を歩く。


「じゃあ結構な数が無事だったんだ」


 雑草のいた世界の輪廻の輪も無事だったそうだ。色々世話になったようだし、こちらに到着したら会いに行こう。


[機能は期待出来んが、意識だけは無事だ]


 そうか、時間をかければ復帰は出来そうなんだ。でもそれを待てないんだよ。


「ネネさんにはもうひと働きしてもらうから、ノワさんしか残っていないんだけど……」

[引き受けよう。せっかくの新品ボディが少々惜しいがな]


 私が宇宙を再生させ、我が子の宇宙創造の舞台を作り上げる。それと並行して様々な事前準備があるのだ。輪廻の輪も用意しておくべき物の一つだった。


 宇宙輪廻の輪は、各輪廻の輪をまとめる立場にある。他で例えるなら、SF作品によく登場していたマザーコンピュータが相当するかな。

 惑星一つにとどまる輪廻の輪の仕事を宇宙規模にしたものと捉えてくれればいい。

 輪廻の輪自体が運命との関わりが深く、運命の神とセットである事が多いから「あれ?」と感じた事が何度かあった。

 その直感は外れてはおらず、宇宙輪廻の輪は大宇宙の運命の神に唯一繋がる存在だったのだ。

 けれどその事は秘匿されてきた。歴代の ”冥府“ もこれに関しては決して口外をしなかった。何でも自ら記憶に鍵をかけるそうな。そこまでの重要機密扱いだったとは。


 ◇◇◇◇◇◇


 輪廻の輪は、大宇宙の運命の神が大宇宙の冥府の神に貸し与えている装置だ。

 大宇宙の運命の神の存在は(おおやけ)にはされていないが、何となくその存在を感じ取っていた運命の神や輪廻の輪は多かったらしい。

 何故 ”運命“ は表舞台に出ないのか?

 男だから、運命イコール女神ってイメージだから……それもあっただろう。けれどおそらく一番の理由は大宇宙の再生の神だ。

 あいつは優しい。混沌の狂人共に対して「表舞台に立たない」とキッパリ宣言したのは、初代 ”再生“ の眷族候補が全て殺された直後だ。あれからずっと悪い流れを変える為に運命を紡いでいたんだ。

 ぐう、歴代 ”再生“ の分、特に初代の想いが胸にくるよ。


「来たぞこのやろう。頼んでもいないのに世話焼きやがって。……ありがとうバカ兄貴」


 きっと初代 ”再生“ はこう言うだろう。だから代わりに私が言った。


『バカは余計だよ。ったく、相変わらず可愛いのに可愛くねー』


 二枚目半って感じの男が現れた。口を開かなければ二枚目……つまりイケメンなんだけどね。

 私は初めて会うけれど、初代の記憶と感情も受け継いだせいか懐かしい気持ちがこみ上げてくる。

 ……抱きつかないぞ! 側にノワさんが居るし、それ実体じゃないだろうし!


『あのうさ公が人間になったら、お前はうさぎだ。再生の神と眷族候補の出会いを狙った結果がそれかよと笑っちまったぜ』


 ちょっと待て、ちょっと待て。何か引っ掛かるぞその言い方。順番がおかしい。


[うむ? 最初から再生の権能を持っていたのか? 再生の権能に適合する魂が雑草ではなかったのか?]


 うん、うん。ノワさんの言う通り。雑草はついに現れた再生の権能の適合者だと思ってた。大地の権能から再生の権能が生えたんじゃなかったの?


『間違っちゃいねーよ、どう説明すっかな……。

 魂って形は変わるけど、消えねー奴は消えねーんだよ。雑草は初代 ”再生“ の魂の欠片だ。削れて削れてやたらと小さくなっちまった魂をやっと見つけ出したんだんだよ。

 権能ってのは可能性のある奴に引き寄せられる性質があって、条件を満たした時に魂に宿る仕組みだ。当然初代 ”再生“ の魂なら行方不明の再生の権能も引き寄せられてくれるだろうと俺は考えた。

 こういった事は本来は過ぎた干渉とみなされて叱られるか罰を受けるんだけどな、次の ”再生“ が見つからない事に混沌の狂人共も焦っていたからお咎め無しだぜ。

 俺は全力を注いで魂を成長させた。いい具合に創造の下位互換である大地の権能が魂に定着して、狙い通り再生の権能が引き寄せられて大地の権能に引っ付いたんだ。そして完成した魂をあのうさ公が大地の神として活動している惑星の輪廻の輪にこっそり送り込んだのさ。

 そしたらうさぎだぜ!? 人間に転生出来るまでに成長させておいたのにうさぎ!! 頭を抱えたぞ!』


 こ、こいつ爆弾をいくつも落として肝心な事をはぐらかしてやがる。

 確かに重要な事も含まれているが、惑わされるな私! このバカ兄貴は過去の発言を突っ込まれたくないんだ!

 しかしそんな私の思考はノワさんの発言で吹っ飛んだ。


[それはおそらく恒例イベントが発生したのではないか? ネネから聞いたが、真緑の魂は雑草の頃の事を考慮してペットのうさぎになる予定だったしその列に入れていたが、割り込まれた時に弾かれて隣のアヒルの列に入り込んでしまったそうだ]


 何それーっ!!

 何か酷い真相を知った! そんな理由でアヒルだったんかい!

 つーか恒例イベントとか割り込みとか、輪廻の輪の中ってどうなってんの……。


「色々アレだけどさ、バカ兄貴どうしてローゼルと私を?」


 ローゼルは眷族にしないよ。大地の神のままでいてもらうつもり。上司と部下の関係になりたくないんだもん。


『あのうさ公を通して見えた未来がな、うさ公が神になってて再生の神の隣に立っているっつー物だったのよ。結果を見ると当時の俺、ちょっと勘違いしたみたいだな。でもまあお前のボディガードにって目論見は叶った。……何だよその目は。嘘じゃねーよ。本当に俺死ぬかもしれねーって思ってたから、色んな所に行って色々仕込んでそれを終えて、これで ”再生“ は復活するし、強いボディガードも付けたし、二人の結びつきは強固だから何が起きても安心だ……で力尽きたんたぜ。なのにただの気絶で済んでるんだから自分の限界が分かんねーよ!』


 ああそうだよそれだよ。先代の時の奴だよ。あのセリフだよ。思った通り健在だったじゃん。

 あれ? 時系列どうなってんの? さっきの初代 ”再生“ の魂の欠片どーのっていつよ? 誤魔化そうとして言ってる事が滅茶苦茶になってんぞ!

 まあまた今度ゆっくり話そう。それよりこれだけは言っとかんとね。


「格好悪いのはいつもの事」


 あ、撃沈した。うん、この言葉が一番効くな。


「まあいいや、その内混沌へ行くから。今はノワさんの親分就任手続きを」

[あの時の、ネネに言った冗談が本当になるとはな]

『あー、やっちまうか。実に何千億年ぶりかの交代だな』


 本当、ずっと交代していなかったの凄いよね。親分は流石に限界が近付いていた。その事に気付いたのは、ノワさんが一時的に親分と同化した時らしい。


 ”運命“ の手によって宇宙輪廻の輪とノワさんの入っている輪廻の輪が接続された。

 ノワさんが入っていた輪廻の輪は、後で別の誰かが入る。これまで頑張ってくれた親分はしばらくノワさんに知識を与え続け、やがてその意識はある人物に同化し、眠りにつくそうだ。


「輪廻の輪たちが雑草の魂に強化素材を与えながら受け渡していき、ネネさんの所にまで届けた。そしてネネさんがそれを仕上げ、今の私が出来上がった。全部親分の指示なんでしょ? 全力で期待に応えるよ。今まで ”運命“ と共に闘い続けてくれてありがとう。よい休息を」


 ◇◇◇◇◇◇

 

 少しずつ進んでいる。たくさんある事のほんの僅かな分だけど、確かに物事は進んでいるのだ。

 宇宙輪廻の輪を後にして、通路を一人で進む。

 初代 ”再生“ が不安と義務感に耐えながら、混沌の渦の外に出た時の事が頭をよぎった。

 我が子である ”創造“ は支えではあったが、依存してはならない存在だ。そして背中を見せる相手でもある。それは ”冥府“ も同じだった。

 ”再生“ の仕事の出来が ”創造“ の行いに影響すると云う心理的な圧力。それを耐えて一歩を踏み出せたのは ”運命“ のおかげだ。


『いつか、輝夜が作り上げてしまった悪い循環を崩す。どれだけ代を重ねても綻びを入れてみせる』


 その言葉、初代 ”再生“ は本当に感謝していたんだぞ。そんでもってその時はすごく格好良かったらしいぞ! 何で日頃ああなんだよ。本当に残念な兄貴だな。


「真緑」


 彼の事は贈り物だと思っておくからね、バカ兄貴。


「もう夜が明ける」

「完徹かー。ふー、たまにはいいかな。生前も滅多に体験していないし」


 私はローゼルと手をつなぎ、神様が用意してくれている部屋へ向けて歩く。


 不安はあるけれど、我が子たちや眷族に格好悪い所は見せられない。

 だから甘えられる存在が、とても有難いんだ。


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