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第34話 うさビーム検証


 ◆敵がポンコツ過ぎてツライ◆


 只今うさビーム検証中です。

 私がオレガノさんの魂に張り付いている魂をどうのこうのしている間、男性陣はうさビーム検証の準備をしてくれていた。

 お陰で私は指定された場所からビームを撃つだけ。超楽です。


「次、7番」

「おう」


 うさ姿のローゼルの声に応じ、群青さんが指定された番号の人物を台の上に置く。その台の上に乗った人物めがけ、私はうさビームを放った。

 ちゅどんっ

 出力は椅子が倒れるくらいにしてあるんだけどね。実際に椅子で試してみたんだけど、倒れただけで壊れてはいなかった。


「のこりHPが1で、MPは10です」


 紅星君が計測結果を報告し、その隣で知らないお兄さん(神様の部下だろう)がメモを取っている。

 残月さんは多分どこかで撮影中。また見失っちゃったよ……。

 ハテ奈さん? 私の後ろに控えているよ。熱い視線が紅月さんによく似ている。首の後ろの毛並みがどうの言ってるあたり、中々のうさぎマニアだな。


「次は……8、10、20番を縦一列に並べてくれ」

「よっしゃ」


 三人まとめて貫通うさビーム!

 ちゅどんっ

 三人仲良く吹っ飛んだ。


「8番がHP1、MP8。10番がHP1、MP20。20番がHP1、MP3です」


 おんやぁ~? ずーっとHPが1しか残ってない印象。MPは元々の最大値を知らないから何とも言えないんだけど。

 ビームの威力を上げて壁を壊したくないから今の威力なんだけどね。


「次、9、12、13番を背中合わせで」


 何を基準にしてあるのか知らんけど、威力を変えろとも言われんし、自分はひたすらビームを撃つのみだなぁ……。


 ◇◇◇◇◇◇


「102番を」

「よっしゃ、これで最後だな」


 そうか、最後か。精神的に疲れたので、これまでで一番の極細うさビームじゃ。そうめんくらい細いやつをピーッと。

 ちゅどんっ

 やっぱり吹っ飛んだ。


「のこりHPは1、MPは30です」


 えぇーっ。最後まで残りHPは1かい。


「今の極細うさビームで吹っ飛んだのも驚きです……」

「そういった効果も付いているのでしょうね。ビームを撃つ時どうしていますか?」


 ハテ奈さんに抱き上げられて膝に乗せられた。そしてブラッシングタイムに突入。

 ……手慣れていますね。気持ちいいです~。


「ビームはビームとしか。……多分雑草時代の感覚が残っていて、そのままなんだと思うのです。記憶がちょっと……。レアとペンネに聞いてみますかね」


 話している内に思い出すやもしれん。しかし現在レアとペンネはツバキさんと一緒に幻獣エリアに行っている。

 何やら企んでいるみたいだったけど、楽しそうに「秘密」と言うだけだった。一体何をするつもりなんだろう?

 まぁいいや。このままうさ姿で棒ナスおサル像へ行こう。何でもそこに敵軍が集まっていて、連中は私が像の中に居ると思い込んでいるらしい。

 あー! 成る程、あのルート変更の結果がこれなんだ。お陰で丁度良い実験台が出来たわ。

 ふっふっふっ、待ってろ全方位攻撃魔術の餌食共。

 ……ああ、しかしブラッシング気持ちいい。くぅ……。


 ◇◇◇◇◇◇


 棒ナスおサル像の内部に転移しました。


「お待ちしておりました、ご主人様」


 一足先に来ていたリコちゃんが出迎えてくれた。それと、知らない人たちもいる。多分あの世スタッフだ。


「とにかく数がたくさんなので、先ずは戦艦だけを沈めてしまいましょう。捕らえるのはこちらの皆さんに任せていいそうですので」

「ではそうしましょうか」


 いやー、しかしこれまで動きが全く無いって敵側は何してんの。こちらは助かってるけど、いくら何でもねえ……。

 まあいいさ、ボッコボコにするまでだ。私はあの世スタッフらしき人の方を向く。


「ええっと、この像の天辺まで行きたいのですが、外に出てから登るのですか?」

「いいえ、こちらで操作できます。少々お待ちください」


 可愛いとか増えてるとかコソコソ囁いているあの世スタッフさんたち。

 増えてるって……ああうん、ローゼルもうさ姿だからか。

 正式に五代目閻魔大王になった訳だけど、キュートなうさぎさんじゃ仕事にならん予感がするぞ。うさ姿を望む方々には悪いが、やはり閻魔大王の仕事をする時は人間姿でいよう。


 ◇◇◇◇◇◇


 ローゼルと一緒に棒ナスおサル像の天辺に転移した。

 うーむ、実にふざけた像であるな。マジで茄子を棒に刺している。今は素晴らしいと評判のドヤ顔を見れんのが残念だ。

 そのふざけた像の周囲をぐるっと戦艦やら戦車やらが埋め尽くしているのだが……。動きないなー。すぐにローゼルが魔術防壁張ってくれたから、いきなり何かブッ放してきても心配はないんだけどね。

 小さくて分かんないとか? 偵察とかしてないって残月さんが言ってたけど、マジなのか。


『真緑様、ローゼル様聞こえますか』


 足元には花を咲かせたキノコとゆー奇怪なオプションが生えていて、そこからハテ奈さんの声が聞こえてきた。誰だよこれをデザインしたの……。


「はい、聞こえますよ。何でしょうか」


 私は魔術の準備に入る。全方位魔術、こっちに来てから初めてだ。いっちょ派手にかましてやろう。

 耳を持ち上げて視界を確保。更に額の魔石の機能のお陰で360度の視界を得た! 気分上がってきたぞー!


『もっとお耳を! 上に! ローゼル様、横に並んで!』

「何で紅月さんの声がするのですっ!?」


 クスクスと笑うハテ奈さんとリコちゃんの声も聞こえてきた。どんな仕組みよこれ。


『残月の中継はこちらにも届いております。とにかく耳をっ!』


 おぉい……残月さんやっぱり近くに居るの? 匂いがね、ローゼルと私以外の匂いがしたからもしやと思ったんだけど。


「おるでぇ。耳なぁ、斜めに……アルファベットのVの字な感じにするんや」


 やっぱり居た。しかしそうか、うさぎだものね。匂いで分かるか。匂い……あ! 雑草時代は匂いで相手の強さも判別してたっけ。

 いかん。アヒルと人間時代のせいでうさぎとしての野生本能が眠りこけているようだ。おいおい目覚めさせていこう。今全て目覚めてうさぎの逃走本能が先に来たらアカンからな。

 あれを侮ってはならん。雑草が雑草という名前を持つ前、ローゼルと出会った頃の悲劇を繰り返しちゃならん。気は強いけどビビりだった。ローゼルになつくのに半年かかったんだよなぁ……。


「えー、こうですか?」


 魔法【オテテ】で耳を持ち上げ固定する。


「ええでー」

『ヴィクトリーのV、バッチリです! 可愛いです! さあ、ローゼル様も!』


 あ、ローゼルってば呆れて耳を後ろに倒していた。


「いつもこうか?」

「紅月さんのうさフィーバーは大体こんな感じです」

「そうか……」


 何かを諦め悟りでも開いたのか、ピンッ! と耳を立てるローゼル。うあぁ、可愛い。


「可能な限り音を拾っているが、奴ら俺の魔術に気付いてもいないぞ」


 この魔術の防壁、特に隠してはいないらしい。あいつらマジで無能っぽいな。戦艦とかのデザインは気合い入っているのに。

 あれホ●イトベースちゃう? 版権とかええの? あっちは痛々しい萌え絵が描かれてるな。

 ああ、方向性を間違えて自覚無く迷走してんのか。正してくれる存在がいなかったのね。


「ではそろそろ……」


 準備してきた術式を一気に展開!

 私の頭上に魔力の塊と、それを取り囲む様に多数の魔方陣が出現した。


「やっと気付いたようだぞ」

「そうですか。でもさっそくブッ放つです」


 初めての全方位攻撃開始!

 うわぁ、何て爽快! ひゃっほーい!


 ◇◇◇◇◇◇


 まずマーキングをします。派手に光の筋が戦艦たちめがけて飛んで行くけど、これただの印。

 ビタビタと印がくっついた端から攻撃魔術が転移され、ゼロ距離での破壊行為に移ります。

 大丈夫、撃墜させるだけだから。

 え? 高い所から落ちたら命無いって?

 大丈夫、ここはあの世。ギャグ補正のお陰で高い所から落ちても痛いだけで済むから。もう死んでるんだから平気、平気。器に入ってるんでしょー? なおさら大丈夫よ。

 前列が崩れ、その後ろの列が見えてきたら新たにマーキングをする。後は繰り返しやね。

 おー、ボタボタと人らしき形をした物が落ちて行くのが見える。あの世スタッフさんたちがジープに乗り、あの世メカらしきものを従えて墜落現場へ向かい始めた。

 やっと気付いたのかナントカ砲な感じの撃ってきたよ。ローゼルの作った防壁に半分が阻まれたけど。残り半分? 狙いを盛大に外してその一部が味方に当たってる。何やってんの……。

 あ、第二陣全滅か。次行こう。


 第三陣も全滅し、第四陣が現れた。空中、地上共中々厚いね。……どれだけの数で囲っていたのよ。

 そしてどうしてこれまで動かんかったの。話によると私が冥府へ着いた日の夜から続々集まってたそうなんだけど。偵察部隊も出さずにアンタら何してたん? 謎だ。

 おいおい、どんなにポンコツな敵でもまだ何らかの行動をしますぜ。ポンコツ以下なお前らを何と呼べばいいんだ。無能でも足りない気がするんだよ。どうしてくれるんだ全く。

 私が呆れすぎて嘆いていると、一際豪華な戦艦が視界に入った。むむっ、何かピキューンときたぞ!?


「真緑様ー。あんなぁ、ハム子から聞いてた外観の戦艦が見えたんや。あのピュアホワイト&ゴールドでキラキラした派手なやつやねん。あれにうさビームかましてぇな」


 ほほう。正面からやや左へずれた方にある、あの乙女チックゴージャスなやつね。


「つまり、ソレルさんの神核を乗っ取った奴がいるのですね。ある意味本命です」

「せや。ぶちかましたりぃ!」

「オッケーなのです!」


 現在うさビーム検証で判明しているのは ”HPの数値に関わらず必ず1残る“ という事実のみ。しかしそれだけで十分。魂を消滅させる事は無いってことだ。


「出力調整一切無し! 今の気分でブッ放します!」

「いつもの雑草じゃないか……」


 呆れているのと懐かしそうなのが混ざったローゼルの呟きを耳にしつつ、私はうさビームを放った。

 これまでで一番の威力だと一目で分かるぶっといビームだった。

 ちゅっどーん

 ビームは戦艦を貫通していき、ついでにその後ろに居たらしい何かも吹き飛ばしていた。

 ……あーれー、今見えたやつ何なの?


「よっしゃあ! ゲス馬鹿っプルにも命中したでぇ!」

「……え、あいつらも居たのですか?」


 じゃあさっき見えたのは奴らなのかな。


「丁度直線上に来てたで!」


 えー、手加減いらんと思ったので何だろうと思ったらそういう事か。


「しかし随分派手に長い距離を吹っ飛んでいったから回収は出来んな」

「そこは残念やなぁ」

「あれれ。それは神様に報告した方が良いですよね」


 本拠地で待ち構えてどーのって作戦だったけど、これ影響どう出るかな。

 そしてあのゴージャス戦艦が最後であったらしい。空はすっきり晴れ渡り、戦艦らしき物は一つも見られない。地上には残骸ばかりが散らばり、あの世スタッフさんたちがあの世メカを使って奮戦している。


『ではリコちゃん出動します!』

「行ってらっしゃいなのです」


 以前作ったリコちゃん専用武器がいよいよ実戦投入だ。残党狩りは任せよう。

 私はひとまず像の内部に戻って休憩タイム。何かあった時の応援要員として残っている群青さんと紅星君、そしてハテ奈さんを加えて反省会だ。



 ◆うさビーム犠牲者サイド◆


 あたしはイリア。ルルナって名前じゃない。

 一番乗りだから正確には ”ルルナ(ワン)“ ですって言われても、呼び名を耳にした時の違和感は消えないわ。


『よいですかルルナ1。あなたはこれからわたくしの指示に……』


 はー、輝夜様から交信来たって言ったら周囲は大人しくなったけど、代わりにその輝夜様がベラベラ喋るから何一つ改善されてない。しかも今はエステ中。

 ねぇ、見物が目的とは言えこれは油断し過ぎじゃない? ほら、何か爆音が聞こえてきた。


「ねぇ、外で何か起きてんじゃないの?」

「あらぁ……やはり言葉遣いが良くないですわぁ」


 ちょっと! 今聞こえてきた爆音がさっきのより大きいんだけど!?


「緊急事態にそれはないんじゃないの!? とにかく外の様子を確認してっ」

『聞きなさいルルナ1。生者の宇宙側の区分Zの……』

「だからぁっ! あんたたちに危機感とかないの!? 戦闘始まったんじゃない!?」


 爆音が更に大きくなってるのに何でのほほんとしてられるのよーっ!!


「他の者に任せれば良いのですわぁ。こちらの圧勝に決まっていますものぉ」


 あぁああ、駄目だこれっ!! あたしこれまでみたい。分かるの、感覚で分かるのよ……。何か来るって!

 ひゃあっ! 来たよおっ!!


 うわぁ、真っ白だ……。

 何かよく分かんないけど攻撃を受けたのね。

 あっ……神核の安全装置が作動したっぽい。人間の姿が消えちゃった。

 おー、空が見えるようになった。あー、戦艦バラバラじゃん。

 何がこちらの圧勝よ。向こうの圧勝じゃない。

 ざまぁ!

 あははは、ざ・ま・ぁ!

 誰だか知らないけどありがとう! 魂が引きちぎれる感覚があったけど、そのお陰でシナリオの呪縛が取れたわ。


 ◇◇◇◇◇◇


 地面に墜落したけれど、神核のお陰で追加のダメージ無し。ってゆーか、あの白いのを受けた時点でHPが10以下だったみたい。回復魔術をかけて……と。よし、ピコンピコンって音も止んだ。


「うーん……! よっしゃー! あたしは自由だー!!」


 神核から出れた。無理矢理奪った物だから心情的にも居心地悪かったのよね。シナリオも神核の中に置いてきたし、これが本当の自由!

 よく見渡すと、まだ抵抗している奴らがいるみたい。でもアッサリやられてよく分かんないメカ? に吸い込まれてる。

 うわ、あたしは抵抗の意志はありませんよー!

 えーと、白旗の代わりになる物ってないかしら? 確か無い時は両手を……あたし今真ん丸の魂だから腕が無かった!!

 ううっ……ここで大人しくプルプルしていよう。

 プルプル。あたしわるいやつじゃないよ。



 ◆おまけの馬鹿っプルたち◆


「宇宙樹に活力が……これは一体」

「ぬう……一刻も早く戻らねば」


 一度足を止め、宇宙樹の枝を注視する一人と一頭。大宇宙一の迷惑馬鹿っプルのミント(メリッサ)とゲスコーンだ。


「こんな……こんなひどい事を誰が」

「ミント、急ぐぞ」


 さめざめと泣くミント(メリッサ)を乗せ、ゲスコーンは飛び立った。

 ゲスコーンは流石にもう合体したまま宇宙空間を移動する気にはなれないようだ。宇宙中に仕掛けた転移陣を使い、ようやく現在の天空の城に一番近い場所に出た。


「ここまで来れば後少しだ」

「よかった……。あぁ、安心したら……」


 その豊満すぎる巨っパイをより強く押し付け、ミント(メリッサ)は腰を動かし出す。対するゲスコーンの下半身は、実に正直だった。


「ミント……ん?」


 何かを言いかけて、しかしすぐに爆発音によって遮られる。

 かなり離れているようだが、戦艦らしき物が集まっていた。そして目に映った戦艦たちが次々と撃破されていく。

 それが攻撃魔術による物だというのは、色に溺れてチート勇者ごっこすらサボり抜いているゲスコーンにも理解出来た。


「え……何で」

 ”何で“ とは、あれうちのだよな? 何でピンチなの? 一体何を相手してるの? あれ? 計画どうなってんの? という意味だった。

 一際豪華な戦艦を貫き、こちらへ迫り来る光線(ビーム)を視認した直後、ゲス馬鹿っプルは大ダメージを受けて吹き飛ばされたのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 ピコン、ピコン、ピコン……。

 HPがレッドゾーンに突入した時の警告音が頭の中で鳴り響く。しかしそれも数秒後には鳴り止んだ。

 ゲスコーンには大勢の分体がいる。その存在の最大のメリットは ”誰かが瀕死の時、他の元気な者たちからHPを分けて貰える“ 事だ。


「保険は取っておくものだな……。ミント、無事か?」

「何とか……」


 頬を赤らめながら胸を隠して身をよじる全裸のミント(メリッサ)の姿があった。

 服はない。全裸である。なお無傷だ。

 空には本拠地である天空の城が浮かび、目の前には森の入り口。城は少し遠く、森はたったの数歩の距離であった。


「本当か? あちらで確認しよう」


 格好つけているが、お色気に負けただけである。結局この後、いつものようにいちゃつくのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 その頃ルナシリーズと彼女らを襲ったゲスコーン分体たちは、コージの手引きで例の惑星に逃げ延びていた。

 コージは何かの情報を持っていたのではない。単に「移動してその先でもっと楽しもうぜ」と提案しただけだ。それが偶然にも冥府の神の部下たちがやって来るタイミングと重なったのである。

 突入する冥府の神の部下たちを見ながら脱出した彼らはコージを讃えた。移動中も賛辞は止まず、こうして到着した後も続いていたが、それが今ピタリと止んだ。


「なあ、コージ。本体は大丈夫か? 何か今HPが少し減ったんだよ。どうも本体が攻撃を受けたっぽいぜ」


 いよいよ冥府の神とその秘密兵器との決戦といった認識はあるが、ずっと楽勝だと思い込んでいた為「あれ?」と思ってしまったらしい。皆少し不安そうに互いに顔を見合わせている。


「あー……でもまあ大丈夫じゃね? 本当にヤバくなったら例の手段を使うだろ」


 頼りになるコージに言われて安心したのか、皆いつものチャラい感じのキャラに戻っていった。


「ああ、例の手段な。しっかし連中も間抜けだよな」

「今頃悔しがってるぜ」


 ギャハギャハ笑うゲス連中だったが、事実は少々異なっていた。


 ◇◇◇◇◇◇


 冥府側としてはルナシリーズの保護は絶対になすべき事ではなく、今後安定した監視が出来ればそれで良いという考えなのだ。

 故に、姿を見られたのではなくわざと見せた。

 アジトを突き止める為に泳がせたに過ぎず、彼らを捕らえる気は毛頭無かったのである。


 その人物はきっちりアジトの特定を終え、ゲス連中の嘲笑を鼻で笑い飛ばしながら通信機(あの世ケータイ)を取り出していた。


「こちらサ(てい)、アジトを確認。資料に示されていた中で三番目の惑星だ。これからの指示を……了解した。帰還する」


 誰かに見つかって捕らえられるとか始末されるなんて事にはならなかった。


「本当にザルだったぞ……」

「気が抜けるからなー、逆にやりにくいよ」

「イージー過ぎてミスしそう……」


 彼らはプロの諜報員である。そのような人々に「無能過ぎてやりにくい」と言わせたとは知らず、ゲス連中は自分たちの有能さに酔って有頂天になっているのだった。

 ゲス連中が本格的に追い詰められるのは、もっとずっと後の事である。


 当初ここでゲス馬鹿っプルがうさビームを受ける予定は無かったんですけどねぇ……? どうしてこうなった。


 ◆おまけ・残りの刺客たちの様子◆


・ビビアン

 ふ、ふふふふ。歌が上手なのは褒めてあげるわ。作業の手が止まってしまう程素晴らしい歌声ね。

 でも、ついに積み重ねてきた仕掛けが発動する時よ! これであなたはビビアン・エル・ドランとして生まれ変わっ、いっだぁーっ!

 ああっ、乗っ取り完了後はルルナって名乗らなきゃならなかった! 痛っ、痛ぁ~いっ!!

 ……あ、嘘、え!?

 嫌ぁーっ!! 台無しになっちゃった!! やり直し!? あれをやり直すのぉ……? やだ、もうやだよぅ……。


・マリアン

 ふぅ、気付かれずに作業をするのも疲れますわ。効果の出るやり方を探るのに随分と時間をかけてしまいました。

 外の様子を見ると他の方たちは一人を除いて苦戦しているようですね。流石は神と称えるべきでしょう。

 しかし、これまでです。わたくしが成り代わり大っち……ああっ月でしたっ! 月でしたねっ。やめっ、やめてっ痛あぁぁぁ……あっ!?

 あぁ……や、やり直し? そんな……。


・フランシーヌ

 しぶとい。記憶を失っていてもやりにくかったのに、記憶が戻ったものだから仕掛けが台無しよ。

 あー、面倒くさい。シナリオ通りにって最初は思っていたけど、実はやって欲しくない事でなければ大丈夫みたいなのよね。

 ……あら? この地味女の記憶を見ていたら、いい材料を見つけたわ。

 ふーん、ペナルティ発生時の痛みは無し……と。ってことは、これはやってもいいって事よね?

 やりぃ。最高のザマァが出来るわ。うふふ、ぶっ壊してあ・げ・る。


・シャルロット

 き、気付かなかった私がドジなんじゃないのよ? 向こうの説明不足よ! でもこれまでの蓄積があるから、その分作業は楽ね。

 ふっふっふっ、憎い彼女の上位互換って所かしら? 貶め甲斐があるわ。見てらっしゃい。追い出してザマァして踏み潰してやるんだから。



 担当は上からマジョラム、マートル、カモミール、ローズマリーです。

 誰かさんの「サボったら許しません」という思いを込めたペナルティが足を引っ張りまくっていましたとさ。

 なお、四人共クズです。その中でもカモミールとローズマリーそれぞれの担当者は特に救いようのないクズなのでした。

 人選どうなってるかって? 適性と能力でリストアップし、最終的に容姿で決めたのです。人格は確認しなかった模様……。

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