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第32話 報復祭の続きと地球滅亡

 乳袋様は書いてて楽しいです。とても楽しいのです。


 ◆報復は続く◆


 さっきまでと顔ぶれは変わらない。乳袋様が同席しているのは私の希望だ。彼女にも聞きたい事というか確認したい事があるからね。

 虫地獄から解放されてハム縛りも解除された乳袋様は、何事もなかったかの様に偉そうに椅子に座ろうとしていた。メイドさんが椅子を引いてどうぞと示したからだ。

 その人多分、神様の部下だよ。何かあるに違いないよ。そう思ったけど私は口にはしなかった。他の皆さんもあえて何も言わなかったし。

 彼女が椅子に座ったその瞬間、凄まじい音がお尻の下から放たれた。


 ブッボボボボォンッ!!!


 悪戯イタズラアイテムブーブークッションの強化版、大噴火クッションではありませんか。おお、これを仕込んだのか。ひでーわ。「オナラっぽい音だがこんなオナラの音はないだろ……」と誰もが思うが、悪戯された方がひたすら恥ずかしいのは変わらない。

 しかしこれだけでは終わらないのだ。“大” が付いているからね。

 黄色いモヤ~ンとした物が彼女のお尻の下から漂い始める。臭いまで付いている徹底ぶりだ。


「なっ! 何て事をっ」


 怒るよね。怒って立ち上がって椅子の上のクッションに手をかけるよね。それも折り込み済みの罠が待ってるよ。

 いくつか候補があるけど、はて? どれだろうか。


「いやあぁっ」


 ほう、何かに手を挟まれる系が来たな。普通に痛がってるだけだね、何だろ……? 私の位置からじゃ見えん。移動しよう。

 ……トラバサミか。シンプルなトラバサミだな。ん? 何か顔色がおかしくなってない? 真っ青だよ。


「大噴火クッションはタイムのリクエストで、トラバサミはラベンダーの案だ。そしてそのトラバサミに毒を仕込んだのはセイボリーだ」


 ローゼルが解説してくれました。なお、私とローゼルはうさ姿から人間姿に戻っている。


「どんな毒?」

「青から始まり赤になって梅干し色になるとしわが刻まれていくらしい。効果は三十分程と聞いた」


 梅干しババアか……。あれ? メイドさんが乳袋様を椅子に座らせ、目の前に鏡を置いたぞ。

 おぉぉお、更なる追い討ちをかけてきやがった。何たる無慈悲!


「イヤァァァァッ!!」


 立ち上がろうとして立ち上がれず、様々な絶望が込められた絶叫が乳袋様の口から出る。

 ああ、尻の下どころか背中側にも接着剤的な物を付けたのか。

 ……いつだ? 一度立ち上がっているから最初に座る前には仕込んでいない。するとトラバサミの後か?

 何て手際……! 恐ろしい人がいたもんだ。宇宙は広いね。


 ◇◇◇◇◇◇


「あー、宇宙樹マップ有難いね。今こんなんなんだ」


 少し時間がかかったけど、宇宙樹の枝の中の亜空間の事を神様に伝えられた。

 記憶を元に自動で紙に書き起こす魔術を使ったんだけど、手書きより上手だし早いんだけど……宇宙広いわ。紙を何枚も張り合わせてしまった。


「現地調査と回収は任せて。と言ってもゲスコーンたちの事が片付いてからになるけど」

「そっちのがいいかもね。さて、乳袋様の毒も引いたし、ちょっと質問」


 しかし乳袋様は反応してくれない。ふむ、呼び名が気に食わないのかな。


「輝夜さん、質問があるの」

「何かしら?」


 不機嫌ながらも返事をしてくれた。やっぱり呼び名の事だったか。


「この宇宙のことわりについてだけど、ゲス……ユニコーンとメリッサに話した?」


 私の質問に対し、彼女は目を細めると鼻で笑った。


「あの者たちにそのような事を理解する知能があるわけがないでしょう。創造の権能だってまともに使えるとは考えていませんでした。状況さえ整えれば勝手に都合良く解釈して動いてくれますもの。教えるまでもありません」


 ああ、権能奪って殺してくれればそれで良かったんだね。その後の事は何も考えていなかった、と。


「メリッサは宇宙樹を消し去ろうとして、それは現実しかかった」


 せめて宇宙樹に関しては正確な情報を与えるべきだったと思うのですが?


「権能に頼らずとも宇宙樹の破壊は可能ですわね。けれど、壊れていないじゃありません? きっとミントさんが頑張りましたのね。あんなに頑張っても悪名しか残らないなんて可哀想なお方」


 可哀想と言いながらもあざけった様子を隠そうともしない。

 成る程。ミントの頑張りを予測して、それに頼ったのか。中々のクズですな。


「バジルは失敗しましたが、その他の方たちは今頃精神をむしばまれ、消滅していることでしょう! わたくしの勝利は揺るぎませんわっ! ホーッホッホッホッ」


 ん!? 精神を蝕まれて消滅?

 高笑いする彼女に首を傾げながら、私は影月さんに目で問う。

 新月さんはレアとペンネの相手をしていて……無理だなあれ。まあ問題児の相手をしてくれるのは有難い。むしろついにあいつらの暴走を制御出来る存在が現れた事を喜ぼう。


「オレガノさんに変化はありません。ソレルさんも神核から追い出されただけだそうで、調べた結果魂に異常は見受けられませんでした。オレガノさんの魂に誰かの魂が張り付いているのは判明しているのですが、その魂が何かをしているようにも見えず……何がしたいのですかね?」


 影月さんの説明中も途切れる事なく続いていた高笑いがピタリと止んだ。


「乗っ取り計画?」


 私は可能な限りの推測を口にしてみる。返答は無いが、表情の変化からして外れてはいないようだ。


「一応厳選した魂を、それぞれの性格等に合わせて担当を決めた? もちろん魂たちには成功報酬も示していたり?」


 ビクンッと体が揺れたので、当たりだなこれは。


「色々細かく、個人ごとに指示を出してた?」


 何か汗をかき出したぞ。ここまで全て図星か?


「計画だとそろそろ乗っ取り完了予定だった?」

「ホ……ホホホホ。よくできましたの判子(ハンコ)を押したい所ですわ。ですが……」

「名をおとしめる行動を盛り込んでたの?」

「ソレルさんの証言によりますと、自身の意志に反した言葉ばかりが出て、直そうとするほど酷くなっていったそうです」


 影月さんの援護が来た。そのお陰で乳袋輝夜様はついにブフゥッと吹いた。


「つまり彼女らの名を貶める事で、その師である創造神の名も貶めようとした……と」


 うーん、我が子・緑源よ。君の彼女へのお仕置きはどうするね?

 ……よっしゃ。神様にも協力して貰おう。


「た、たいへんよくできましたの判子を押して差し上げますわ」


 震えながら言ってるけど、もう無視。説教とかいいや。神様に我が子一号の要望を伝えよう。

 私は紙にサラサラと図案を描いていく。

 それにしても本当に頭良いんだよね乳袋様は。作戦そのものは中々に効果的だし、実行に関しては途中までは悪くない。

 ただ大地の女神たちに放った刺客については細かいミスがいくつもあった模様。そこに紅星君が現れて、当人が一気にポンコツ化したから今の有り様だ。

 一番の功労者は紅星君じゃね? 太陽は益も害ももたらす存在……まさしく体現してるね彼。

 まあいいや。解説も付け足して……よし、完成。


「ほい、神様。我が子一号発案のお仕置き」

「どれどれ……ぶはっ! これはいい! さっそく作らせよう」


 神様は部下を呼んだ。シュタッと現れた忍……いや神様の部下は、私が書いた図案を受け取ると、やっぱりシュタッと姿を消した。

 ……黒装束ではないけれど、動きはまんま忍者だよねあれ。


 ◇◇◇◇◇◇


 今、大事な事を思い出したぞ。


「あ、そう言えばゲス馬鹿ップルが合体した状態で宇宙空間を移動してたっけ」


 うわぁ……という声があちこちで上がった。


「ああ、多分本拠地に向かっているんだよ。ゼウスさんから権能を奪う気なんだと思う。……うん、まだ宇宙空間だね」

「うん……? もしかして知らない? 神話の神様たちの権能の特性について」


 奪っても意味無いんだけど、でも存在に関わるから奪わせちゃ駄目だ。


「マートルたちの話を聞いた限りでは知らないっぽい。でもそれを知った時の出方が心配なんだよね」


 何と、分体を使ってあの世ケータイを渡して来たとのこと。そして今回は神様自ら出向くらしい。

 どうやら私が神として目覚めた時に、大宇宙全てに少量ながらも回復効果をもたらしていたらしい。それによって少し余裕が出たそうな。

 元々初代様に宇宙樹を支えてもらって限られた時間で自ら片をつけるつもりだったけど、私のおかげで活動可能時間が延びたと言われた。私は元々撹乱要員かつ保険だったそうな。


「んじゃ、これからどうしよっかな。うさビーム検証にアニスとチコリの事、これらを特にどうしよう?」

「一先ず日本支部に行って、閻魔帳の引き継ぎやってきてよ。そろそろ2022年になるから、すぐに地球滅亡やっちゃって。滅亡メニューは好きなの選んでいいから」


 滅亡メニューなんてのあるんだ……。

 余り詳しい事話してくれないね。乳袋様が居るからかな?


「その後の計画はこっちで組み立てておくから、行ってらっしゃい。これに入ればすぐだよ」


 すぐ近くに転移魔方陣が現れる。

 わあっ! 何て親切。

 ……言っていい?


「……これ、どうして最初に出してくれないのか」


 あの世日本支部にこーゆーの出してくれていれば、死者の荒野を行く必要無かったんじゃね?


「ああいや、こっちで直接登録しないと使えないんだよ。システムの都合」


 よく分かんないシステムだな。もしや混沌謹製だったりするのかね? だったら変な言い分があっても納得いくわ。ステータスといい、あいつら変なこだわりがあるからなぁ……。



 ◆地球滅亡◆


 そんな訳で、久しぶりのあの世日本支部です。

 なんと名前そのまんまの転移部屋に移動させられていた。もっとネーミング捻ったら?

 ……あれ、思い浮かばないや。ああ、うん。そういう事ですか。納得しました。


 私とローゼルの間に紅星君が入り、群青さんは黒スーツ姿で前を行き、後ろからは肉ピンク豆こと残月さんがピョコピョコとついて来る。……慣れるとかわいいなこの姿。


「わぁ、久しぶり」


 “禁酒” と書かれた札を頭の左右に張り付けた四代目が出迎えてくれた。アンタ、部下を怒らせる程飲んだのか……。


「おう、銀城さん。神様からの手紙だぜ」


 その手紙は封筒には入っておらず、小さめの便箋一枚を二つに折っただけのものだ。

 きっと内容は一行くらいで終わってるな。群青さんがプルプルしながら頑張って真面目な顔を維持しているので、何となく察しはつくよ。


「えー、何?」


 四代目は呑気に手紙を受け取り、それを開いた。


「えー……嘘ぉ」

「何や、名前が “吟城(ぎんじょう)” になるんか。お酒の名前によう付いとる吟醸ぎんじょうが元々の希望やったっけ? 半分叶ったやん」


 いつの間にか残月さんが四代目の肩に乗り、手紙を覗き見していた。

 おお、動いたの分からんかった。戦闘力は皆無と聞いたがこれはこれですごい能力だ。

 さて、手紙には……。


〔四代目へ 引き継ぎ後の君の名は 吟城 に決めました 大神より〕


 と書いてあって “吟城” の部分だけピンクの蛍光ペンで囲われていた。……いやそれより!


「 “大神(おおがみ)” って……神様の事?」

「一体いつから名乗ってるんだ?」


 ローゼルも知らなかったらしい。


「何でも初代様と二代目と出会った時、流れで決めたって聞いたで」

「んで、縮めて “神様” になったって話だ」

「せいぜんのほんみょうがジョージ・オオガミだったそうです」


 てことは、神様の呼び名は今のままでいいって事か。まあともかく引き継ぎだ。

 私は貰っていた閻魔帳分冊と閻魔帳本体を交換する。


「……分冊って、一冊の内容をいくつかに分けた物だったはず」


 複製あるいは副本と呼んだ方が正しいんじゃ?


「あー、それね。神様が日本語間違えてたけどそのまま押し通しちゃったパターンだそうだよ。レベル表記のGL・KLと同じ」


 GLの ”G“ は ”幻獣“ から。

 KLの ”K“ は神すなわち ”KAMISAMA“ から。

 発案当時「すでに日本では “神” と書いて “ゴッド” と読む事が定着してるんだけど……」と初代様と二代目が即ツッコミを入れたけど、「幻獣と被るから」と言って押し切ってしまったそうな。


「……あの人、元はどこの国出身だよ」

「イギリスって聞いたよ」

「……あの世って文字も言葉も自動で翻訳されるから、皆母国語で読めるし会話出来るけど……原文は日本語表記だよね。何で英語じゃないの?」


 今さらな疑問だわ。まあ前世はアヒルだったし、今世は色々あって考える暇も無かったし。


「せっかく覚えた日本語を忘れたくないからだってさ」


 四代目はめっちゃ呆れた様子で更に続けた。


「そのせいで英語を忘れそうになって、たまに修正の為に母国イギリスやその他英語圏の国の人と英語で会話してるんだけどね」


 本末転倒の見本じゃんよ……。

 はー、もうええわ。言われた通り地球滅亡やりますか。

 私は閻魔帳を裏返す。……あ、上下逆さになってら。直して……と。丸で囲まれた「裏」という文字に手を当てる。


「裏モード発動」


 閻魔帳が光を放つ。

 おお、ちょっとドキドキしてきた。

 ぐっと厚めの表紙(裏か?)をめくる。メニューが出たな。

 “魂追跡” とか “惑星履歴” とか色々あるけど今は……と、 “特別メニュー” これかな?


「特別メニューで合ってる?」

「合ってるよー」


 四代目の保証が付いた。早速ポチッと触れてみる。


「出た出た。えーと……文字入力?」

「うん。予測変換機能付きだから、選択ミスに注意してね」


 しかもフリック入力。マジでスマホだ。

 ちきゅう めつぼう ……と。

 決定をタップすると “ページをめくって下さい” と出た。

 ぺらりとめくる。そこには滅亡メニュー一覧が表示されていた。()内の日数は地球時間らしい。


「どれどれ……」


 ◇◇◇◇◇◇


 第一段階

 ・焼き (第二・第三不要)

 地表をマグマで覆い、生物ごと文明の跡を消し去る。(400日)

 ・暗闇 (第二・第三不要)

 ゆっくりと世界を闇で覆っていく。闇に飲まれた生物は肉体を失い、その他の物質は消失する。 (360日)

 ・水没

 大洪水を起こし、地表を水で覆う。水流で削り文明の跡を消し去る。 (一万年)

 ・追加

 事前に生物の魂を抜く。コストが大幅に増加する。


 第二段階

 ・全球凍結

 地表を氷で覆う。 (丸一年)


 第三段階

 ・解凍 (半年)


 第四段階

 ・地形再現 (360日)


 第五段階

 ・人類以外の生物配置 (300日)


 第六段階

 ・人類放流 (一日)


 ◇◇◇◇◇◇


「……ちょい待ち。神様全っ然説明してくれて無いとこある」


 あの世ケータイを取り出し、神様の名前を選択。


「もしもーし!」

『ああ、早速メニュー見た?』

「見たよ! ちょっと聞きたいんだけど、生物配置やら人類滅亡やらって何?」

『そこは自動で作動するし、あらゆる生物も人類も用意はしてあるから。あのね、創造神の復活なんだけどね。もう一度地球で転生を繰り返した方が今後の為になると考えたんだ。だからもう一度だけ人類の発展を繰り返す。紀元前一万年あたりからスタートする設定だよ』

「……あ、そーゆー事。先に言ってよ。で、私の好みで選んでいいんだよね?」

『いいよー。あとコストもチェックしてね』


 ふむ、コストか……。よく見ると ”総計“ とか ”一日につき“ とか見落としちゃならない文字があるじゃん?

 水没コースが最も低コストに見えるけど、一万年毎日百万単位のHPやMPを削られるから、これハズレだ。”水流で文明の跡を消し去る“ とあるけど、相当の激流を起こすと見た。うむ、性に合わん。

 となると ”焼き“ か ”暗闇“ になる。コストはそれほど違わないしコスト消費も一回きりだし、違いは追加の ”事前に魂を抜く“ を使う必要性だ。

 ”暗闇“ を選ぶなら、ぜひ人類には肉体を失う恐怖を味わっていただきたい。でも焼くのは流石にねー……。


「ねえ神様。今生きてる人々の魂だけど、滅亡のさせ方で何か影響出たりする?」

『……出るよ。焼くのも闇も使い物にならないくらい狂って砕ける。まあそうなっても構わないんだけどねー。ただし使い回せる人物は事前に魂抜く設定になってるから、そこは好みで判断して。あ、あとね。衛星とか探査機とかの宇宙を漂っている物は、うちのスタッフがその内回収するから。心配しないで』

「ん、分かった」


 私は通話を切った。


「四代目、死んだ魂たちの受け入れ態勢どうなってる?」

「霊脈に直接ゲートを繋いだから大丈夫。死者の宇宙にある惑星の一つに転送されるよ。これは君が全ての生物の魂を抜いた場合を想定した措置なんだけど……やれる?」


 うーむ、ちょいとコスト計算しよう。HPもMPも満タンではないんだよね。どうなるかな……?


 焼き+事前に魂抜く(全生物)+第四+第五+第六


「うん、ステータス低下無し。HPは最大値の四割近く、MPは最大値の約三割残るか。まあどうにかなるね」

「がっはあっ……! こ、これが大宇宙クラス……」


 あれ? 何でダメージ受けてるの? ……ああ、私の魂を呼び戻した時の事を思い出したのか。

 ちゃんと確認。よし、コスト支払いはそれぞれの段階一回こっきりだな。段階が切り替わる時にその都度消費するから途中で回復も可能だ。


「では、事前に全生物の魂を抜くぞ。地球に居る皆様、今回の過去の再現はここまでです。大変ご苦労様でした。今後はあの世でゆっくりまったりお過ごしなされ。てりゃっ!」


 閻魔帳が光るが構わず ”焼き“ を続けて選択する。おおう、吸いとられるぅ。

 ”焼き“ を選んだ理由? 我が子たちへの生命誕生講座の為である。緑源はおさらいだけど、青葉は初めてのはず。


「地球の様子……あ、見れるね」


 閻魔帳の光が地球の映像を映し出した。今、魂が抜けていってる。

 おお、美しいな。魂たちが寄り添い合いながら一筋の流れを形成し、幾つもの流れが合流してより大きな太い筋……川の様になっている。選んでよかった。



 ◆姉弟仲は心配ないようです◆


 よもやローゼルが父親になるなんて想像もしなかった。そしてすぐに弟が出来るなんて考えられる訳ないじゃん。

 おぉおお、かつての弟子を ”父“ と呼ぶの? 複雑だけど、生をやり直すんだから……あー、もう別にいっか。

 それより弟が可愛いんですけど。


「ネー、チャ。オ、ネーチャ」


 可愛い! この可愛い生き物のお姉ちゃんをやるならローゼルを「お父さん」と呼ぶ事への抵抗なんて些細な事よ。


「青葉は基本はお父さんにそっくりだけど、お母さんの面影もちゃんと入ってるねー」


 今は光に包まれてるただの丸っこい魂だけど、成長後の姿を予測するのは可能。なんたって私は大宇宙の創造神だからね。…… ”元“ が付くけど。

 外は今、お母さんが閻魔帳の裏モードとやらで地球滅亡を実行した所。

 地球に生きる生物たちの魂が、肉体から離れていく光景はとても綺麗だ。

 朝日と共に魂は剥がされ、しかし剥がされた事に気付かず肉体は動き続けているだろう。魂が無くても脳に蓄積された経験が肉体を動かすからだ。


「魂とは元々生物の意思の残滓(ざんし)でね、この宇宙では独立した生命体なの」

「キレイ。デモ、ヨワイ」

「うん弱いよ。魂はとても弱い。流されやすく、意識も拡散されやすい。けどね、その弱い魂がたくさん集まって皆一緒に流されると、力強い魂の川が出来上がるんだ」


 魂たちは寄り添い合い、輪廻の輪が作り出した流れに乗り、霊脈こと宇宙樹の枝の中に入って行く。

 宇宙樹の枝の中は魂にとっての安全域。魂たちは守られながら死者の宇宙へ向けて運ばれて行くんだ。

 ああそうだ、流れといえば……。


「流れは誰かが作るんじゃない。全ての生命が無意識の内に作り上げているだけ。知らない内に影響を与え、与えられている。だから流れに逆らうのも悪い事じゃない」

「ワルク、ナイ?」

「うん、悪くないの」


 だから私は私に従わない神たちを消さなかった。それなりの罰を与えはしたけれど、甘かったのかな。”月“ はそれを利用して自分側に引き込み、そうして新しい流れを作り上げていった。


 その新しい流れでは創造を司る神は人々の願うままに行動しなければならない存在になっていて、太陽と月の権能が至高で、大地の権能は最下層だと信じ込ませていった。

 ”太陽“ がこちら側に着いた事で少し揺らいだけど、それすらも私への悪評に変える事で結果として支持を増やしたし。

 ローゼルたちがブチ切れ寸前になる頃には私の魔力が回復しないという事態になり、眠りにつく以外に宇宙の生命誕生を支援出来なくなってしまったんだよね。

 私が間違った存在だから、偽物が本物の振りをした罰なのだと ”月“ は言いふらしてたっけ。本気でブチ切れたローゼルたちにビビって姿を消しちゃったけどね。

 それでも嫌がらせを止めなかったのは凄い。私の直弟子全てに嫌がらせをしつつ、私にも最高の苦痛を与えようとしてここまでの事をするなんて。


 はぁ……でもそんな事じゃない。殺された事は悲しかったけど。自分のして来た事を否定されたのも悲しかったけど。悔しかったけど……。

 だけどそうじゃないんだよ。今、私が気にしているのは……。


「宇宙うさぎなんて知らないよ。宇宙に生命が溢れれば誕生する、宇宙空間に生きる生物かー。前までの宇宙には()ったんだね。つまり ”再生“ 無しの宇宙創造なんて最初から強引過ぎたんだ」


 あー、悔しい。悔しいからお母さんと一緒に宇宙を創造してやる。


「青葉も一緒に宇宙を創ろうね」

「ウチュウ、ツクル。ネーチャト、イッショ」


 きっとあのお馬鹿は以前と同じく「創造のビジョンがありますの?」とか言ってくるだろう。ネチネチと重箱の隅をつつくように些細な粗を掘り出しては得意そうに批判の皮を被った否定をして来るんだ。

 宇宙の創造にビジョンなんて不要!

 物質に変化を促せば、勝手に最適化しつつ新しい物になっていく。せいぜい魔術を使えるように変化に手を加えるだけだ。惑星内の創造に関しては別だけどね。

 何度言っても彼女は区別をつけてくれなかったな。


「カグヤ、テキ! ソウゾウノ、テキ!」


 あれ? 初期状態で彼女を敵認定してる? 明らかに親の思考の影響を受けてるね。……ローゼルの怒り、どれだけだったのよ。


「彼女の事だからきっと代替わりの時用に後継者を選定し終えていて、それに少し手を加えて保険としてどこかに隠してるんじゃないかな。そいつは多分私が復活して活動を始める頃に出てくると思う。だからね青葉、それまでは一人で無謀な事をしちゃ駄目だよ。約束して」

「ワカッタ。ボコルノハ、ネーチャトイッショ。ヤクソク!」


 あぁああああかぁあわいぃぃぃ~!!

 可愛いよぅ。弟が可愛い過ぎて調子に乗りそう。ヘマしないようにしないと!


 裏話をひとつ。

 この作品の元になった話にも青葉は居ました。その時は緑源とは赤の他人設定だったのですが、それでも二人は意気投合して仲良く一緒に行動していたのです。それこそまるで姉弟の様に……。

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