第31話 起きたら報復祭開催中だったよ……
主人公に恋愛イベントが生えたでござる。
「……何で君の先代は “再生” を葬ろうとしたかな?」
「代々の “月” の悲願でしたのよ? それに口うるさいですし」
会話が聞こえてくる。神様と……内容から察するに御月様か?
あ、冥府の神様の呼び方どうしよう。個体名を持たないのは役割に徹する為だったんだよね。別に名前付けても良かったし。初代の “月” は自ら “輝夜” って名乗っていたしな。
「あ、ご主人が……」
リコちゃんの声がしたから、彼女の姿が最初に見……あれ?
誰だこの超ド・ストライクの超絶イケメン君は!? 見覚えあるな。
……あ、ローゼルか。こっち来たんだ。
ローゼルとリコちゃんが左右から私を覗き込んでる。んー、ローゼルが来たって事は結構時間がかかった?
「あれから何かあった?」
上体を起こしつつリコちゃんに尋ねる。ローゼル? キュン死回避の為に無視だ。
「ソレルが保護されて、御月様が罠にかかってくれて、彼女の眷族兼分体のルナシリーズがゲスコーン分体の毒牙にかかって色ボケになり、紅月様がめでたく神の卵になりました」
おうふ、色々あったんだね。
神様の足元に、縛られて芋虫みたくうつ伏せになってる女性がいる。おそらくこの人が……あ、起き上がった。おお、すっごい乳揺れ。
「あちらの乳袋様が御月様で合ってる?」
ぶはっ! とこの場に居る皆が一斉に吹いた。
え? 見事な乳袋じゃないのさ。 “様” を付けなきゃならない程の素晴らしい乳袋じゃん?
「いいね。君とルナシリーズはチチブクロ一族として監視下に置こう。漢字は何を当てようかな」
はっはっはっ、神様ネチネチモードじゃん。誰も止められんから御月様……いや乳袋様、諦めてね。
「そんな……! そのような完全イロモノ扱い……」
こっちはこっちで悲劇のヒロインモードなのな。しかし君のお芝居はただの喜劇にしか見えないんだよ。それにねー……。
「元々イロモノじゃん」
私と神様の声がハモった。我が子も同時に呟いてたけど、きっと周囲には聞こえていないね。
「ひどいですわーっ!!」
この程度、君がやって来た事に比べれば突き指程度のダメージでしかないぞ。連日タンスの角に足の小指をぶつけるより軽い軽い。
◇◇◇◇◇◇
「で、ローゼルはどうしてここにいるの?」
さすがにこれ以上は無視出来ないし、今のツッコミで真顔を固定出来たはずだから顔を見ても大丈夫!
……大丈夫じゃなかったわ。ローゼルを見たとたん表情崩れた。えぇー、変顔になってないよね? うわぁ、うわぁ。
「色々と相談事もあったから……これを」
ローゼルが小さな緑色の宝石を取り出した。外野がザワッとしたけど放置だ。
「……これ、私の魔石と同じやつ?」
ディマントイドガーネットじゃないの。しかも色の深みとか輝きとかそっくりだし。
む!? 何か私の中で魔石が叫んでいるんだけど? ……えー、何だって? 「我が子」だとぅ!?
「ローゼル、私……いや雑草に与えた魔石は何か謂われとかあった?」
「聞いてはいないが……。何かあったのか?」
あ、この表情は本当に何も知らなさそう。
「私の中で魔石を育ててるよ。何なのあいつ」
「知らん……。それより、これには小さいが魂が宿っているんだ。よく見てくれ」
ぬー……? おー、いるいる。ちっこいけど強い魂の輝きを秘めているね。
あれ? この子……再生の権能に適合している!
おおっと、これは後で神様とこっそり話そう。“再生” 絡みの事は一先ず隠しとかなきゃ。そこの乳袋様が何するか分からないからね。
魔石や、君の言う「我が子」は……あ、宝石の方なのね。魂は? ……は!? マジか。マジ……えー……。
「どうした?」
「神らしいっちゃ神らしい奇跡だわー……」
私はローゼルの手から宝石をつまみ上げ、胸の中央に押し当てて収納した。宝石は魔石の元に、魂は子宮にちゃんと届いたのを確認し、説明して欲しそうな皆様向けの説明を考える。
うーん、何て言おう。何を言っても恋愛方面に行きそうだな。
「ローゼル、あの宝石はいつ出てきたの?」
「避難先の惑星に着いてしばらくした頃だな。あの魂も一緒で、いきなり生まれていたんだ」
ついにリコちゃんとツバキさんが黄色い声で「キャー」言うたよ。二人共随分と仲良くなったようで何より。もういいや。皆さん好きに推測してくれ。
「名前付けた?」
「仮の名として “青葉” と……」
「じゃあそれを正式な名前にしよう」
我が子二号だ。我が子一号・緑源よ、弟が出来たぞ。仲良くな。
◇◇◇◇◇◇
……事実上私とローゼル夫婦ですわ。
あーれー? 雑草は私の一部であって私の全てではなくすなわち完全なイコールでは無く……。
ああ、混乱してるわ落ち着け私。つまり、えー、ローゼルにとっては私は何だろうってのが気になってですね。ええ、その一点です。
「用事はまだあるんだ。……もっと早くに思い出せなかったかと後悔した。俺は人間の前は宇宙うさぎだった。大宇宙の再生の神を直接知っている」
うん……? うーん? あの宇宙うさぎがローゼル!? 先代になついてた宇宙うさぎがローゼルだとぅ!? 心を鬼にして別れたけど、思い出しては落ち込んでいたお気に入りのうさちゃんがローゼルだった!!
え? 雑草の中に “再生” の権能が復活して、その雑草はローゼルの世界に生まれ……。
“運命” め! 仕組みやがったか!
そうか、吹っ切れたわ。はっはっはっ。ゲス共ボコったら混沌の渦に突撃じゃー! 奴はそこに居る!
「うさぎの時は “月” から逃げるのがやっとだった。“運命” が手を回してくれたんだろう。人間に転生し、生を終えてすぐにある大地の神が俺を引き取りに来た。神修業中に宇宙の崩壊が来て、その後新しい創造神に拾われたんだ」
ローゼルはかつての “月” を見た。ああ、やっぱりあの宇宙うさぎは “月” に目を付けられたのか。……逃げ切っただけでも凄いよ。さすがはうさぎだ。
「もう “月” の不意討ちを受けても返り討ちに出来る。簡単には殺されない」
ローゼルの手は肉々しいピンク色の豆みたいな形の、謎だらけの不思議生物の腕(?)を掴んでいた。
何それ……敵でないのは分かるけど、誰それ。
「ホンマやー。最大出力で気配消したのに見つかってもーた。紅月様と神様に続いて三人目やー。まぁ主である紅月様は絶対分かるらしいんやけどな」
何だ。紅月さんの部下か。影月さんや新月さんの同僚か。危険物では無かった。
「だから、これから先ずっと側にいさせて欲しい」
乳袋様から殺気が放たれる。
歴代の “月” は、“再生” を孤独に追いやる事に心血を注いでいた。Bランクから大宇宙クラス、それも実質最高位の神が出るなんてSランクだった初代 “月” としては耐え難い屈辱だったようだ。八つ当たりで初代 “再生” の眷族候補は殺された。
友だちと呼んだ方が近い間柄の人たちだった。彼らと共に思い描いていた楽しい未来は、彼女の策によって完膚なきまでに壊された。
けれど彼女はそれだけでは足りなかったらしい。常に目にする “再生” の姿は惨めなものでなければ気が済まないのだろう。いっそ存在そのものを消し去ろうと考えた。
しかし残念ながら私は歴代 “再生” 同様彼女の願いを叶える気にはならない。
「ローゼル、私の名前を呼んで」
「真緑……?」
よし来た。心臓どころか脳ミソがバクハツ(比喩)したぞ。
いや、凄い破壊力。マジ恋してるわ私。
おおっ、乳袋様の殺気が更に上昇してら。
知らん知らん。言葉が出て来ないので態度で返事をしちゃろう。ローゼルの胸に……私チビだから直立状態で胸に顔を埋められたわ。
「嫉妬測定器あったらどうなってんかなぁ?」
「きっと針が振り切って故障よ」
「すっごくいい場所があるのよ。式はあそこがいいわね」
「ドレスのデザインを考えないと!」
「真緑様は中途半端な値段の物は似合いませんよ。王族並みの予算でいかないとドレスが負けます」
あれっ……? 何かローゼルがプロポーズして、私がそれを受けたみたいな流れになっているんですが?
再生の神としての私にローゼルが付いて来るって事のはず……。せいぜいカップル成立、お付き合い。何故結婚まで飛躍する!?
えー……でも訂正はいっか。色々いじられるのめんどいもん。放置だ放置。
「あれプロポーズだったのか?」
あー、恋愛イベントに浮かれていない男性陣は冷静だね。
「違うけど、そうなっちゃったねぇ……。あの宝石に宿ってた魂は、ローゼルと雑草の魔力を受けて生まれたものみたいだし。そうだよね? 真緑」
神様……わざと煽ってんのね。よし乗ろう。
「えっと、まず魔石が、雑草が入ってた器……神核に生みたての魔石を残し、その神核にローゼルが入った。ローゼルの魔力と残っていた雑草の魔力が混ざって新しい魂が誕生したって事だから、実質的にローゼルと雑草の子供になる」
「それ何か神話っぽいな」
「たまにあるんだよ。僕らは人間の姿形をしているけど、実質魂だけの存在だからね。いくら交尾をしても生命は宿らない。意図的に新しい魂を作り出そうとしたら、魂の一部を分離させた上で高濃度の魔力を混ぜなきゃならないんだ。神クラスにでもならないとそんな芸当出来ないんだけどね。そういえば神同士いちゃいちゃしてたら子供出来たよーって報告たまにあったなーって、今思い出したよ」
「神様ー! そのいちゃいちゃしてた神様らは男同士でっか!?」
肉ピンク豆よ……お前は “腐” が付く種類の存在なのか?
「男同士と女同士のパターン両方共あったねー」
「よっしゃー! ネタキター!!」
腐界棲息生物決定だな。何かケータイで友だちと話し始めた。超盛り上がってる。
BL本とかあるんかな……。あの月の女神さんへの土産はそれにするかな。
◇◇◇◇◇◇
「ふざけないで下さいましーっ! わたくしがっ、わたくしがこんなに苦労しているのにっ! 何で他の方々はそうもあっさり恋を成就するのですーっ!!」
兆に近い何千億年もの不満をとうとう爆発させたな。縛っていた縄を引きちぎりおった。怒りのオーラを纏い、何か別の物へと変化してってるぞ。
うーん、分析&解析。
「……さげまん苗床って何? 恋の疫病女神って、疫病神と何が違うの?」
「新種が生まれたんじゃないのか?」
フッフッフッ、丁度いい。企んでいたハム縛りの良い機会が廻ってきたぞ。
私は料理用のタコ糸を取り出す。
買ってて良かったタコ糸。あの時お金を使い切る為に買い物しまくってよかった。備えあれば憂いなしって本当だった!
「うさ姿のがより屈辱を与えられると思うから、うさぎになるね」
そうして私がうさ姿になったら、何故かローゼルもうさ姿になりおった。
キラキラしたサラサラの毛質に見事なレッドカラー。太陽光に当たればきっと素晴らしい輝きを見せてくれるだろう。正面顔がネザーランドドワーフに似てるけど、耳も体もずっと大きい。
これ、トリアンタって品種か? でも毛質が少々違うような気がする。私同様、複数の品種の特徴が混ざってるんだろうね。
うむ、まあそれはともかく。
「うさカップル可愛いですー!!」
ええそうです可愛いです。うさぎ可愛い。
紅月さんのうさフィーバーが始まったな。カメラ取り出して大はしゃぎだよ。
「うさぎ如きっ!」
「邪魔なさらないで下さいっ!」
こちらに向けて足を踏み出した嫉妬まみれの乳袋様のお腹に、紅月さんの放った蹴りが命中した。
ビタッと仰向けに床に叩きつけられる乳袋様。おお、乳揺れうざい程に派手だな。
「ありがとうございます紅月さん」
私は乳袋様の側まで行き、魔法【オテテ】でタコ糸をその体に絡めていく。
「手伝おう」
ローゼルにも手伝ってもらってハム縛りは順調。逃亡しかかったらリコちゃんとツバキさんと紅星君が押さえてくれるので楽チン。
あ、さすがに首から上、特に喉は避けてるからね。喉を圧迫したらアカンよ。
「うさカップルの共同作業、可愛いです~」
動画撮影は紅月さん。写真撮影は初代様。一言も交わしていないのに役割分担が出来てるってすごくない?
「そもそも脈が無いって時点で諦めていれば済む話なのよね」
「せやなぁ。紅星様……いや歴代の大宇宙の太陽の神様全員か。見事にフラれてるんやろ? よう飽きもせんで同じのばっかに粘着するなぁ。……あ、執着やったか」
「いや、粘着も間違いではないよ。執着した上で粘着してたからね」
「はい。ほんとうにきもちわるいです。けんのうになにやらさいくがされていて、さいしょはこういをいだくようにゆうどうされてしまうそうです。おかしいときづいたときにはとなりでべったりはりついてウザイじょうたいになっているので、ふりきるのにせいしんをものすごくしょうもうしていたそうです。じぶんはさいしょからじゆうなので、こうしてせんだいたちのいかりを……」
「つまり我が君とは真っ白な状態から始められるのですっ! 美しき純白の雪原の様にっ! 何者にも侵されない神聖な ぐべっ」
うるさいと思ったのか、ローゼルが魔術で作った岩をお腹に落とした。
……今のでも乳揺れるんだ。わざと動かしてない?
「では最後の仕上げです」
このおっぱい肉、ハム縛りせずにはいられません。
「あっ、ちょっ……きゃんっ」
乳袋様が急に色っぽい声を出してきたぞ。おっぱいには反応するんかい。すげーわ。ホントすげーわ。このお色気方面への適応力、実はゲスコーンと相性いいんでない?
◇◇◇◇◇◇
何だかんだでハム縛り完・了!
エロいのかそうでないのかよく分からん姿に仕上がった。
「いやぁ~ん」
師匠が言った通りの、女がイラッと来る「イヤ~ン」来たわ。女だけでなく男連中もイラッと来たみたいたけどな。
「はっ! この気配は……」
これまで床に蹲っているだけだった女性がいきなり起き上がった。声からして多分新月さんだろう。……あれ? 鈴木利子さんに似てませんか?
「お帰りなさいっ! 天使たちっ!」
……何か紅月さんっぽい事を言いながら扉を開いた。
「ありがとうなのだお姉さん! さぁ、自分らも参加するのだ!」
「感謝なんだな、お姉さん! 盛り上がってるみたいなんだな! 更に盛り上げてやるんだな!」
ネズミ系モフモフが現れた。……って、雑草のカーバンクル仲間のレアとペンネじゃないの! お前さんらも来てたんかい。
レアの手には(人間基準で)小さい瓶。ペンネの両手には(人間基準で)小さな紙箱。……カサカサ音からして、虫?
何をするのか察したぞ。これを天使と呼ぶのか……。見た目が超絶可愛いのは同意するがな。
こっちに向かってドタドタ走って来る姿は本当に懐かしい。目当ては乳袋様の顔だろう。私は文字通り身を引いた。
「必殺! 見つけてきた樹液ぶっかけ攻撃なのだ!」
レアが小瓶の蓋を取り、乳袋様の顔ど真ん中に樹液らしき物を落とした。そして取り出した刷毛でまんべんなく塗り広げていく。
まんべんなく……そう、耳の穴まで。実に楽しそうに塗り塗りしている。
「詰めが甘い」
ローゼルがそう言って土系魔術で腕や足、胴体を固定した。
「あぁあぁぁぁ」
あー、暴れてる。確かに詰めが甘いね。
「すっかり忘れていたのだ」
「固定するのを忘れてたんだな。けどこれならもう大丈夫だな。行け! 我が選びし虫さん達よ! 思う存分樹液を召し上がるんだな!」
「いやぁぁああぁあっ!!」
ペンネが乳袋様の顔面に虫を放った。両耳に送るのも忘れていない。
天使っつーか悪魔だろこの所業は。
ネズミ好きお姉さんの方を向くと、頬を赤く染めてうっとりとレアとペンネを見つめている姿が目に入ってきた。
ああ、紅月さんの部下だ。間違いなく紅月さんの同類だ。
「苦しんでもがくんだな。よくもあんな大馬鹿で迷惑なチート野郎を仕込みおって、このさげまん! なんだな」
「この程度で済ませてやるのだ。個人的な嫌悪の感情をよくも宇宙レベルに広げおって、このさげまん! なのだ」
あー、うん。さげまんだねこの人。でも何でか憎みきれんのだ。
さて、色々神様に聞きたい事伝えたい事があったんだけど、乳袋様に色々持って行かれちゃったね。ちょっとお茶でも飲んで落ち着こうかな。
◇◇◇◇◇◇
「ああっ! 雑草がうさぎに戻っているのだ!」
「雑草ー! 会いたかったんだな!」
レアとペンネが私の方に走り寄ってくる。懐かしいけど、そんなに長く懐かしさに浸っていられんのだよ。
でも数十分くらい大丈夫でしょ。神様も急かす様子が無いし。
「まあ、お茶にでもしましょうか」
私がそう言うと、レアとペンネはショックを受けた様に固まった。
「雑草! 喋り方が変わっているのだ!」
「雑草! 言葉使いがレベルアップしたんだな!」
「魔法うさぎとしてのキャラを演出しているだけですが……」
確かに雑草時代は「言葉の使い方がなっとらん!」と文官系の偉い人から文句つけられてたな。すぐに「小動物相手に何を言うんだ」「言葉が通じているだけで十分だろ」とモフモフ好きが擁護してくれたけど。
「キャラ作り!? 雑草の知能が格段に上がっているのだ!」
「さては人間に転生してたんだな! それなら恋も理解出来てるはずなんだな」
あ、このたまにムッと来たりモヤッとしたりするけどまあ許そうな気分。うん、二匹はやっぱり友だちだわ。
報復祭はまだ続く……。




