第29話 只今探査中
やっと主人公が戻ってきました。
私の意識が沈んでいく。落ちるより沈むと表現した方がしっくりくるな。眠りに落ちるのとは違うもの。
これは大宇宙の再生の神として宇宙の状態を知る為に必要な行為。いわば初仕事だ。
沈んだ私の意識は拡大を始める。大宇宙の中心にある混沌と冥府から、死者の宇宙と生者の宇宙双方に向け、水面に広がる波紋の様に私の意識が広がっていく。
現在の状況だけでなく過去の情報も拾いながら広がって、拡散して……。
こんな事になっても私の意識はしっかりしている。不思議と混乱は無い。むしろ拾わなきゃ! ってくらい気合いの方が勝っている。うーん、”神“ ってゆー存在はやっぱりすごいな。
あ! そうだ分析もしなきゃならんね。先ずは宇宙樹の枝だ。
宇宙の枝……霊脈とも呼ばれるこれ、強度は十分でないけれど、大宇宙の冥府の神のおかげでギリギリ安全なレベルで安定している。
ただし魂を運ぶ機能が地球からのルート以外はほぼ停止状態だ。
まあことごとく滅ぼされちゃったからねー。運ぶ魂も少ないだろうし、これは当然の処置か。
うむ? どうやら霊脈の中に亜空間の道が出来てるようだね。こんな芸当が出来るのは ”運命“ と混沌の狂人共くらいだけど、おそらく両方が絡んでいるな。奴らも宇宙崩壊時に動いて色々やってたのか。
この亜空間の隠し通路の所々に休眠状態の魂が転がっている。回復スポット的な物を作って魂集めて保護して……回収忘れてんぞ。
あいつら何か致命的なミスをやりやがったのか?
しゃーない場所をメモしておこう。宇宙樹の枝マップに書き込んで……と。うし、完了。
混沌の狂人共と話をつければ神様の部下でも救助できるっしょ。結構な数なので流石に人手が欲しいわ。
今の宇宙は死んでもいないが生きてもいない。丁度生死の境で時間を止めたような状態だ。そしてこれは本物のミントの機転によるものらしい。
ミントを乗っ取ったメリッサは創造の権能を中途半端にしか扱えていなかった上にとんでもない勘違いをしていた。
本当の宇宙創造は宇宙樹の若返りから始まる。この作業は混沌に棲む狂人共(自称大いなる宇宙の意思)がやってくれるから、創造神が最初に行うのは生物が生息可能な惑星作りだ。
しかしメリッサはその事を知らなかったらしく、宇宙樹ごと消し去ろうとしていた。どうやら頭に思い浮かべればそれが実現すると思い込んでいたらしい。そして宇宙樹は邪魔・不要と結論付けていた。
何そのお花畑思考。どこまでおめでたいんだよ。
ゲスコーンも理解力が低い上に、理想(の外見)の女と宇宙規模の(二人の愛の)世界創造に大変酔っていたらしく、メリッサのやる事のまずさに思い至れなかったようだ。
ああ、うん。まさしく宇宙一の馬鹿ップルだよアンタらは。
宇宙樹が無いとどうなるのか?
魂が運ばれず、生命は永遠に誕生しない。そもそもこの宇宙そのものが存在出来ない。
理としてそのように設定されているのだ。
この「理」を作ったのは混沌の狂人共で、大宇宙クラスと言えど権能所持者にどうこうする権限は与えられていない。
奴らはちゃんと説明してくれたから、代替わりの時きちんと知識の継承が出来ていたかどうかだね。
”月“ はどうだったのかなぁ? 基本賢い奴なんだけど、恋する乙女状態になるとポンコツ化してたからなー。数百万が一になるような下がりっぷりだったからなー。
うん、会ったらこの辺りを題材にお説教しよう。
きっとメリッサは創造の権能で出来る事の限界と、宇宙樹を消す事の大きすぎるデメリットを知らなかったのだな。
無知って怖い。
宇宙樹もなー……強度の強化要請を混沌に出そう。いい加減見直す時期だと思うんだ。
まあともかく、宇宙樹が無くなるのはヤバいとミントは気付いた。そして壊された惑星の残骸を使って物理的に宇宙樹の一部を保護したのだ。そこにメリッサの失敗も重なり、訳の分からん事になって今の状態に落ち着いた。
これが宇宙が地続きになった真相。お陰でどうにか宇宙は存在し続けている。これはミントを褒めてやらんとね。
初代様の説明、かなり違っていたけど仕方ないか。私のように宇宙の記憶を見る事が出来ないと、知る事は不可能なんだし。
そもそも神様ですらミントがメリッサに乗っ取られたって情報を入手出来ていなかったんだから、あの解釈はしゃーない。
ちょっと前に神様が砂時計を使って二つの宇宙というのを説明してくれたっけ。その砂時計に、クシャクシャにした奴をある程度直してみたボコボコの状態の紙きれを入れた感じ? (注:形状的に砂時計が説明しやすいだけで、中の砂の事は考えなくていい)
そんな感じでドーンと大地が続いているんだけど、当然空きスペースが出来ることになる。
大地の厚さは地球の直径よりちょっと多めで、横幅はだいたい太陽から火星の距離くらいだから、たくさんの空きスペースがあるね。
私の住んでいた地球のある天の川銀河もその空きスペースに存在する。こうして見ると、中心と端のほぼ真ん中にあるんだね。やや中心寄りか。
うーん、広い。
惑星を一個人に例えて考えると、地球にとっては月とか金星とか火星とかのご近所さんが居て、太陽系は一つの集落的な?
そういった集落がいくつも在って、それをひとまとめに天の川銀河と呼んでいる。国みたいなもの?
で、その国に相当する銀河がいくつも存在し……。
おう、生命一つなんてちっぽけなものだね。神になってもちっぽけな存在のままだわ。これで調子こいて「俺つえー」やったらこっぱずかしいですわ。
そのこっぱずかしい事をやった馬鹿ップルが、宇宙空間を移動している。
乗り物とか使っていなくて生身。飛行系の魔術に手を加えて、宇宙空間でも活動出来るようにしている。
うーむ、急いでいる感じかな? イチャイチャが抑えめだ。馬になってメリッサが背に乗ってるからお喋りくらいしか出来ないよね。今は生者の宇宙にい……る、ん?
おいこら急いでるんじゃないのか。ゲスコーン、メリッサのおねだりに負けたっぽい。人間姿になって合体しおった。おいおい宇宙空間ですぞ?
ええっ!? 更に合体したまま宇宙空間移動するの!? 流石に推進力が落ちてますぞ?
すっげぇ……。馬鹿の極みだわこいつら。
どうしよう、お仕置きした後の扱いをどうしよう。御月様と同列の、始末したくない面白い馬鹿だわ。存在するだけで周囲に迷惑かける厄介者なのは理解してるのに……処分したくない。
どこかに幽閉するかな……? 神様とも相談して決めるか?
そうだよ、大事な事なんだから一人で決めちゃ駄目だ。そうしよう。そうしよう。
もし幽閉なら、幽閉先は……丁度奴らの息がかかった惑星が三つあるから、その中から選べばいい。
うん、そう。生者の宇宙側で地球以外に無事でなおかつ居住可能という条件を満たす惑星が四つある。どれもうんと端っこ。
この辺りは元々残りやすいんだよね。でも崩壊の余波が他より低めとはいえ、他と比べて生存の可能性が多少あるって程度。何もしない運任せなら生存確率10%とかそのくらいじゃないかな? 神が介入して何とか凌げる程だ。
ええっと、ゲスコーン絡みじゃない星は……ここか。ローゼルたちが隠れてるとこかな? 神や神獣とか種族も豊富だ。
あれ? ここ輪廻の輪が無い。あー! そっかー、注文前だったんだね。代わりに自前で魂の坩堝と輪廻機関を作ったのか。すると冥府への通信も、頑張って通信機作って使う機会を伺っていたのだろうね。
”輪廻の輪“
宇宙中に魂を送り出し、受け入れる為の装置。ついでに惑星の状態を報告する為、通信機能を備えている。更に自我も持つ。
”魂の坩堝と輪廻機関“
魂の坩堝で魂を生み出し、輪廻機関によって惑星内の魂を循環させる、二つで一つの役割をこなす装置。生を終えた魂は魂の坩堝に戻り、新しい魂になる。霊脈を通して惑星外から魂を受け取ったりする機能は無い。自我も持たない。
作成を可能とする者は宇宙全体でも少数。
ふむふむ。しかも魂を輪廻させているのは動物たちくらいなのか。
神と神獣と……あとは神の世話をする人を残して他の魂は方舟の中で眠りについているのね。
……雑草が伝えた ”方舟のレシピ“ は他の世界にも伝わったのか。輪廻の輪のネットワークすごいなー……。
こんな形で救えた命を目にするなんて。時間が取れたらここに来たいな。
あー、嬉しい思いをした。……残るは状況によっちゃ胸クソになりそーなのだな。
先ずはさっきの惑星のご近所。超ご近所。
えっ!? これ地球と火星の両方に生物居るようなものじゃん! しかもどちらにも海があり、緑溢れる大地って感じの。
へー、えー、ローゼルたちはよく今日まで見つからなかったな。
うーん……? 植物ばかりで動物がいない。ここ何なの? 焼け焦げてたりクレーターできてたりな場所もあるね。
えーと、もう少し見て……あん? 何か自然を利用した人工物っぽい場所があるわ。あれ寝台だよね。……もしやここでヤッてるの? その為の場所……?
……次いこー。
お次の惑星は……うわ、正に「俺様が考えた俺様による俺様の為の素晴らしき理想のハーレム」だ。
色違いなだけの、人間形態のゲスコーンそっくりな連中が何人もいる。ああ、あいつ一人じゃないんか。そーか、類は友を呼んだか。
あー、放置。今何かする事無いわ。むしろそこから出るな。後でまとめて始末しちゃる。胸クソ予想当たったわ。
さあラス1だ。この惑星はどうなってる!?
……ゲスコーン共め。ここ一番の胸クソきたわ。
宇宙は今、生と死の境が無くなっている。地球だけは冥府の神が施した処置により、生者と死者の区別がしっかり付いている状態だ。
だがこの惑星にはそういった処置を施せる神が居ない。どうやら殺されてしまったようだ。生命創造の中心となる大地の神と、それを補助する天空の神に太陽の神……こいつらの存在が無い。
月の神は健在のようだけど……あ、あれ? ここって私と同化したミリアムさんの出身地じゃん。
……来よう。ここに来よう。時間が取れたらとかじゃない。絶対に来なきゃ。
ミリアムさんのお陰で干渉しやすいはずだ。色々規定があって、むやみに他所の神やらが手出し出来ないようにしてあるんだよね。それは当然の措置なんだろうけど、今は完全に仇になっている。
ふむ、ここの問題点を整理するか。
先ず一つ目。
生と死の境が無くなった事で、死者の復活がお手軽に実行されている。
ゲームによくある「 ”HP:0“ の状態から復活させる魔術もしくは道具」が本当に存在し、これが一般人の間で躊躇いなく使用されているようだ。「人を殺した? ほら復活したんだから自分無罪」と主張する輩が出たりして社会問題になってるぞ……。
二つ目。
更に金やら権力を持つ連中は「今の老いた肉体を捨て、新しい若く美しい肉体へ移ろう」とかほざいて実行してやがる。「これぞ永遠の命! 永遠の若さ!」なんて言ってるし。
さて、ではその若く美しい肉体を一体どこから調達しているのか?
ここに別の事例が加わる。人間の魂を動物や人形に移植するというものだ。こうして理想の外見を手に入れてるって訳だな。
流石に実行出来る人物は限られているけど、見過ごせん問題だ。
三つ目。
ゲスコーン色に染められた者共が大暴走中。
あいつら、現地時間でざっと五百年も前からこの世界で色々やっていたらしい。
ミリアムさんによると、異世界から勇者召喚とかマジで実行してて、その過程で神が葬られていったそうだ。
そして魔界と呼ばれている地域は、ゲス色に染まれなかった者やゲス共から敵扱いされた種族が住んでいるだけの場所なのだとか。
エルフ族の女性はつるぺた体形で、ドワーフ族の女性は髭が有るタイプだったので、エルフ族とドワーフ族は最初から敵扱いだったそうな。
流石はゲス共。実に欲望に正直だ。
四つ目。
時間の流れがおかしい。
ミリアムさんが覚えている中で最後の大事件は、宇宙崩壊の少し前に起きていた「第八王女誘拐事件」だ。
地球は現在、宇宙崩壊時からざっと二万年以上経っている。多少の差はあれ、こちらもそれなりに時間が経っているはずなのだ。
けれど第八王女は当時の年齢のままだし、彼女以外の人物も一切歳を取っていないらしい。
つまり、あまり時が経っていない。色々過去の事例を検証すると、この世界の時を司る神が何かをしたのだと考えられるが……。
しかしそいつ、どっち側だ? ミリアムさんによると女神らしいし、何やらゲス関係者からしつこくアプローチを受けていたそうだし、外見の特徴を聞いたら金髪系の色で綺麗なストレートヘアらしいし……。ああ、奴らの好みど真ん中じゃん。
落ちたの? それとも無事? ……あまりアテにしない方向で行こう。こいつのせいで私が直接降臨して暴れて解決するという手段が取れん。他の手を考えた方がいいわ。
うーむ、今取れる手を打っておくか。対策をしっかり立てて準備を万端にしてから解決に挑むには、常に情報が入ってくる状態にしておかなきゃならない。
となると現地の誰かに印を付けて、その人物が見る物聞く物から色々推測する形になる。
印を付ける人物も、あまり数が多いと情報が処理しきれん。おそらく三人が限界。
それに誰でもいいって訳じゃない。確実に事件の中心に関わる人物でなきゃ。
今は一人に印を付けよう。二人目以降はその人物の視点を補える者にすればいい。
誰がいいかな~?
……あ! うさちゃん抱えたふわっふわの可愛い女の子見っけ。
む? 何やらミリアムさんが推してる。何と、第八王女ミスティの友だちで恩人とな。
よし、君に決めた!
行け、私の魂の欠片の更にちっさい欠片よ。彼女の魂と私の魂に細い糸を繋ぐのだー!
よし、くっついた。印付けたぞー。
これで意識すればいつでもこの世界の状況を窺える。さて、この辺りで切り上げるか。
引き上げを始めたら、BL本を胸に抱えた銀髪ストレートの美女が慌てている姿が見えた。……あれ、この世界の月の女神か?
「……お待ちしていますっ!」
目に涙を浮かべて悲劇のヒロインモード全開で言いおった。
誰かさんに似てんな。彼女より扱いは楽そうだけど。
うん。必ず助けに行くから。それまで持ちこたえていてね。
「耐えます! 耐えてみせます!」
あ、もう見えなくなった。
何でBL本抱えてたんだろ? もしやBL本のお陰でゲスコーン共の毒牙から逃れたとか……?
まさか、そんな……ありそう。
腐女子への嫌悪って侮れないからなー。いくら外見が好みでも、腐女子は受け付けんかったとかありそうだわ。
あと何であのタイミングで接触してきたん? ……あ! 女の子に印を付けたからか!
あちゃー、彼女以外にも気付いた奴いるかなぁ。月の女神さん頑張ってくれ。
あー、ちょっとミスしちゃったよ。まあいい。後悔先に立たずだ。
死者の宇宙側は特に問題が無い。さすが神様。しっかりした部下をお持ちでいらっしゃる。
へー、惑星丸ごと使ったRPG系の娯楽企画なんて物を始めたんだ。まだ実験と検証の段階の様だけど、これって運命の女神さんに頼まれた件に使えないかな……? 神様に打診してみよう。
さーて、ゲス馬鹿ップルしばいて、ゼウス様救出して、混沌の渦へ行って……地球滅亡もあったな。
うむ、中々のハードスケジュールだ。
次回はひどい方向でさらなる真相解明です。
あー、本当にひどいわー。




