第27話 外はこんな事になっていた③ 御月様捕縛作戦
御月様とルナシリーズは書いてて楽しいです。
◆時間的には主人公が冥府に到着した日の夜◆
昼よりもなお明るい豪華絢爛な場所。そこにある円卓には金髪の美しい少女たちが座っている。その数は十二人。通称・御月様の眷族兼分体のルナシリーズだ。
「目的の場所に続々集まっているわね。今は予定の半分近くだけど」
「明日の午前中には揃う予定よ」
「でもこれ派手すぎない? こっそりとか隠密行動って言葉を知らないのかしら」
「今さら指摘しても無駄でしょ」
「そうね。手遅れだわ」
円卓の中央には360度展開されたマップが表示され、周囲には拡大された画像がマップを囲うように配置されている。
夜とはいえ続々と戦艦が集まっていた。その存在を隠すことなく、むしろデコトラの如く色とりどりの光で派手な自己主張をしながら集まっていた。
こっそりとか隠密行動とかいう言葉は、彼らの頭の中には無いらしい。
「でも肝心のあいつらどこにも居ないわよ」
「予測ルートから外れて、タヌキに寄ったのよね。その後どう?」
「サッパリよ」
長い沈黙が落ちる。大物ぶっていたいのに、この頃どうも計画が上手く運ばないので格好がつかない。
認めたくないが認めざるを得なくなっている。情報戦で負けている、と。
そうなると一先ず「そこには居ないかも」と伝えるべきなのだが、どうにもプライドが誤りを訂正するという行為を邪魔してしまう。
日頃他人を無能と見下していた為か、自身の無能さを認める事が出来ずにいるのだった。
「……ねえ、途中までは上手くいっていたわよね」
「ええ。あのクソうさぎが出て来るまではね」
そんな訳で、何か別の物に責任転嫁をする羽目になる。
「ちょっと待って、紅月が現れた時からよ。大宇宙の月の神の権能があいつに流れてからおかしいのよ!」
「だいたい輝夜様が健在なのに新しく選ぶ? それこそおかしいわ」
「紅月は調子に乗って月の戦士たちを皆殺しにしたし、あいつ許せない」
「会わせていなかったからユニコーンの反応が鈍かったのよね。後継の選抜終わった? 撮影して写真をユニコーンに見せるのよ。こうなったらユニコーンを紅月にぶつけてやるわ」
「あいつの無様な様子を中継してやりましょう」
集めた戦艦たちの事は綺麗サッパリ忘れ去り、別の目的に向かって新しい計画を練り始める。
清々しいまでに無責任の見本であった。
「ちょっと、ルナ1。何いつまでいじけてんのよ」
十二人の中で一人だけそっぽを向いている者がいた。オレガノに痛い目に遭わされて他のルナたちから馬鹿にされまくったルナ1である。
「べっつにー。ただ、さっき足取りがサッパリよって言った人ー」
「何よ」
「それさあ、冥府へのルートに入っちゃったから見つからないんじゃないのー?」
ザワッと空気が変化する。
どうやら彼女たちはその可能性に思い至っていなかったようだ。
「それにー、ユニコーンはずっと宇宙空間でアンアンやってたからー。いつもの練習用の惑星に向かってるんだと思うのー。あれ? 皆知らなかった?」
明らかに馬鹿にしながらルナ1は言葉を続けた。
「ぷっ! 私より優秀なのに気付かなかったの?」
「気付いていたなら報告しなさいよね!」
「やっぱり知らなかった~! えー? だってぇ、私の事ポンコツ呼ばわりしたじゃない? 私より優秀な貴女たちなら気付いてると思ったの~。私、悪くないよ?」
完全に挑発している。
その挑発に乗ったルナ1以外の十一人が椅子から立った時、突如としてそれぞれの後ろに男が現れた。
皆同じ顔で同じ体格で、髪や瞳の色のみが異なっている。
ルナたちの絶叫が辺りに響き、服が引き裂かれる音がそれに続いた。
「どうしてっ!? どうしてユニコーンの分体がここにっ……」
「助けをっ! かっ、輝夜様ぁ!」
◆ネネさん視点◆
「はうっ! 久々に我が君の姿を見る事が出来る!? 嗚呼、何て美しい幼子なのでしょう。さすがは至高の……」
妄想から帰ってきたと思ったら、すぐさま新しい妄想ですか。美辞麗句をこれでもかと並べていますが、紅星君の心には響かないと思いますよ?
あと結構時間が過ぎてしまいましたが、眷族兼分体のルナさんたちからSOSが入っていませんでした?
私の能力では通話を拾うくらいしか出来ないのですが、それでも彼女らがどんな目に遭っていたのかは見当がつきます。
『本体っ! 今ユニコーンの分体にっ……きゃあっ』
『今すぐ来てっこのままだと私たちの純潔がっ……ああっ』
『いやぁぁっ! 助けて輝夜様ぁ~っ!』
実は ”御月様“ は通称名で、当人が名乗っている本当の名は ”輝夜“ です。
異名的な物として受け入れているらしく、放置した結果 ”御月様“ の方が定着してしまいました。
元々は皮肉をたっぷり込めた呼び方だったのですが(今でもそうですけどね)その事に気付けなかったようで……。
今も昔もお花畑思考は絶好調なのです。
ルナたちの悲鳴を「うるさいですわね! わたくしの邪魔をしないで下さいまし!」と怒鳴って片付けて通話拒否状態にして妄想の世界に再び戻りましたよね。
大丈夫ですか? 主に絆的なものが。関係に亀裂が入ったんじゃないですかねー?
「嗚呼、何て美しくも愛らしい笑顔なのでしょう。それに宝石店だなんて……! 我が君、わたくしたちの気持ちは同じだと言いたいのですね!? 心は常にひとつ……!」
宝石店→指輪→プロポーズ……? あー、妄想パワー爆上げ要素きましたか。
しかし今迫っている本当の危機に気付くのは一体いつなのでしょう……。色々と自業自得な感じで破滅フラグを立てているようにしか見えません。
まあ何も言いませんが。
だって紅星君に関しては、どう見ても冥府の神様が仕掛けた罠ですもの。放置しておいた方があちらの作戦の邪魔にならないでしょう。
それにやっぱり見ていて楽しいですし。
「くっ、紅月め! はぁう!? 我が君が一人になる!? ああっ、今なら行けますわ! これは願いを現実にするチャンス! 奇跡が起きたのですね!! 我が君、今そこに参りますっ! わたくしとあなた様、二人の理想郷の為にっ!」
素晴らしい罠ですねー。
桃源郷の幻に浸っていると正常な判断が出来ないんですよね彼女。
紅星君が現れて以来、ずっと桃色の妄想に入り浸りです。それ以前は割とまともにあれこれ細かく指示を出していらしたのに。……本当ですよ?
あらら、行っちゃいました。
向こう、どうなるのでしょうね? どうなっていますかね? 気になりますねー。
これまでは彼女を利用して情報を仕入れていましたから、彼女が居なくなると……。正直ちょっと困っています。どうしましょう?
……うーん、ゲスコーン関係が来そうにないなら、あれを実行しちゃいましょう。
先ずは周囲を確認……あら? この信号は……。
[コチラQA8965-113860-ZNC981-MOMO38。我ガ同志CQ1396-338051-MGE731-KAKI33ヨ。応答願イマス]
[まあ! あなたは雑草ちゃんの居た世界の我が同志!? それに一人ではありませんね!? 二、三、四……]
八個の我が同志の存在を確認しました。皆、消滅してしまったと思っていたのに……。
[今までどうしていたのです?]
やや片言になっているあたり、相当ガタが来ているようです。きっとズタボロ状態ですね。
[宇宙樹ノ枝ノ中ニ亜空間ノ道ガ見ツカリ、ソコニ逃ゲタ同志ガ居タノデス。ソノ者ノ手引キデココニ居ル皆ガ避難出来マシタ。オカゲデ実験体トシテ連行サレズニ済ンダノデスガ、揃ッテガス欠ヲ起コシテシマイ……回復シナガラ少シズツ進ンデ、チョット前ニコノ近クニ辿リ着キマシタ]
[シカシ見ツカリタクナイ御方ガ居タノデ、コレマデ連絡出来ナカッタノデス]
[あらら……。確かに御月様に見つかる訳にはいきませんね。でも安心して下さい。これから冥府に向けてSOSを出します。今、事態はとても良い方向に向かっているのですよ]
でも宇宙樹の枝の中に亜空間の道なんて高等技術、一体誰が……?
いえ、この疑問は後回しです。予定していたSOS信号を発しましょう。
[こちらCQ1396-338051-MGE731-KAKI33。こちらネネ。親分助けて下さい]
”親分“ とは輪廻の輪の元締め的存在の宇宙輪廻の輪です。冥府に居るので無事なはず。
[こちらノワ。新たに親分となった……嘘だ。只今修理中でな、一時的に親分と同化している。で、助けてのSOS信号に間違いは無いか?]
あらあら、MI8931-417829-NYN350-MOMO90ことノワさんったら。口調は固いのにお茶目な所は変わらないのね。
[はい、SOSです。それから八個体の同志も近くに居るようです。そちらの救助もお願いします]
[む、生き延びていたのか!? 全滅と聞いていたが……]
[宇宙樹の枝の中に亜空間の道があり、そこに隠れていたそうです]
[……大いなる宇宙の意思が絡んでいたのかもしれんな。ともかくそちらに人員が向かった。彼らに分かるよう、気配を晒してくれ]
[はい。もう隠れる必要ありませんものね]
ああ~、肩の荷が降りた気分。
[待ッテ、”ネネ“ ッテ? ”ノワ“ ッテ? 何デ型番以外デ呼ビ合ッテルノ?]
ふふっ、どこから話しましょうかしら。久しぶりの仲間とのお喋りです。存分に楽しみましょう。
◆捕縛の時間◆
”ジュエリー・モブ“ と書かれた看板の店から、実に満足そうな表情をした白菜と紅星が出て来た。
珍しい組み合わせだが、これは作戦なのである。
「今度は真緑を連れて来よう。いいのが一杯あったし」
「そうですね。さっそくこのファンシーカラーのダイヤやサファイアをかこうします」
ファンシーカラーのダイヤとは、無色以外の色のダイヤモンドの事である。希少な分、値段は高い。
またサファイアは赤色以外のコランダムの事を指し、青色以外にも様々な色が存在する。
「それで何を作るの?」
「つえとはことなる、まじゅつのほじょをするどうぐです」
「ああ、あれね。戦う気満々?」
白菜の頭には、その道具の形がはっきりと浮かんでいるらしい。
「もちろんです。みずからボコボコにしたいのです」
紅星は見るからに「殺」の字を当てる方のやる気に満ちていた。
「うん、僕も一撃入れたい」
誰を、とは言わないが、二人が思い浮かべるボコりたい相手は同じだった。
◇◇◇◇◇◇
「ひさりぶりのかいものはたのしかったです」
帰宅した紅星は、笑顔で母親である紅月に報告していた。
「ええ、買い物は楽しいものです。さあ紅星、早速取りかかりなさい」
「はい!」
「群青、例の物を」
何やら落ち込んでいる群青が、箱から様々な素材を取り出し、紅星に渡していく。
宝石店では入手出来ない他の素材は、紅月が買いに行っていた。群青はその付き添いだったのだが、扱いが完全に僕である。
「群青、お金足りてる?」
白菜は大体の事情を察していたので気遣って声をかけた。
実は群青は出発前にも同じ目に遭って財布を空にしていたりする。真緑と合流した時に落ち込んでいたのはそういう理由だったのだ。
「……せっかく金おろして来たのにまたもやスッカラカンだぜ。何でこの人自分の財布使わねーの?」
「従者扱いだからじゃない?」
紅月は買い物をする時、大抵誰かを連れて行き、その人物に支払いをさせるのが常であった。
何故かその場にいる者全員が紅月の作り出す雰囲気に飲み込まれ、そのような流れになってしまうのである。
この現象は ”セレブ病“ と名付けられ、もはや周囲は諦めの境地に至りつつあった。
「なあ、白菜さんよぉ……」
「分かってる。いくら使ったの? レシートか領収書ある?」
「ここにあるぜ……」
諦めても泣き寝入りを選ぶわけでは無い。領収書を証拠として報告書と共に提出し、後で偉い人(大抵初代様)に紅月を叱ってもらい、失ったお金を取り戻すのである。
「けどよぉ、月の皆さんや真緑にはちゃんと自分の金使うよな。何が違うの?」
「部下だからじゃない? あと真緑はペット枠だからだと思う。部下には見栄を張り、ペットには尽くす。多分そんな理屈」
群青は頭から床に撃沈した。
紅星は無邪気にアイテム作成を始め、紅月はそれを笑顔で見守っている。
白菜はこの目の前の明と暗をどうするか少し悩み、結局放置する事にした。
◇◇◇◇◇◇
大体一時間近く(あの世時間で)経った頃、紅星が目的の物を完成させた。
それは様々な色の煌めきが混ざった、バレーボールくらいの大きさの球体だった。
ラメ入りゴムボールを物凄くゴージャスにした感じ……と言えば見た目のイメージは伝わるだろうか。使用した素材のせいかキラキラしている感のレベルか違い過ぎるが……。
「さっそく、ためしてきます!」
「あらあら、獲物はちゃんと見つかりますかしら」
子供らしく飛び出して行く紅星と、それを見送る紅月。何も知らなければ母と子の微笑ましい日常の一場面である。
「あれで上手くいくの?」
どことなく不安そうな群青が、隣の白菜に聞いた。
「大丈夫じゃない?」
程なくして女の歓喜の声と悲鳴が聞こえてきた。どちらも同じ人物のものだ。
紅月は眷族召喚で新月、影月、残月を呼び出すと、彼女らを連れ悠々と現場へ向かった。
◇◇◇◇◇◇
「あぶっ、おぶっ」
球体から魔術が連射され、まるで連続パンチを全身に浴びせている様な光景だった。
「紅星、いかがです?」
三人(約一名ほど人の形をしていないが気にしないで欲しい)の眷族を連れ、紅月がのんびりと歩いてくる。
「ははうえ。これはなかなかつかいごこちがよいです。ですが、まとがそろそろたおれそうです。このあとのおためしメニューはあきらめるしかないのでしょうか」
心の底から残念そうな紅星に対し、紅月は慈愛溢れる母の笑顔で、それはそれは鬼畜な提案を口にした。
「磔にして回復魔術をかけましょう。皆さん、お願いしますね」
台詞の後半は後ろに控える三人に向けたものだ。
「こ、紅月、この泥棒猫っ! しかも我が君に何を吹き込んだのですかっ!?」
「あら、御月様。それは誤解ですわ。わたくしは息子に付きまとう変質者退治の作戦を少~し手伝っているだけですのよ」
新月が御月様を抑え込み、影月と残月が磔台の設置にかかった。
「ふんっ!たった三……に、ん? ……しかいないなんてっ、人望が無い証拠ですわねっ!」
御月様は残月をどう数えるが迷ったらしいが、訂正するのも面倒くさかったのか人としてカウントする事にしたらしい。
「まあっ! 今は地球しかまともな魂の育成場所が無いと言いますのに……。全宇宙に生命が溢れていた頃と比べないで下さいませ。補佐役が数人見つかっただけでも十分だと、冥府の神様は仰りましたのよ?」
少し離れた所から事態を見守っていた白菜と群青は、紅月に対して失礼な感想を抱いていた。
ああしてると、本当に身分の高い人っぽく見えるなぁ……と。
「それならば、我が眷族たちを呼んでも構いませんわね!」
御月様も眷族召喚するのかー、と思いながら一同が見守っていたが、待てども待てども誰一人として現れない。
「……え?」
「…………え?」
眷族召喚が出来なかった事に戸惑う御月様。
そしてまさか眷族召喚を失敗するとは思っていなかった紅月たち。
「こ、こ、紅月っ! あなた、わたくしにっ……」
「おかしいですわね。眷族召喚の余地は残しておいたのですが……? 会話は出来ませんの?」
「はっ! ……え? えー……」
指摘されて、久しぶりにルナたちに連絡を取る御月様。しかし返ってきた返答は意味不明の色っぽい喘ぎ声だった。
「ちょっ!? 皆さんっ! ああっ! ルナ1! あなただけは無事でしたのね! 何があったのです!?」
『ユニコーン様の分体とHしまくってますぅ。私はぁ、女体盛りのリクエストが来たのでぇ、盛り付け用の食材を準備中なのでーっす☆ このあと楽しい楽しいパーティーですよぉ?』
心無しかルナ1の口調が変わっているような気がし、御月様はより混乱した。
「な、何故!? 清らかなあなたたちが何故そのような淫らな行為を進んで……!」
『だってぇ、指示してくれないじゃないですかぁ。しかもついに見つかっちゃったし~。一応助けを呼んだんですよ? でも無視したじゃないですかぁ! あ~、ホント純潔を守っていたの馬鹿らしっ! これからもーっと、楽しい事するんですから~しばらく、いえ永遠に声かけないで下さいね?』
「え、えぇえぇえーっ!?」
御月様が叫ぶと同時に磔作業が完了していた。
仕上げとして新月が回復魔術を使い、柔らかく暖かい光が御月様を包んだ。
肉体的ダメージは癒されたが、精神的ダメージはそのままである。実に無情な光景であった。
「完了しました」
言うと同時に新月が磔台からササッと離れると、紅星が笑顔で攻撃を再開した。
「あらあら、まあまあ。眷族のルナシリーズがユニコーン分体に襲われて色ボケ化した……というわけですか」
「盗聴した限り、そんな感じやった。あと忠誠心も下がっとったようやったで」
「清らかな存在で在り続けてきた同志とも呼べる存在が色情魔に堕ち、ショックなのでしょうかね。紅月様、ここで残り全ての力を奪いますか?」
紅月、残月、影月の会話を聞きながら、群青はものすごく真面目な表情をして、言ってはならない事を言ってしまった。
「何か、とたんに弱い者いじめになったな……」
一旦攻撃が止み、新月と影月が二人がかりで御月様に回復魔術をかけている。
確かにこれは弱い者いじめだろう。
しかし誰も止める気は無いのだった。
「いいんだよ。報いをまとめて受けてるんだから」
現れた冥府の神が磔台に近付き、御月様の服の中に何かを入れた。
「いやあぁぁぁぁっ! 虫っ! 虫ぃぃー! いやぁ! 刺したっ! きゃあぁあああ中でっ中でぇえーっ!!」
服の中を這っていた虫が体に穴を空けて侵入し、動き回っているらしい。
「今は子供のイタズラレベルで済ませてあげるんだ。感謝してよ?」
えげつない子供のイタズラである。
「何せ真緑や、その中の ”創造“ や他の大勢の神々もボコりたいだろうからねー。さ、仕上げに入って」
その言葉で群青と残月以外が攻撃体勢に入った。
御月様の左右の眼からたくさんの蛹が現れて次々羽化して飛び立って行くと同時に一斉攻撃が始まった。
「なあ、神様……。あの蝶みたいなの何?」
やたらと美しい羽であった事が逆に恐怖を煽っていた気がして、群青は思わず神様に尋ねてしまった。
「蝶に似た姿をしているけど、蝶じゃないよ。魔力吸って増えて蛹になって羽化して飛び立ったら、後は時間経過で周囲に魔力を散らしながら消えてく。人工的に作ったものだよ。だから心配しなくていいからね?」
「お、おう。そっか、どっかに生息地があるとかじゃねーのか。……虫怖ぇ」
「確かにあんなんうろついとったら気ぃ休まらんわ」
いつの間にか残月が側にいて、ビデオカメラを持って撮影をしていた。
「おまえ何でこっち来たの? てかいつからいたの?」
「ええポジション探しとったらここに辿り着いたねん。群青のええ表情も撮れたわ。コメントも良かったで」
「磔台設置完了後に来てたよ。あ、そろそろ終わったかな?」
「やっぱり神様にはバレるんやなぁ。まあ神様やから仕方ないわぁ」
ふと群青は自分が神候補である事を思い出した。
神と言っても ”武神“ という武術等の戦闘技術を極めた者が至るもので、割とありふれた神だ。
それでも神は神。今はまだ候補だから言い訳がつくが、正式に神になった後も残月の気配が全く分からなかったら少々……いや物凄く格好がつかないのでは? と考えてしまった。
「ちょっと気配探る訓練すっかな……」
そうは言ったものの、残月の姿は既に見えにくくなっていた。
動いていないが、見えないからそこには居ないと思い込ませてしまう彼女の能力だ。
「……ぐ、気合いを入れれば、見える!」
脳筋な群青は感知系の能力の使い方を「気合い」の一言で片付けてしまった。本当は物凄く繊細な作業なのだが……。
その様子にほっこりしながらも、冥府の神は取り出した縄を持って力尽きてぐったりとしている御月様に向かって歩き出した。
次回はローゼル視点の話です。




