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第1話 死んだようですがお花畑は見当たりません

 本編開始です。真面目で苦労性の主人公をよろしく。


 ◆ここはあの世!?◆


 あー、疲れたなー。

 覚えている最後の言葉がこれ。心の呟きであって、口に出してはいなかったと思う。

 ええと、お父さんの葬式を終えて、それから顔色が悪いから休めと言われて、横になって、それから……それから? 

 ん!? 私どうなってる。ここはどこだっ!?


 少しだけ灰色が混じった白い靄が地面を漂っている。

 ……夢でも見てるのかな? でもいつも見ている夢とは感覚が違うし。

 ……もしかして、私、死んだ?


 ……いやいや、お花畑ないし? 三途の川らしきものも見当たらないし?

 仮に死んだにしても死因は何なのよ。突然死の可能性のある持病は持ってな……あー、でも判明していないだけで実はあったとか?

 うーん、否定はできないな。色々と心当たりがあるわ。

 うーわー、でも決まったわけじゃないしー、夢ならその内終わるはずだしー。


 ◇◇◇◇◇◇


「あぁ、見つけました。光っているので助かりましたよ」


 夢……終わらないかな? 終わらないなー……と思っていたら、突然綺麗な女性の声がした。若いけど、落ち着いた感じだ。20代くらいかな?

 振り向くと黒いスーツ姿の、絶世のと言ってもいい程の美女がいた。

 びっくりしていたら、ひょいって持ち上げられたよ。まるで浮いているボールを両手で掬うように。

 ……そう、私は彼女の手のひらに収まるサイズだった!

 あれ?私浮いてたの?そして手のひらサイズだと!? な、何とっ! ……この人は巨人さんなのでしょうか。

 けどよく見ると私、手がないし足もない……。ひ、人の姿ですらないだと!?


「さあ三途の川を渡りましょう」


 ……サンズノカワヲワタリマショウ?


「回収任務を見事果たしましたね真緑(しんりょく)様。お疲れさまと言いたい所ですが、すぐに新しい任務が待っています」


 ……何ノ事デショウカ? テ言ウカ、私ハ死ンダノ?

 オウ、頭ガ混乱しテいルぜ。


「私、死んだ?」


 あ、喋れた。


「はい。詳しい事は三途の川を渡りながら思い出すといいですよ」

「お花畑ないけど?」

「あれは死にかけていて、何とか戻れる人が見る物です。完全に死んだ人は見れませんね」

「そんなオチだったのか……」


 一面のお花畑を見れないなんてガッカリだよ。

 もう一度言おう、ガッカリだ。

 しかし死んだのかー。夢オチはなかったー。

 心残りはうさぎ飼えなかった事かなぁ。経済的問題が解決しなかったからペット飼えなかったんだよね。

 あー、うさちゃん、垂れ耳のうさちゃん。直に愛でたかったよぅ。


「あらあら、うさぎに未練があるようですね」

「ん? 声に出してないのにわかるの? それとも心の声ダダ漏れてた?」

「いいえ、垂れ耳のうさちゃんの姿を取りつつありますよ?」


 何だと!? 愛でたい対象に自分がなってどうする!

 自らの姿を確認しようと見下ろすと、ぼんやり光った状態でうさぎのお手々やボディっぽいのが視界に入った。


「鏡! 鏡はどこですかっ! 鏡がないと自分の姿は見れないですよっ!?」


 なお、今の私はお姉さんの手から少し浮いた状態だ。魂だからかな?


「船の中にありますので」


 お姉さんはぷっと吹き出し、私を抱っこした。私を歩かせてはぐれてはならないので、このまま船着き場へ行くそうだ。

 ……うさちゃんを抱っこしていたいだけじゃないかと思ったけど、ツッコミは控えておいた。


「船って渡し舟? 船賃あったけ? お金ないと舟に乗せてもらえないんじゃ?」

「なお、お金は必要ないですし、小舟でなく大型客船です」


 今、子供の頃から刷り込まれてきた三途の川のイメージが木っ端微塵に砕かれたヨ。


「オオガタキャクセン……確カニ、ソッチノガ効率的……」


 やがて川の音っぽいものが聞こえてきて、人の列が見えてきた。

 おぉう……私が小さくなってただけだった。並んでる人とお姉さんの大きさ同じだよ。巨人説完全に消えたな。


「そろそろ到着時刻ですね」


 何処からか低めのボォーッという汽笛っぽい音が耳に届き、やがて船影らしき物が見えてきた。


 ◇◇◇◇◇◇


 あぁ、色々とあの世イメージ台無し。三途の川ってカラフルなのね。真っ暗じゃないのね。


「はい皆さーん、慌てなくても今並んでいる方は全員乗れますからねー。並んでる順に乗って下さいねー」

 

 ガイドさんがいて、行列の整理係がいるよ。年寄りが多いけど、その他の世代もちらほらいる。

 台車の中に赤ちゃんを入れてるのが見えた。小さな子供はああして回収されるのか。でも何か見覚えあるな。何でだ?


「これはあの世ツアーへの招待?」

「そんな感じですよねー。昔は違ったそうですが」


 どこがどう違ったんだろう。船? それとも川の様子? けれどそれ以上に聞きたい事が出来た。


「ふーん、で、何で私って人型じゃないの?」


 周りの人、みんな人間なのですよ。姿が少しぼんやりして見えるけど、ちゃんと人間の形なのですよ!


「人であることに未練がない方は生前の姿形を失うのですよ。めったにいませんが」

「……確かに、人であることに執着はないね。でもうさぎを愛でたいって思っただけなのに、どうしてこうなる」


 今や完璧なモフモフの毛皮がある。モフモフのお手々がある。

 だが私はモフモフちゃんをモフモフしたいのであって、自らがモフモフちゃんになりたかったわけではないっ!


「うーん、魂の本質がうさぎさんって事ではないでしょうか」

「何それ」

「私にもよく分かりません。まぁ、次の任務の内容を考えますと、うさぎの姿は丁度良いかもしれませんね」


 話している間に船内に移動していた。

 いつの間に!? と思ったけど、会話の為にお姉さんしか見ていなかったのが原因だと気付いた。……間抜けだなぁ、自分。


 ◇◇◇◇◇◇


 やがて船が出港する。ぼんやりした様々なパステルカラーの光の筋が続く、見た目はちっとも水らしくないくせに水の音はきちんとする三途の川は、確かに現世とは違うことを教えてくれる。

 未練はない。40代で人生終えたか。まぁ独身だし、惜しいと思えるものはいくつかの漫画の続きくらいだけど、駄々こねる程じゃないみたいだ。あとは、年金を一円も受け取ってない事くらい? これもまぁいっかと思える。

 ……本当に執着心ないな私!



 ◆姿を確認!◆


 生前は超ド近眼だったけど、死んだら視力良くなってるし、うさぎの体のせいか視界があり得ないくらい広い。

 本来は邪魔な垂れ耳も耳を少し後ろに動かせば視界は十分に確保できた。

 ……あれ? うさぎって超ド近眼じゃなかったっけ? 正面も見え辛かったはず。あれー? 普通に見えてるよー。まるで人間とうさぎのいいとこ取りだね。


「あなたの部屋はここです」


 お姉さんに抱えられて部屋の中へ入る。中は気が遠くなる程の豪華さだった。これ一番お高い部屋なんじゃね? 超お金持ちとかロイヤルファミリーが利用する為の部屋だったりしない?


「……VIP、いや超VIPルーム?」

「あなたはVIPですからね」


 えー、私VIPなの? VIP扱いなの? 何故?

 ……考えるのやめるか。姿を確認するのが先だ。

 お、壁に鏡がかかっているの発見! ……降りたら目的果たせない位置にあるな。


「鏡で自分の姿を見たいです。連れて行っていただけませんか」

「いいですよー。一ヶ所だけうさぎにないパーツがあるので。はい」


 お姉さんはずっと笑顔だ。それはキュートなモフモフにメロメロな人たちの表情と同じだった。

 うさぎが可愛いのは知っている。うさ姿の私はどれ程の可愛いさだ? ドキドキするぅ。


 ◇◇◇◇◇◇


 鏡に映ったうさちゃん。

 実った麦の穂のようなゴールデンカラー。ストンと垂直に垂れた耳。毛並みからして大人うさぎ。

 この大きさは小型種に入る。品種は見た感じホーランドロップでなくミニロップが近いかな。

 でも耳はそれらの品種のスタンダードよりずっと長い。イングリッシュロップとその他のロップイヤー種の中間ってところか。

 けれどそれ以上に気になるものがあった。額に宝石みたいなやつがあるのだ。

 カットした宝石に透明のドーム状の物を被せた感じ。緑色だけど、エメラルドとも翡翠とも違う。この深い色はクロムが含まれたトルマリン? それともディマントイドガーネット? あるいはツァボライト?

 成分を分析して内包物も見ないと判断つかんね。

 どれであれ、こんな大粒はなかった気がするけど……。

 うさぎの瞳と同じサイズって、一体何カラットあるんだよこれ。

 でもまぁひょっとしてこの宝石部分が眼の代わりを果たしていて、だから正面もバッチリ見えるとか?


「額の宝石が赤かったらカーバンクルに間違えられてましたね」

「あー、それっぽい。うん、つまり、私、すごく可愛い」


 言っちゃた、言っちゃた。でもナルシストになれるくらい可愛いんだよっ!


「真緑様、お首にリボンを着けちゃっていいですか?」


 リボンか。着けたらそれは可愛いだろう。しかし首に何かを巻くのは危険を伴うのだよ。


「首にリボンより可憐なお花を耳に着けた方が安全です」


 耳や頭の上なら「お花+リボン」もアリだね。

 私とお姉さんは共にヒートアップして行く。可愛いポーズ研究とか撮影会とか。


 そうして、一通りやって互いに我に返った。


「そういえばお姉さんのお名前は?」


 私たちはわかり合った。もはや友である。そして友ならば名前を訊かねばなるまい。


紅月(こうげつ)と申します。あなたと同じく次代の閻魔大王の候補ですよ」


 閻魔、大、王……?


 その言葉で記憶の蓋が開いた。一気に、大波がドッパ~ンと押し寄せてくる感じで色々と閻魔大王絡みの記憶が甦ってきた。

 初代閻魔大王に連れられて、神様に会ったのだ。そこで……。


 ◇◇◇◇◇◇


「お、おー! 任務思い出したー! 創造神様の魂回収達成ー! いるよ! ここにいますよ! 子宮の位置にてグースカ眠っていますよー! ……これでいいの? 本当にこのまんまでいいの?」

「回収できたのですし、良いでしょう。次の任務は “神様に会いに行く” ですし、今後の事も神様の指示に従うことになるのですから」

「そっかー。神様どこにいるの?」


 確か神様に会いに行くには色々あったはず。うろ覚えなのはアヒルの脳みその限界だと思う。

 何と私の前世はアヒルだった!


 ……え、何で今の姿はうさぎ? 謎すぎるぞ。


「その話は向こうに着いてから、初代閻魔大王様にお聞きください。私はそれらの事について知らされていないのです」


 あ、極秘情報なのね。言われてみれば当然だわ。


 次回、初めての戦闘です。魔術使いますよー。

 ところで……読み続けてみようという方、ブクマをしてくださると嬉しいです。

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