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第18話 到着→記憶の旅

 今回のメインは過去話・雑草編です。


 ◆到着!◆


 次々と現れては入れ替わる、常に変化し続ける色彩。原色とその派生色の組み合わせは見事な美しさなのだけど、ゆ~らりグニャグニャと歪みまくってて……目にはあまり優しくないな。

 もしかしたら、これをうんと薄めたものが三途の川の色彩なのかもしれない。

 ……いやいや待て待て。これがあそこまでの淡いパステルカラーになるか? 何か別の要素が加わってああなると考えた方がいいよ。感覚が違うもん。

 三途の川の色合いは別れとか淋しさとか切なさとか、そっち方向に働いていた気がする。余計な物を捨てて、本当に大切な物だけを抱えて渡る感じだった。最後に残った物こそが魂を支え、魂を構成する中核になるのだろう。

 ここはとにかくごちゃごちゃしている感じ。全ての存在の “素” となり “元” となる物で溢れ返っている。

 つまり、これが混沌?



 混沌に根を張り宇宙に満遍なく枝を広げる宇宙樹が在る。

 宇宙樹の枝こそが霊脈と呼ばれるもの。

 霊脈は魂を運ぶ。

 つまり宇宙樹の枝とは宇宙を巡る血管であり、宇宙を支える骨格でもある。

 霊脈だけは何とか残ったからこそ今があるのだ。

 被験体B-09193の後継者よ。

 大宇宙の再生の神となる者よ。

 我らは待っている。



 何か声が聞こえた。すっごい謎ワードがあったんですけど。

 そして私にしか聞こえていなかったみたい。群青さんは変わらずリヤカーを引いているし、初代様も紅月さんも様子に変化がない。

 被験体? それの後継者? 大宇宙の再生の神?

 ……私って何なのさ。神になるのは構わんけど。

 だって我が子を支えるなら神になっちゃった方が良さそうだもの。何でかな。ずっと一緒だったせいかな。ちゃんと産んで立派に育てて支え続けるんだって、強く思っちゃってる。

 どうしてそう思えるのかな? 質問をすれば神様は答えてくれるのだろうか。それとも自分で答えに辿り着くべきなのか……。


 ◇◇◇◇◇◇


 様々な種類の花を咲かせているサボテン製の門に入った。

 不思議と眩しくない、ただ白いだけの光に私たちは包まれる。ああ、これ転移魔術だわ。

 気付いた時には虹の道が足元に現れていた。

 虹の下は真っ白いふわふわの綿のような雲。周囲は明るくて、上を見ると青空が広がっていた。

 …… “冥府” って名前の割にはファンシーではないですか?

 何か言おうとしたら、奥の方から綺麗な黒い馬がこちらに向かって歩いて来るのが見えた。

 額に螺旋状の模様の入った一本角があるから、あれってユニコーンなのかな。けど何となく、お立ち台の上で扇子振り回して踊っているバブル時代のイケイケギャルの姿が重なったよ。


「ようこそ “冥府” へ。案内致します。こちらへ」


 若い女性の声だった。まあユニコーンでも雌なら大丈夫かな。


「ご苦労」


 初代様がそう言うと、群青さんはリヤカーを引いて馬の後に続いた。やっぱり大丈夫みたいだね。


 ◇◇◇◇◇◇


 素人目にも分かる。この馬のお尻は最高だと。加えてこの艶やかな漆黒の毛並み。馬の美人コンテストがあったら間違いなく優勝候補だ。中身的なボロが出なければ、拝んでしまう程の神々しい美麗馬さん…ん!? 中身?


「将軍様でもあんな綺麗で立派な馬持ってなかったぞ。すげーな」


 群青さんが小さな声で呟いた。将軍様が乗る馬を見た事あるのかな? 生前はどんな職業だったのだろう? 今度聞いてみよう。

 それにしても今、私、このお馬さんの中身について何か記憶が開きそう。会ったことある?

 あの背中……ふわふわネズミ(チンチラ)歌うネズミ(デグー)も乗っていて……。


『くっ、バブル時代のイケイケギャルたる私がアッシー扱いだなんて……!』

『馬のお姉さんに乗れば三匹の速度を合わせる必要がないのだ!』

『持久力に関しても問題解決なんだな!』

『ツバキが一緒なら、喧嘩売ってくるバカが減るし』


 え……? あれ? 友だちと一緒にあの背中に乗っていた?


「……ツバキ?」


 頭に浮かんだ名前を口にしてみる。黒毛美麗馬はピタッと歩みを止めた。


「……雑草? 私の事、分かるの? 覚えてるの?」


 振り返ったその目と “雑草” と呼ばれた事が大きなひと押しとなって、記憶の蓋がポーンと勢いよく飛んでいった。



 ◆雑草の記憶◆


 父はカーバンクルとして活動していたアナウサギ。母は捨てられた垂れ耳のカイウサギ。(カイウサギは家畜化されたアナウサギの事。イエウサギとも呼ぶ)

 偶然、父の巣に逃げ込んだ母は「嫁さん来たー!」と超喜んだ父に求愛され、生きる為に受け入れた。

 生まれた六匹( “羽” とは数えたくない)の子供の中に、一匹だけ垂れ耳で魔力が異常な程に高い個体がいた。それが後の雑草だ。

 雑草は乳離れと共に父によって大地の神・ローゼルに引き会わされた。

 その翌年、父とは別の宝石を与えられ、新たなるカーバンクルとなってローゼルの元で魔術の修行を始める事となる。

 この頃は “ロップ” と呼ばれていて、まだ “雑草” と名乗ってはいない。

 “雑草” と名乗るのは神になる下地が完成したとローゼルに判断された後だ。大地の神の候補だと言われ、名前を新たに考えることになった。


「大地の何処にでも在るもの……大地に根差すもの……草? よし! “雑草” って名乗る!」


 そして雑草は修行の旅に出る。同じカーバンクルであるチンチラのレア、デグーのペンネと仲良くなり、三匹での旅になった。

 襲って来る肉食獣共を蹴散らし、上空から襲って来る猛禽共を魔術で迎撃しながらの武者修行。黒いユニコーンの雌を乗り物として手に入れ、世界をめぐる旅のペースが上がる。

 たまに大好きなローゼルの所に戻ったりしながら雑草は力をつけていった。

 そんなある日、ローゼルは首をひねった。


「おかしいな。 “大地” の権能に変なのがたくさんくっついている……。これは一体何だ?」


 しばらく悩んだ後、ローゼルはあっさり結論を出した。


「相談しに行くか。どうせ新しい神候補として直接会わせる必要もあるんだし」


 こうして雑草はローゼルに連れられて、始まりの星へ赴くことになった。


 ◇◇◇◇◇◇


 始まりの星とは、大宇宙の創造神が最初に創った大地のことを指す。

 今、創造神は眠りについているらしい。ここは現在、大宇宙の太陽の神が管理をしている。


「連絡した時は何もなかった……ってことだよな」


 ローゼルは到着してすぐに違和感を持った。


「迎えとかないの?」


 雑草は垂れた耳をピンッと真横に持ち上げ、クルックルッと耳の向きを変えながらローゼルに聞く。


「あるはずなんだ……おかしい」

「ムッ! 物音!」

「どっちだ?」

「あっち」


 雑草が指した方に、ローゼルは雑草を抱えて向かった。

 途中で目についた、転がっている丸い物体は神核だろうか。

 この始まりの星には大宇宙の太陽の神と下位の神たち、そして住まう事を許された人々が暮らしているはずなのだ。

 しかしこれまで、住民の誰一人としてローゼルたちの前に姿を見せていない。


「生存者は、いるか?」

「いるよ。三人……かな? 内一人が今、危ない」


 元がうさぎである雑草は、優れた聴覚と嗅覚で高い探索能力を持っている。だからローゼルは探索に関しては雑草に任せていた。


「方向は?」

「ずっと奥。途中に残りの二人もいる」


 ここは創造神が眠る場所。人工物でありながら暖かな “生” を感じる不思議な建物の内部。それらが所々壊されていた。

 悲しみの中に怒りが混ざり、自然とローゼルの足が早くなる。

 やがて一つの丸い物体を前に茫然と座り込む、二人の女性の姿が見えてきた。


「マートルとマジョラムか……。何があった?」


 二人は泣いていた。


「太陽神様が……」

「私たちを守って……」


 ローゼルは大宇宙の太陽の神の神核を見下ろす。


「彼を倒す程の奴がこの大宇宙にいたか?」


 ローゼルのその疑問に、二人は少しずつ正気を取り戻していく。


「ユニコーンと……ミントでした。私たちも、何が何だか……」

「ああ……そうよ。危ないわ……。我が師を助けないと……」


 ようやく二人の女は立ち上がろうとした。


「いや、お前たちはその神核を冥府の神に届けろ。後、他の連中もだ。そして危なくなったらすぐに逃げるんだ。いいな?」


 雑草は三人の信頼関係を黙って見守っていた。気を使っていたのでなく、データ解析に集中していたからだ。女たちの自分への熱い眼差しも気にならないくらい集中していた。

 

 二人と別れ、ローゼルに抱えられた状態で進む。匂いで相手のデータが判明していたので、雑草はそれをローゼルに伝えた。


「ユニコーンは早速大宇宙の太陽の権能を使っている。女の方は大宇宙の創造の権能を取り入れたところ。後、まだ死んでいない」

「そうか……」


 雑草の言った通り、創造神は何とか生きていた。ただし全身を穴だらけにされた上でユニコーンに踏みつけられていたが。


「ミント……?どうして……」


 ユニコーンの背に座る女に向けてかけたその言葉は、小さく弱々しかった。


「耳が汚れる。いい加減消えろ」


 ユニコーンの前脚が持ち上がる。雑草は可能な限り魔力を注いだ防壁を創造神の魂にかけた。体の方は、あれはもう駄目だと判断した為だ。

 次いでローゼルが創造神の魂を転移させる。ユニコーンの前脚が創造神の頭部を潰したのは、その直後だった。


「お前たち……!」


 ローゼルにとって創造神は母に等しい存在だと聞かされた。だから雑草は黙ってこの場を去るという選択をしなかったローゼルを非難しない。

 雑草も、あの創造神の悲しみに満ちた瞳が哀れでならなかった。


「あら……ロー、ゼ、ル?」


 ユニコーンに座っている(跨がってはいない。横座りなのだ)女がローゼルの方を向く。


「……お前、本当にミントか?」


 この時のローゼルの言葉は如何様にも取れる。「こんな事をするなんて、信じられない。お前はそんな奴じゃないだろ」という意味にも「ミントに成りすました別人じゃないのか?」という意味にも。


「女は一応生かすが、男は要らん」


 ユニコーンの角に光が宿る。雑草はローゼルに撤退を促し防壁魔術を展開した。

 その判断は正しかった。大宇宙クラスの太陽の権能で強化されたユニコーンの力は、始まりの星を破壊する程だったのだから。


 ◇◇◇◇◇◇


 故郷の惑星に戻り、雑草は考えた。


「マートルとマジョラムは無事か?」

[今、お二人のそれぞれの世界の輪廻の輪に確認します……確認完了。お二人は冥府へと赴いたとのことです]

「そうか……。無事でよかった」


 ローゼルが二人の無事を確認し、各地に異常事態を報せている間、考え込んだ。

 あのユニコーンは、きっとローゼルを殺しに来る。

 あいつの強さは異常だ。とゆーか、技能や権能の構成が不自然だ。下位の技能から上位の技能を経て、うんと極めて権能が派生する。

 しかし奴は上位の技能を持っていながら派生前の下位の技能が無かったり、権能の派生の前提となる技能か見当たらなかったりと色々おかしい。きっと大宇宙の太陽の神様から権能を奪ったように、他の技能や権能もそうして手に入れたのだろう。

 そうなると、ローゼルは大苦戦の末に殺されてしまうだろうし、この星の生物たちも危ない。レアやペンネやツバキが、出会った人々や動物たちが理不尽な形で命を奪われる。


 雑草は念話でレアとペンネに現在地を聞いた。そして二匹共その場を離れるなと釘を刺す。


『何をする気なのだ?』

『ローゼルを守る。一緒に逃げて。可能な限り他の生物たちにも伝えて』


 念話を切ると、ローゼルが正面に来た。


「これから用意していたお前の真の名を解放する」


 それは神になれという意味だ。成る程、いい手かもしれない。

 雑草は承諾の意を込めて頷いた。

 

 ローゼルが真の名を口にしようとしたその時、ユニコーンとあの女が攻撃を仕掛けてきた。

 緑豊かな大地が一撃で焦土と化し、その一帯には生物の屍すら残っていない。

 これは時間なんて無いな、と雑草は判断した。


「ローゼル、神核を入れ替えよう」

「え?」


 雑草はローゼルの神核を奪い、自身が入っていた神核にローゼルの魂を入れる。そしてそれをレアとペンネの元へと転送した。

 上空ではユニコーンと女が何かを探している。そしてローゼルの姿をした雑草を見つけると笑みを浮かべた。

 ああ、やっぱりローゼルを狙ってたんだなと思いつつ、雑草は魔術の構築に入る。

 ローゼルだと思わせなければならない。ローゼルの戦い方は見てきた。格闘技の方は神核に残っている情報頼みだけど、多分魔術中心になるし、どうにかなる。きっとローゼルの情報はそれほど持っていないだろう。なんとなく、勘だけど。


「実力ナンバー3の一人を倒しておけば逆らうと云う愚かな考えを捨てるだろう」

「ええ。私たちの愛の力を見せましょう」


 こいつらウザいが油断は出来ない。

 雑草は気を引き締める。少しでも一秒でも長く時間を稼ぐ為に。


 ◇◇◇◇◇◇


 襲撃は日の出と同時だった。あれから約半日が経ったらしい。太陽が沈みつつあり、景色を黄金色に染めている。

 黄昏時か、と雑草は内心で苦笑していた。

 昼から夜へ、光に照らされた世界から暗闇の世界へ。死者の魂が霊脈を通って冥府へと旅立つ時刻。

 雑草はこの時間が中々お気に入りだった。

 “死” と “生” が交わる、命に対する寂しさと愛しさが混ざるこの瞬間が好きなのだ。

 途中で応援に来ようとした神獣たちが居たが、雑草はそれを断った。代わりに一番魔力が大きい神獣に “方舟のレシピ” を伝えた。

 雑草は神になる途上にあった。何の神かは知らない。ごちゃごちゃくっついていた権能が一つにまとまりつつあり、どんな物になるのかさっぱり分からないからだ。そして出来かけの権能から “方舟のレシピ” なる知識を得た。

 それは生命を次代の宇宙へ繋ぐ為の保管庫。本来ならそれを混沌に託すらしいが、逃げ延びる手段としても使える。

 神獣たちは雑草の願いを聞き入れ、やり遂げてくれたようだ。幾つもの方舟が霊脈を通って去っていくのが分かる。

 霊脈に入ってしまえばもう安全だ。時間稼ぎもここまででいいだろう。

 形になりつつある謎の権能であるが、ちょっと遅かったようだ。これ以上の挽回は望めない。

 途中から元のうさぎの姿を取るようになっていた。格闘技の出番が無いと判断したからだ。ついでに奴らがアホだと確信したからでもあった。現に、まだ雑草の事を「ローゼル」と呼んでいるのだから。


 あー、こんなアホに負けるのか。アホのくせにパワーだけは強大だから、どんなに巧く立ち回ってもジリ貧でしかなかった。悔しい。あー、悔しい。創造神も穴だらけにされて可哀想だったな。


 闇が訪れ、空には月が昇る。雑草にはその月が裏切り者に思えた。


「ああ……月が。力が漲ってきます」


 ユニコーンに乗っている女がそう言っているから、きっと気のせいではない。

 遠のく意識の中で、輪廻の輪の存在を感じた。何かを言っていた気がするが、耳に届いた言葉を理解する前に雑草の命は尽きたのだった。



 ◆念願の……◆


 記憶の旅が終わった。

 ……えー、つまり雑草は我が子の恩人(うさぎ?)で、私自身でもあって……訳分からん。

 まあアヒルの時の行動が、雑草の行動そのまんまってのは事実か。けど私って雑草100%だとは思えんのよ。

 うん、悩むの止め。神様に聞けばよい。

 今、目の前にいるし。


 いつの間にか建物の中っぽい所に移動してた。随分と長くボーッとしてたみたいだね。今は神様に持ち上げられている。

 イケメンだけどもやし。弱そう。喧嘩とか弱そう。てゆーか病院のベッドで一日を過ごすような病弱キャラが似合うひょろひょろのもやし男だ。けどかなり、いや、凄くイケメン。

 このイケメンもやしが大宇宙の冥府の神様である。

 おおっ、これはチャンスかも!?


「育ったねー。もう雑草の頃を少し超えた? いやー、アヒルの時に会って、ようやく気付いたんだよね。白菜の後に、つまり君の前に送った魂には悪い事したねー。女の子ってのは正解だったにしても、君でなきゃ回収出来なかったんだ。よくやってくれたね。それでね……」

「素直に受け取れなのです!!」


 私のドロップキックが神様の顎にヒットする。

 常に展開している防壁魔術? 対象の前に壁があるなら、その壁ごと押し倒せばよいのだ!!

 破る? いえいえ壁は凶器に出来るのですから有効利用しましょうや。

 神様、後ろに倒れる。

 ゴスンッ

 すごい音がしたぞ。盛大に後頭部を打ち付けたようだな!

 フッフッフッ、ついに、念願を果たしたぞー!!


 本末転倒……。この主人公は時々アホである。


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