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第17話 神様これまでを振り返る


 ◆この恨みはとても深い◆


 この宇宙は “正者の宇宙” と “死者の宇宙” に分かれている。砂時計を思い浮かべて欲しい。真ん中のくびれている部分が冥府への入り口に当たると思ってくれ。

 冥府は全ての銀河の、あらゆる惑星からやって来る死者の魂を迎え入れて死者の宇宙へ送り、そして死者の宇宙から生者の宇宙へ新しい魂を送り出す機関だ。

 “冥府” とは “冥界” とか “死者の住む世界” なのではなく、どちらかといえば政府機関に近い物と考えていい。

 そしてこの冥府を含めた死者の宇宙を管理する神が ”大宇宙の冥府の神“ だ。

 なお、“大宇宙の冥府の神” を “冥府の神” と縮めて呼んでも問題がない。たった一人なのだから。

 各惑星に居る “死を司る神” は “大宇宙の冥府の神” との交流窓口担当者の立場にあり、また宇宙全体をどうこうする力を持っていない。人々がどう呼ぼうと、神々やその関係者たちにとって “冥府の神” は宇宙でたった一人なのだ。

 そう、たった一人。


 ◇◇◇◇◇◇


「はぁ……しんどい」


 冥府の神である僕は、たった一人で二つの宇宙を支えている。

 本来ならここまでする必要はない。 “生者の宇宙” も “死者の宇宙” もそれぞれ自然に維持され、支える必要が無いのだから。死者の宇宙全体の監視と部下たちへの指導で良いのだ。

 しかし、お花畑思考で愚かな大馬鹿者が仕組んだ宇宙崩壊計画のせいで、大宇宙を巡る霊脈(宇宙樹の枝)の強度か落ちて宇宙全土を支えられなくなってしまった。魂を送る機能は限定的ながらも使用可能なのが救いではある。

 実行犯も許さないが、発案者も許す気はない。どうせあの馬鹿女は「自分は何もしていない」と言い逃れをするだろう。


「一撃じゃ終わらせないからね」


 思いついた罰を書いたノートを取り出す。これは八冊目だ。恨み骨髄と云う奴である。


「ああ、やっぱりどれも実行したいなー。どの順番でやると綺麗にまとまるかなー」


 お仕置き構想に入れるのは、先代の大宇宙の月の神の位置を(大まかであるとはいえ)常に把握出来るようになったからだ。

 紅月に(ちょっと修正した)大宇宙の月の神としての権能を与えた後、徐々に先代の大宇宙の月の神は力を失っていった。

 ほんの少しずつだったが「塵も積もれば山となる」という言葉の通り、時間と共に効力が増し、今では紅月の方が優勢である。おかげで一番厄介な隠蔽の性能が、自分の探知能力を下回るようになった。

 紅月には本当に感謝している。



 ◆紅月と紅星の事◆


 紅月の魂を見つけたのは偶然だった。当時、彼女は死者の河原で息子を探し続けていたのだ。

 あの世スタッフが説得しても動かなかったが、三代目閻魔大王・橙道が自ら出向いて話をすると、彼女は素直に三途の川を渡った。

 器を得て、魔術を習い、そして勇ましくも息子の救出に向かったのである。


 今のあの世は国や宗教で区分しており、手続きをしないと交流が出来ない。ただし例外もある。

 日本人の魂だけは、かつての被害国が要求する人物の魂を、彼らに引き渡せることになっているのだ。これは様々な取り引きの結果であって、特定の時代に生きた人物のみが対象になる。

 にも関わらず、たまに無差別に日本人の魂を回収して好き勝手に拷問する輩が後を絶たない。紅月の息子はこれに巻き込まれたのだ。


 で、紅月は無事に息子を助け出したわけだが、もう文句無しの神候補であることを証明してしまった。そのまま息子と一緒に初代閻魔大王に連れられ、僕(冥府の神)の元へ案内される。

 大宇宙の月の神と大宇宙の太陽の神に相応しい魂が揃って目の前に現れ、僕は喜んだ。


 ◇◇◇◇◇◇


 さて、紅月はただ権能を受け取るだけで終われたのだが、息子の方はそうもいかなかった。大宇宙の太陽の神の権能の他に、先代の魂もあったのだ。

 彼は創造神を守りきれなかった後悔で、消えるに消えられず、神核に存在が残っていた。

 僕も消えろとは言えず、創造神の魂が回収された時に会話くらいさせてやりたいと思っていたので特に手を付けずに保管してきた。

 かくして、先代の大宇宙の太陽の神の魂の扱いは紅月の息子に委ねられたのだった。(丸投げしたとも言える)


 この紅月の息子は、彼女が親バカになる理由がよく分かる人物だった。神童とか天才とか呼ばれる類いの者で、更に人柄もよし。生前はそこそこ整った顔立ち程度だったが、死後の、魂を百%反映した姿は、まさしく絶世の美男であった。

 完璧なイケメンという奴である。イケメンの中のイケメンである。恋愛ゲームでは攻略難度は最高かつ頂点であろう。生前ですら出来すぎの天才だったのに、今やもう直視が辛い程の完璧超人である。

 うん、つい目を逸らして遠くを見つめてしまったよ。だって、女の子から黄色い方の「キャーッ」が出る未来が見えたんだもの……。


 そんな彼は先代の魂と同化する事を選んだ。暗殺のショックと死後での事件、思うところがあって自分を変えたいのだと彼は言った。

 こうして一歳児の姿になった彼に、僕は “紅星こうせい” と名付けた。そして母親である紅月と共に神としての教育をしっかりみっちり施すことにしたのだ。

 もうあんな苦労は嫌だからね。権能を受け取ったら「ハイ、頑張って!」なやり方は止めにしなきゃ。


 ◇◇◇◇◇◇


 紅月と紅星の親子に神教育を始めて数日後、事件が起きた。先代の大宇宙の月の神、通称 “御月様” がいきなり現れたのだ。

 僕は探知出来なかった。紅月は何かを感じたようだったが、それがどういったものかまでは判別出来なかったらしい。力を失い始めて間もない頃の事とはいえ、さすがの隠密能力だ。


「我が君! ようやく復っ……」


 喋ったとたんに紅月がその顔面に拳を叩き込み、紅星の誘拐は未然に防がれた。


「誰が、我が君ですか。図々しいんですよ。消滅して下さい」


 感動の再会・愛の物語再び、なんて演出をしなければ紅星をさらって逃げられただろうに。何してんの。母親が立ちはだかる隙を与えちゃってるよ。

 相変わらずそこのところ間抜けだよね。まあ、紅月よくやった! って心境ではあるけど。


「くっ……この、泥棒がっ! 我が君、必ずや助け出します!」


 セリフの前半は憎々しく、後半は凛々しく可憐な声。「泥棒」呼ばわりとか色々と指摘したい事が山盛りなのだけど、それらの事を突っ込む間もなく御月様は消えてしまった。

 一応、紅月が次代の大宇宙の月の神で、自身から力を奪っている存在なのだと理解はしているみたいだね。それなりに頭が回る切れ者なのに、いつもいつも行動が残念だ。どうしてああなんだろう?

 やっぱり恋愛至上主義に走ると知能って低下するものなの?


「ははうえ、つぎにあったときは、せいしんにきくこうげきあいてむをつかいましょう」


 愛しの君は辛辣だった。二つの人格は様々な意味で、いい具合に混ざりあったようだ。


「そうですね。何がいいでしょうか……噂に聞いた “バナナの皮” が実際どんな物なのか、今度聞いてみましょう」


 親子で敵認定だよ。よりにもよって凶悪さで有名な “バナナの皮” に目を付けてるし。うん、素晴らしいね二人共!


 それからすぐに御月様対策として、紅星を誘拐出来ないように色々小細工をさせてもらった。

 紅星の行動範囲が限定され、僕の側を離れられなくなったけど、当人は嫌がらなかった。むしろ安心するので自分がこの権能を使いこなせるまでこのままでいたいと言ってきた。

 そして現在に至る。



 ◆追記◆


 紅月と紅星は権能を受け取ったが、神になった訳ではない。

 神になるには権能を受け取った後、まずは権能を魂に馴染ませねばならない。完全に馴染んだ状態が “神の卵” と呼ばれているものだ。

 卵の状態から更に権能の扱いを極めていき、極みに到達した後にようやく正式に神になるのである。

 紅月と紅星は、まだ第一段階の “権能を魂に馴染ませる” 段階であるため、神の卵にすらなれていない。更に二人はそれぞれの現所持者から完全に権能を百%奪い取らない限り “神の卵” になれないのである。



 ◆真緑の事◆


 初めて真緑と会ったのは、彼女がアヒルだった頃だ。

 吹きかけた。吹きかけた理由は山ほどあった。

 失われたはずの “再生” の権能に、神はおろか星々やそこの生命たちの魂を抱え込んでなお安定している事実、ローゼルが溺愛していたカーバンクルから神の卵になったあの雑草(ハガキが来ていたので知っている)の額に付いていた宝石にそっくりな物が魂に同化している現実。

 何だこの奇跡は!? と思っていたら、自分にしか分からない形で手紙が渡された。目の前のアヒルは意識していないから、別の存在が仕組んだのだろう。

 誰からかと思ったら、地球の輪廻の輪だった。


『やっと完成したので使って下さい。(中略)これで勝てなかったら “詰み” です』


 どこに隠れているのか知らないが、やはりまともに活動出来ているようだ。居場所を知らせてこないのは、その方が都合が良いからなのだろう。

 こちらも外部に渡ってしまうであろう情報には嘘を混ぜて、本来の目的を隠す事にした。

 ふっふっふっ。 “大宇宙の創造神復活計画” は隠しようがないので、 “大宇宙の再生の神復活計画” の隠れ蓑にさせてもらったんだ。いやー、上手くいったね!


 ◇◇◇◇◇◇


 実際、真緑はよくやってくれた。回収だけでも十分なのに、再び雑草の姿に戻ってくれたのだから。(もしアヒルだった頃の記憶の戻りが遅かったり魔術の使用法を思い出せずにいた場合に備えて用意していたスパルタ修行メニューがあったんだけど、不要だったねー)

 額に宝石が現れたという事は、魂が完成したという証……と見ていいよね? パワーアップした新生・雑草だ。

 勝てる! と喜んでいたら、なんとローゼルたちからの交信が来た。


 ローゼル、ラベンダー、タイム、セイボリーの大地の神四人は、何とか生き残った他の神とその他の生物と共に逃げ延びていた。ゲスコーンだけでなく、御月様(バカ女)に見つからないように必死だったらしい。

 情報を交換していたら、真緑に関してとんでもない事が判明した。ローゼルは雑草に神としての名を用意しており、その名を開放しようとした瞬間に襲撃され、効果がどう出たのか分からないとのこと。


「……ローゼル、君どんな名前を付けてたの?」


 ゲスコーンとミントを相手に物凄い粘りを見せた雑草だが、その強さの理由が判った。

 神の卵から神へ。その移行段階にあったからだ。結局、神の卵のまま死んで魂となったので、神になれていない。

 うん。ものすごーく納得した。 “再生の神” として完成したら、どれだけ強いんだろあの子……。


「 “緑源” です」


 紙に字を書いて見せてくれた。すごい、一字だけ被ってる。でも “真” と “源” では意味が違ってくるね。


「……ごめん、 “真緑” って名付けちゃった」


 こっちも紙に字を書き、それを見せる。ローゼルは画面の向こうで「あー」とか言ってた。

 うん、知らなかったんだよ。ごめんよ。


「まだ神の卵の段階だから、どうにかなるよ。本人と相談するね」


 それしか言えない。もっと早くに交信出来ていれば……。はー、後悔先に立たず。


 ◇◇◇◇◇◇


 そんな事があって数日が経ち、ついさっき真緑たちが到着した。

 雑草に縁のあった黒いユニコーン(メス)に案内を任せたのは、真緑に雑草としての記憶を思い出して欲しいから。

 そう言えば輪廻の輪が新しく見つかったんだっけ。修繕の準備を部下にさせなきゃ。

 アヒルの羽毛も良かったけど、うさぎの毛の手触りも楽しみだな。

 後から思えば完全に油断していた。色々面倒な事を押し付けるんだから、気の強い彼女は怒って何らかの行動に出るのは予測出来たはずなんだよね。

 それらを忘れさせたモフモフパワー恐るべし。バタリ。


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