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第13話 舞台裏・3


 ゼウスは先程まで案内されていた、色とりどりの様々な種類の花が咲く庭園の事を思い返していた。

 花びらは一向に枯れず散らず、蕾はいつになっても咲かずに閉じたまま。確かに綺麗なのだが、整い過ぎていてどこか作り物の様な印象を受けた。

 自分のいた神話エリアの草花も枯れる事はないのだが、どこか何かが決定的に違う気がしてならない。

 どうにもそこが気になったので質問をしてみると、「一番美しい状態で時を止めているのです」と返ってきた。


「ユニコーン様の力で時を止め、マートルとマジョラムがその術を維持しています。マートルの祈りをマジョラムの歌で拡散させ、この天空の城全域を覆っているのです」


 カモミールが説明をしてくれる。成る程、死者の宇宙との違い……と納得しかけたものの、やはりそれも違う気がした。

 これ以上考えても仕方なさそうなので、別の話題に移すことにする。


「すると、彼女らはそれなりの力を持っているのだね?」


 ゼウスはなるべく自然な流れで質問をするようにしていた。何せ、場所によっては本当に盗聴されているのだから。

 そして以前の様に混乱させて泣かせたくもなかった。あれからそんな事にはなっていないが、常に話す時は慎重に……を心掛けている。


「はい。……ですが、もしかしたらバジルの方が魔力量では上かもしれません」

「そのバジルちゃんは今何処にいるのだろうね」


 バジルの名を記憶の中から引き出す。創造神の直弟子の一人で、最も魔力が高かった大地の女神の名だ。


「たまに飛び出して行っちゃうんですよ。原因は皆が彼女を馬鹿にするからなんですけど。あ」


 ローズマリーが戻ってきた。いつも二人が側にいる訳ではなく、たまに一定時間どちらかが側を離れる。ただ、両方いない事はない。


「ただいま戻りました。ユニコーン様とミント様は出かけたそうですよ」


 最初は外見以外違いが少なかった二人だが、この頃は少しずつ変わってきていた。ローズマリーは面倒見の良さが前面に出てきている。


「そうなのか。今、バジルという子を話題にしていたのだが、彼女は何処にいるのかな?」

「それとなく聞いてみたら、いつものように研究塔へ向かったそうです」

「研究塔とは、輪廻の輪を研究する施設です」


 カモミールが補足説明をしてくれる。基本おとなしいのだが、必要な場面だと判断するば誰であろうと怖れず意見を口にする大胆さを持っていた。


「……ほう。輪廻の輪……ね。成果は出ているのかな?」


 輪廻の輪は地球以外、全て見事に全滅していると聞いた。再び作るにも資料だけでは心許なく、また現在作れるのは大宇宙の冥府の神のみと言われている。

 しかも今彼は手が回らず着手できない状態であった。輪廻の輪は創造後の世界に必要不可欠なので、色々と頭が痛い。

 そもそもの原因はここの親玉である。各世界を壊すついでに輪廻の輪も壊していた。

 研究しているという事は、輪廻の輪の必要性に気付いたという事であろうか? だとすると「バカだろ。ざまーみろ」な気分である。


「アニスとチコリが責任者なんですけど……そういえばあそこ、何か成果を出していた?」


 カモミールの言葉にゼウスは呆れた。


「聞いてないわね。ただ、バジルがついでに手伝ってて、そんな時だけレポートが送られてくるのよ。明らかにアニスとチコリはサボっているわね」


 何その怠け者。クビにしないの? 成果のない部署って他所から色々言われない? ここの連中どうなってるの、とゼウスは心の中で天を仰いだ。


「そういえば、君たちのここでの役割は何なのかな」


 今まで聞いていなかったので、ついでに聞こうと思った。


「私は結界の定期点検ですね」


 カモミールが現時点でまともに扱える魔術が防御系なのはそういう理由だったようだ。


「私は各地下都市や施設からの報告書の最終確認です。一日の内数時間だけ書類仕事をしています」


 記憶の中の資料によると、ローズマリーは統治能力に長けていたそうだから、少々勿体ないかもしれない。しかし裏切りを警戒するなら正しい処置とも言える。

 ふと、本当にここを仕切っているのは誰なのだろうと思った。どう考えてもミントには無理だし、多少頭は回っても、あのユニコーンがここまで考えるだろうか?

 そうなると残るは彼女だが……。やはりまだまだ情報が足りないなとゼウスは思った。


「じゃあ二人揃ったし、俺の力で外を見ようか」

「はいっ!」


 女の子に甘いゼウス様を演出しつつ、外の様子も知る事が出来る。ゼウスにとっては一石二鳥の手段で、カモミールとローズマリーには楽しい娯楽であった。


 ◇◇◇◇◇◇


 今回見るのは死者の荒野と呼ばれる場所だ。とてつもなく広いので、ゼウスは知っているポイントを指定してみた。

 焼きイモを掲げたサルの石像が出る。


「え、おサルさん焼きイモを持ってる」

「ぷっ、表情が……。これ、ドヤ顔って奴?」

「はっはっはっ。印象に残ってた奴を思い浮かべたらこいつになったよ。さて、ここから動かしてみよう」


 印象に残ると云う点ではもう一つあったのだが、あれは完全にギャグネタな上、反応が良い方と悪い方のどちらになるか予測できなかったのでやめておいた。

 画像が移動し、何か塔らしき物が映り込んだ。


「あ、あれを拡大して下さい。多分さっき話していた研究塔です」


 カモミールに言われた場所を拡大していく。画像の中の塔が大きくなるにつれ、周囲の物もはっきりしてきた。


「あら、この間のモフモフちゃんと……猫?」


 ローズマリーが発見したのは以前にも見た小動物だったが、色々と仲間が増えている。


「小鳥と……テディベア? リヤカー?」


 テディベアが引くリヤカーに乗った小動物たち。実にシュールな光景であった。


「あの文鳥は初代だな。すると、他は候補者か。ああ、大宇宙の冥府の神の元へ行く途中なのだな。あの姿なのは……何かお題でも出されたとかか?」


 実はゼウスは初代閻魔大王と面識があり、彼が文鳥の姿を登録しているのを知っていたのだった。


「可愛いっ」


 珍しくローズマリーがはしゃいでいる。もしかしたらモフモフしたかわいい物が好きなのかもしれない。


「ゼウス様、これ、写真とか撮れませんか?」


 カモミールも同意するとばかりにおねだりをしてきた。


「……すまない。映すだけなんだ」


 大変心苦しいが、今回も前回同様そんなステキ機能を盛り込めなかった。別の魔術を使えばいいと気付いたのだが、何と神話エリアから出てしまったせいか使えなかったのだ。

 無念……! とゼウスは内心項垂れた。

 それぞれ残念に思いながら見守っていると、塔から足(太ももから下)がニョキッと生えた。女の子の足が、わさっと、たくさん、無数に、である。


「……ああいう機能なのかね?」


 さすがのゼウスもびびったらしい。心の中では「キショーイ!キモーイ!」と叫んでいた。


「いいえ……確か、移動時はキャタピラが出たはず……です」


 カモミールも「キショイ、キモい」と思ったのか、気まずそうに解説をする。しかしローズマリーはそこそこ冷静だった。


「あ、走ってるつもりで足それぞれが動きバラバラなものだから走れてない」


 そして塔は傾いた。リヤカーに乗った小動物たちも足を止めて見守っている。

 ついに倒れた塔のてっぺんから、車輪のような物が飛び出た。


「輪廻の輪ではないか!」

「あれ、貴重なサンプルですよ!? ちょ、これ、まずいんじゃ……」

「アニスとチコリは何をしてるの!? さすがに責任問題になるわっ」


 輪廻の輪はリヤカーの前で止まった。さらに、緑の髪の骸骨が輪廻の輪から姿を現す。


「……あれ? あの髪の色、髪型、バジルと同じ?」

「骨格から予測される元の肉体の体格……バジルと同じくらい?」

「え? あれがさっきの話に出た子!?」


 ゼウスたちにとっても衝撃の映像であった。

 あれはバジルなのか? 混乱する三人を他所に、状況は動き続ける。

 塔から腕が生え、塔は直立に成功。足はいつの間にか消えていた。


「……あんな機能だったかしら」


 カモミールがローズマリーの方を向き、恐る恐る尋ねる。


「違ったと思うわ……あ、アニスとチコリが出て来たわね」

「露出は高めだが、大事な所は一応隠れているな。これくらいなら……」


 ビームがアニスとチコリを塔ごと貫く。


「……とんでもない威力だな、あのビーム」


 以前も思ったことだが、あのビームは特殊な効果が付いている。防御無視とか、あるいは最大HPの何%のダメージを与えるとか、そういった奴だ。この映像だけでは決めつけられないが。

 ともあれ、塔は破壊されて周囲には色々な物が散乱していた。何だか大人の玩具っぽく見えるのだが、彼女らは本当に日頃何をしているのだろう。

 しかしそれはそれとして、ゼウスはもっと気になる事があった。


「しかし……ノーパンだったか。一体どうしてあんな格好をする?」


 ここを逃すとこの事に関してしばらく質問できなさそうなので、聞こうと決めて質問をしてみた。


「いくら恥じらいでパワーアップすると言われても、私たちには出来ませんでした……」


 ゼウスは心の中で盛大に吹いた。


「下着がないのは、ちょっと……いえ、かなり抵抗が……」


 カモミールとローズマリーはバジルと三人で “ノーマルミニスカ派” を名乗っていたと説明をする。


「恥じらいでパワーアップって、どこのおバカなお色気系漫画だ……」


 あまりのおバカさにゼウスは両手を床について項垂れた。

 漫画なら「んなアホな」で済むのだが、現実にやられると何処から突っ込めばいいのかとか、とにかくものすごく困ってしまう。


「あの……ゼウス様、あり得るのですか?」

「ユニコーン様は堂々とおっしゃったので、皆本気にしてしまったんです……」

「どんなに思い込みが強くても限界があるだろう……。恥じらいは行動を阻害するだけだと思うぞ」


 ゼウスはきっぱりと否定した。彼は年頃の女性の裸を見るのは大好きだが、その為だけに大勢の女の子を騙すと云う思考はない。

 パンチラも谷間チラリも偶然だからこそロマンがあるのだ。エロとロマンは一体であるべきだ! と心の中で叫んだ。


「そう言えば、俺をさらってきた目的は権能目当てだったかね?」

「はい。……私たちでゼウス様をメロメロにして、骨抜きになった所でユニコーン様がゼウス様を取り込む予定なのです」

「ユニコーン様は隙が出来れば自分と同調させられると……。何でも女好きのゼウス様なら百%成功すると自信たっぷりなのです」


 二人はもうすっかりゼウスの味方なのでホイホイ裏事情を話してくれる。


「見くびられたものよ。しかしまぁ、油断してくれないと困るしな」


 ゼウスはカモミールとローズマリーを抱き寄せる。いつものイチャイチャアピール体勢だ。そしてこれは秘密の会話をするのに丁度良かった。


「君たちの状態の解析が終わった。記憶も権能も魔力も全て封じられているのだが、それを解く為には他人がむやみに手を出してはならないようだ。例えるなら、トラップ付きの鍵だな。特定の鍵でないと開けられず、それ以外の手段だと爆発してしまう。そんな感じだ。……この間は本当にすまなかった。それで、心当たりはないかね? 例えば絶対に近寄るなと言われている場所とか」


 カモミールとローズマリーは思い付くままを口にしていった。

 ゼウスは考える。どうやってその二人に近付くか。いつ実行するのか。


 ◇◇◇◇◇◇


 マートルは祈る。あの垂れ耳のうさちゃんの姿を思い浮かべながら。

 マジョラムは歌う。あの垂れ耳のうさちゃんへの思いを乗せて。

 祈りと歌声が混じり合い、魔術で編み込まれた文字の様な模様が聖堂の中を流れ、やがてその中の一部が蓮の花の蕾に似た植物の像の中に消えていった。


「我が師を救った神の卵に恩返しを」


 マートルとマジョラムの声が重なる。一言一句、全く同じ言葉だった。

 あれから二人のやる気がすごい。いつもの作業も気合いの入り方が違う。ついでにこの言葉はあの女神へ向けた宣告でもあった。

 オレガノは内心の呆れと苦笑を抑えつつ、二人に報告をする。


「予定通り研究塔を彼らの通り道に移動させ、接触に成功。その結果バジルは呪縛から逃れました」

「永かったですね。ここからは、この身がどうなろうと構いません」


 マートルの微笑みの中には決意の炎が灯っていた。


「後は可能な限り、望んでいる情報を渡し続けるだけね」


 マジョラムは喜びを隠さない。


「本当のミントも、私たちを封じているアレも、ここにあります。当時、バジルだけが抵抗に成功していて、どれだけ安堵したか」


 マートルはいつも祈りを捧げている、蓮の花の蕾に似た植物の像を見ながら言った。

 三人の表情は喜びに満ちていたのだが、オレガノだけがすぐに様子を変えてしまう。


「……あの、それでですね、その、バジルの姿が……」

「オレガノ? どうしたのよ、珍しく歯切れが悪いじゃない」

「どうしたのです? 狙い通りに出会いを果たし、バジルはあちらに保護されたのですよね?」

「そうなんですけどー、えー……骨だけの姿になっていました。髪の毛はちゃんとあるんですけどねぇ……。骨でしたね~どこをどう見ても骨だったわ~……何で骨になるのよ」


 オレガノの報告に、二人はすぐには言葉が出なかった。


「……さすがはバジル」

「危機に対して常に斜め上の行動と結果……相変わらずですね」


 マジョラムがようやく声を出し、マートルが続けて微妙な評価を口にした。


「それで、研究塔の事をすぐに伝えますか?」


 口調を丁寧な物に戻し、オレガノが二人に指示を仰ぐ。流石にこの緊急事態をトップの二人に伝えないわけにはいかないのだ。


「今どこに居るかですね……。いつものように気まぐれで出かけましたから、帰りも気まぐれで決めるでしょうし……」

「一応鳴らしてみたら? 愛を紡ぐのに夢中だったら出ないでしょうし、緊急事態ではあるのだから、邪魔をした怒りを買っても矛先の回避は可能だと思うわ」


 オレガノは言われた通りに通信機を取り出し、使った。


「……オレガノです。研究塔か破壊されました。これから調査に向かいます」


 オレガノは通信を切った。


「留守電になっていました。伝言通り私は調査に向かいます。留守の間のマニュアルは部下に伝えてありますので、この後の指揮はお二人のどちらかがとって下さい。研究塔の破壊はソレルたちも耳にしましたし、予想通り勝手に出撃準備に入りました。アンジェリカにはソレルの穴を埋める為に本部に待機するようにと言っておきましたので、彼女に関しては大丈夫だと思います」


 ソレルの勝手な行動に、マートルもマジョラムも額を押さえた。

 三人共、彼女は何処まで残念な子に堕ちるのだろうと嘆く。

 以前はあそこまでではなかった。やはりミント同様、別人が入ってしまったせいだろうと自分を納得させる。


「うーん……まぁ、どうにかなるでしょう。オレガノ、行ってらっしゃい」

「今まで護衛をありがとう」


 二人に見送られながら、オレガノは聖堂を後にした。


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