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時計守りの少女  作者: 黒鍵猫三朗
第二章 回想
7/16

2-3

「君、なんでこなかったの?」


「雨だったし・・・」


「理由になってない。サボったボイド君には罰を与えてあげる。明日の練習は覚悟しなさい」


そう宣言してオーラは帰った。

オーラが泣いていたかどうかは雨でわからなかったが、怒っていることはボイドでもわかった。

次の日の訓練でボイドは何が起きようと毎朝必ず訓練に行こう、そう覚悟させられた。

訓練の内容は・・・、ボイドの人権にかかわる問題だ。公開できない。

ただ、素っ裸だったことは確かな事実である。


その日の午後、へとへとに疲れ、全身傷だらけになったボイドは家に帰ると傷に塗るための化膿止めの薬が切れていることに気がついた。

特訓が始まって以来、薬を使わない日はなかった。

当然切れるのも早くなっていた。

しかし、今日の傷の量は尋常ではなく、家にある薬全てを使い切ってしまっていた。

 

ボイドの生活はほとんどが自給自足である。

基本的な食べ物は森が用意してくれていた。

肉は狩りや罠を仕掛けて、野菜や果物などは自然に生えているもの、など森の中にあるもので全てなんとかなった。

食べられるもの、食べられないものを見分ける力は経験によって養った。

しかし、薬だけは作り方がわからず、村に行って買わなければならなかった。

ヘトヘトのボイドは村まで十分のところを二十分以上かけてゆっくり進んでいた。


「はぁ、やっとついた。」

 

思わず独白してしまった。

村の人からはボイドは呪いの子と思われている。

会えば何をされるかわからない。

ボイドは意識してそうしたわけではないが、人が少ない方を選んで裏通りから薬屋に行った。


「すいません・・・」


「おーう、いらっしゃい、ボイ坊。いつものやつか?」


店の真ん中にある机に座った男がボイドに声をかけた。

男はゆったりとした服装で、髪の毛はボサボサで整えることをしらなさそうだった。

店番をしているにも関わらず、お客がきたにも関わらず頬杖をついたままであり、ふてぶてしい態度を一向に崩さなかった。


「いつもすみません。メディスさん。軟膏をお願いします」


「相変わらず他人行儀だな。もっとくだけてもいいとおもうがな」


メディスはニヤッと笑うと、立ち上がり背後の棚を探し始めた。

薬屋のこの男はこの村で唯一、ボイドのことを光無の子と言って敬遠しない男だった。

理由は単純でボイドがいい金づるだからだ。

いじめられてる頃はそれによる傷が。

オーラに鍛えられ始めたらそれによる傷が。

毎回傷だらけになるボイドは傷薬を次々と購入するリピーターだった。

だが、そんなことを正面からボイドに告げるメディスのざっくばらんな性格のおかげで、ボイドは薬を買う作業が苦でなかった。


「ボイ坊、最近傷が増えたか?また、いじめられてるのか?」

 

メディスはそう聞きながら軟膏を探している。


「いや、最近はあんまりつきまとわれないんだ。もしつきまとわれ始めたとしたら服で見えないところに傷が増えるはずだから結局目立つ傷は残らないんだ。こんなふうに目立つところに傷が残るのは自分でつけた証拠」


「そういうもんかね」


「うん」


まぁ、少なくともあの男の子たちは僕の腹とかばかり殴るし蹴るし。


「じゃあ、なんでそんなに?」


「オーラって子に特訓させられてるんだ」

 

ガシャンガラガラ!

メディスの手に持っていた箱が床に落ちた。


「オーラってあのオーラか?」


「どのオーラ?」


「いつも白いワンピース着てる・・・」


「その子だよ」

 

メディスは笑い始めた。そうして、落としたものを拾いながら喋っている。


「はっはっはっ!そりゃそんな傷になるわけだ!あいつはこの村で一番強いからな」


「そうなんだ」


「おいおい、そんなことも知らずに訓練受けてたのか?」


「知らなかった。そんなこと言わなかったから」

 

メディスの表情は忙しい。

落とした物を拾い終わり箱を机の上に置くと、笑っていた表情から急に深刻な顔つきになる。


「・・・そうか。なるほど。ボイ坊。ここのとこしばらくいじめられてなかったんだよな?しかもそれはオーラのおかげか?」


「え、そうだけど」


「そうか、そういうことか・・・気をつけろ。オーラは美少女だ。狙う男は沢山いる」


「どういうこと?」


「ワカらねぇか。無理もない。とにかく身辺に気をつけろ」

 

そうメディスは締めくくるとボイドに軟膏の入った袋を渡す。

ボイドは金を持っていないため、軟膏になる分の薬草を取ってきている。

今回もボイドはメディスに薬草を渡す。


「はいこれ。薬草」


ところがメディスはそれを受け取らなかった。


「いや、今回はいい。おそらくボイ坊はまた襲われる。その時に渡してくれればいい」

 

ボイドは首をかしげる。


「・・・まぁ、それなら次の機会に」


「男に気をつけてな」

 

また襲われるのか。

でもこれまでも死人だ、光無しだと散々言われて殴られ蹴られされてきた。今更何をされても。


ーー悔しいと思わないの?


「悔しいってどういうことだろう?」

 

ボイドはぼんやり考え事をしながら、薬屋を出て裏道に入ろうとした。


「おい、そこの死人。ちょっと待て」


「なに?」

 

ボイドは振り返った。


「お前、最近あいつとなにやってるんだ?」

 

振り返った先にいたボイドより一回り大きく、革の鎧をまとった青年が声をかけていた。

青年の後ろには何人も同じような革鎧をまとった少年が取り巻いていた。

こちらはいつもの3人組だった。


「あいつ?」


 ボイドはそう答えた。


「あいつだよ。あいつ、最近お前と仲良くしてるやつだよ」


「誰のことだ?」

 

ボイドのその返事に大柄な少年は顔を真っ赤にして怒鳴った。


「オーラだよ!バカにしてんのか!わかるだろ!」


「言ってくれないとわからない」

 

ボイドとしては正直な気持ちを述べただけであったが、青年の気分を害しただけだった。


「なんでわからないんだよ!察するだろ普通!」


「その普通というのが僕にはよくわからない」


「ちっ。だから嫌いなんだよ。お前、オーラとどういう関係なんだよ?」

 

青年は足で地面を打ち、無理やり作った真面目腐った顔でボイドに詰め寄った。


「関係?わからない。毎朝剣術を教えてくれる。僕は頼んでないけど」


「頼んでないのに教えてもらってるのか・・・?」

 

青年は徐々に顔が赤くなっていった。


「オーラがなぜこんな奴に・・・?くそっ!わからない」


「僕にもわからない」


「お前には言ってない。まぁいい。お前、俺と勝負しろ」


「なんで僕が君と勝負しなきゃいけないんだ?」

 

ボイドとしては早く家に帰りたかった。

まだ傷に薬を塗っていないため、放っておくと菌が入ってしまい化膿してしまう。

しかし、青年の取り巻きがボイドを囲んでしまい逃げるわけにはいかなかった。


「お前の返事は関係ないんだ。おい!」

 

青年がそう叫ぶと取り巻きの一人がボイドの持っていた薬を奪ってしまった。


「なにするんだ」


「返して欲しいなら俺と勝負しろ」

 

ボイドは眉をひそめて青年を見る。


「勝負といっても僕は丸腰だ」


「武器ぐらい貸してやる」


「こんなところで勝負したら薬屋さんに迷惑がかかる」


「こんな場所でやるわけないだろ」


「僕が勝ったらなんでもしてくれるのかい?」


「いいだろう、もし、お前が勝てたらな」

 

ボイドは勝負を避ける言い訳をするつもりだったが言い訳は全て返されてしまった。


「・・・わかった」

 

これ以上言い訳を用意できなかったボイドは勝負に応じる他なかった。


 

結局ボイドは彼らについていって村の少しひらけたところに移動した。


「ルールは?」

 

渡された棒に仕掛けがされていないか慎重に調べながらボイドは青年に訪ねた。


「うーん、まいったって相手に言わせたら勝ちにしようか。あと、棒に仕掛けはしてないぞ。お前、俺を馬鹿にするのもいい加減にしろよ?」


「・・・わかった、始めよう」

 

そうして二人は対峙した。

間に青年の取り巻きの一人が立って合図を出す。


「よーい、始め!」

 

ボイドは先手をとった。

オーラの必殺技、それを最大限に生かすため自分で考え編み出した連携。

脳天かち割り斬りを成功させるには頭への防御ができない体制にすることが必要だった。

そのため、ボイドは自らの攻撃を下段からの攻撃を中心にした。

足払いや腰を狙った斬撃を次々に繰り出す。


「おいおい光無し、そんな足ばっかり狙っても当たらないぞ!」

 

青年は余裕を見せながらボイドの斬撃を綺麗にかわしていく。

だが、二ヶ月以上毎朝特訓したボイドの動きは、青年を少しずつ追い込み始めていた。


「いまだ」


そんな青年の表情を見てボイドはこれまでよりも少し深く踏み込んで加える力を強くした斬撃を放つ。


「うっ」

 

青年は想定していた威力よりも強い威力でぶつかってきた斬撃を受け損ね、棒を弾かれ大きな隙を作ってしまった。


「よし」

 

ボイドは淡々と気合をいれると、振りかぶった。

渾身の脳天かち割り斬り。


「おい!やれ!」

 

突然、青年は大声をあげた。

そしてその大声に呼応するかのように取り巻きの一人がボイドの足を払った。

ボイドは後方からのその攻撃を予測できず、受け身を取ることもできず倒れてしまった。

ボイドは顔を地面にぶつけてしまい、鼻血が吹き出した。


「さすがにあいつ仕込みってわけか。くそ。油断した」

 

ボイドは鼻血を拭いながら立ち上がった。

立ち上がるその一瞬を青年は逃さない。

顔面を打ち少し脳が揺れてしまったボイドにとって青年のスピードはギリギリでしか対応できないものだった。


「うわっ」


 ボイドの棒はあっさり飛ばされてしまった。


「おらよっ!」

 

青年の拳がボイドのみぞおちに入った。


「かっはっ・・・!」

 

ボイドの息がつまる。


「さてと。降参するならまいったって言えよ?」


「ひ、卑怯じゃないか・・・。一対一の決闘じゃないのか・・・?」


「あはは、卑怯もなにも、今立ってるのが俺、痛みで悶絶してるのがお前。世の中こんなもんなんだよ!死人!」


青年の思惑に気がつかなかったこと、そして、今自分がされていることの原因を作ってしまったことが、ボイドの体を動かした。

ボイドは青年の足を掴み、思い切り力を入れて握った。


「いってぇ!」


青年は大声をあげて、自分の足を掴んでいるボイドの手をもう一方の足で蹴る。

しかし、握力を鍛える特訓をやらされていたボイドの手は、その程度の蹴りで握る力がなくなってしまうほどヤワではない。

それにボイドはどうしても手を放したくなかった。


「離せ!」


だが、敵は青年だけではない。

ボイドは四方八方から蹴られ、つねられ、殴られ、ついに手を離してしまった。

青年の足にはボイドの手の形がはっきりとついていた。


「いてぇな・・・。くそっ!」

 

青年はボイドの顔を踏み潰す。

そこからは青年がボイドを殴るだけの時間になった。

倒れたボイドに馬乗りになって青年はボイドを殴り続けた。

青年の取り巻きはそれをとめるどころかそこを殴れだの、おくち動かないのでちゅか、などとわいわい盛り上がっていた。

ボイドとしては痛いだけだったので降参しようとした。


「ぐっ・・・、こっ、こ・・・」


「ん??鶏かな?おらおら、もっと鳴けよ!」

 

青年はボイドが喋れそうになるとみぞおちを殴ることで黙らせ、その間に顔を殴り続けた。

随分長い時間殴られてはいたが、ボイドはオーラにしごかれた特訓のおかげで命にかかわりそうな一撃を急所からそらして何とか持ちこたえていた。


「おいおい、光無しくん、がんばるね?オーラに教えてもらった剣術はどうしたんだー?もっと見せてくれよ」


こらえ切れず朦朧としてきた時、聞いたことある声が響く。


「こら!お前たち!ボイドに何してる!」


「・・・オーラ」


ボイドは呟いた。


「よお、オーラ」

青年はオーラに気がついて立ち上がる。

オーラは青年を睨め付ける。


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