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時計守りの少女  作者: 黒鍵猫三朗
第二章 回想
5/16

2-1

フォルテに殴られ消えゆく意識の中でボイドは思い出していた。

俺がオーラと初めて出会ったのはいつだったかな・・・。


ボイドが生まれたのはセントラルからは遠く離れたトーイ村という自然豊かな村だった。

自然豊かと言えば聞こえは良いが、セントラルにある光技術の1%も入ってきていない、典型的なド田舎だった。

村にある光技術と言えば中央の役人が持ってきた、巨大な集光機と、その光を持ち寄るための小型集光機である。

小型と言ってもビール樽くらいの大きさがある。

それを背中に背負って中央の集光機に光を写すことが子供達がお小遣い欲しさに行うお手伝いの代表だった。


この国にいる国民には光を集めることが義務づけられているため、小型集光機は各家庭に配布されている。

それぞれの家庭にて、毎日その集光機をいっぱいにしては、日が暮れた後、村の真ん中にある巨大な集光機に光を移す。

納光の義務は国民の最優先事項である。

怠れば密告され、監査官が中央から飛んでくる。

だが、納光の義務を怠る人はたいていの場合やむ負えない事情を抱えている場合が多い。

病気であったり、怪我であったり、そう言った事情は考慮され、納光の義務は免除される。

ただし、監査官が未納光であると認めた場合、国民としての権利剥奪、国から追い出されてしまう。


監査官の仕事は公務員の仕事としては楽であると言われている。

それは国民のほとんどが納光の義務を怠らないということに他ならない。

理由は簡単で、納光それ自体が努力する必要のない事だからである。

集光機は日のあたりのよい場所に日中おいておけば、勝手に満タンになるのだ。

よっぽどの理由がない限り怠る方が難しかった。


この光技術が全く浸透していないミーン村でも、納光の義務の例外ではなく、納光と同時に時と光の女神様に村人全員で祈祷を捧げることがミーン村での習慣となっていた。

村人、中でも村長は熱心な女神信者であった。

女神を軽んじる発言をした者は村八分にされ、消されて言った。

それほど光を尊び、女神さまを崇めていた村にある男の子が生まれた。


産婆は普段通りその子を取り上げ、泣き出した子を頭上高くに掲げた。

何も起きなかった。

産婆は首をかしげてもう一度その子を掲げる。

しかし、何も起きなかった。

そのことは一瞬で村に広まり大騒ぎとなった。

子供とはすべからく光の祝福を受けるべきであった。

生まれてすぐ天に掲げれば光輝くはずであった。

この事件は女神さまの祟りという者、この子の存在が今後女神の怒りを買ってしまう、即刻殺すべきだと言う者、これから祝福されるのだ、早計なことをしてはいけないという者、様々な意見があった。


混乱を収めるため村長の命により、その子が五歳になったとき、両親が祈祷という名の処刑に処された。

彼らの亡骸は丁重に葬られたが、その息子は人外の者、祝福の無い死人扱いされ洞窟に放り込まれた。

五歳で天涯孤独となった男の子は必死に生活を送った。

最初は村に戻ろうとしていた。

しかし、それは村の大人たちに阻まれた。

彼が村に一歩でも入ろうものなら、彼をタコ殴りにして、洞窟に戻した。

ひどい時には洞窟にわざわざやってきて、お前の罪はこの村に呪いをもたらしたのだの、なんだかんだあげつらいながら、殴る蹴るの暴行を繰り返した。


彼はそれでも、誰かに頼ることなく一人で生きる術を身に着けた。

時には食べたものが当たり死ぬ寸前だったこともある。

何とか薬をもらおうと村に行くが、それも断られ、幻覚を見ながら食べたものが解毒効果のあるもので助かる、そんなこともあった。

そんな生活を五年も続け、そんな生活に意味を見いだせなくなっていた時、彼の時は動き始めた。


「おい!おいってば!」


「おい、光無し!」


「聞いてんのかよ!死人のクセに無視するなよ!」

 

村はずれの森の中にある少しひらけた場所。

子供が遊ぶには十分な広さの広場がある。

もともとは病気になっていた木を切り倒し、切り株をひっこ抜いてできた広場だったが、子供たちが踏み固めることで植物が育たなくなっていた。

そんな広場の中心には無表情のボイド、その周囲に数人の男の子と女の子が少年を取り囲んでいる。

子供たちは全員、同じような恰好をしている。

この村では子供は麻の一枚布を折り曲げて縫い付け、袋状にすると、頭を出すところ、腕を出すところをくり抜くだけで作る。

こうすれば小さい時には腰の位置をひもで縛るだけで済む。

大きくなった時には、幼少期から着ていたものはシャツとなり、ズボンやスカートを新たに作ってそれを着る。

子供たちはせめてもの差別化として花をつけたり、色をしみこませたりしている。

ただし、ボイドの正面にいる男児の服には独特な水玉模様がある。

おそらく食べこぼしだろう。

 

はぁ、またかと言った態度で少年は反論する。

一体何回目だろうか。途中からばかばかしくなって数えるのをやめたが、ことあるごとにボイドに絡んでくる。

ボイドとしては毎回同じようなやり取りが行われるだけなので、無駄な時間の使い方だった。


「死んでいない。見たらわかる」

 

これも毎回伝えている。


ボイドの正面で、ボイドの顔に唾を飛ばしながら太め男児が罵る。

彼は一体どうやったらその年でそこまでの脂肪がつけられるのか?むしろどうやってつけさせたのか?と親に問いかけたくなるほど丸かった。


「死んでるだろ!おれ、母ちゃんに聞いた!お前、光の祝福がなかったんだろ?」

 

太め男児は唾を飛ばす。


汚い。

 

ボイドより先に女の子が反応する。


「えっ、それほんとー?」

 

ボイドにしてみれば、この女の子が言った言葉も無駄だ。

このやり取りをするのは一体何回目だろうか。

すでにわかっていることを再確認してもしょうがないだろうに。

 

眼鏡をかけた男児が女の子に向かって自信満々に説明する。


「ほんとさ!人間はみんな生まれた時に光の祝福を受けるんだ!女神様に祝福されなかったお前は女神様から生きてるって認められなかったことなんだ!」


「さすが!物知りだね!」

 

女の子に褒められてだらしなくにやにやしている眼鏡男児にボイドはつぶやく。


「どうせ母親に聞いた話でしょ。それにその話、何回目だ」

 

眼鏡男児がシュンと落ち込むと、太め男児が怒りをあらわにする。


「はぁ?こいつはな!何でも知ってんだよ!死人のくせに博士を馬鹿にするとただじゃおかねぇぞ!」

 

眼鏡男児はその言葉に勇気をもらったのか、息を吹き返すとボイドをさらに罵る。


「僕は知ってるんだぞ!お前が村の集光機にこっそり納光しようとしてることも!」


「あれは、村の偉い人とかいう人が、全員がやらなきゃいけないことだからやりなさいって言っていたからそうしようとしただけだ」


「誰がそんなこと言うんだ!僕たちが気が付いて寸前で止めたからいいものの!呪われた奴が光を収めたらどんなことが起こるかわからないんだぞ!昔、光無しが村にいただけで疫病・飢饉に洪水と村には災いばかり降りかかったというのに!」

 

太め男児が下品な笑い方で笑った。


「ぐはは、光無しの穢れた光なんて、いる訳ないだろ!それにしても、あれは傑作だった!結局、お前、ミーンの兄貴とかにぼこぼこにされてたもんな!死人が調子に乗るからそんな目に合うんだよ!」


「違う、あれはそのミーンとかいうのがやれと言ったんだ」

 

太め男児が叫んだ。


「光無し!死人!消えろ!」

 

周囲の子供たちも合わせて叫ぶ。

「早く出ていけ!村が呪われる!」

「光無し!死人!消えろ!」

「なんで生まれて来たんだよ!」

「死人なんだからさっさと消えろよ!」

「死人はおとなしく墓の中にいろって!」

 

子供たちはどっと笑う。発言がウケた太め男児は得意満面だ。


「だから生きてんだけど。村が呪われるって言っても僕はどうせ村には入れないじゃないか。ほら触って見なよ。体温だってある」

 

ボイドは言いがかりをつける太め男児に手を伸ばす。


「うわっ、こっちに来た!逃げろ!光無しが感染る!女神様から見放されるぞ!みんな逃げろ!」

 

わー、きゃー、っとボイドを取り囲んでいた子供たちが散り散りに逃げ離れる。

ボイドは持ち上げた手を見つめる。


「別に光無しは移ったりしないと思うんだけど。だいたいみんなはもう祝福を受けてるじゃないか。そんなに近づきたくないならなんで構うんだ?」

 

ボイドは不思議でならなかった。

自分を攻撃して彼らに一体何の得があるのだろうか?

もし自分を殺したとして、村が得られることは?

呪いの解除?しかし、解除と言ってもそもそも自分のようなちっぽけな存在が、呪いなんぞを村にかけてると思えないのだが。

いや、彼らの中では僕は死人か。

死人の怨念ってことか。


「僕は死んでいるのか生きているのか。誰か教えてくれないかな?僕が生きる意味って、いてっ」

 

思考に囚われ、一瞬ぼーっとしたボイドの頭に飛んで来た石ころが命中した。

周辺の木の裏に隠れた少年たちが次々と石を投げる。


「いてて」

 

少年は石が当たった場所を手で押さえ、ぬるっとした感覚を得る。


「血・・・また傷が増えてしまった」

 

少年は血を流していた。


「血は流れてるんだけどな」

 

ボイドが血を流して座り込んでしまっていても、石の雨は止まなかった。


「みんな、いつもいつも僕にこうして攻撃してくるけど、どうしてなんだ?何でそんなに僕に構うんだ?そんなに光無しに触られたくないなら近づかなければいいじゃないか」


「何言ってんだ!俺たちだって好きでやってるわけじゃないんだ!大人達はお前が生まれたせいで村に災いが来るって言ってた。だから、街の大人たちが言うように悪い奴はちゃんと成敗しないといけなんだよ!でも、大人たちだって忙しいだろ?代わりに俺たちがお前を成敗するんだ!お小遣いももらえるしな!」

 

太め男児は嬉しそうに言った。


「成敗って。それで毎日僕を棒で叩きにくるの?」


「そうだ!悪さしないようにな!」


「君たち、暇だね。もっと別にやることあるんじゃないの?」


「暇なわけないだろ!俺たちがお前のためにわざわざ時間を割いてやってるんだ!」


「ねぇ、君たちの親が間違ってるとは考えないの?」


「お前、うちのとーちゃんとかーちゃんの悪口言うと許さないぞ!」

 

また、ボイドに向かって石やら木の実やらが飛んでくる。ボイドはそろそろみんな帰ってくれないかな。と抵抗をあきらめた時。

広場に凛としてよく通る少女の大きな声が響いた。


「ちょっと、お前たち!その子に何してんの!」

 

朗々とした少女の声が広場に響き渡った。

遠巻きにボイドに向かって石を投げていた男児たちの顔が真っ青になる。


「やべぇ、鬼畜オーラだ!逃げろ!」


「誰だ、鬼畜とか言ったやつ!私はか弱い乙女!そういうこと言う奴は殺す!」

 

矛盾したことを叫びながらオーラと呼ばれた少女は、うっかり鬼畜と口走ってしまった太め男児を猛然と追いかけ始める。

 

オーラは白いワンピース姿だった。

麻の生地は他の子どもたちと変わらないはずであったが、白さが全く異なっていた。

眩しかった。

両親の心遣いなのか、腰の紐から下の部分に多く布が使われているようで、大きく広がるスカートが動きに合わせて大きく翻っている。

 

オーラの右手には木の棒が握られており、追い立てられる男の子は普段運動をしていなさそうな体形をブルンブルン揺らしながら必死の形相で逃げている。

 

人間、必死になれば何でもできる。

まん丸体形の彼も、普段ではありえないほどのスピードで走ることができている。

もちろん、外見はひどい。

彼は涙と鼻水と汗と、出せるもの全て出しているようだった。

そのうち小便も漏らしそうな表情である。

しかし、そんな逃走の努力むなしく追いつかれてしまった。

息が上がって走れなくなった太め男児はオーラが正面にゆっくり回り込むのを見ると、顔を両手でガードしながら目をぎゅっと瞑る。


「うわぁぁぁ!やめて、殺さないで!」

 

そんな彼に対して、整ってとてもかわいい顔に残忍とでかでかと書かれたような笑顔を向けながらオーラは振りかぶった。


「死ね!オーラちゃん必殺!か弱い乙女の脳天かち割り斬り!」

 

当然、少女の力では人の頭蓋骨を木の棒で貫通させることは不可能である。

だが、飛び上がってまで勢いをつけたオーラの木の棒と男の子の頭の接触は森中に響きそうな大きな鈍い音で締めくくられた。


「うわぁぁぁん!」

 

太め男児は泣きながら逃げて行った。

彼の走り去った後には何らかの水分で描かれた足跡が残された。

そんな太め男児の様子を満足げに見送りながら、木の棒で自分の肩をとんとんとたたき、オーラは息をついた。


「ふぅ。まったく。あいつら懲りないね。何かをいじめてないと気が済まないのかしら。この前まで小鳥、次は犬。そして君。ほんと同じ人間なのが恥ずかしいな。十回死んでも足りないんじゃないかしら。次は木じゃなくて石にしようかな」


「ほんとに殺すつもりだったの?」


「もちろん。私はいつでも本気だよ!なんせ私はか弱い・・・ってちょっと!」

 

オーラは胸を張って宣言しようとしたが、ボイドはオーラが話している途中で自分の家の方へ歩き始めてしまっていた。


「ちょっと!私まだ話してるし!助けてあげたんだからお礼とかないの?」

 

歩き始めたボイドにオーラが駆け寄り、肩をつかむ。

肩にオーラの手がめり込みボイドの顔が歪んだ。

ボイドはオーラを正面から見据えると言った。


「別に頼んでない」


オーラは不思議そうな表情を浮かべると、ボイドの前に躍り出て顔を覗き込んで言った。


「もちろん頼まれてないよ?」

 

オーラの返答にボイドは少し面食らってしまった。

ボイドとしてはさっきの一言でオーラを遠ざけるつもりだったからだ。

オーラに弱めのジャブのような口撃が届かなかったボイドは少し反省し、ストレートを繰り出す。


「迷惑な話だ」


「だいたい、君は男の子なんでしょ。きっと私より力も強いでしょ。なんで君はやり返さないの?悔しくないの?」

 

ストレートは華麗にスルーされる。むしろ意味不明なパンチが帰ってくる。


「悔しい・・・?」


「そう!なんとかしてやられたことをそっくりそのままやり返したい、とか二度と自分につきまとうことができないようにしてやりたいとか、そう思わないの?」


「どうだろう。毎日こうされると食べ物を採る時間が減るから困るかな。それに、そういうなら君も僕に付きまとってる人の一人になろうとしてるんじゃない?」

 

ボイドはオーラを見る。


「私?ちがう!そういうことしようとしてるわけじゃないよ!」

 

オーラは目をまん丸にして両手をぶんぶん振って否定する。


「私はつきまとってもいいの」


「君もあいつらと同じじゃないのか?」


「同じじゃないもん!私はあなたのことをいじめたりしないでしょ!」

 

オーラは腰に手をあてて大きく胸を張る。

ボイドはそんなに大げさに動作を行わなくても、意味は分かるのにと思った。


「まだわからないじゃないか、会ったばかりなのに。それに、君はあの子達と同じように僕に近づいてくる。そのことにあいつらと君の差なんてないよ。君はなぜ僕に近づいてくるんだ?」

 

オーラはあっけらかんとした表情で答えた。


「だって、君がかわいそうだったから!」


「かわいそう・・・?」

 

また、謎のパンチが飛んでくる。オーラはにっこり笑う。


「ええ!まぁ、それだけじゃないけど!そっちは秘密!」

 

まさかのシークレットパンチ。

なぜ隠すんだ。言えばいいじゃないか。

オーラはボイドの方に手を差し伸べると言った。


「そんなことより、君、私の友達になりなさい!私の名前は」

 

ボイドはこれ以上時間を取られると今日の晩御飯が無くなってしまうと思い、会話をさっさと終わらせることにした。


「オーラ」


「えっ?」


「オーラなんでしょ?」


「あら、私名乗ったっけ?」


「君の必殺技の名前に君の名前が入ってるじゃないか。それにあの男の子も言っていた。鬼ち」

 

ボイドは最後まで言わせてもらえなかった。

差し伸べられていたオーラの手はボイドの目で追えない速度で動き、首をつかんでいた。

オーラの腕はとても細く、ボイドと比べても力はなさそうである。

しかし、ボイドは首を握られ、足は空中を蹴っていた。


「こ・ろ・す・ぞ?」

 

オーラは笑顔だ。語尾にハートマークがつきそうだ。


「ゲホッ、オーラ、くるしい。なんで・・・?」

 

ボイドはオーラの手を外そうとするが、日々、道場に通い野山を駆け回っている野生女児の手を、ほとんど運動をしないもやし男児の力では外すことができなかった。


「君の名前は?」


「っ・・・。ぼ、いど」


「ボイド?わかったよろしくね!あ、遅れながら私はオーラ!よろしく!」


読んでいただき、ありがとうございます!

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