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時計守りの少女  作者: 黒鍵猫三朗
第四章 攻勢
14/16

4-2

ボイド君へ

この手紙を読んでいるということはここまで来ちゃったのかな?この手紙、フォルテさんに預けたけど、ちゃんと渡せるか心配だな。ここまで来ちゃった君が先に戦闘を始めちゃうかもしれないもの。

どういう動機でここまで来たのか、それはわからないけど。君にとってここまで来ることに何のメリットもないはずでしょ?それなのに君はここまで来たのであれば、私が知ってる君じゃないね。君が探していた『心』は見つかった?私と村にいた時には心なんてなかったもんね、心を持った君とも話してみたいな。

助けに来てくれてありがとう。その『気持ち』だけ受け取っておくよ。知ってた?気持ちだけ受け取ることもできるんだよ?君にはできるかな。

来てくれたことはうれしいけど、残念ながら迷惑だよ。私はこれから時計守りの少女としてこの時計を守るんだ。なんだかよくわからないけど、国王の言うことには私が時計塔を守ることが世界を守ることにつながるんだって。国王様って言っても一回会っただけだから正直実感ないけど。

 王城についてからはアドって宰相が私の面倒を見てくれた。宰相って人が言ってたけど時守りの少女は十年座ってるだけなんだって。そうすれば家に帰れるって。それなら別につらいこともないよね。その話をした時の宰相さんの顔色が悪くてね。頭も真っ白だし、あの人そろそろ死んじゃうんじゃないかな・・・?

 話が逸れちゃった。さて、私がすごく重要な仕事をしていることが分かったかな?わかってくれたらぜひ村に帰ってほしいな。今のあなたならきっと、村のみんなも受け入れてくれると思う。

 もし村に戻ったなら私の父や母には、私が元気に時計守りをしていたといってほしいな。

あ、もう行かなきゃ。じゃあね、ボイド君、訓練サボるなよ!


オーラ


 フォルテは読み終えた手紙を封筒にしまった。


「受け取りたまえ」

 

フォルテはそういうと、ボイドに封筒を投げた。


「これが、あそこに座っているオーラという少女の思いだ。私としてもぜひ君がここからこのまま立ち去ることを望んでいる」

 

ボイドは手紙を見る。

筆跡を見てもオーラかどうかはわからなかった。

 

そういえばオーラの文字、見たことないな。

 

ボイドは封筒を持ったまま、じっと立ち尽くす。


「どうした」


「この手紙を本人が書いたのかどうかわからない」


「私の名誉にかけて誓おう。それは間違いなくあそこに座っている子が書いたものだ」

 

ボイドは堂々たるフォルテの宣言を鼻で笑う。


「ふんっ、正直なことを言うと、これが本物かどうかは関係ないんだ。もし、あそこにいるオーラが喋れたとして、手紙に書いてあるようなことを言ったら俺はこう言う」

 

ボイドは息を吸い込んだ。


「君がなんて言おうと俺が君を助けてやるよ!」 

 

歯車の音が響く。


「あくまで戦うということか。この手紙にはあそこにいる少女が世界に関係しているかもしれないんだが」


「世界のことは俺に関係ない、俺が苦しそうだからかわいそうだからと救ってくれたオーラに同じことをするだけだ」


「よくわかった。いいだろう、私は全身全霊をもって君を止める」

 

そういうと、フォルテは目を細めてボイドのことを注意深く観察している。


「・・・しかし、随分と鍛えたようだな。ここに立っているだけでも君の力を感じる。君と剣を交えるのはすでに三回目か。君は二回敗北している。それでもかかってくるか?」


「当然。オーラを助けるために鍛えた」

 

ボイドはブレードを抜く。

同時に光特有の高エネルギーの音が響き、全身が紫の光に覆われる。

藍の光だったブレードもブンッと振り、紫の色へと変化させる。


「オーロラアーマーも手に入れていたか。そして紫の光・・・。これは久しぶりにいい戦いができそうだな!いいだろう。短期決戦だ!」

 

フォルテもブレードを抜く。

こちらも紫の光に全身を包まれている。

お互いが紫レベルの超高練度の剣士である。

世界広しと言えどここまでの剣術使いが相対したことはないだろう。


「行くぞ!」

 

先手を取ったのはボイドだ。

コンマ以下の短い時間に十メートルはあったフォルテとの距離を詰めると、その勢いを生かしてフォルテを横薙ぎにしようとする。


フォルテはその攻撃を予測していた。

正面に構えていたブレードをその方向にずらしてボイドの剣劇を受け止める。

受け止めたボイドのブレードに力を加え、鍔ぜり合いに持ち込むように見せかけ、力を抜く。

力を加えんとしていたボイドは、急に力が抜かれ、上体が少し泳いでしまった。

その隙を逃すことなく、フォルテはボイドの胴に蹴りを入れる。

ボイドはそれをかわすと肘を突き出す。


どちらの剣士も音速を越え、光速に近い速度で戦っている。

一撃一撃に爆風と爆音が発生する。

彼らの周囲にはすでに空気すら割り込む余地が無かった。


「くっ!」

 

フォルテの蹴りを片腕全体で受け止めると、ボイドは吹き飛ばされた。

しかし、空中で体制を立て直すと着地と同時にブレードを構える。

ボイドが吹き飛んだ数瞬の間にフォルテはボイドとの距離を詰め、目にもとまらぬ連撃をボイドに叩き込む。

だが、その攻撃をボイドは全て受け、かつ受け流し切った。

 

ボイドは祭りの会場での戦闘で全く同じ手を使われていたことを思い出していた。


「同じ手は食わない」


「なかなかやるじゃないか。ではもっと速度を上げよう」

 

突如、ボイドの目の前にフォルテが現れる。

遅れてドンっという音が鳴る。

もはや二人の戦いで音は全くあてにならない。

信じられるのは自分の目、そして鍛え上げた直感だけである。


「おら!」

 

しかし、フォルテのブレードは空を切る。


「ち、こっちか!」

 

フォルテは後方から迫るボイドの気配を察する。

ボイドがフォルテの後ろに回り込んでいた。

ボイドはブレードを振りきった。

いや、振り切れてしまった。

何の手ごたえもなかった。


「当たらない。上か!」

 

フォルテの位置に紙一重、気が付いたボイドは叫んだ。

飛び上がったフォルテは空中で加速する。

重力と、空気を高速で蹴ることで推進力を得たフォルテはボイドにブレードをたたきつける。

ボイドはそれを一ミリ以下の精度で見切り、かわすとフォルテの横腹に斬撃を叩き込んだ。


「ちぃぃぃ!」

 

フォルテは自分のブレードの柄でその斬撃を受け止めるも、衝撃によって壁まで吹き飛んでしまった。

時計塔の壁にフォルテを中心とした蜘蛛の巣が現れる。


「このまま、時計塔ごと破壊してやる!」

 

フォルテに近づくために猛ダッシュしながらボイドは息まいた。

壁にめり込んでいたフォルテはめり込んでいたところから落下するときれいに着地する。


「残念ながらそれは出来ない。この塔は女神さまに守られている。破壊された部分は即座に修復される」

 

フォルテが言う通り、フォルテがめり込んでいた壁が徐々に修復されている。


「じゃあ、とにかくお前を倒す他ないわけだ!」


「そうだ。来い!」


「おらぁ!」

 

ボイドはフォルテに猛攻を仕掛ける。

最初は互角であったこの勝負であるが、ここに来て経験値の差が表れ始めていた。

ボイドの攻撃をフォルテはしっかり弾いていく。

いや、むしろ弾いた後、少しずつではあるが、ボイドには隙が生まれてしまっている。

一度だけなら致命的でない隙も、度重なってしまえば、大きな隙になってしまう。

 

フォルテにとってボイドは初めて本気で戦闘する相手である。

その攻撃パターンなどすべてが初めて見るものだった。

だが、フォルテは戦闘で他に後れを取ったことにない天才であった。

そんな天才が努力した。

そうして、この強さを得るに至ったのだ。

敵なしになったフォルテが磨いた力が相手の力量や戦略戦術を見抜く力だった。

殺しすぎないように鍛えたその力、この戦いではボイドの攻撃を見切ることに役立っていた。


「ぐっ」

 

じわじわとフォルテの攻撃がボイドに届くようになり始めていた。


「粘るな、少年。しかし、わからない。光無しの君はなぜ人助けをしようと思ったんだ?」

 

ボイドは息が上がり始めている。

こうしてフォルテが話しかけてくる短い時間の間に十合以上ブレードを打ち合っている。


「はぁはぁ、なぜって!なぜそんなことを聞く!」


「君は光の祝福を得られなかった。それは他者への同情、配慮、思慮の気持ちが無いということだ。そんな君が一体どうしてこんなところまできて、私とブレードを交えているのかと思ってな!」


音速を超えたブレード同士がぶつかり、音波が衝撃となって周囲に広がった。


「はぁ・・・さっきも言っただろ。俺は、はぁ、オーラに恩があるんだ。そしてオーラの両親にも。オーラは呪われた俺のことを気にかけて、剣術まで教えてくれた!オーラの両親は自分たちの立場が危うくなるのを承知でオーラを助けに行きたいと言った俺に剣術を教え、その命をもって俺を送り出してくれた!・・・俺には返さなきゃいけない恩があるんだ!」


「なるほど。恩か。・・・確かにその気持ちは素晴らしいものだ。だがそのような弱い理由では私には勝てない!失望したぞ!少年!」

 

フォルテはそう、大声で叫ぶと宣告した。


「次の攻撃で君を、殺す!」

 

フォルテ渾身の剣劇が始まった。

フォルテの攻撃には一部の隙も無かった。

すべての攻撃が次の攻撃の布石であり、罠であり、さらにどの攻撃もそれ自体がボイドの急所を突いていた。

 

攻撃を受けながらボイドは驚いていた。

ボイドは紫の光を纏ったライトアーマーを着ている。

そのため、光速に近いフォルテの攻撃も普段通り視認することができていた。

出来るはずだった。

だが、ここに来てフォルテのブレードが十や二十あるように見えていた。

 

速さだけではない経験による光速フェイントにボイドはなすすべがなかった。

攻撃の芽をつぶしたはずが、別の攻撃につながり、ボイドの攻撃は見切られフォルテの攻撃に利用されていた。

ボイドの全身には次々と切り傷が生まれていた。

ブレードで切られた傷からは本来血が流れない。

それは光のエネルギーによって傷口が焼かれてしまうからである。

しかし、フォルテの斬撃は傷口を焼く前に、傷口を通り過ぎてしまうほど高速だった。

ボイドの全身が血に染まり始める。

 

ついにボイドのブレードが飛ばされるボイドからすこし離れたところに落ちてしまう。

丸腰になったボイドはフォルテの攻撃をぎりぎりで見切り、ある時には肩でフォルテのブレードをはじいて斬撃をかわす。

人体の感覚を極限まで研ぎ澄まさなければ一瞬で命を落とす戦闘の中、ボイドの脳内は光速以上に働いていた。


こんな、オーラを助ける一歩手前で死ぬのか・・・?何百年前に挑戦した男の場所にたどり着けもせず、結局こんなところで・・・?


そういえば、その男はなぜこんなところまで少女を助けに来たんだ?

俺と同じか?

恩があった?

違うな。もしそうなら自殺なんてしないんじゃないか?

ヴェスはその男が少女のことを『好き』だからだと言っていたが。

 

・・・俺はどうだろうか。俺は目の前でオーラが死んだら・・・?

突如ボイドの頭の中が光で満ちた。

 

俺は、オーラのことが『好き』だったのか・・・!


「少年、さらばだ!」

 

フォルテの攻撃はボイドの喉元に迫ったその瞬間だった。

ボイドは白い輝きに包まれた。

フォルテはその急激で強力な光に驚き、目を瞬いて距離を取った。


ボイドの正面には白い光に包まれた女の人が立っていた。

いや、男だろうか。

そもそも性別などあるのだろうか。

かわいい女の子であり、歳をとった男だ。赤子であり、不細工なおばさんでありおじさんだった。

しかし、それら全てが美しかった。

その感覚は目だけに響くものではない。

心にも直接響いているものだった。


「時の祝福を受けた少年ボイド。あなたはたった今、感情を完全に目覚めさせました」


「時の・・・はぁ・・・祝福?」


「ええ。時の祝福。理性の祝福。時の祝福と光の祝福、理性と感性、両方を兼ね備えたあなたには選択する権利が与えられました。この世界を続けるも終わらせるもあなたの選択次第です。あなたにはしばらく私の力を貸しましょう。あなたの選択を見守ります」

 

ボイドの疑問に女神が答えることは無かった。

フォルテは驚きをもってボイドを見ていた。


「今のは、・・・女神さま・・・?時の祝福は理性の祝福・・・?」

 

フォルテは一瞬悩んだが思い出した。


「・・・聞いたことがある。古代セントラルに降り立った初代の王は感性も理性も兼ね備えた完璧な方だった。しかし、完璧がゆえに未来を知れないことにいら立ちを覚え、光の力を得て女神さまと交渉したそうだ。だが、その交渉は失敗し、その後生まれてくる人間には感性と理性が平等に与えられなくなったと・・・」

 

それを聞いたボイドは納得する。


「俺には理性しかなかったのか。だが、今ならわかる、感じる。自分の気持ちを」

 

ボイドを包む白い光は収まるどころか、むしろ強くなっていた。


「俺はオーラのことが好きだったんだな。だからここまで助けに来た。あいつが死んだら俺も死にたくなる。だが、このままでは死んでしまうんだろう?やはり、フォルテ、お前は邪魔だ。どいてくれ」

 

ボイドから感じる底知れぬ威圧感にフォルテは唾を飲み込んだ。


「いいだろう・・・。そこまでの覚悟があるなら私も命を掛けよう。いざ、尋常に勝負!」

 

ボイドは全身を白い光で包まれていながら、いつのまにか取り戻したブレードをたらし、突っ立ったままであった。

フォルテはボイドの手にいつブレードが握られたかわからなかった。

頭には警報が鳴っていた。

だが先手はフォルテが取った。

居合切りの構えを取ったフォルテの剣劇は対人の戦闘で使ったことのない必殺の技である。

必ず殺す。文字通り、フォルテは必殺の技を解禁した。

アーマーとブレードを同期させ、体全身を一つの武器として光速化することで、紫の光を纏った通常の居合切りの何倍もの速度を出すことができる。

 

フォルテはボイドを間合いにとらえた瞬間を逃さない。

ブレードを引き抜く。

ブレードはいまだ構えないボイドの肩口に差し掛かる。

 

まだ構えないのか!この勝負もらった!

 

ブレードがボイドに触れる数ミリ前だったが、フォルテは勝利を確信した。

だが、確信むなしくボイドを切ったように見えたそれはフォルテの目に写っていただけの残像だった。

白く強い光を発していたボイドは目に残りやすくなっていた。

 

フォルテは自分の胸からブレードが飛び出てくるのが分かった。

瞬間的な判断でフォルテは後ろに回し蹴りを放つが、これも空を切る。

いや、すでに足そのものが無い。

そう思った次の瞬間にはバランスが保てなくなっていた。

腕も足ももうない・・・!


「喰らえ!必殺!オーラ直伝脳天かち割り斬り!」

 

踏み込みによって床にひびが入る。ボイドが最初に会得した技はフォルテを頭から真っ二つにした。


読んでいただき、ありがとうございます!

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