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時計守りの少女  作者: 黒鍵猫三朗
第四章 攻勢
13/16

4-1

アジトの前にはメンバーが集まっている。

小さいグループを作って小さな声で話している。

一部には一本の糸がピンと張ってあり、刺激すると切れてしまいそうである。

また別の所を見ると雲の上にいるかのようにふわふわと浮かんでいるかのようだった。


「ボイド、調子はどう?」

 

準備運動をしながらヴェスはボイドに声をかけた。


「悪くないな」

 

ボイドはまっすぐ立っている。


「おら、終わったぞ!」

 

ボイドの背後からシンクが現れた。


「しかし、この短い間で本当に紫の光まで使いこなせるようになるとはな・・・。しっかり体が鍛えてある証拠だが・・・。お前さんを鍛えた人物は相当の凄腕だったんだろうな」


「俺を鍛えてくれた人に恩を返すためにも早く出発しましょう」

 

シンクは驚いた表情をする。


「ほう!やる気満々だな!」


「ええ」

 

ボイドも軽く体を動かし始める。

朝は必ずこうすること!オーラの教えられた通りの動きで体をほぐして行く。

ゆっくりだが大きく体を回すことで全身の筋肉をほぐし即時稼働可能な状態にする。


「ついに来たね、この日が。ボイド、覚悟は決まった?」


「最初から決まってる。10年前のあの日から」

 

ヴェスはボイドのそんな姿を頼もしく思いながら見ていた。

そこへパンと手を叩いた音が響く。


「みんな、こっちに来てくれ!」

 

メンバーが口々にアド!と名前を呼んだ。その声をアドは厳かに抑える。


「さて、みんな、ついにこの日が来た。私は三十年この日を待っていた。この時と光の決起団にメンバーを集めていたが、騎士団団長に張り合える人物がいなければ、意味が無かった。だが幸運にも私たちには力強い見方も現れた!もしかしたら私が生きている間には実現しないかと思ってもいたが・・・。この、ときに立ち会えてよかった」

 

メンバーは固唾を飲んでアドの言葉を聞いている。


「みんなも知っての通りこの国は腐ってる!少女の命を使って権力を示そうとする。そんな国は間違ってる!今、私たちが正そう!この国を正そう!時と光の女神様の加護のもと、少女を救い出し、国を変える!」

 

アドは大きく息を吸い込んだ。


「時計塔の頂上でまた会おう!俺に続け!!」


「おお!」


メンバー全員が短い返事をして、走り出した。

洞窟に掲げられたランタンが次々視界の後ろに流れていく。

ボイドたちはスタートが少し遅れたが、すぐさま先頭にいるアドに追いついた。


「早いね!ボイド君!」


「この道はどこにつながってるんだ?」


「王城の一階、大きなホールの床下です!先に行ったメンバーがタイミングを見計らって開けてくれるはずです!」


そうして、少し走ると石と石がこすれ合う音が洞窟内に響く。

ボイドは正面に階段が見え始めた。

階段を覆っていた石のふたが開き、月の光が明るく出口を示す。


「あの階段を上った先です!」


そういわれたボイドは我先にと王城の中に雪崩れ込んだ。

 

ホールにいた警備の赤いアーマーを身に着けた衛兵は、急な襲撃に対応しきれず、また、先陣切って走り込んだボイドに殴られ吹き飛ばされていく。

すでに、ホールの警備兵は右往左往するだけの役たたずになってしまっていた。


王城から緊急の襲来を意味する警鐘が鳴り始める。

その途端、滑るように漆黒のアーマーを身に着けた騎士が、ホールに駆け込んだ。

雪崩れ込んだ団員達と騎士たちの戦闘が始まった。ホールは怒号と悲鳴の嵐となった。


「うおおお!」

 

ボイドたちの方にも騎士が一人駆け寄った。


「俺に任せろ!」

 

間髪入れずシンクが飛び出した。


「シンク!」


「俺に任せて先に行け!」

 

シンクはブワッとブレードを抜く。

緑の光がまばゆく輝いた。

敵の騎士は赤いブレード。

ボイドはシンクの勝ちを確信するとその横を通り過ぎる。


「頼んだ!」


シンクに対峙した騎士は驚きの声を上げる。


「シンク・・・?もしかしてシンケールス元団長?」


「よう、久しぶりだな?俺も衰えたとはいえ元団長だ。心してかかってこい」


ボイドとヴェスはアドに一度案内されていたため、簡単に時計塔へ続く階段にたどり着くことができた。

しかし、階段の手前、少しひらけた場所に騎士の小隊が待ち構えていた。


「団長のいう通り、ここに来るものがいるとは!貴様!何者だ!」


「くそっ、ここにも!」


「喰らえ!」

 

相手の騎士たちはオーロラショットを取り出した。


「あれは!屋台の銃!」


「あんなちゃっちな銃の百倍威力あるわよ!」


「撃て!」

 

騎士の隊長らしき男が号令をかけた途端、ボイドとヴェスに無数の赤い光の線が迫った。


「くそっ!」

 

ボイドは悪態をつきながらも、腰の位置にあるブレードを引き抜いた。

ボイドの動きには無駄がない。

その無駄のない動きを光の力によって強化している。

そのため、騎士たちが気がついたときにはボイドの手にブレードが握られ、ブレードからは藍の光が輝き、ボイドの全身は紫の光に覆われ、さらに、ボイドの周囲に藍のきらめきが残っていた。


「・・・何が・・・?お前・・・いったい何をした!なぜまだ生きてる!」


「全部弾いただけだ。何を驚いている」


「・・・嘘だ。そんなことできるやついるはずがない!お前たち!何か仕掛けがあるに違いない。乱反射させろ!撃て!」

 

隊長の指示通り隊員たちは壁や床に光線を反射させてボイドを狙う。


「無駄だ」

 

ボイドはブレードをほとんど動かさないまま、光線をはじき返した。

赤い光線があちこちに散乱する。


「どいてもらえないか。これ以上戦っても無駄だと思うんだが。俺が藍の光を扱ってる事からもわかると思うんだが?」


「それもハッタリだ!団長と同じことができるやつなんていない!くそ、銃が効かないなら直接攻撃するまで!かかれ!」

 

うおおお!という掛け声で騎士がブレードを抜いてボイドたちに襲い掛かった。


「仕方ない、戦うぞ!」


「任せて!」

 

ヴェスも短剣型のオーロラブレードを抜く。

この七日間でアーマーの力を借りれば緑の光まで扱うことができるようになった。

 

ボイドは敵の先頭を一刀で切り捨てる。

騎士たちのブレードは緑だ。日頃から訓練しているだけはある。

しかし、ボイドのブレードの前では無力だった。

一刀で一人ずつ片づけると、あっという間に小隊の人数を半分に減らしてしまった。

そうしてボイドは威圧するように大きくブレードを振り払った。

ほとんどの騎士たちは腰が引けてしまっていた。


「こら!お前たち何をっ・・・」

 

小隊の隊長は最後まで言葉を発することができなかった。


「後ろに注意しなきゃね!」

 

ライトアーマーの力を借りてより素早くなったヴェスが後ろから隊長の喉を掻っ切っていた。


「さて、隊長は死んだわよ!まだ戦いたい人はいる?」

 

そうして周囲を見渡したとき、ヴェスは階段の入り口からボイドにライトショットを向けている騎士がいることに気がついた。

ヴェスがボイドを見るとすでにブレードをしまって階段を上り始めていた。


「ボイド!」

 

光線が発射される爆音がとどろいた。


「ぅう!」

 

ボイドが気付いた時にはすでにヴェスの体が光線を受け止めていた。

相手の光線はボイドを狙ったものだった。

そのため、光線の色は紫に設定されていた。

当然、紫の光を撃つことは両手で抱えた大砲を撃つようなものである。

撃った者もただでは済まない。

反作用で吹っ飛んでいるだろう。

そんな状況で狙いなど定まるはずもなかった。

だが、女神のいたずらか。そんな高エネルギーの光線がまっすぐボイドに向かっていた。

 

紫のライトショットの光線は通常、人の体一つでは防げない。

そもそも、直進する光線を防ぐにはいくつか方法がある。

一つが鏡で反射する方法。

この方法が最も有効な手であり、短時間ならば光線を防ぎ続けることができる。

しかし、長時間にわたって光線を防ぎ続けると鏡が熱を持ち溶けだしてしまうと言った欠点がある。

ボイドのようにブレードではじく方法もあるが、一部の剣術の達人が研ぎ澄まして初めてできる芸当であり一般人には無理である。

三つ目の方法はオーロラアーマーで受け止めることである。

光線より上位の色の光で受け止めれば軽傷程度で光線を受け止めることができる。

だがこの方法も上位の光のアーマーを纏うことができる実力者を悪くせれば失うことにもつながりかねないためほとんど用いられない。


しかし、今回は少し違った。

ヴェスは最初からボイドに何かあったとき身を挺して守ると決めていた。

そこでシンクに無理を言って、アーマーの下に鏡を仕込んでいた。

この鏡が紫の光線の衝撃を受け止め切れず四散。

散り散りになった鏡は、そのおかげで光を霧散させ、結果、ヴェスの肩で光を受け止めるに至ったのだった。


「ヴェス!」


 ヴェスは左肩が吹き飛んでいた。倒れていくヴェスをボイドは優しく受け止めた。


「・・・怪・・・我は・・・?」


「左肩が全くない。腕もだ」

 

ヴェスは少しほほ笑んで言った。


「ちがうわよ、・・・馬鹿ね。あなたのけがは・・・?」


「俺?俺は大丈夫だ。それよりもヴェスの傷は焼け焦げてるとはいえ血が出てる。止血しないと・・・!」

 

そうして、自分の服を破こうとしたとき、ヴェスの右手がボイドの肩をつかんだ。


「なら・・・!はやく!・・・行って!」

 

怪我人とは思えないほど強い力でボイドは肩をつかまれていた。


「ここは私に任せて・・・!」

 

ヴェスはボイドに預けていた体を起こし、立ち上がると自分のブレードを左肩の傷に当てた。


「くあああ!うらぁぁ!」

 

悲鳴とも気合を入れる声を出したヴェスは片手で短剣型ブレードをポンポンと弄ぶ。


「さっさと行け!この鈍感ボイド!」

 

ボイドはそんなヴェスを黙って見つめると踵を返した。


「・・・頼んだ」


「任せなさい。後で追加料金をもらうんだから!」


「そうだな!」

 

ボイドは階段を力強く走って登りだした。

そんなボイドを見送ったヴェスは大きく息を吸って、ゆっくり吐くと騎士の小隊に向けて言った。


「さて、騎士団の皆さん。私は片腕をなくして瀕死。でも、ここを通す気は全くありませんよ。死ぬ覚悟ができた方からいらっしゃい」


静かに語りかけるヴェスの背後には死神の化身が見えるかのような雰囲気だった。



階段を上るボイドは不思議に感じていた。

ヴェスはなぜボイドのことを身を挺して守ったのか。

片腕を失うという大きなけがをしながら、さらにボイドをかばうことをしたのか。

 

自分はそこまでの価値がある人間だろうか。

自分は光の祝福の無い人間だ。

心の無い人間だ。

心がないということは他人に同調することが無いということ。

そんな自分に対してなぜ、どうして、助けるという選択肢が生まれるのか。

自分を助けても大した意味はない。

自分は他人を助けることはない。

俺が助けるのはオーラだけだ。


オーラだけ?俺はなんでオーラを助けようとしてるんだ?

オーラは俺の恩人だ。

剣術を教えてくれた。

俺をめんどくさい奴らから遠ざけてくれた。

オーラの両親にも世話になった。

ここまでの剣術を得ることになったのはあの二人のおかげだ。

その恩を返そうとしてるだけだ。

 

ボイドは何度も自答した言葉で自分に言い聞かせると階段を上る速度を速めた。

時計塔の最上階、その入り口を思い切り蹴り飛ばして開けると、一人の男が立っていた。


「待っていたぞ。少年」

 

腕を組み仁王立ちしている男はボイドをまっすぐ見ていた。


「フォルテ」


「そうだ、お前を待っていた」


「そこを、どけ。俺はお前が名前すら忘れてしまったそこの少女を助けるために来たんだ」

 

フォルテの奥には先日見た時と全く同じ姿勢で座る白いワンピースの少女が見えている。

今日は全く叫んでいない。


「知っているとも。こちらの時計守りの少女がオーラ。それを助けに来た光無しのボイド少年」

 

ボイドは面食らってしまい、ブレードのほうにやっていた手を止める。


「・・・なぜ彼女だけでなく俺の名前を?」


「ふっ。君と戦ってから随分昔にわれら漆黒の騎士団に逆らった少年が一人いたことを思い出したんだ。私が入団してから、われらの騎士団にたてついた者は君しかいなかったからな」

 

フォルテは少し笑顔になった。


「そしてもう一つ、君と戦ってから思い出したことがある。私はある預かりものをしてるんだ」

 

そういってフォルテは胸の内から少し黄ばんだ封筒を取り出した。


「この手紙の差出人はオーラ。宛名はボイド」


「えっ?」


「よく聞け」

 

フォルテは重々しく手紙の内容を語り始めた。


読んでいただき、ありがとうございます!

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