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ヴェスはボイドと長い時間いたわけではない。
セントラルの郊外でボイドと出会い、セントラルに入るにはどうしたらいいかと聞かれ、金額を提示したら、ボイドがそれを支払っただけだった。
そんなヴェスでもオーラという少女の話をするボイドの雰囲気がなんとなく柔らかくなっていることに気が付いた。
ヴェスは笑顔とも困った顔ともとれるような微妙な表情でボイドの話を聞いていた。
「そんな不可解な日々は突然終わった。真っ黒に塗ったアーマーを纏った集団がオーラを連れて行ったんだ。連れ去ったのはあのフォルテという男がいる一段だった。俺はその時フォルテに一度負けた。そして、オーラは連れ去られた。俺は半身を持っていかれた気分だった。まだ剣術を教えてもらった礼も言ってない。
村長に言われて俺はオーラに恩を返すため剣術を鍛えることになった。オーラを助けたいと思ったのはそのあとだ。オーラが連れていかれた後、俺はオーラが所属していた道場に入門したんだ。そこでは、オーラの両親が道場主をしていて、オーラのお父さんはとても強かった。その人に鍛えてもらった。それに・・・」
ボイドは言いよどんだ。
「オーラのお父さんは真面目で周囲には必ず誰かがいるような人だった。それが、村長にとって邪魔だったんだろう。さっきも言ったが、俺は村長に言われてオーラ両親の道場に行った。でもこれは罠だった。
オーラの両親は短期間で俺にみっちり特訓してくれた。そして、最後の日。道場に村人が押し寄せたんだ。俺はとても驚いたけど、オーラの両親は落ち着いていた。そしてこう言った。『私たちは君を光無しだと思っていたけど・・・。もし、君が心を手に入れたときのため言っておきたいことがある。これは君のせいではない。それから、私たちの代わりにオーラを頼んだよ』オーラの両親は・・・燃える道場の中で俺を送り出してくれて以来会っていないが、おそらく・・・。俺はオーラにも、オーラの両親にも恩を受けてしまった。そして、最後の言葉。光無しの俺でもこれがどれだけ大切なことなのか分かった。だから、俺はオーラを助ける。そのためにどんな訓練も試練も乗り越えた。
これで俺の説明になってるか?」
ボイドはアジトを見渡した。
全員が神妙な面持ちでボイドの話を聞いていた。
アドが口を開く。
「私が知っている光無しの人々と君は随分違うようだね」
「そうか?」
ボイドはそう聞き返す。
アドはアジトの面々を見渡して、一度うんとうなずくとボイドとヴェスに向き合った。
「どうですか?ボイドさん、ヴェスさん。我々と一緒に戦いませんか?もし共闘してくれるなら我々も援助は惜しみませんが・・・」
ボイドは考えた。
今までオーラやヴェス以外の人と協力して何かを成そうとしたことがなかったからだ。
だが、彼は決断した。
「わかった。よろしく頼む」
「ボイドが参加するなら私も参加するわ」
ボイドとヴェスがそう言った途端、アジトの中に歓声が響き渡った。
「アドさんが認めたなら大歓迎だ!」
「よろしくボイドくん!ヴェスさん!」
するとボイドに初老の男が近づく。
「よし。ボイド。こっちにこい。いいもんやるよ」
「いいもん?あなたは?」
「俺は、シンク。まぁ俺の名前なんてどうでもいい。それより、パワー全開のフォルテと互角に戦うための秘策があるんだ」
ボイドはその男に連れられてアジトの奥に入った。
「これだ!」
男が出したのは一見普通のアーマーだった。
「これ・・・?」
「おいおい、そんな顔をするな。これはな、オーロラアーマーっていうんだ」
「俺は最初からこんな顔だが・・・。それよりオーロラアーマー?」
「ああ、これを着て、ブレードを構えて、アーマーを発生させると光の効果によって身体能力が強化されるんだ」
ボイドはふと、フォルテと戦った時のことを思い出した。
そういえば、フォルテも体が紫色に包まれてから、強くなっていた。
「これって、紫の光で体を包むこともできるのか?」
「できるぞ。もちろん常人には不可能だがな。一般人がそんなことしてしまったら、体がぐちゃぐちゃになっちまう」
「これを使いこなせればフォルテに勝てるかもしれないのか・・・?」
すると後からついてきたアドが部屋に入ってきた。
「ボイド君。期日まであと七日あります。生身で藍色のブレードを扱えるのですからこのアーマーは間違いなく使いこなせます。焦らずオーロラアーマーの使い方を覚えてください」
ボイドは頷いた。
「では私は仕事がありますので王城に戻ります。後の細かい話はここのメンバーに聞いてください」
ではっと言ってアドはアジトから出て行った。
「これ、訓練するにしても相当のエネルギーが必要になるんじゃないか?」
シンクはにぱっと笑った。
「お、いいとこに気が付いたな。それは問題ないんだ。アドが王城から畜光機をここに持ってきてくれてるからな。光には困らないぞ」
「・・・なるほど」
そういう法律などには疎いボイドだが、さすがにそれはダメなんじゃ?と思った。しかし、シンクが得意満面の表情で言っていたので、その感想が言語化されることは無かった。
「さて、さっそくアーマー着てみな!」
半ば強引な形でシンクはボイドを広い部屋に連れて行くと、ボイドにオーロラアーマーを着せた。
「・・・着るなんて言ってないんですけど・・・」
「着たいって顔に書いてあったよ?」
ボイドは目を見開いてシンクを見ると、軽く飛び跳ねてみた。
「俺、顔に文字なんて浮かばないんだけど。それより、結構重たいな。ほんとに動きが速くなるのか?」
「まぁ試してみろ。ほらこれ構えろ」
シンクはボイドにオーロラブレードを投げて渡した。
「構えればいいのか?」
シンクは何も言わずニコニコしている。
ボイドは少し迷って鞘を付けたままブレードを振った後、ブレードを引き抜きいつも通りの構えをした。
そして、シンクと対峙し、切り合う覚悟を決める。
オーロラブレード特有のブーンという低い音が鳴り、部屋の中が藍の光で満たされる。
それに合わせてアーマーからも同様の音が鳴り、アーマーの重量がすっと軽くなり始める。
「うお・・・」
ボイドは思わず感嘆してしまった。
「すごいだろ?今は黄の光に設定してあるから大した効果は無い。せいぜい普通の鉄のアーマーの強度があがって軽くなるだけだ。でも藍や紫の光にすると、その影響はアーマーの中の身体にまで及ぶ。ちょっと藍の光で試してみるか。ブレードを鞘に戻してくれ」
ボイドがブレードを戻すとアーマーの重量が帰ってくる。
「発動はどういう条件なんだ?」
「いつもの構えをする。そして本気で戦う、その心構えが整ったら勝手に発動する。色は先に調整しなきゃいかんがな」
シンクはボイドの背中で何かカチャカチャと作業をしている。
「なるほど。そんなところに調整具があるのか?」
「これは鎧によってさまざまさ。だが俺の場合は背中に着けることが多いな。背中とられてんならその勝負は負けだと思ってるからよ」
「なるほど。確かに」
ボイドは納得した。シンクはアーマーをパンとたたいた。
「さて、調節完了。さっきと同じようにしてみろ」
「わかった」
ボイドはブレードを抜くといつも通りの構えに入る。ブーンという音。
アーマーも同様だ。
あれ?さっきよりブーンという音長いな?
そう思ったボイドが周囲を見て気が付く。
遅い!
顔を上げるとシンクがボイドに向かって手を挙げている。
いや、手を振っている。
ただし、一往復するのに二十秒くらいかかっていそうなほど、ゆっくり振っている。
試しにブレードを何回か振ってみる。
ブレードは自分の思った通りに振ることができた。
いつもやっている素振りの型の一つを一通りやったところでブレードをしまった。
周囲の人の動きが通常に戻った。
「どうだった?」
「すごいな。自分の動きにそこまでの変化は無かったが、周囲が遅くなっていた」
「何言ってるの?」
ヴェスが口をはさんだ。
「ボイドの動き、途中から私全く追いつけなかったよ。ものすごく早かった。あの戦いの時より格段に速く動けてると思うよ」
「俺が速くなってる?」
シンクがうなずく。
「俺にはかろうじて剣術の一つの型をやっていることがわかったくらいだ。お前さんが速くなってるんだ。その証拠に周囲の動きがものすごく遅くなったような感覚にならなかったか?」
「なった」
「その領域に入れてるなら十分だ。おそらくフォルテはその領域に入ったお前でも普通かそれ以上に早い動きをしてくるはずだ。これから七日間はそのア^マーの使い方を特訓しないとな」
「なんであんたそこまで知ってるんだ?」
「俺も昔そのアーマーを着てそのブレードを振っていた。昔は王城の警備のすべてを任されていた。だが、時々王から少女を連れてくるように命じられた。毎年、必ず。多い時は三人連れてきたこともあった。ずっと懐疑的だったんだ。女の子を連れていく、そのためだけに各地を回っていたことが。そんなときアドに言われたんだ。俺が連れ帰った少女は時計塔の上で苦しんでるってな。俺はその日、騎士団をやめたよ」
何かを思い出すような表情をしたシンクはヴェスの方を見る。
「まぁ、その話はもういい。さて、女性用もある。あんたも青の光かその手前くらいまで纏えるようにしときな!よし、いっちょやったろか!」
「あ、それなら私、一つお願いがあるんですけど!」
シンクが叫んでいる横でボイドは思案していた。
フォルテがいる世界はこれよりも速い領域・・・。光によって時を捻じ曲げるほどの世界か・・・。
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