3-2
「開かねぇんだよ!」
アドも大声になる。
「その扉はな、十年に一度しか開かねぇんだ!定められた時間以外の時に開けようとすると中の少女は死んでしまうんだ!」
ボイドは鉄格子を引きちぎろうとしていた手を止めた。
「なんだって・・・?」
「俺だってな、伊達に宰相やってねぇんだ。過去の記録を見る機会はたくさんあった。この国は何百年と続いているから、こうして少女を連れ戻すために王城へ攻め入る人がいたことはすぐにわかった。そのほとんどは漆黒の騎士団によって阻止されている。だが一人、何百年と続くこの国の歴史の中でたった一人、恐ろしく強い者がいたんだ。その男は騎士団を蹴散らしここまで来た。だが、その男は少女救出に失敗している!」
アドは少し涙目になっている。
「この牢を壊す。それだけで少女の命を奪ってしまうんだ!自分の体がもう二度と剣を握れなくなってしまうほどボロボロになってまで無理して騎士団を蹴散らして助けに来た強者は、扉をこじ開けた途端目の前で少女が燃え始めてしまったんだ!・・・そこだ」
「えっ?」
アドが急に小さな声で呟くのでボイドは聞き返してしまった。
「ちょうど君が立っている場所だ。少女の正面。その場所でその強者は自分の首を切ったんだそうだ」
ボイドは自分の足元を見る。
血の跡などは特に残ってはいないが、なにか感じるものがあった。
オーラの低く響く声、巨大な歯車が一秒を刻む音。
水の落ちる音が混ざる。
「なぁ、ヴェス。その男はなんで少女を助けに来たんだと思う?」
「私にはわからないけど・・・。少女のことが好きだったんじゃないかしら」
「・・・好き・・・か。アド、どうしたらオーラを助けられるんだ・・・?」
ボイドはうつむいてそう言った。
「落ち着きましたか。うむ、実は私の話もそこにあるのです。君はこの子を助けに来たんでしょう?そこでだ。今年はちょうど少女が交代する年なんです」
「なるほど!その時を狙うのね?」
ヴェスが暗い雰囲気を何とか緩和するために勤めて明るい声を出している。
「ええ。交代するその時。それが少女を救い出すチャンスです。いや、むしろそこしかないんです」
「どういうことだ?」
「まず、今、少女を助けると死んでしまうのはわかっていただけましたか?」
「ああ、わかった」
「よかったです。十年に一度交代する時扉が開く。この時、少女は安全にあの鉄格子の部屋から出られる。これもわかってもらえましたか?」
「それも大丈夫だ」
「よし。それで、問題となってくるのは交代し役目を終えた少女の行方が全く分からないことなんです」
「えっ」
「私は宰相としてこれまで三人の少女が交代する時を見てきました。宰相の私でも交代の時、この部屋には入れませんが。交代した少女がどこに行くか、それを追いかけていたんです。だがわかりませんでした。消えてしまうんです。まるで霧のようにつかみどころ無く」
「・・・アドさん。あなたはなんでそこまでしているんだ?」
「さっきも言いましたが、私が宰相になって初めて見せられたのがここにこうして座る少女だったのです。こんなふうに恐ろしい声で叫ぶ少女。私は戦慄しました。こんなことが許されていいのかって思ったんです。それで少女のことを調べ続けていました」
「なるほど。わかった。あなたを信じる。それで、オーラを助けるチャンスは一瞬なんだな?」
「ええ、この光の十日祭の最終日、午後十一時から一時間。これが彼女を助け出す最初で最後のチャンスです」
ボイドは鉄格子に頭を打ち付けた。
「七日後か。その時を狙えば、オーラを助けられるんだな?」
「ああ」
アドはそこで一度言葉を切ると、決心した顔付きでボイドに言った。
「そこでだ。実は、私の組織があなたの目的に協力できると思うのです?」
「組織?」
カツンという音がしてアドの部下だという衛兵が扉から現れた。アドはそれを見てハッとした表情になった。
「・・・ここで話すことではありませんね。一緒に来てくれませんか、ぜひ参加してほしいんですが。ぜひ二人とも」
「わかった。ヴェスも来るか?」
ヴェスは大きくうなずくと言った。
「当たり前でしょ。ここまで来たんだもの」
「よし。こちらです、来てください」
ボイドはそこでオーラの方を振り返るといった。
「待ってろ。必ず迎えに来る」
なんだかオーラの口が動いた気がした。
ボイドたちが閉じ込められていた牢屋には王城の地下に張り巡らされた地下道への隠し通路が隠されていた。
アドは通路のことを王の逃げ道などと言っていた。
火急の時に王が逃げるための道が、王城の中にはたくさん隠されているらしい。
しかし、何百年という国の歴史の中で、この国は王が逃げ出す必要があるほどの火急の事が起こらなかった。
王も橙続く中で、隠し通路の引継ぎが途絶え、途絶えては増築し、途絶え、増築・・・。
繰り返すことで何百と隠し通路が張り巡らされてしまったようであった。
そんな王城の地下に張り巡らされた下水道から、ボイドたちはアドが組織と呼ぶ団体のアジトに着いた。
「こんなところにアジトを作っていたのね・・・」
「ああ、騎士団の警戒網から外れていて、かつ、王城に近いアジトが必要だったんです。そんなとき、ここを知りました。さて、そこに立って静かにしていてください」
アドはアジトの木の扉をとんとんとノックした。
「何の用だ?」
「使いの者です。夜のささやかな星を届けに来ました」
「ほう、わざわざ申し訳ない。その星はどなたから?」
「時と光の女神さまからの贈り物です」
アドは言うのと合わせて足を二回、指を一回鳴らす。
「ありがたいことだ。使いの者よ。この愚者に教えてほしい。女神さまは何をお信じになられているのだ?」
「時と光の暖かさでございますれば」
アドはそこで右足を一歩引いて深々とお辞儀をした。
「女神様の使いの方に閉ざす戸は無い。ぜひお入りください」
すると扉がゆっくりと開いた。
「これを真似しようとしても無駄ですよ。言葉より音を立てるタイミングや音量、しぐさが大事なんです」
「別に真似しない」
ボイドがあっさりそういうとアドは少しうつむいた。
「・・・中に入って。みんなに君たちを紹介します」
「アドさん!お帰り!」
「アド!元気にしてたか?」
「アドさん!この侵入経路でいいと思いますか?」
「これ新しい光機なんですけどどう思いますか?」
アジトに入った途端、アドは取り囲まれてしまっていた。
ボイドたちはその様子を後ろから見ていた。
「すごいな」
「ええ、すごい人望だわ・・・!」
アジトのメンバーに囲まれ、いっぺんに話しかけられていたアドは手を挙げて止める。
「待ってください、みなさん。紹介したい人がいるんです」
そういってボイドたちを指す。
「ボイド君とヴェス君です。この二人はオーラという少女を探してこの王城に来ました。二人とも、すまないが自己紹介をしてくれませんか?」
するとヴェスが先に手を挙げた。
「はいっ!私はヴェスよ!実際にはこっちのボイドに雇われたセントラル出入りコーディネーターよ。まだ一緒にいるのは成り行きね。はい、ボイド、どうぞ」
ヴェスに催促されボイドも自己紹介を始める。
「ボイドだ。オーラという少女を助けに来た」
アジトの中が静寂に包まれる。
アジトのメンバーは聞き耳を立ててボイドの次の言葉を待ったが、続くことは無かった。
そこで、アドが続けた。
「二人とも多くを語るタイプではないようですね。私から補足で説明させていただくと、ボイド君はめっぽう強いんです。これは聞いた話なんですがあの黒の騎士団のフォルテとも互角に戦えたみたいなんです」
「そりゃあすげぇ!」
「あの怪物、フォルテと?ほんとかそりゃ」
アジトの中がざわめき始めた。
いまだ口を開かないボイドにアドが聞く。
「ボイド君から見てフォルテはどうでした?」
「・・・強い。最後、負けた時には紫のブレードを使いこなしていた。俺でも藍のブレードが限界だ。百回やったら百回負けると思う」
弱気な発言と取られかねないこの発言に、アドは満足気な顔をしてアジトを見渡す。
「みんな、ボイド君の装備はブレードだけだったんだ。この意味は分かるよね?」
すると周囲のざわめきがさらに大きくなった。
「おいおい、マジかよ・・・」
「こりゃもしかしたらもしかするぞ・・・」
「ヴェス君もこれまでこのセントラルにいろんな人を不法侵入させてきた凄腕の人です。その噂は皆さんも聞いたことがあると思いますが・・・?」
「そういえば、聞いたことがある・・・。これまで一度もバレたことがないセントラル侵入コーディネーターがいるって・・・。料金が高すぎて申し込んだことないけど・・・。まさかヴェスさんのことですか?」
「んー、そうね。一応訂正しておくと、セントラルの出入りコーディネーターよ。でも、まぁこのボイドをセントラルに入れようとするまでは失敗したことなかったわね」
「すげぇ・・・、そんな人たちが俺たちの味方になってくれたのか・・・!」
アジトの中は高揚した雰囲気に包まれた。
そんなアジトの雰囲気を眺めたアドは満足そうにうなずくとぱんぱんと手を打った。
「さて、そしたら、私たちのことを話そうか。おーい誰か机と椅子とお茶!」
「はい~!」
アジトの中はあわただしく動き始めた。
ボイドたちの前には瞬く間に机と椅子が並べられ、机の上にはテーブルクロスが敷かれ、椅子にはクッションが据えられ、机の上にはお茶と甘そうなお菓子が並んだ。
五分も立たないうちにボイドたちは椅子に座ってお茶をすすっていた。
周囲にはボイドたちを見ようとアジトのメンバーが集まっていた。
少し落ち着いたところでアドが切り出した。
「さて、この組織を紹介しましょう。私たちの組織名は『時と光の決起団』。女神様のもと私たちが少女を救うというわけです。この組織は私が二十年以上かけて一人ずつ声を掛けて集めました。この国をよくしたいと心の底から思っている人に、現状を話し私の考えに共感してくれた人たちです。皆さん普段は町で普通に暮らしています。その素性を隠して。ここにいるメンバーは信頼できる優秀な仲間たちなのです。このアジトはそのメンバーの一人が見つけてくれた場所なんです」
「仲間・・・。この組織の目的は?」
ボイドがそう問いかけた。
「少女の解放と現国王の打倒。それが我々の目指している目標です」
「国王を倒した後はどうするんだ?」
「倒した後議会を設立しようと思います」
「議会?」
ボイドとヴェスは首を傾げた。
「ええ、この国の政治を話し合いで決める場です」
「話し合い・・・」
「ええ、良い事、悪い事を話し合いによって決めます。それによって最後には光の色による格差、さらに貴族という制度をなくし平等な世界を実現しようと思っています」
ヴェスは深く感心した顔で言った。
「すごいですね!」
「ヴェス、どういうこと何だ?俺にはよくわからないんだが。俺には政治なんかわからない。そんな全員が参加できるようにする必要なんてないんじゃないか?誰かわかる人がやった方がいいんじゃないのか?」
「とにかくすごいのよ」
アドはがっくりと肩を落とした。
「今のボイド君の発言がこの国の実情を如実に表しているんです。何百年と続く王室は、国民から反発を買うようなことをしていないんです。この国は平和そのものです。でも、それが危険なんです。現に王政で滅びた国はたくさんあります。もちろん議会制にしたからと言って滅びないわけではありません。でも、仮に滅びるとしても議会制のそれは国に住む全員の責任です。王政においてそれは王個人にゆだねられてしまう」
ボイドもヴェスも目をパチパチする。
「確かにボイド君の言うように、政治のわかるものに託してしまうことが最も楽なことです。ですが、それでは、私たちは管理された家畜と変わらないのです。生活の待遇に文句を言うだけの牛や豚と大差はないのです。自分たちのことを他人に任せるというのはそういうことなのです」
「家畜・・・」
ボイドは目を丸くして聞いていた。
村に生活していた彼にとって、自分の生活が家畜と変わらないなどと考えたことなどなかった。
「・・・ふっ。君たちも少しは今のこの国の形が良いものでないことに気が付いてくれたならうれしい。さて私たちの話はこのくらいにして。次はボイドさん。どうやってそこまでの強さを得たのですか?それに、オーラという少女をどうして救い出したいのか、理由をお聞きしたい」
ボイドはしばらく黙っていた。
沈黙に耐えかねたアドがまた今度でいいと言おうとしたとき、ボイドは語り始めた。
「・・・俺はもともと光の祝福を得られなかった死人だ」
部屋の中から数人息を吸い込む音が聞こえた。
ここでも光無しは敬遠されるのか。
ボイドにとってこの反応は予想通りだったか、少し別の反応を期待していただけに、残念だった。
「いや、死人だったか・・・。村でも光の無い死人として扱われた。だがそんな俺に声をかけてくれる人がいた。それがオーラだ。あいつは俺がどんなに迷惑がっても俺に近づくのをやめなかった。それどころか、ただ死ぬのを待つだけの存在だった俺に剣術を教え始めたんだ。最初はなぜそんなことをやってるのか分からなかったが。気が付くとそれが普通になってた」
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