プロローグ
「・・・はぁ・・・はぁ・・・」
青年は息を切らせて一歩ずつ前に進む。指先から歩調に合わせて一滴ずつ血が滴っている。
全身を覆う光のオーラ、オーロラアーマーは光がまばらになってしまい、元の輝きを失っていた。
その隙間から見える傷口は焼かれ溶けた皮膚が固まり、一部からは血が流れ出ている。
端的に言えばぐちゃぐちゃになっていた。
無理に無理を重ね限界を超えた体は内部から破壊され、傷口ではないところまで黒ずんでいる。
青年の整った顔立ちは汗とすでに乾いてしまった血でドロドロになっている。
その表情は、しかし、これから起こることに対する希望に満ちていた。
重たい足取りで両開きの鉄格子の扉にたどり着くと、扉の取っ手に手をかけようとする。だが、青年の手は青年が思っていたほど持ちあがらない。仕方なく扉に全身の体重をかける。扉の蝶番が悲鳴をあげながら、ゆっくりと扉は開く。
「はぁ・・・やっと、・・・会える。」
部屋には青年の背丈の倍以上ある大きさの巨大な歯車がいくつも噛み合わさって、規則正しいリズムを刻んでいる。
動くたびに床が振動している。
青年は機械的でなんの色味もなく暗い部屋の中に、白色に輝く少女を見つめている。
少女は白いワンピースを着て青銅の椅子に座っていた。
その部屋の中でもその存在を見ることが出来るほどに少女自身は淡く光っている。
少女から発せられる白い光は歯車の動きに合わせるように強まったり弱まったりしている。
やがて少女は青年の方向に顔を向けるとぱくぱくと口を動かし始めた。
焦点こそ合っていないが、少女が青年に伝えたいことがあると青年は感じた。
しかし、少女の細い声は、巨大な歯車の規則的な音が部屋の中に響いて掻き消してしまっていた。
青年は力の入らない足を引きずって、歯車の並ぶ部屋の中央にいる少女に歩み寄った。少女が座る椅子のすぐそばについた時、ストンと膝から前に崩れ落ちてしまった。
何とか膝立ちになった青年は少女に声をかける。
「・・・なんだい?」
青年は痛む全身の感覚が無くなったかのように、優しい笑みを浮かべて少女に話しかけた。
「ウゥ・・・!アァァァ・・・!」
その声は少女の青年への返答ではなかったように聞こえる。
少女の声は地の底から響くような、低くおぞましい声だった。
しかし、青年にはその気持ちが伝わったのか、青年はうなずいて返事をした。
「・・・ゲホッ・・・。ごめん・・・十年、待たせた」
青年の声に血が混ざる。
青年は気がついた。
少女の姿が十年前と変わっていないことに。
「・・・はぁ、・・・本当に何にも変わってないんだな・・・。今・・・助けるよ・・・。僕の番なんだから・・・。」
立ち上がろうとした青年は、足に全く力が入らず、ふらふらと少女の胸に顔を埋める。
青年には少女の鼓動の音だけが聞こえていた。
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