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虚無子の冒険。  作者: 愛謳歌
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本につく妖精

 扉をくぐった私は小さな妖精の絵が飾られた廊下を歩いていた。

「部屋を通るだけでいいなんて簡単じゃない。早く一緒に優雅な暮らしがしたいわ」

 アンドリューに話しかけながら私は最初の部屋を目指した。

「それにしても最後の言葉はどういう意味?」

(一癖も二癖もあるなんて、どう考えても癖があるのは管理人の見た目よ)

「……まぁ別に話しかけるわけでもないし、どうでもいいことね」

 私は体に力を入れながら歩き、扉についた。


 青色をベースとした綺麗な飾りで彩られた小さな扉。私が屈んでようやく通れるくらいの大きさであった。

「小さい扉……中の人は小人か何か?」

 冗談で言った自分の言葉に私はドキリとした。

(中の人と言ったけど、本当に人? 管理人でさえ人間ではなかったのに……)

(一癖も二癖もあるって……もしかしてそういう……)

 不安な気持ちが徐々に私の心を染めていく。

「……まぁ何が来ても平気よ。ただ出口から出ればいいのだから」

 震える声で私はそう言って扉を静かにあけた。


 *


 部屋の中は本であふれかえっていた。

 たくさんの本が本棚に収められ、あるいは床に散らばっていた。

「まるで図書館みたい……」

 窓がなく少し暗いが、図書館のような部屋であった。


「とりあえず出口を探さないと」

 私は次の部屋に向かうために本棚に挟まれて作られた通路を進んだ。

 私は足元に散らばる本に気を付けながら歩いた。

 大きい本。赤い本。綺麗な本。汚い本。

 様々な本が周りに広がっており、まるで海の様だと私は思った。

(周りに散らばる本が海ならば、本棚はさながらそびえたつ波のようね)

 私は不思議と楽しい気持ちになっていた。


 ………

 ……

 …


「意外と広い部屋ね……」

 部屋の探索を初めて十数分、早速私は代わり映えしない風景に飽きていた。

「さっきから歩いてばかりで疲れてきちゃった。ちょっと休憩しようかな」

 私は積み重なった本の上に座った。

 どうせなのでひとつ本をとって読んでみた。しかし見たこともない言葉で書かれており、読むことができなかった。

「なにこれ! 変な言葉で書かれててちっとも読めないじゃない!」

 私は読める本がないか探した。

 すると周りとは少し違った本が目に入ってきた。

 周りの分厚い本に比べてやけに薄い本、茶色の下地に金の模様がついた表紙、中は白紙で何も書かれていない。

 それはノートであった。


「なんでノートがこんなところにあるんだろう……」

 多くの本の中でひとつだけ存在するノートに私は興味を持った。

「このノート、キラキラしてとっても綺麗! 私こういうノートが欲しかったの!」

 金色の装飾を気に入った私はこのノートをもらうことにした。

「誰も使ってなさそうだし貰っちゃってもいいよね。私が使ってあげる」

 そういって私はアンドリューをリュックにくくり、ノートを手に取って眺めながら再び扉を探し始めた。



 探索を再開してからしばらくたち、私はようやく扉を見つけることが出来た。

「やっと見つけた……。さっさとこのつまらない部屋からでて次の部屋に行きましょう」

 そう言って私はドアノブを回し、扉を押した。


 ガチャ  ガチャ


「あれ……?」

 そう言って私はドアノブを回し、扉を引いた。


 ガチャ  ガチャ


 しかし扉には鍵がかかっていた。


「え? 嘘!? 鍵がかかってるの!? そんなの聞いてない! どうやって次の部屋に行けばいいのよ!!」

 私は混乱し、扉を乱暴に叩いた。


 その時どこからか物音が聞こえた。


 私はピタッと動きを止め、勢いよく振り返った。

「誰かいるの!?」

 周りを見渡したが人影はない。しばらくすると少し先でまた物音がした。

 人は原因のわからないものに恐怖を感じる。私は音の原因を調べることにした。


 妙に暗い部屋が私の恐怖心を煽る。

 足元に散らばる本が沼のように私の足に絡まりついてきた。

 周りの本棚の波が私を呑み込まんとばかりに大きくそびえたっている。

 泣きそうになりながら私は進んでいき、音の主のもとにたどり着いた。


 そこには小さな人形のようなものが床に散らばった本を漁っていた。

 私の膝までくらいの大きさ。

 ボサボサの黒い髪に暗い青色の肌。

 布切れのようなものを体に巻いている人形が紐のように細い手足で本の山をかき分けていた。



「あ、あの……」

 私は思わず声をかけてしまった。

 人形は振り返り二つの赤い瞳でこちらを見つめた。

「な、何かを探しているの……?」

 声をかけてしまった私は震える声で話を続ける。

 人形はこちらを見つめながら空に手で大きく四角を描いた。

「も、もしかしてそのくらいの大きさの本を探しているの……?」

 この膨大な量の本の中から探すなんて無謀だと私は思った。

「そ、それじゃ頑張ってね……」

 私は余計なことに巻き込まれないよう最低限のコミュニケーションをとりその場から離れようとした。


 キイイイイィィィ!!


 突然人形は大きな鳴き声をあげた。

「きゃああああああああ!!!」

 私は驚き、手で持っているもので顔を守ろうとした。

 しかし待てども何かが起こる様子はなく、私は恐る恐る人形を見た。

 2つの赤い瞳が私の持っているものを見つめていた。

「あ……これ……ノート……」

 私の顔を守っているものは先ほど見つけた中身が真っ白なノートだった。

(もしかしてこれがこの人形の探しているもの……?)

 突然人形は本を開く素振りを私に見せた。

「え……? 何? ノートを開ければいいの?」

 私は恐る恐る人形の示すとおりにノートを開いた。


[ それ 見つけた ありがとう ]


 先ほどは真っ白だったページに文字が書かれていた。

「文字が……!?」

 私は驚きの声を上げた。

「これ……「見つけた ありがとう」って、もしかして……あなたの?」

 私がそう尋ねるとノートに書かれた文字が少しずつ消え、新たな文字が浮かび上がってきた。

[ 心 声 伝える ノート ]

 心の中の言葉を相手に伝える魔法のノートということらしい。

 私が混乱した頭でノートを見ていると今度はどこからかガチャリという音がした。

「今の音は!?」

[ 見つけてくれた お礼 鍵 開けた ]

 どうやらこの人形が出口の鍵を開けてくれたらしい。


(もしかして、これから先の部屋もこうやって何かを解決しないと扉が開かないのかしら)

 私が状況を把握するために考え事をしていると人形が紐のような手を差し出してきた。私はこの人形がノートを探していたことを思い出し、ノートを渡そうとした。そして途中で止めた。


 私は驚きが薄まっていき、代わりにどす黒い何かが私の心に湧き出てきた。

 魔法のノート、現実にはありえないノート、それが今私の手の中にある。

 このノートがあれば話をしなくても相手の気持ちがわかる。あいつらを見返してやることができる。


 欲しい


 私はそう思ったとたん駆け出していた。

 後ろから大きな鳴き声が。

 ノートには大量の返せという文字が。


 私はひるまずに扉に向かって一直線に走り、出て行った。


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