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てめぇら全員イカれてるっっ  作者: カンパネルラ
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「これぞまさしく運命の」と称するにはあまりにも狡猾で、不可抗力で、放逸的で、身も蓋もないこと②

つづきです

ーーーーずっと二人でいよう


 夏菜は中学生のころ、そんなことを言ったのを、思い出した。もう糸でつながれてしばらくたっていた頃のこと。

 雪矢も、いやそれ以上にずっとそれを記憶しているはずだ。


 

 その時二人は、明らかに三人以上が座るのを想定された大きなソファーにちょこんと腰掛けて、バラエティー番組を観ていた。

 それぞれ何を言うでもなく画面を眺めているだけ。机に広げられたスナック菓子には手もつけられず、開けっ放し。この空間自体放置されっぱなしだった。

 賑わしさとほんのちょっとの倦怠感。

 部屋全体が、それらの入り混じった空気に満たされていたが、そこへ突然夏菜が無理やり身体をねじ込んで来た。



 ねえ、雪矢。

 なんていうかさ、やっぱあれだよね


 なに、いきなり。


 いやほら、ほんとなんていうか、改めて、思うんだけど。


 なんだよ。気持ち悪いなあ。


 やっぱいつも一緒にいるのが当たり前って言うか、私達にしちゃあさ、こうしてなきゃいけないっていうのも、あるんだけどもさ。

 こう、ふとしたときになんだか一緒にいると気持ち良いなあ、って思うの。その瞬間が一番好き。


 夏菜は言ってしまってから、何だか柄にも無いことを言ってしまったな。などと心の隅で少し恥ずかしく思った。

 また雪矢のことだからバカにしてかかるのだろう。

「お~、見も心も俺無しじゃあいれないって?参っちまうなぁモテる男は辛いぜ」

 などとおちゃらけるに決まってる。


 ふうん。そっか。 


 だが予想に反して雪矢の反応は素っ気無く、ということもなく、かといってふざけるでもないというごく平凡な反応だった。

 なんだか肩透かしを食らった気分だ。なんだ、普通じゃないか。

 何故かがっかりしていると、


 俺もそういうの、あるよ。


 共感されるとは思っても見ず、夏菜は目を丸くした。


 雪矢にも?


 うん。それにさ、夏菜の気持ちがビシバシ伝わってくるんだ。この糸を通して。その気持ちがよく分かる。


 ええっほんと?!


 マジで。


 うわーすごい。面白い!


 嬉しくなってはしゃいでいると、雪矢がふ、と笑った。それは確かに、夏と冬をない交ぜにしたようなーーーー春の日差しのように温かく、黒土のように柔らかな表情だった。

 夏菜はつい見蕩れて、こんなことを口走った。


 ずっと二人でいられたらいいね!ううん、ずっと二人で一緒にいようよ!


 熱に浮かされたようにそんな提案を持ちかける姉に雪矢は少しの間驚いたように見ていたが、突然顔を背けた。


 は?あったりまえじゃん?・・・・・・つーかさ・・・・


 ん?なに?


 そ・・・・れって、最後まで言葉の責任はとるってことでいいんだよな?言質とったかんな?


 様子が可笑しい弟に、不思議に思った夏菜は顔をのぞきこんだ。それをガシッと押さえ込まれる。


 うん。だって私達、どこでも一緒にやってきたじゃん。死なばもろとも!だよ


 そっか・・・・・・。


 っていうか何で雪矢はあっち向いてんの?こっちみなよ。


 うるせー。左手貸せ。


 途端に乱暴口調になる。む、と夏菜は顔をしかめた。


 雪矢は自身の左手と夏菜の手とを絡みあわせると、夏菜を見つめる。


 いいか。姉ちゃんが言ったんだからな。責任とれよ。


 半ば脅すような雪矢に、夏菜は異常なほどの真剣さを感じた。ごくりと唾を飲み込んで、握り合った手に力をこめる。雪矢の言うように、自分の言葉に、責任を持とうと思ったのだ。


 うん。雪矢。幸せにするよ。


 プロポーズかよ。つかそれ寧ろ俺のセリフだろ。


 なんとなくこういう場面をドラマでみたのだ。言ったほうが良いだろうと思ったのに突っ込まれてしまった。


 お、俺たちは、いつも一緒なんだからな。


 うん。ずっと二人でいよう。よし私、結婚なんかしない!うん決めた!伴侶は雪矢だけー!


 うっせー。騒ぐな。伴侶なんて言葉姉ちゃんの癖してどこで覚えたんだよ。


 大好きな少女マンガであったのだ。二人は手を取り合って結婚を誓い合う。幸せそうな二人の様子が羨ましかった。だから、この言葉を使うときが来たと思った。

 思いの通じ合った二人が永遠を誓い合ったそのとき、ようやく「伴侶」になれると知っていたから。


 ・・・・あれ?雪矢どうしたの?


 っ!こっち見んなばーかばーかばか夏菜。


 普段ならこの理不尽ば罵声にも「なにをー!」と怒っていくところだが、夏菜はそういう気分にはならなかった。


 ねえ雪矢、なんで泣いての?


 泣いてねーよ。あっちいけばーか。


 何故だか雪矢は顔を耳まで真っ赤にして、涙をぼたぼたこぼしていた。


 

 なんでこんなことを今思い出したんだろう。夏菜は心底不思議だった。

 自分は今雪矢と一緒にお皿を洗っている。

 思い出す余地なんてない。不思議だ。全くもって摩訶不思議だ。

 夏菜が首を捻ると、雪矢が「ん?」とこちらを見た。ナンデモナイヨーと誤魔化すように皿洗いに没頭するフリをする。

 そういえば、言ってたっけ。

 「糸を通して気持ちが伝わる」って。そういうのも、あるのかもしれない。

 夏菜はぼんやりと思った。



 つづく



おまけ


 (っていうかはずかしー。中学生ってはずかしーっ若気の至りってやつかな?いやいやでもあれは中1のころだからまだセーフ・・)


「あのさあ、夏菜は皿洗ってんの。それとも壊してんの」


「へ?あっあああ!!」


「あーあーあー全部床に落として割れちゃってんじゃん」


「ご、ゴメーヌ」


「手を突いて謝るヨロシ」


「だっれがするかぁ?!いいよ!片付けるよ!」


「ちょっと待っ」


「あっ・・・・いたぁあ・・」


「バカ・・なんで素手で触るんだよ・・注意散漫なんだからなーもお」


「うるっさいなー」


「ほら血ぃ出てる。手、貸せ」


「うわ、引っ張んないでって・・」


(躊躇なく指をくわえるよね・・いつも普通にされてたけどやっぱ恥ずかしいなあ)


「ほい、止血。と、あと消毒液、絆創膏」


(うーん・・・・昔のほうがまだ・・)


「なんだよ?俺に見蕩れたか?」


「こういうとこは変わってない・・・・」 



どつかれさまです^^

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