君と、僕の物語
あらすじにもありましたように病みまっしぐらな作品です。R15もたまにあるとおもいます
ある村にそれはかわいらしい双子の兄妹がおりました。
全く似ていない兄妹ではありましたが幼いころからひとつも喧嘩することもなく、仲むつまじくすくすくと育っていきました。
しかし村でも評判の美男子である兄と、愛らしい妹が、お互い伴侶を持つようになるのも、時間の問題でした。
ところが、二人は15の誕生日を迎えないうちに突然両親にも友人にも告げずに蒸発してしまいました。
皆が心配し、村中を、四方を囲む山を、必死になって捜索して回りました。
外見だけでなく、心も美しく清らかだった兄妹の失踪を、誰もがみとめたくなかったのです。
絶対に、どこかにいるはずなのだ。生きて、無事でいてくれているはずだ。
みんながふと頭に浮かんだ可能性を、うちけすかのように、昼夜交代制で懸命に探しました。
しかし、どれだけ探しても、どれだけ願っても、ふたりが見つけ出されることはありませんでした。
やがて日を追うごとに捜索する村人は徐々に抜けていきました。ひとびとはそれぞれ、とってつけたような謝罪の言葉を残して。
両親でさえ諦めてしまった今、一人の青年だけが捜索を続行しました。
あれからどれだけの年月が経ったでしょう。青年にはどうでもよくなっていました。
青年には、ただひとつの目的意識しかありませんでした。何にも介在できないただひとつの目的しか。
青年は失踪した妹と恋人関係にありました。
将来を誓い合った矢先、少女は忽然と姿を消してしまったのですから、青年には忘れることなど到底できませんでした。
彼は仕事を放り出しでかけます。谷底でも、樹海でも、川の中でも・・・・・・どこへでも。
今回こそはと意気込んで早朝からむらの外へ出て行っては、幽鬼のようにふらふらと疲弊して帰宅する・・・・を繰り返す青年の姿は、あまりにも痛々しく、惨めでした。
数日どころか長い時には何ヶ月もかけます
毎回ぼろぼろになっても挫けぬ不屈の根性に、周囲もいつしか止めるのを止めました。
ただ一人を除いて。
彼の母親だけは。
母だけは、また暫く家を空ける息子を黙って見送ることなどできませんでした。
たった一人の息子を待って、日々を孤独にすごすことが、あまりにもつらすぎて。彼を引き止められる言葉が、ほぼ皆無に等しくても。彼女は止め続けました。
しかし自分が病に蝕まれ、もう長くはないと自覚すると、母親は息子に一言だけ何かを伝えると、半ば呆然としている彼を無理やり家から追い出し、ドアの前で蹲ってしまいました。
彼は歩を進めます。
ーーーーーーありえない。そんなまさか。ぜったいに、ありえない。だってあいつは・・・・・・・・・・あいつらはっ・・・・・・!!
青年は今まで、捜索対象から外していた二つ山を越えた先にある村に目をつけました。
全体としての村は、他の村との交流が薄いこともあり、他の村にいるなどとは思ってもいませんでした。第一、距離や時間を考慮にいれると、二人がいる可能性もほぼ無いといってもよかったからです。
しかしある時村を訪れた行商人の男から、それはもう抱きしめたくなるくらい愛らしい少女がいたとの情報を聴いていたのを思い出したのです。
その情報と、母親から聴いた話が彼のなかで謎の確信とともにむすびつきました。
ようやく目的の村に到着したときには出発から半月が経っていました。
日は山の向こうに沈み辺りは閑散としています。
人々が仕事を終え、家へ帰っていく中、青年はぽつりと村の入り口に佇んでいました。
寂々とした空気が静かに青年の肩にのしかかります。背負った荷物の重量を超えた重みが青年の肩に食い込んできました。
急に自分のなかで顔を出したこの感情に、妙な既視感を覚えました。
----はて、何故?
これまで俺が捜索をしていく中で、何か思うことはあったか?いや、あいつへの恋しさを覚えることはあっても、今のような漠然とした感情を抱くことはあっただろうか、いや無い。
これは一体どうしたことだろう。
いやな、予感がする。
・・・・・・とにかく、今日は一日体を休めねば。
もうこれ以上思考を進めるのをやめました。
そういえばなんだか両手がびりびりと痛みます。知らず、拳を握り締めていたようです。深呼吸をすると楽になるのがわかりました。
青年はぐるりと視線をめぐらせました。幸い、貧しい村ではなさそうなので、どこかの民家に泊めてもらおうと考えたのです。
丁度畑仕事の帰りと見える若い男女が歩いてゆくのが見えます。
青年は路銀を確認し、二人に声をかけました。
「・・・・・・うっわなにこれ、先が見えるんですけど」
「あ~~・・・・やっぱだめかぁ」
少年の棘のある一言に青年は首をすくめた。
今少年の手には一枚のコピー用紙が在った。それには少年がすげない寸評を出したばかりの物語の書きかけが記されている。
「大体さあ、すごく読みづらい。嫌がらせとか?何でこれ丁寧語なワケ」
「いやぁ、なんか俺、童話系とか好きでさ。面白いかなあと」
「童話系とかなに。マジイミフなんだけど。話が話だけに童話調とか合わなくない?普通に書けばいいじゃん。」
一切容赦ない毒舌が青年のささやかな自尊心を滅茶苦茶に蹂躙してかかる。青年はもう何の口答えもせずおとなしーく嵐が過ぎるのを待った。
が、今回はそうそう許してくれそうに無かった。
「ここまできたのにぜーんぜん兄妹でてこなくて、薄汚い男がずっと出ずっぱりじゃん。つまんない」
つまんない、とは聞き捨てなら無い。これから佳境に入るのだ、期待していて待っていただきたい・・・・・・・・・・・・が黙っておく。
だが、言わせて(心の独白?)もらえば薄汚い男などではない。この男こそが物語の主役であり、最もそうするに値するほどの適役なのだ。
これから更に不幸になろうとする男の存在を完全に否定するなんてなんと無体な・・・・・・。
「早く僕らを出してよぉ、もーっ」
静かに椅子に腰掛け待っていていただきたい。できれば、持ってきたぬいぐるみをサンドバッグ代わりに殴らないで頂きたい。
さすがに埃とか舞って大変・・・・って良いパンチしていてとても怖いのですごく止めていただきたい。
延々それが続くかと思いきや、少年は壁掛け時計を一瞥すると席を立った。
もう時間が来たようだ。
「ま、いっか。次期待してるよ?△■くん。まあ見るのは僕たちだけ、なんだけどさっ」
そう一言残すと少年はさっさと部屋を出て行ってしまった。隣に座っていた母親も、青年に向かって一言のベると影のように少年のあとを続いていった。
しかしまあ、文句は言いながらも紙はしっかり持ち帰ったようだ。青年はよかった、と息を吐く。
「それにしても、ようやくおちついてきてよかったですね。先生」
傍らで見守っていた看護師が安心したように口を開いた。口元には柔らかな笑みをたたえている。
「ええ本当に。最初はもう、酷いものでしたからね。」
少年がこの病院に通院するようになってからもう3年が経つ。ここに来た当初の彼は、まともに見られたものではなかった。
「今彼にはどんな風にみえているんでしょうね」
看護師が遠くを見ながら、ぽつりと呟いた。
それに医師はなんの感情も滲ませずに淡々と答える。
「決まってるじゃないですか。妹さんの居る『現実』、でしょう?」
お疲れ様でした。書くほうも読むほうも、根気いりますよねwもし楽しんでいただけたなら、何よりです^^