第8話 襲撃
2014年6月…梅雨時になり、湿度が高い状態が続いている。さとしが通う高校でも制服の衣替えの時期に入っていた。そんな中、みゆは寝坊してしまい、学校まで走っている状態だった。6月といえ、まだ長袖だったみゆの制服は、たちまち汗で張り付いてしまっている。しかし、このままだと遅れるので構ってはいられない。みゆは走り続けた。
学校では授業が始まっていた。相変わらずさとしは影が薄く、いてもいなくても変わらない状態だ。そんな中、一人の男が学校の前に現れた。職員が1人出てきて何の用か訪ねてきたら突然その男はその職員を切りつけた。しかも切りつけたのは自分の爪であった。この男の名は「ひろし」で、爪をカミソリに変えることができる能力を持っていた。
ひろしは学校に入り込んで職員室に殴り込み、学校を占拠してしまった。先生たちに自分はムタチオンだとアピールし、警察に連絡したりもさせなかった。ひろしは、学校中のドアや窓の鍵を閉めてだれも出入り出来ない状態にしろと命じる。先生達は、学校中の扉を閉めた。校内放送をかけて、ひろしが学校を占拠したと全校生徒に伝える。生徒らはパニックとなり、騒いでいる。
職員室にいた教頭が目的を聞く。ひろしは答えた。
「俺はこの高校を退学した里山ひろしだ。ま、正確には退学させられたんだけどな。」
教頭は思い出した。里山ひろしは、今から5年前、文化祭で他学年と出し物で揉めて、乱闘騒ぎを起こして退学になっている。もともと中学のときから、気性は荒く、近所からも、避けられていた。自分の思い通りにいかず、仕事もクビになり、ほぼホームレス状態となっている。そんなひろしが、今この学校に仕返しにきたのだ。
「俺はムタチオンだということに気づき、この力なら俺の気に食わない奴らを消すことが出来るということが分かった。このカミソリの力で、俺は俺の思い通りに生きるのさ。その余興でこの学校を潰してみるのさ。」
教頭が答える。
「気持ちは分かるが、そんな事してみろ、取り返しの付かないことになるぞ。」
「取り返しが付かないだと、既に取り返しの付かないことにお前らがやったじゃないか。 おれを退学にして、親にも見捨てられ、町にって、ヤクザもんと関わるようになり、やっていくうちに、厳しくなって俺は逃げ出した。しかし、生きていく術がない。俺をどん底に追いやったのはお前らだ。」
別の先生が警察に連絡をしようとしたら、ひろしがその先生の手首を切りつけた。勢いよく血が出て、ショックで倒れ込んだ。ひろしは当時の担任がいるということで、教頭に案内をさせた。その担任はさとしの担任でもあった。
教頭が教室へ案内中に下手な真似ができないよう、残っている教師を全員壁に縛り付けてきた。そしてひろしがさとしがいる教室に入ってきた。
さとしは、いち早くこの状況に察知したが、ここは学校であり、下手なことは出来ない。
この教室にいる限りおとなしくしているしかない。
そんな騒動が起きている中、みゆは汗でビショビショになりながらも学校にたどり着いた。
「あーもう」
と呟き学校へ入ろうとした。