しりとり勇者
「貴様が勇者か」
勇気ある者──勇者。
光り輝く剣を両手に持ち、彼は最期の敵、魔王と対峙していた。
彼は元々普通の村人であったが、今はこの世界の希望と化している。
その間には様々な困難があったが、今は割愛する。
「必ずお前を倒して見せる!」
「ふっ。貴様一人でか?」
彼は一人だった。
勿論、仲間は欲しかった。
がそれは叶わなかった。
「ッ……! 必ずお前を倒して、見せる」
先程よりも小さな声で言った。
邪悪なオーラを漂わせる魔王は少し勇者の反応に疑問を持つが、即座に捨てた。
「一人で何が出来ると言うのだ」
「だが……出来る……」
魔王は今度こそ疑問を持った。
勇者の様子が少しおかしい。
「勇者よ。我には策は効かぬぞ?」
魔王はその様子を、何か策を用意しているものだと思った。
「ぞ……っとする策なんて用意してないさ」
魔王はまだ気付かない。
勇者が発する言葉の冒頭が、魔王の最後の文字になっていることに。
それは勇者が生まれつき持っている、呪いだった。
「……まあいい。少なくとも、我が配下を倒すほどの実力を持っているのだからな」
「な、かなかだった、ぞ」
そして勇者は口下手だった。
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勇者は仲間が欲しかった。
あの呪いのせいで、無理だとは思っているが、それでも諦めなかった。
まずは勇者と言う称号を与えてくれた巫女を仲間にしようと思った。
彼女は治癒魔法を扱えるのだ。
早速教会に行き、彼女に会った。
「なんでしょうか? 勇者様」
初めて会った時に少しやらかしてしまったので、巫女は引き気味だった。
「ま…………王を一緒に倒さないか?」
魔王を一緒に倒す。
つまり仲間に入って欲しい。
「なッ!!」
巫女は驚いていた。
勇者はそれほど予想外なことだったのかと思い、気付かない。
巫女は別のことを思っていた。
──王を倒す? つまり革命を起こすってことですか!? そんな……
彼女は気付かない。
『ま』が抜けてることに。
「な……っとく出来ました?」
「ゆ、勇者様! 本気ですか?」
「母さんに誓って」
母親に誓っても困るとは突っ込まない。
巫女はとても焦っていたのだから。
「でも何故それを第三王女である私に?」
巫女は王族だった。
「人間だから」
意味が分からないが押し切るしかないと勇者は思った。
「そんな理由で……!」
「デカいのもあるかな?」
勇者はとっさに、目の前にあった大きいそれを見て言った。
そして気づく。
どんな理由で魔王討伐の仲間に入れようとしているのかを。
巫女は怒鳴った。
「そんな理由で革命の仲間に誘うなぁぁあ!!」
巫女は仲間になってくれなかった。
続いて挑戦したのは天才魔術師の少女だ。
魔術師はとても物静かと言う評判を聞いている。
その方が会話が少なくて都合が良いと思ったのだ。
「……なに?」
「人間の敵を一緒に、倒さないか?」
口下手な勇者のわりには、良い返しが出来た。
「……」
「……」
「……」
「……」
そのまま沈黙が続く。
魔術師が何か言わないと、勇者も喋れないのだ。
沈黙は更に続いた。
「……」
「……」
──五分後──
「……」
「……」
──10分後──
「……」
「……」
──30分後──
「……」
「……」
ってもう無理だーー!
と言葉に出来ない叫びを上げたくなったとき、漸く魔術師は口を開いた。
「……無理」
30分待った結果がそれだった。
まだ諦めない。
だがもう無理。
そう思いながら次の仲間候補の元へ向かった。
騎士団一の剣の使い手。
そんな『剣聖』と呼ばれている女性がいるらしい。
因みに先ほどから女性ばかりなのは偶然ではない。
勇者は自分に正直だった。
「んで、アタシに何の用だぁ?」
剣聖は言葉遣いが荒かった。
普通ならそれで騎士など勤まる筈がないのだが、結果を残しているので黙認されている。
「だぁあくな貴方にお願いがあります」
会って早々とても失礼である。
「……お前、アタシに喧嘩売ってんのか?」
「母さんに誓ってそれはないです」
「はあ? お前の親なんて知らねぇよ」
「よく言われます」
「てめっ……!!」
剣聖は思わず斬りかかろうかと思ったが止めた。
勇者が泣きそうな顔をしていたからだ。
「んで、何の用なんだよ」
「世の悪を一緒に倒しませんか?」
世の悪、つまり魔王を差す。
のだが勇者は忘れていた。
つい先ほど、ダークな貴方、と剣聖を悪呼ばわりしていたことを。
「アタシを倒しに来たってかこの野郎!!」
追い返された。
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「勇者よ。何故涙を流している」
自分の口下手ぶりを思い出していたら、涙を流していた。
魔王は何だが調子が狂ってきていた。
もしかしたらこれが勇者の作戦なのかと思い、気を引き締める。
「留守番のことを考えててな」
カッコつけて言うが、全く決まっていない。
「……? まあ良い」
魔王はもう気にしないことにした。
戦闘を始めようと、魔力を全身に纏わせ始めた。
「良い人気取りもそこまでだ!」
全く良い人気取りなどしていなく、寧ろ悪を名乗っているのだが、ツッコまない。
勇者は聖剣を構えた。
因みに魔法は使えるのだが、得意ではない。
無詠唱が出来ず、いい具合にならないと詠唱が出来ないからだ。
だからもう勇者は諦めていた。
「さあ、始めようか」
「かかってこい!」
本人はカッコよく言ったつもりだが、涙の跡のせいで全くカッコよくなかった。
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激しい戦いがあったが、会話がなかったため割愛する。
「くっ……」
魔王は床に倒れていた。
勇者が勝ったのだ。
「こんな奴に……我が負けるとは……屈辱だ」
「だらしないな」
勇者は疲れているので適当に流している。
意識は今後のことに向いていて、魔王のことはあまり見ていなかった。
「貴様の力の源は……なんだ」
「団子」
「なっ……。貴様は団子を食べて強くなったと言うのか」
「母さんに誓って」
「くそっ。我も団子を食べれば良かったのか?」
「感動すれば」
「団子に感動だと……!!」
「飛び跳ねる程の美味しさ」
「それ程団子は美味いのか!?」
「母さんに誓って」
そこで魔王は思った。
死ぬ寸前で何の話をしているのかと……。
「……屈辱だ」
「だるい」
勇者はもう会話など気にしないで思ったことを呟いていた。
勇者はその後、英雄として国民の前で演説することとなった。
「では、勇者様、魔王討伐について、何かお言葉を」
『を』
最後の最後で、とても難しい語尾だった。
しかし考えている暇などなかった。
そして咄嗟に思いついた、歴史に残る言葉を言った。
「────ヲーキングをしてきた結果です!!」
後に、ウォーキングは世界で大流行したと言う。
余談だが、魔王配下の残党では、団子が流行していた。