7(褪せた色の文庫本)
電波にこそ乗らなかったが、活字になって印刷された。わたしは幾つかの断片から逆算した。父が犯罪の片棒を担いでいた可能性。父の昇進が仕組まれていた可能性。全てひとりで泥をかぶるつもりの可能性。母とは無関係であると取り決めをした可能性。それを見越して別れた可能性。念のために娘を叔母に預けた可能性。そして、父が首謀者だった可能性。
わたしが訊ねる機会を逸した。たとい訊ねたところで納得できる返答が貰えたか、そもそもわたしはそれ程に入れ込んでいたのか。結局、当事者たちからはなにも訊かなかった。背信、横領、粉飾、贈賄……断片だけを伝え聞いた。虚実がどれ程の割合で混ざっていたかは知りようもなかった。
わたしは引き続き叔母と暮らすこととなり、転校した。書類上では叔母と同じ姓になったが、切り替える機会をこれまた逸して、変わらぬまま過ごしていた。叔母は表札にその姓を加えなかったし、わたしも頼まなかった。それでも郵便はきちんと届いた。
電波にこそ乗らなかったが──父のことは知られている。
*
教室での江戸川は委員長の顔。わたしは相変わらず特に誰かと親しくするでなく、叔母の本棚から持ち出したSFだのファンタジーだの、褪せた色の文庫本を読む。それは暗黙の了解のようなもので、日中、互いに言葉を交わすことはなかった。しかし、授業が終わると、図書室の一角、同じ机の対面に座る。
放課後勉強部はふたりになった。文系寄りの江戸川と理系寄りのわたしは、ちょうどしっくり互いを補える関係だった。学力が似たり寄ったりなのも良かった。
なんとなしに始まる部活はなんとなしに終わる。一言も口を利かない日もあれば、宿題だの、不明点だのを相談することもあった。たいていの疑問はそれで解決した。どうにも答えが出ない場合は職員室へ向かった。ひとりではそんなこともなかったが、ふたりとなると存外、人は大胆になれるのだと思った。