6(まだ中学生)
家系といえば、江戸川がそれなりの家の出なら、わたしのルーツもそれなりだったと思う。夕食時に叔母に訊ねた。「うちって何代続いているの?」
「二十はいってないと思うな」叔母はサバの味噌煮から骨を抜きながら、「お寺さんに聞けばわかるよ」それからわたしを見つめ、「継いでくれるの?」
「ううん」別に、とわたしはお椀を持ち上げた。
「好きな子でもできた?」
油揚げとジャガイモのお味噌汁を口につけたまま叔母を見遣ると、にこっと笑っている。「気にしないでいいさ。家系だとかお墓だとか。あたしが最後になるだろうけど、結果としてたまたま続いただけで、なにも繋げなきゃいけないってこともない──ってあんたまだ中学生じゃん」
「家が無くなっちゃうのはやっぱり寂しい」
わたしは一年前に帰る家を失っている。
「そうだね」叔母はお茶碗を手にして、「あたしのあと、ここはあんたが好きにしていいよ」
「お母さんは?」
「姉さんは自分のお城を構えたからね」
「わたしはどうしたらいい?」
「したいようにすればいい。ここに骨を埋めても良いし、外に行ってもいい。けれども帰るところがあるってだけで気持ちに余裕はできるでしょ。それは悪いことでないとあたしは思うよ」
叔母のいうことは理解できたし賛成だ。
*
わたしが知ったことは必ずしも時系列通りでない。まず父が家を出た。母とはもともと家庭内別居のような形であったから驚かなかったとはいわないが、素直に受け入れた。マンションで母とふたりで暮らすようになった。父がいなくなった後も母は変わりなく、朝は早くて帰りは遅く、わたしの生活もさほど変化はなかった。ある晩、少し早めに帰宅した母がいった。あなたの名字、変わるから。何故、と訊ねると、別れたから、と返された。母は旧姓のまま仕事をしていたから、その本名を知る人は少ないらしい。わたしは自分の名を変えるのに些か抵抗が合ったことに我ながら驚いた。母とは逆に、書類上は母と同じ姓になっても、今のままでいいかと訊ねた。母は少し考え、できれば変えて欲しいといった。しかし無理強いはしないともいった。夏になって、わたしは祖父母の遺した叔母の家に預けられた。その前の年の夏もわたしはその家で叔母と過ごしていた。だから八月が終われば帰るものだと思っていた。けれどもその当ては外れた。父が捕まった。父は昇進していた。




