3(ダウト)
すいすいと、ずらり並んだプリントを一枚一枚重ねまとめて、とんとんとん。揃え出来た一部を互い違いに重ね積み上げる。指サック、侮り難し。なのに江戸川は二枚拾ったり、順番を違えたり、周回遅れに追いつけば、慌ててその手をひっこめる。最後に揃えようとして机の上から滑り落とし、床にプリントの扇を広げる始末。まぁ、わたしがその分をカバーすれば、今日中には終わるだろうさ。
黙々と作業していると、ふと「ねぇ」江戸川が口を開いた。「なんかゲームしない?」
顔を上げて江戸川を見ると、「しりとりとか」どうかな、と同意を求めるように首を傾げた。そんな仕草はなかなか可愛らしかった。
なるほど、確かに無言に堪えられない性分ってのはあるだろう。だが江戸川よ、あんたは無言でも不器用で、雑談ながらで作業となれば、その手がひどく滞るのは火を見るよりも明らかだ。
しかしわたしは「いいよ」快諾していた。「何する? しりとりでいいの?」
すると江戸川は手を止めて考える。その合間にわたしは一セット作った。とんとんと束をまとめ揃えながら、「ダウトとかどうよ」提案してみた。
「それ、どんなの?」
「適当に話して、相手の話が嘘だと思ったらその場でダウト宣言」
「面白そう」江戸川はまた上品に微笑んだ。「どうすればいい?」
「子供のころ、ツチノコ飼ってた」
「うそっ」江戸川は口と目を丸くした。
「うそ」わたしはいった。「だからあんたがダウト宣言しなきゃわたしの勝ち」
「ダ、ダウト?」慌て気味に指サックを嵌めた指を突きつけた。なんだか微笑ましくて、思わず口元が緩んだ。「もう遅い。さ、次はあんたの番」
目算通り江戸川は作業の手を止め、また一セットわたしが作り終える頃に口を開いた。「天狗を見たことある」
「ダウト」
「えー」間髪入れずいったわたしに、江戸川は残念そうな声を出した。「少しは迷ってよ」
「もう少しひねりなよ。せめて天狗に攫われたとか神隠しに合ったとか」
「もっとひどい」
江戸川は噴き出し、あわてて口元を手で覆うが、ツボに入ったか恥ずかしいのか、うつむき耳まで赤くし、肩を震わせた。それを尻目にわたしはプリントの束を作って行く。
しばらくして、はぁ、と大きく息を吐き、江戸川は作業に戻ってきた。頬はまだほんのり赤いままだった。
プリントを拾いながら江戸川はいった。「実はクラス委員になりたかった」
「ダウト」手を止めずに宣言した。
「はずれ」
顔を上げて江戸川を見た。江戸川はしてやったりと得意げな顔をしていた。ふうん。ちょっと感心した。どうやら江戸川への見識を改めたがいいようだ。それはわたしをなかなか愉快な気持ちにさせた。
江戸川は続けた。「そして校則破ってる」