2(課題)
その日はどうにも気分が乗らず、いつもよりだいぶ早い時間に荷物をまとめた。帰りしな、体操着を忘れたことを思い出し、教室へ戻った。運動部の掛け声と吹奏楽部の不協和音が人気のない廊下に反響していた。教室の引き戸を開けると教卓前にいた女子がハッと顔を上げた。夕日を背負って眩しくて、顔形は影になっていた。だからわたしは眉根を寄せて目を細め、かなりひどい顔をしたと思う。
「驚いた」江戸川は言葉とは裏腹に嬉しそうにいった。「今日はお終い?」
なんのことかと入り口に立ち尽くしたままのわたしに、江戸川はいい添えた。「放課後勉強部」
ああ、とか、うん、とか、変な返事をした。よもや知られていたとは。まったく虚を衝かれた。しかしわたしは教室へ足を入れ、まっすぐ自分のロッカーに向かった。「あんたこそなにしてんの」
「先生に言われて」背中で江戸川の言葉を聞いた。カサカサと紙を擦る音。体操着の入った巾着を引っ張り出し、江戸川の横に立った。
「プリント、まとめとけって」
江戸川はにこっと笑い、机に並べられたわら半紙の束を見せた。
「ひとりで?」
わたしの問いに首を振り、「残ってた三人でやれっていわれたんだけど、」
そうか。察しはついた。ふたりは用事だのなんだのとうまい具合に逃げおおせたか。
わたしは一枚、手に取り、「なに? これ」
「連休中の課題だって」
「何枚あんのよ」わたしは口をヘの字に曲げた。江戸川は口に手を宛て上品に、「まったくだよね」くすくす笑い、でも、と続けた。「受験生だし、仕方ないよ」
わたしは小さく鼻を鳴らした。「あと、どんくらい?」
「三分の一? 半分?」
大雑把にも程がある。荷物を手近な机に置いて、「どうすりゃいい?」見立て通りなら、まだ三分の一だ。いや、それもあやしい。
横につなげた机の上に並べられたプリントを、一枚ずつ重ね束ねる仕事を手伝った。青い指サックを貸してくれた。なんて用意のいい。「クラスの備品だよ」知らなかった。




