16(お参り)
境内の隅では焚かれた火を囲むようにして人垣が作られ、その炎が作る影がゆらゆら揺れて幻想的だった。
江戸川とふたりで人波を避け、ぐるりと本殿を廻った。裏へ続く道は薄暗く、足下もはっきりしない。返納を終えたであろう人とすれ違った。
江戸川の少し危なげな足取りを思って手を繋いだ。綺麗でお洒落な黒いエナメル靴は砂利敷きの道を歩くのに向いていない。しかし運動靴の彼女というのもつまらないと思う。何かに躓いてか、きゃ、と腕にしがみついてきたので、そのままにした。少し歩き辛いけれども悪い気はしなかった。
表の喧騒はまるで書き割りの向こうから聞こえてくるように思えた。今日、この時間だけが作る特別な空間なのだと感じた。お腹に響くような低くて太い鐘の音がした。
「優しそうな叔母さんだね」江戸川がいった。
「優しいよ」衒いもなく即答した。
「なんかカッコいい」
「ふうん?」わたしはちょっと意地の悪い気持ちになった。「高校時代、荒れていたんだって。いわゆる問題児」秘密話を打ち明けるように続けた。「弱気を助け強気を挫くを地で行くっていうんだろうね。先輩には恐れられ、後輩からはすごく慕われてたみたい」
「本当?」
江戸川の目が真ん丸になる。そんな表情もすごくかわいらしい。「先生にも一目置かれていたんだって」まぁ色々と。
「ダウト?」
「ウソじゃないって」おかしくてくすくすと笑いがこぼれてしまう。「今でも町のあちこちに当時の先輩後輩がいて、一緒に歩いてると良く声かけられるよ」
「自慢の叔母さん?」
「うん」再びわたしは衒いもなく頷いた。
「いいなぁ」
「いいでしょ」
「違うよ」
「ん?」
「叔母さんが羨ましい」
「違うの?」
わたしの問いに、江戸川はつんと唇を尖らせて見せた。そんな子供っぽい仕草にまたしてもかわいいと思った。本人は意思表示のつもりだろうけれども、どうにもズレている。「どう違うの?」
「もうっ」彼女はふん、と鼻から太く息を吐いて、「早くお参りしようよ」腕をぐいと引っ張った。




