11(あんたを殴る)
「うん」わたしは頷いた。「たぶん似てる」
「よくまぁ何年も同じ屋根の下にいたなーっとっとっと、」叔母はピシャリと自分の額を叩いた。「ごめん、失言も大概だわ」
「どういう意味?」
「いや、」バツの悪そうな顔をした。「子は鎹かなって」
「わたしは鎹になれなかったんだよ」
「だからごめん。家族っていってもいろんな在り方があって、それが全てに当てはまるわけでないから、」
「ううん」わたしは首を横に振った。「別に鎹になりたいわけでなかったから」
「そっか」
「うん」
「まぁそうさね」叔母はよいせっと、足を崩して胡坐をかいた。「自分の目で確かめられるなら他人意見に耳を貸す必要はないってね。どうあれ、あんたはあの人の娘だ。直接訊くのに何かおかしいことでも?」
「うん」
わたしは座り直し、揃えた膝の上に手を置いた。顔を上げ、叔母を正面から真っ直ぐ見つめた。「だから電話したよ」
叔母は少し驚いたように片方の眉を上げた。わたしは続けた。「関係ないって」
「そうか」叔母は湯飲みを傾けた。「なら知る必要ないんだろうな」テーブルの上に湯飲みを戻し、でも、といい添える。「納得してないようね」
わたしは頷いた。
「気持ちは分からなくないよ。もやっとするのはあたしも同じだ。とどのつまり、あんたは関わりのない問題ってことか」
「うん」
叔母は小さくため息をついた。「勝手よね。確かに実際のところはあんたに関係ないだろうけどさ」
「お父さんなのに?」
「あんたに累が及ばないようにして……まで考えてるかな」しかし叔母は、違うな、と自分で否定した。「そこまで気が廻るとは思えない。でも、義兄さんのことだからなぁ。やっぱあたしには分かんない。だけど、」わたしを見つめ返し、「ただのボンクラではないのは事実。立場もあろうけど私情を切り離せる強さは持ってる」
「どうしたらいい?」
「そうさねぇ」叔母はメガネの奥の目を薄く細めた。「何もしないでいいんでないかな」
「そう」
わたしは静かに立ち上がると、ケータイを手に取り、居間を後にしようとした。叔母の視線を背中に感じた。言葉が考えるより先に口をついて出た。「叔母さんはどうしてわたしを引き取ったの」
「なんのこと?」
「お母さんにいわれたから? それともお父さんにいわれたの?」
「まさか」叔母はバカらしいとばかりに鼻を鳴らした。「あたしからいい出したことだよ」
「なんで? ボランティア?」
「何をいってるのさ?」
「可哀想って思ったの?」振り返ると叔母の視線とまともにぶつかった。
「可哀想って思われたかったのか」
メガネ越しにも強い光が見えた。戸惑ったけれども、言葉が勝手に口から溢れて叔母にぶつけていた。「母さんにいわれたからでしょ? いつも逆らえないっていってじゃない。違うの? ならなんで? どうしてわたしなんか引き取ろうって思ったの? お金を貰ったから? 憐憫じゃない? 同情じゃない? 分からないよ、全部違うの?」
叔母は、すっくと立ち上がると、二歩でわたしとの距離を詰め、握った拳を振りかぶった。「美香子、今からあんたを殴る」
その気迫に気勢をそがれ、すくみかけた足を無理に動かそうとしたが、手首をがっしと掴まれた。ケータイが手から滑り落ちた。
「歯ァ食いしばれ!」




