10(どこでも通じるルール)
叔母は冷蔵庫から取り出したペットボトルのお茶とふたつの湯飲みをテーブルに並べた。「あんたはどう思ってるのさ」
わたしたちは向かい合って座った。叔母が湯飲みにお茶を注いでくれた。わたしはお茶請けに選んだチョコレートをテーブルの真ん中に置いた。湯飲みを傾けると、キンと冷えたお茶が咽喉を滑り落ちた。
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分かってると思うけど、正直いうとね、あたし、あんまし義兄さんのことは知らないんだ。初めて会ってからもう十五年か。珍しく戻って来た姉さんが今度の日曜日、お客さんを呼ぶって父さんと母さんに話していて、あたしは横でそれを訊いてたんだ。確か中間テストの前だったね。勉強なんてしてないって。いやダメだね。すごくしてました。はい。あははは。あの頃のあたしってばほんとに酷いもんさ。クラスで追試、ひとりだけ。しかも全教科。ごめん、あたしのことじゃないね。
日曜日に姉さんは男の人を連れてきた。彼氏がいるとかおくびにも出さなかったけれども、たぶん好い人はいるだろうなってくらいは感じてた。それがあんたのお父さん。誠実そうってのが第一印象。物静かで所作も丁寧で。
当時のあたしから見ればお兄さんって感じよりは、まぁ、オジサンだとも思った。そりゃしょうがないでしょ、あたしだって十代だったことはありました。
大人しそうでお堅い人をよくまぁ捕まえたなーって妙に感心したな。でも、やっぱり姉さんらしいなって思った。それであたしも呼ばれて、まさにこの居間で結婚するんでよろしく、みたいな。姉さんはあんな性格だから、もうトントンっていうか全部決まってその報告って感じ。父さんも母さんも特に反対しなかったね。賛成? うーん、あの人が連れてきた人だし、ハズレだとしてもひとりで黙々と片しちゃうからね、姉さんって人は。だからって、義兄さんは姉さんが選んだ人だし、姉さんを選んだ人だから間違いはないと思う。
あんたを見て思うんだけどね、あんた、けっこう義兄さんに似てるんじゃないかな。女の子はお父さんに似ると美人になるってさ。
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「お堅い誠実な人ってのがあたしの評価。それは今も変わってない」
「そう」
叔母は湯飲みを置くと、居住まいを正した。「ねぇ、ミカ。誠実であれ、はどこでも通じるルールだよ。至極単純明快で、だからこそ曲げちゃいけない原則なんだ。自分の気持ちが恥ずかしいと感じることはしてはいけないし、鈍感になってもいけない」
「お父さんは誠実だったかな」
「過去形にはまだ早い。あんたのお父さんでしょ」それから悪口じゃないよと、前置きして、「確かに融通の利かないところはある。もうちょっと緩くてもいいんでないかと思う。無口は無愛想と誤解されるし、気が利かない人だと思われる。あんな人だからね、と片付けるのは簡単だ。でもね、義兄さんは姉さんの選んだ人で、姉さんを選んだ人で」肩をすくめた。「やっぱり似た者同士かな」