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「愛している」の引き換えに

作者: 総角凪沙

あなたの「愛」とはどのようなものですか?

大切な人のことを、愛することが出来ていますか?

その愛は伝わっていますか?

「愛している」の引き換えに


あなたと年を取りたい、それが私の願い。

なにげなく二人で歩いた並木道は、年月を隔てたせいか、もうなくなっているけれど、その跡地を歩きながら私はぽつりとあなたの言葉を口にした。

たった一人だった私のことを、あなたは気まぐれに救ってくれた、それが最初。

ともに生きようと、諦めずに誰かのことを愛してみないか?と言ってくれた。

ともに生きるってどういうこと?共に生きれば私が生きている意味が見いだせるとでもいうの?

しかしその疑問の答えはあなたの微笑みですべてどうでもよくなった。

をかしいな、と思いながらも私は私のことを救ってくれたあなたのことを好きになろうと決める。

りん、と誰かの家のベルを鳴らした後にどんな風に言葉を切り出そうかと悩む、あの緊張感の漂う一瞬のように。

ただ、あなたの隣に立つことは、私にとって緊張以外の何者でもなかったし、最初私はあなたが助けた人間の大多数の人間でしかなかった。

かなしくなった、悔しくなったのはいつからだっただろう……あなたが私だけのことを見てくれなかったと気付いた時にはもう遅い。

「っ!」

たしかに存在していたあなたは、もう還らぬ人となっていたから。


そんな、嘘だよ、と思った。だって私、あなたに「愛してる」って伝えてない。

れんが造りの荘厳な教会の、ガラガラと崩れ落ちて廃墟のようになっている建物の一室で、あなたの命を看取った。

がんがんと五月蠅いくらいに頭のなかに鳴り響いているソレは、私とあなたを周囲の人間たちから切り離す。

わたしの頭の中はぐちゃぐちゃで、あなたがいないという現実を受け止めきれずに、ただただ瞬きもせずに涙を流しっぱなしで茫然と突っ立っていた。

たとえていうなら、自分のことを動かしていた大きな歯車がぱきんと真っ二つに割れてしまってもう使い物にならなくなってしまったような……もう一生その同じ歯車では生活できないというような。

しんだ、あなたが。

のぞみを……自分自身の望みを叶えることなく、亡くなってしまった。

ねえ、あなたの望みは、「周りの人と一緒に年を取って死にたい」だったはずだよ?

がまんなんかしないで、私は私の想いをあなたに伝えれば良かった。ううん、愛しているなんて言葉じゃ足りないくらいの気持ちを、もっとあなたにぶつければ良かった。

いまでも思う、みんなと一緒に年を取りたかった――それが彼の、そしてその彼の思いを受け継いだ、私の「愛してる」の引き換えに私が彼に代わって叶えられる、たった一つの、大切な、とても大切な願いごと。


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