『勇者』と『魔王』とゲーム事情。
『勇者よ、よくぞここまで来た』
『魔王。お前を倒して、世界の平和を……』
「たけしー、ご飯よー!」
「はーい」
ぶつん。
たけしはテレビの電源を落とすと、夕食に向かった。
ちなみに、ラスボスとの戦闘画面入ったため、ゲーム機の電源は落としていない。
『よーし、プレイヤーが夕食から帰ってくるまで、一時休憩~!』
ラスボス戦のステージから少し離れた所から、一匹のモンスターが声を張り上げた。
【現場監督:スライムA♂(個体名:スラ男)】
『『『は~い』』』
ステージの内外から、様々なトーンの声が反響した。
『勇者さん、魔王さん、お疲れ様です。プレイヤーが再開するまで、皆さんと一応台本の確認をしておいてください』
と、分厚い台本を勇者に渡すモンスターB。
【AD:ネコ娘A♀(個体名:ネコミ)】
『わかりました』
【登場人物:勇者♂(個体名:あああああ)】
『了解で~す』
【登場人物:魔王、たぶん♂(個体名:ルシファー)】
『カメラ、照明、音声の担当は、ゲーム再開までに機材の確認しとけよー。メイクさんの方も、勇者パーティーと魔王さんの化粧直しをお願いします』
『1カメ了解』
『2カメ了解』
『3カメ了解』
『照明了解』
『音声了解』
『こちらもおっけーで~す』
【1カメ:ゴーレムA♂(個体名:ゴー太郎)】
【2カメ:ゴーレムB♂(個体名:ゴー次郎)】
【3カメ:ゴーレムC♂(個体名:ゴー三郎)】
【照明:ゴーレムD♂(個体名:ゴー四郎)】
【音声:ゴーレムE♂(個体名:ゴー五郎)】
【メイクアップ:サキュバスA♀(サッキュン)】
スラ男の大声に、返事を返すゴーレム兄弟とサッキュン。
ゴーレム兄弟達は無言で作業を開始し、サキュバスは自慢の胸をゆさゆさと揺らしながら、勇者パーティーとルシファーさんに近付いた。
『魔王先輩、あれって何カップくらいありますかねぇ?』
『そうだねぇ勇者くん。私の目測では、恐らくCくらいだ』
『え? でもあれ、けっこう大きいしすんごい揺れてますけど……』
『ふっふっふぅ。甘いなぁ。あれは一見大きそうに見えるが、実は寄せて上げるブラを使っている。つまりは偽装だ!』
『すげぇ、さすが業界最年長のルシファー先輩だ!』
『ちなみに、君のパーティにいる女の子、あれはパットを仕込んでいる可能せ、んごっ!?』
と、突然背後から後頭部を強打され、ルシファーさんはステージにめり込んだ。
会心の一撃。ルシファーは539のダメージを受けた。
『わたしはそんなもの使ってません! いい加減なこと言って新人勇者に変なこと吹き込まないでください!』
【登場人物:女魔法使い♀(個体名:ユーリ)】
ユーリはつんとそっぽを向くが、時々振り返っては大先輩ルシファーさんをぎろり。
ちなみに右手には、ゲーム中では装備不能なはずのウォーハンマーなんかが握られている。
ちなみにそのウォーハンマー、平らな方とスパイクの方があるのだが、スパイクの方にルシファーさんの毛と血がうっすら付着して見える。たぶんきのせいだ。
『ちょ、ちょっとユーリさん。そ、それ、ぼぼ、僕の装備なん……』
【登場人物:屈強な戦士♂(個体名:ゴンザベール)】
『わかってるわよ! 返せばいいんでしょ、返せば!』
と、ユーリはウォーハンマーを乱暴に、ゴンザベールへと投げた。
なんとか空中でダイビングキャッチしたゴンザベールであるが、ハンマーのスパイクがステージを直撃。
最終戦ともなれば、武器の攻撃力もゲーム内で最上位に入るわけで。
ラスボス戦ステージが、盛大にひび割れた。
『ちょっとユーリちゃん! 現場では二番目に長いんだから、いいかげんステージ壊すのやめてってば!』
『すいませんでしたぁッ!』
スラ男の怒鳴り声に、むすぅっとするユーリ。
一応悪いとは思っているので、ちょっと居心地が悪そうだ。
『もうユーリちゃんったら。そんなピリピリしないで。リラックスリラックス』
と、ルシファーさん、ユーリのお尻をソフトタッチ。
『こんのド変態悪魔ぐぁああああああああ!!』
ユーリは魔法を使った。
巨大な火炎球でルシファーを攻撃。
ルシファー、762のダメージ。
『あ゛ぁああああああああああああああ!! さっき言ったばっかなのにぃいいいいいいいい!!!!』
ラスボス戦ステージに、さらに大穴が開いた。
さすがにこれはやってしまったと思ったらしく、ユーリも表情が凍り付いていた。
ちなみに、ルシファーさんの設定された体力は10000なので、まだまだ余裕である。
『か、監督、すいません』
ユーリ、誠意を込めて土下座。
『あぁ、もういいよ。大戦後はいつもだし。土木担当さん、いつも通りやっちゃってください』
『おぅ、まかしとけ』
【土木担当:オークA♂(個体名:オー吉)】
『カメラさん、ちょっと手伝ってくださいな~』
【土木担当:オークB♀(個体名:オーク子)】
『『『任された』』』
ゴーレムの長男から三男までは、オー吉の指示で近場の山から土を運んで大穴を埋め、ゴーレムの四男五男はオーク子の指示で、別フロアから大理石のブロックを持ち出す。
それから数分後、ステージは完全に元の状態へと復帰を果たした。
『監督、ほんとうにすいませんでした』
『いいのいいの。魔王さんがバカなことしただけだから。それに、仕返しはゲーム中にいくらでもしてくれちゃっていから』
『はい!』
ユーリ、スラ男の発言に嬉々として返した。
『そういえば、不良僧侶の~~名前なんだっけ?』
『……クルトですけど。どうかしましたか、ユーリ先輩?』
【登場人物:不良僧侶♂(個体名:クルト)】
『いや、さっきから全然姿見かけないからどこにいたのかと思って』
『……台本の確認ですよ。台詞間違えたらゲームに支障が出るので』
『不良じゃなくて、普通に真面目な僧侶の方が良かったんじゃないあんた?』
『……よく言われます』
と、そんなこんなでメイクの修正やら台詞合わせ、機材の点検をしていると……。
『テレビの電源がついた! 全員、所定の位置に戻れ!』
スラ男の声がフィールドにこだまする。
魔王と勇者パーティはそのままラスボス戦フィールドの中央に、メイクさん達はバックヤードに、ゴーレム兄弟はカメラを回し、照明を照らし、たけしはゲームを再開する。
あああああはルシファーに燕返し!
ルシファー268のダメージ。
ゴンザベールはルシファーに悪魔切り!
ルシファーは331のダメージ。
ユーリはルシファーを魔法【神の雷】で攻撃!
ルシファーは777のダメージ。
クルトは魔法【アーマープラス】を唱えた!
全員の防御力が30%上がった。
………
そんなこんなで勇者達が魔王を打倒し、黒い背景にスタッフロールが流れる。
ちなみに、その裏側はと言えば……、
『それにしても勇者さん、大変だね。声かけてくる人全員に『あああああさん』なんて呼ばれて』
『うん、どうせならもっとかっこいい名前が良かったです、魔王先輩』
今日もゲーム業界は大変なようです。
なんてのをちょっと考えてみました。
スライムがゲームの監督を務めているという(笑)
RPG編以外も、機会があったらやってみたいですね。