5.みゆの子育て
皆様こんばんわ。
天国からお話することになったのよ。
あたいが死んでしまった後で、ご主人様たちは、あたいのためにお弔いの音楽をかけてくれたの。
それは-ピエ・イエス -サラ・ブライトマン(VO) (A.L.ウェッバー)-だったわ。
彼らの気持ちは曲を通じて、あたいの魂を高い場所まで引き上げてくれたの。
(それはとても素敵な瞬間だったわ)
おかげであたいはとても良い場所に誘われたわ。
まあそんな感じ。
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さあて、子猫たちのことだわね。
子供って大変。あたいが言えるのはその一言だわ。
おっぱいを四六時中欲しがるし、体温を常に感じていないと不安になるみたいなの。
彼らの気持ち。それはあたいの心にダイレクトに響く。
(彼らを産み落として、あたいの日常は忙殺されたわ)
生まれたばかりの彼らは本当になんにもできなかった。
見えないお目目を弱弱しくつむり、手探りであたいの体温を求めて鳴いていたものよ。
に、に、と彼らの一匹が鳴けば、ほかの三匹も続けて鳴き始めるの。
あたいは彼らを身体全体で包み込むの。
彼らがちゅ、ちゅっとおっぱいをにぎにぎと揉みながら吸っている間、あたいは水を飲むことも食事をとることもできないの。
おっぱいを飲み終わると順番に彼らのおしっこやウンチを舐め取ってあげるの。そうしてようやく彼らは眠るのよ。
でもそんな時、ご主人様たちはそっと障子を開けて入ってくるの。
そうしてあたいの間近に飲み水や食事を持って与えてくれるの。
えぇ、そりゃあ嬉しかったわよ。”幸せだわ”とあたいはゴロゴロと喉を鳴らして答えたの。
そうしてあたいが食べ終わるのを待って、ご主人様たちは障子の向こうにそっと立ち去ったものよ。
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それから二ヶ月の間、赤ちゃんたちはすくすくと成長していったわ。
緑色の瞳は黒くそまり、目が見えるようになると、彼らのやんちゃぶりは加速した。
たとえ小さな赤ちゃんであっても、四匹は台風の目のように組み合って暴れるのよ。
一日の間に何ども水入れの皿はひっくり返り、ご主人様たちが掃除をするたびに申し訳なく思ったのよ。
そうして二ヶ月がすぎる頃、あたいは家の外に出られないストレスからお乳が出なくなってきたの。
(出ないのに吸い続けるものだからあたいの乳首は腫れ上がったわ)
やがて、ストレスは怒りに変わり、あたいはおっぱいを求める子猫たちを順番に威嚇して廻ったの。
しゃー!うごごごぉぉぉ!
そりゃあもう彼らは恐怖におののき逃げまわったわ。
『かあたんが狂った!』 彼らは部屋の隅に固まってぷるぷると震えながらそうささやいていたわね。
ご主人様たちが根負けしてあたいを外に出してくれたのは、それから数ヶ月後のことだったわ。
なんでも、”避妊手術”をするまでは出すわけにいかなかったそうよ。
それももう良い想い出だわ。
(あたいは立派に彼らを育ててこの世を去ったんだもの)