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みゆ(にゃんこ)と子猫たち  作者: シュリンケル
4/6

4.お話の途中での報告(みゆの死について)

今回はペット目線のエッセイから飼い主目線になっています

- のら猫”みゆ”が我が家に来て、思いがけない物語を届けてくれた事にわたしは感謝しています -



 シュリンケルです。


お話の途中でどうしても報告しなければならない出来事が起こってしまい、物語を中断してご報告することをお許しください。



---


 みゆが亡くなったのは、2012年2月27日の月曜日でした。


めずらしく春のような陽気に包まれた日だったと思います。


自宅前の狭い一方通行の道路の向かい側で、みゆは轢かれて亡くなったそうです。(わたしたちは互いに仕事中でした)


狭い道路でありながら、車の通行量はわりとあった場所でした。

それを見かねたご近所の方々が(信じられないような話ですが)こんな事をしてくれていたと、わたしは聞いたのです。


あるおばあ様はペットボトルをみゆのそばに置いてくれたそうです(これ以上轢かれてしまわないように)


あるおば様は警察を呼んでくれたそうです。その上で清掃局の方も来てくれました。

(一匹の猫のために、警察の方までいらっしゃるのは本当に珍しいそうです)


あるご婦人は自宅の毛布を持ち出してくれました。(少しでも助けようとして)


警察官の方が、おば様に語ったらしいです。

「このネコちゃんは、とても幸せですよ。たくさんの人に見守られて」


そして清掃局の方も丁寧に処置してくださったそうです。

(私はこの話を聞いて、ごみとして処理されても仕方がないだろうと理解していました。事実は違いました。遠方のお寺で手厚くご遺体を弔ってくれるというのです)



---


 わたしはそんな事をまったく知らないでいつものように帰宅しました。

(晩御飯の事などを考えながら)


---


息子は無口でした。

かみさんはいませんでした。

なんだか家が暗いなと感じました。

電話が鳴り、息子が出ました。(わたしはあくびをしながら着替えていました)

ぼそぼそと息子が電話に答えていました。

けれどもその声色がとても緊張していたのでわたしは気になりました。

わたしの携帯に妹から着信があり、かみさんが”みゆ”の死で非常に動揺していると言っていました。


 そうしてわたしは理解しました。


みゆが死んでしまったらしい事を。

かみさんが”みゆ”を探して清掃局まで駆け込んでいる事を。


 かみさんが戻ってくるまで、とても時間が長く感じました。


ばたんっ、と玄関のドアが閉まり、足音が力なく近づく。

「おとうちゃん・・・」かみさんがつぶやく声がする

「みゆ・・・みゆが死んじゃった」 かみさんはえんえんと泣き続けました。


「仕方ないよ」

号泣するかみさんに、わたしは気の利かない返事しかできませんでした。


「外にでなくちゃノイローゼになる猫だったじゃないか。仕方ないんだよ

 それよりも、残された子猫たちとぴんちゃん(ワンコ)を安心させないといけない。強くならなきゃいけないよ」


酷な言い方だったかも知れません。

しかし、わたしにはそんなふうにしか言えなかった。

そして、それは本心でした。

”みゆ”を家族として迎えた日から、私はこの日がいつか来るのではないかと・・・諦観していたように思うのです。


---


 みゆは、ぴんちゃん(ワンコ)の散歩のたびに律儀について来ていました。


土砂降りの雨の日や、大雪の日を除いて、みゆは私たちの散歩にしつこく(本当にしつこく)着いてきたのです。


もちろん、何ども言い聞かせてみたのです。「危ないよ。家で待っていなさい」と。

(車が近づいてくる道路に平気でぼてっと寝転んだりするから)


それでも、みゆは頑として受け付けませんでした。


何が彼女をそうさせていたのか、私にはわかりません。

ただ、みゆが嬉しそうに散歩に着いてくるのだということだけは良くわかりました。

(そんなみゆを愛おしそうにかまう”ぴんちゃん”を見ながら)


---


 かみさんが泣きながら教えてくれたこと(何人もの人がみゆに立ち会ってくれた)を聞き、私は思いました、みゆは「幸せだった」と。


散歩のたびに着いてくる”みゆ”の姿は、どうやらご近所に知れ渡っていたようでした。

すれ違う人々に何度となく声をかけられていた”みゆ”。

「いつもワンちゃんに着いてきて、偉いね」 そんな声を何度聞いた事でしょう。


そんなみゆの最後を偶然にも看取ったご近所の方々が、哀しんでくださったと聞いて、わたしは胸が詰まりました。


そうして涙にくれた後、キッチン横の出窓にお線香と水と食べ物をお供えし、手を合わせました。


その後、私はかみさんに連れられて、家の前の道路の様子を見に行きました。


街灯に照らされたアスファルトとマンホールに滲む血糊が、みゆの死を物語っていました。

マンホールに鈍く光る血糊を私は見つめて祈りました。


「さあ帰ろう」 私はかみさんに言いました。

「ここには・・・何にも感じないよ。みゆの魂は家に戻ってる。そう感じるよ」


かみさんは泣きました。


 ご近所のおば様(毛布を抱えて駆けつけた)から電話が掛かってきたのは、その数時間後でした。


---


 おば様はかみさんと私に電話で泣きながら励ましてくれました。

あんなに愛された猫ちゃんだもの、きっと天国に昇ったわ。長い電話の中で幾度もそんな言葉を頂きました。


 電話を切った私たちは、少し元気になれた事を喜び合いました。


---


 いざこうしてお話に記してみると、なんとも歯がゆい気持ちになります。

その時に感じた焦燥感、不意にやってくる喪失感、みゆの子供たちのしんみりとした表情。

お散歩の途中に何ども振り向いては「どうしてみゆはいないの?」と訴えるようなぴんちゃんの悲しげな瞳を・・・私はうまく描くことができないからです。

しかしそれは、全員が乗り越えた上での結果なのだと、私にはわかるのです。


だからもう哀しむまいと決めたのです。


私たちは今を生きているのですから。


 残された子猫たちとぴんちゃんが、そう教えてくれているのですもの。


 ありがとう。みゆ。

君は奇跡の猫だったよ。


(次回からは、天国のみゆが子猫物語を解説します!)


挿絵(By みてみん)


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