第四話 ぐっすり
―――部活である、高校生活の象徴としてはやはり。
学生の本分は勉学である、なんていわれてるけどやっぱり青春といえば部活動なのである。
僕は何部に入るかは、前から決まっていた。
そう、たった一つに。
うちのクラスの某I田さん(そのまんまだけど別に気にしない)は未だにどの部活に入ろうかワーワー悩んでいるけど、僕は違う。
あれは去年の九月だった。
僕はこの学校の―――桜一高の文化祭に来ていた。
自分から積極的に来たわけではなくて、僕はあくまで友達の付き添いだった。
だけど、そこで初めて見た『それ』に僕は感動して、この学校に『それ』をやるために行こうと決心したのだった。
「失礼しまーす」
僕は軽くノックをしてから部室の扉を開いた。
部室の広さは四畳ほどだろうか、机や本棚でかなり狭く見えるが。
「誰も、いないのか……」
思わず僕はそう呟いたが―――だがしかし、それは間違いだった。
「スー……スー……スー……」
部屋の中央の机にもたれ掛かっている女の子を、僕は発見した。
なんだ人いるじゃん、なんて僕はあきれてその人の寝顔を覗き込む。
その瞬間、僕は僕の中の時が止まったような気がした。
「………………………………」
―――綺麗、だった。
その女性は、物凄く、息を呑むほど、綺麗だった。
放課後の部室棟は騒がしいはずなのに、部活動に励む生徒たちの声でにぎやかなはずなのに、この部屋の中にいると、
「スー……スー……スー……」
なぜだかこの寝息しか聞こえてこなかった。ここだけが全く別の空間のような、そんな感覚がした。
彼女は規則的な寝息と共に、その両肩と長くてまっすぐな黒髪を揺らしていた。
窓から入ってくる光で彼女の髪はキラキラ輝いていた。
そんな絵画のような光景に、僕はしばらく突っ立ったまま見とれていた。
「……きてください、起きてください」
その声と共に僕の体はユサユサと揺らされる。
「……まだ眠ぃ」
ちょっと、もうちょっとだけ寝かせて……。
「……もう」
ため息が聞こえた。
あれ? これは誰の声だっけ……聞いたことない。でも綺麗な声だなあ。
と、呑気にそんなことを考えていると、
「うひゃあ!!!」
頭を何かで叩かれて僕は間抜けな声を出して飛び起きた。
「おはようございま〜す」
目の前にはさっきの、綺麗な女性が右手に薄いノートをもって、笑いながら立っていた。
「……お、おはようございます」
僕にはそれしか、言えなかった。