表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女の隣で  作者: 青葉
4/14

第三話 自室にて

 部屋に戻ってくると僕は荷物を投げ出し、ベッドに倒れこんだ。

 「つ、疲れた〜」

 重い教科書たちを何冊も持って帰ってきたからだとか、初めての環境に気疲れしただとか、原因は沢山考えられるけど、一番の理由は、

 「あいつ、だよな……」

 思わず口に出してしまった。

 運の悪いことに僕は相田と電車の方向が同じで、ずっとあの調子で話を続けられた。といっても、僕はただ相槌を打つだけで喋っているのはずっと向こう。だけど、電車の中でもあいつは図太さを発揮して、周りの目も気にせずペチャクチャ(いやもっと凄い音かもしれない、マシンガンを打つようなズドドドドドドドド………うん、こっちのほうが適切だ)と、凄い勢いでずっと僕に向かって話していた。

 てな訳で、僕はずっと入学式が終わってから電車を降りるまでほぼずっとマシンガンを喰らっていたのだ。

 「ふう………」

 寝転がって相田沙紀の顔を思い浮かべた。

 「黙ってれば、可愛いのかもな………」

 なんて言ってから僕は頭を振った。

 ――――あいつが黙るなんてあり得ない。

 少なくとも今日、それだけは理解した。


 寝転がったまま僕は右手を伸ばし、スタンドからギターを取った。

 新品のエレアコ。まだ相棒と呼ぶには早すぎるかもしれないけど、こいつは僕にぴったりだった。

 僕はこのギターを今回の春休みに、入学祝やお年玉、今までのお小遣いをはたいて買った。

 ボディーの色はブルーサンバースト。僕はこの色が大好きで、楽器屋で見つけた時に一目惚れして買ったのだった。

 

 そもそもギターっていうのは大きくいうと、エレキギターとアコースティックギターの二つに分けられる。

 エレキギターは弾いた音を電気信号でアンプに送り、それで音を出すものである。アンプがなくても弾けるには弾けるが、なんとも貧弱な音になってしまう。けれど音色は自由自在に変化させられる。

 アコースティックギターは、フォークギターやクラシックギターの総称で、中央のサウンドホールで弾いた音を直接響かせるもの。

 それでその中間に当たるのが、このエレキアコースティックギターである。

 アンプに繋いで音を出すことも出来るし、もちろんアコギそのままの性能も持っている。

 一見ただのアコギだが、なかなか便利な奴なのである。

 

 ギターは中三から始めた。始めたのは、憧れからだった。

 音楽室に置いてあったクラシックギターを、ある友達が弾いたのを見て、何ていうか僕は素直に感動した。今まで格好良いとかそいつに思ったことなんてなかった。だけど、ギターを鮮やかに弾いているあいつは、確かに格好良かったのだった。

 「あいつに出来るなら俺に出来ないはずはない!!」みたいな勢いで僕は親戚から、古いフォークギターを貰って、意気揚々と練習を始めた。とっとと上手くなって女の子にモテモテになってやろうという企みだった。

 ――――けど、現実はそんなに甘くはなかった。

 コードチェンジはなかなか上手くいかないし、チューニングとかは色々面倒くさいし、何より弦を押さえる左手の指はすぐ痛くなるし、すぐにあいつみたいには行かなかった。

 上手くいかなくて、ギターを放り出したくもなった。だけど、途中であきらめるのは嫌だった。

 諦めないで続けたお陰なのか、次第に左手も良く動くようになり、指の痛みも感じなくなって、だんだんギターを弾くのが楽しくなってきた。

 それでギターは、どんどん僕の生活の一部になっていった。

 

 多分今の僕の生活の中で、一番充実しているのが今。

 こうやって一人自室でギターを弾いていると、何だか心が落ち着く。

 最初はモテる為にやっていたけど、今は違う。

 別に誰かに褒めてもらいたいとかそういう気持ちはないし誰にも見せる必要はないかな、なんて僕はそう思っていた。

 

 ――――そう、あれに出会うまでは。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ