第二話 猛烈少女
今日は、入学式が終わると簡単なホームルームを済ませた後、教材販売が行われ、購入したものから解散になるという流れだった。
購入者の列は長くて、買うまで大分時間がかかりそうだった。
「ひゃー、なっがいなー」
後ろからそんな声がして振り返ると、
「あ、同じクラスだよね?」
相田沙紀は僕にいきなり声をかけてきた。
僕が返事をする前に彼女は喋り始めた。
「あたし相田沙紀、よろしくね!!」
笑った顔は何ていうか、子供みたいだった。彼女は背はあまり高くなくって、僕より頭ひとつ分くらい低い。髪型は、セミロングっていうやつだろうか、肩に髪がかかるくらいのやつだった。
こいつが、相田。
あれから――――相田が突入してから、式場は一瞬時が止まったようにしんと静まり返った。
彼女の息は乱れていて、急いで走ってきたことが覗えた。
それから相田はつかつかと歩いていき、前方に空いている席、つまり僕の隣にドカっと腰を下ろし、
「ふーー」
と、何事もなかったかのように息をついた。
止まっていた時間もようやく動き出し、呼名も再開した。
だけど、会場の皆の視線は僕の横――――相田に集中していて、何だか僕まで見られているような気がして、ちょっと嫌な感じがした。
だけど隣のそいつは呑気に欠伸なんかしていて、僕はにわかに信じがたかった。
図太い、人間らしい。
「俺はあ」
「ちょっと待って当てるから!!」
僕が名乗ろうとすると相田はそれを制して、クラス名簿に目をやり考え込んだ。
「え〜っと………、田中君!!」
「……はずれ」
入学式で隣に居たのを覚えていないのだろうか。
「じゃ、じゃあ及川君!!」
「違う」
「鈴木君!!」
「不正解」
「なら松岡君!!」
「それ女子じゃん」
「う……」
僕はため息をついて、
「相原誠一、入学式隣にいただろ?」
そう名乗った。
「あー、覚えてる覚えてる」
ホントかどうか怪しいもんだ。
「ボーっとしてて、返事裏返っちゃった人ね!!」
「う……」
そのことは忘れようとしてたのに……。
実は点呼が再開したときボーっとしていて、また声が裏返ってしまったのであった。
「お前だって入学式遅刻してたじゃん」
っていうか、今日二回も変な返事になってしまったのはこいつが原因なのだ。
「うわっ、覚えてるんだ」
覚えてるも何も、いきなり式場に突入して大声で叫ぶなんて普通じゃ考えられない。
「あたし朝弱くてさ〜」
相田は言い訳をするようにあははと笑いながら言った。
「ところでさあ、部活は何にするか決まってる? 一高って運動部も文化部もやたら多くてさ、どれにしようか迷っちゃうよね〜。中学の時はテニスやってたんだけどね、でも茶道部とかも興味あって。だけど野球部とかのマネージャーっていうのも……」
と、彼女は僕に何かいわせる間も与えず、猛烈な勢いで話し始めた。
「それでぇ、エースで四番でキャプテンの先輩とぉ……」
列はまだ長い。
「な、なあ相田さん?」
「きゃあーーーだめよーーー」
図太いっていうか、何ていうかこの女は、
「………はあ」
凄い、としか言いようがなかった。