第十三話 第一号
僕が一通り演奏を終えると、部室は静寂に包まれた。
「…………………」
沙紀は黙って、目を閉じていた。何かを考え込むような、そんな感じで、僕は何だか緊張してしまった。
「こんな感じの曲なんだけど、どうだった?」
その沈黙に耐えられなくなって、僕は沙紀にそう尋ねた。
「……………うん」
沙紀はゆっくりと目を開けて、
「いいと思うよ!!」
にっこり笑って言った。
「う、うんそっか」
嬉しいというよりは、緊張が解けてホッとしたという感じだった。曲を作ったのも初めてだし、人前でそんなものを披露するのも初めてだったからだ。
「でもスゴイよ誠一、ホントに出来たんだね」
「ああ……」
―――そう、これが僕らのオリジナル第一号なのだ。
「でもさ、まだ感慨にふけってる場合じゃないぞ」
僕は沙紀にそう言った。
「え?」
沙紀は首を傾げる。全く分かっていないようで、僕は少しだけため息をつく。ここからが大事なのに。
「まだ沙紀の歌が入ってないじゃん」
さっきは説明の為に僕が歌ったけれど、もともとこれは沙紀が歌うもの、沙紀の歌の為に作ったもので、沙紀が入るまで完成ではないのだ。
「あ! そ、そうだったね」
沙紀はアハハと笑ってそう言った。
「じゃ、やってみるか?」
「うん!!」
準備を始めると、沙紀とふと目が合った。何だか照れくさくなって、笑いあった。
ついに、ついに僕の作った曲に沙紀の歌が入る。沙紀の歌が入ることで、この曲はどう変わるのだろうか? それを想像しただけで全身に鳥肌が立った。
―――イントロ、期待は膨らむ。カッティングが今までにない位キレイに鳴り響く。
―――そして、入った。沙紀が入った。
―――その瞬間を僕はずっと待っていた。作曲している間中ずっと。
―――恐ろしいくらいに気持ちが良くって、笑みがこぼれてきた。うん、『笑みがこぼれる』。まさにそんな感じ。意図せずして自然に笑った。楽しくて楽しくて仕方がなくって僕は笑った。
「ねえ誠一」
「ん?」
部室での練習が終わって僕らは外に出た。
「……楽しかったね」
「……うん」
沙紀の言葉に僕はそう頷くことしかできなかった。
やっぱりこの時間は僕にとって特別で、他に代えようのない楽し過ぎる時間だって、今そう思った。
空はもうオレンジを通り越して黒く夜に染まっていた。
「そういやさ……」
ふと思い出して僕は沙紀に尋ねた。
「テスト、どうだった?」
僕の問いに沙紀の体がビクンと反応し、固まった。
「い、いや〜まあいつも通りっていうか楽勝っていうか」
「なるほど、徹夜の成果が存分に出たようで」
「うわっ、何その言い方! 誠一はどうだったのよ!!」
「八割は出来たかな」
ムキになる沙紀に僕はサラッと言ってやった。まあ実際悪くなかったし。
「キーーッ、ムカツク〜!!」
「馬鹿っ、グーで殴るなよ!!」
「うるさ〜い!!」
―――とにかく、楽しかった。