第九話 結成
「おはよっ、誠一!!」
学校に向かう上り坂の途中で、僕は後ろから声をかけられた。
振り返るとそこには、
「おはよう、相田さ」
「沙紀」
「え?」
「そう呼べって言ったでしょ?」
相田さん、もとい『沙紀』がいた。
「ごめん、忘れてた」
僕はそう軽く謝ってから、坂道を歩き始めた。沙紀も一緒に並んで歩く。
「昨日はさ……」
少しの沈黙が流れてから、沙紀はおもむろに口を開いた。
「うん……」
昨晩のことを思い出す。思い返すと今でもあの興奮が蘇ってくる。
「凄かった、よね………」
あんなことは初めてだった。それはきっと沙紀も同じだったのだろう。
「うん……」
僕はただ、彼女の言葉を肯定することしかできなかった。
昨日の夜、あれから僕らはいろんなことを話した。
まず最初に、沙紀と僕はコンビを組むことにした。まあ、コンビというかアコースティックデュオって言った方がいいのかもしれないけど、とにかく僕らは組むことにしたのだった。
―――これから一緒に音楽をやっていく。そういうことを決めたのだった。
「誠一、これ」
沙紀は鞄から数枚のルーズリーフを取り出した。
「これって」
「その、中学の時に受験勉強の現実逃避に書いたやつだからええっと……」
僕に何か言われる前に沙紀は焦りながらそんなことを言った。
「サンキュ、後でじっくり読ましてもらうわ」
そう言って少し意地悪に笑いながら、僕は沙紀の書いた『詩』を受け取った。
昨日の夜に決めたもう一つのこと。
それは自分たちで曲を作っていくということ。いわゆる、オリジナルってやつだと思う。
これは沙紀が提案したことで、彼女が詩を書き、僕が曲を付けるということになった。
正直僕は作曲なんていうのはやったことがないし、そんなことをする自信もない。
それでもやることにしたのは、やっぱりあの体験のせいだと思う。
沙紀の歌と僕のギターが一緒になったとき、今まで味わったことにない感覚がした。それは快感だったり感動だったり、とにかく僕は楽しくてたまらなかったのだ。
沙紀ともっと一緒にこの感覚を味わってみたかったし、それに彼女と曲を作るっていうのにも物凄く興味が湧いた。
だから僕は、沙紀の提案に乗ったのだった。
「ねえ誠一」
「ん?」
ボーっと前を向いていた顔を沙紀の方に向ける。
「これから、頑張ろうね!!」
そう言って笑う沙紀の顔は、今まで見たどんな笑顔よりも輝いていたと思う。