プロローグ
最後に、僕はもう一度深呼吸をした。手に滲んだ汗ももう一度ズボンで拭いて、準備は完了だった。
すぐ横の沙紀はいつもとは打って変わって、控え室に戻ってからはずっと静かで何も喋らなかった。
「お疲れ様でーす」
前のバンドが控え室に戻って来る。彼らはすっきりとした顔つきで、沙紀とは正反対だった。
「お疲れ様です」
僕は彼らにぺこりとお辞儀をし、そして沙紀の背中をドンと叩いて言った。
「行こっか」
彼女はいきなり叩かれたのにびっくりしたのか体を大きく震わせて、それから何も言わずに頷いた。
「緊張してんのか?」
「誠一は?」
僕はギターのストラップを肩に通しながら、
「してないって言ったら嘘になるかな……」
そういって笑った。
「私はしてないよ」
「嘘つけ」
沙紀も軽く笑って、それから勢い良く立ち上がる。
「さあ誠一、ぼーっとするな、行くぞ!!」
「りょーかーい」
大股でずんずん進んでいく沙紀を僕は後ろから眺めて、さっきまで固まってたのは誰だよと心の中で呟き、そしてステージへと進んだ。
初めまして、青葉というものです。
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