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事件5 おままごと(ファミリー・ゲーム)②

「出かけてくる」と言って、珍しくも外出する養い親をルカは見送った。「遅くなるかもしれないから夕食の準備は要らない」と言ったアルフリートに首を傾げながらも、ルカは取りあえず一日をフェリシアを愛でることに費やしていた。

 彼女の両親の(偽の)遺言の公開と、彼女の後見人となる複雑な手続きの為に奔走するためであることなど、ルカにはうかがい知れない。


 「癒されるわー」


 とか言いながら家事の合間におやつを作ってやったり話し合い手になってやったりしてフェリシアに構うルカ。

 「役得役得」とか言いながら幼女が自分の胸や尻をまさぐっているなどとは露とも知らないルカは、終始上機嫌であった。

 しかし。


 幸福とはいつまでも続きはしないものだ。

 フェリシアの両親がその絶頂で命を断たれた様に。

 幸福な時間とは突然ぶつりと途切れるようになっているのかもしれない。

 貧民街(スラム)の外れにある探偵社。その周囲を殺気が篭った数人の気配が取り囲んだのは、太陽が西に沈んだ直後のことであった。


 「!?」


 夕飯の片付けをしていたルカは、住居が数人の、しかも手練に囲まれていることを察知してすぅっと目を細める。

 そして居間でぬいぐるみに抱きつく幼女に視線を移し、そっと彼女に近寄った。


 「フェリシアちゃん?」

 「なぁに、ママー?」


 きょとんする愛らしい幼女に、ルカは微笑みながら話しかける。


 「ママ、ちょっと出てくるから、お留守番しててくれる?」

 「うんー!いいよー!でも、すぐに帰ってきてねー」


 そう言うフェリシアに「わかった」と答えてから、ルカは艶丸を取り出して玄関の扉を開けた。


 「…で、どこのどちら様なわけ?私がこの家に住んでることを知っての狼藉かしら?」


 外に出てみると、そこには頭に黒革のマスクを被って人相の知れぬ、全身黒尽くめの男達が夜に溶ける様にして探偵社を取り囲んでいた。

 プロだな、とルカは思い、そして嫌な汗を掻く。

 彼女一人ならどうにもでもなるだろうと思えた。

 あるいはアルフリートがいれば問題にもならないだろう。

 だが今養い親は留守で、彼女には守るべき娘がいる。

 ルカはスっと艶丸を鞘から抜き放つ。

 すると、黒尽くめたちも一斉に殺気を膨らませた。


 「悪いけど、うちに入れてあげるわけには行かないわ。今、ちょっと小さなお客様が来てるとこだから」


 ルカが軽口を叩いた瞬間だった。

 黒尽くめ達が一斉に襲い掛かってきたのは。 


 「くっ」


 その動きは訓練された暗殺者のものだった。

 仮に相手がルカでなければ、その気配すら察知させずに殺されていたかもしれない。

 一人が小刀を抜き放ってルカに向かってきたのを、彼女は艶丸を持って迎え撃つ。

 きぃんと言う高い音がして黒尽くめは後方に弾かれるが、すぐさま別の暗殺者がルカに向かって音もなく走り寄る。


 「ちっ」


 彼らは決して無理をしない。

 ルカをあなどりもしない。

 狼が獲物を狩るように。

 深追いせずに確実に群れでルカを追い詰める。

 訓練された組織は足し算ではなく掛け算の能力を発揮する。

 一人一人はルカに及ぶべくもない能力である黒尽くめたちが、確実に規格外の少女を追い詰めていた。


 「この―!ちょこまかと!」


 フェリシアを守らねばならないルカには気持ちの上で余裕が少ない。

 周囲に気を配り、万が一にも家に入り込まれないように注意を払っておかねばならない。

 だが結果としてその気配りがすべてに裏目に出ることとなった。

 周囲に意識を広げるルカは、最後まで気付かなかったのである。

 初めから、罠は彼女に向けて張り巡らされていたことに。

 黒尽くめたちをけん制しながら軽快なフットワークで駆ける少女。


 しかし貧民街(スラム)の一角。

 未舗装の砂利の道を脚が踏んだ瞬間。

 突如雷撃がルカの身体を走った。


 「う、わぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」


 全身を貫く激痛にさいなまれながら、ルカは辛うじて己の足元を見る。

 そこには巧妙に隠蔽された雷電結界が、彼女の華奢な身体を食い破らんと凶悪な雷撃を放っていた。


 「し、まった……!」


 はじめからルカを何とかしなければ襲撃の成功がないことを黒尽くめたちは知っていたに違いない。そしてそれが容易ではないことも。だからこそ。

 あらかじめ罠を張って望んだのである。


 「く……そ……!」


 全身の力を集中させてなんとか結界を解こうとするルカ。だがよほど高位の術士が組んだものなのだろう。ルカの全力の抵抗をもってしても解除することができない。


 「う。うぅ、あぁぁぁぁぁぁっぁぁ!」


 全身を雷撃にさらされ、遂にルカがその意識を失った瞬間だった。

 不意に、雷電結界がその威力を喪失させたのは。


 「?」


 黒尽くめたちが不審に思って硬直する。

 そのうちの一人が、ぐったりと倒れるルカに近づいた瞬間。

 音もなく吹き飛んで廃ビルの壁に叩きつけられた。


 「ぐは…」


 ぐちゃりという不吉な音がして、男はそのままぴくりとも動かなくなる。黒尽くめたちは何が起きたのかも分からずきょろきょろと周囲を見渡す。

 そして。

 探偵社の玄関から出てきた小さな幼女をようやく発見したのだ。


 「ふむ。確かに強いが、まだまだ注意力が足りないな。まぁ若いのだし、その辺は今後の課題かな。時に貴様ら――」


 幼女は、すたすたと一見無防備に歩きながら、その外見に似合わぬどすの聞いた声で刺客に向かってすごんでみせた。


 「人の女に手を出して、ただで済むと思うなよ?」


 ゆらりと、黒い影が幼女の後ろに立ち上る。

 黒尽くめたちは、それを見て驚愕とともに絶句したのだった。


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