2:彼女の妹はコタツの中でふにふにする
冬がどれだけ寒くとも、愛花の家はいつものように暖かい。
俺と愛花の大学は別々だが、なるべく休みや帰る時間が重なるように授業を取っているため、いつも最寄り駅で集合して、そのまま愛花の家に向かうのが定番だった。
なぜ愛花の家なのかというと、駅から近いし、新築だからだ。
俺んちはお爺ちゃんの代から続く築五十年だか六十年だかのボロ家。
対して、愛花の家は築五年。俺と付き合ったばかりのころに建てた最新設計だ。断熱性能とかも全然違う。蛇口はレバー式だし。エアコンも200Vのいいヤツだ。テレビだってデカい。
だから今日も彼女の家に入りびたる。
ご両親も良くしてくれるので、本当に居心地が良いのだ。
「ただいまー」
「おじゃましますー」
家に上がると、早速リビングへと向かう。暖かい部屋でコタツにくるまれば、もう完璧だ。二度とその場から離れられなくなってしまうし、それが望みだった。
だが今日は、先客がいた。
内田家の次女。美咲ちゃんは、真剣な面持ちでコタツに教科書を広げ、ノートにペンを走らせていた。
テレビはつけっぱなしで、バラエティ番組の笑い声が部屋に響く。
高校二年生の彼女は、今が勉強の頑張り時。
美咲ちゃんの、あんな真面目な顔は初めて見た。邪魔しちゃ悪いな。
愛花にひそひそと耳打ちする。
「上行こっか」
「そだね。私の部屋で温まろっ」
抜き足差し足。そっとリビングから出ようとした矢先だ。
突然、美咲ちゃんがこちらに目をやって、ニコリとほほ笑んだ。
「あっおかえり! お姉ちゃん、お兄ちゃん♪ もしかして気を使っちゃった? 私、騒がしい方が集中できるから、ここにいてくれてもいいからね! てか、一人だと寂しいから一緒に居て!」
まあ、そう言うなら……。愛花と目を合わせて、とりあえずこの場は美咲ちゃんの言う通りにすることにした。確かに、テレビもつけっぱなしで、お母さんが台所で晩御飯の準備をしている生活音も垂れ流しの中、美咲ちゃんの集中力には感嘆する他なかった。
俺は「わかった」と返して、コタツに潜り込んだ。美咲ちゃんの勉強道具が横に広がっているので、邪魔をしないように正面に陣取る。だが愛花は、実の妹にお構いなしに、彼女の横に座ったのだ。
美咲ちゃんは、身内と認定した人との距離感がおかしい。
それは逆を言えば、家族も彼女に対して、距離が近いということだ。それだけ愛された末っ子ということでもある。
だから美咲ちゃんも愛花が隣で俺とくっちゃべってたって気にしていなかった。
話したりテレビ見たり、俺は美咲ちゃんに配慮して少し声のトーンを落として団らんしていると、いつもの調子じゃない俺に飽きたのか……コタツの中で、足を絡まった。
いつものことだ。
コタツの中は狭いから、足が触れ合うのは日常茶飯事。
でも今日はなんだか……いつもより積極的? 愛花の細い足が俺の足首に絡みつき、ゆっくりとスリスリと擦ってくる。
愛花はテレビを見ながらポーカーフェイス。
俺も、スマホの画面を見たまま……心の中でニヤリとした。
愛花め。実の妹の前で、内緒でいちゃいちゃしたいってか?
いいだろう。だが……!
そのポーカーフェイスをいつまで続けられるかな?
俺も負けじと足を返し、彼女のふくらはぎを軽く撫でる。
愛花はテレビを見ながらくすくす笑った。そんな顔をしながら、足の指で俺の太ももをツンツンしてくる。ツンツンがだんだんと、上がってきて……股間のあたりに軽く触れてくる。
思わず、息が少し荒くなった。
おいおい、ここリビングだぞ……。美咲ちゃんもいるのに……だ、大胆だな……。嫌いじゃないけど!
バカップル丸出しだ。俺も調子に乗って、足を少し開いて彼女の足を迎え入れ、自分の股間を軽く押し付けるように動かした。
美咲ちゃんにバレないように、ゆっくりと。
愛花の足が俺のそこを優しく踏みつけるように擦ってくる。
ヤバい。
マジでヤバい。
愛花の顔は相変わらずテレビに向いてて、こんな大胆なことを、コタツの下で繰り広げているというのに、なんて素知らぬ顔ができるのだ。俺はできているか? ポーカーフェイス……!
けっこう、ギリギリだぞ!?
ちらりと、美咲ちゃんも伺ってみる。バレてないよな?
だけど彼女は教科書に目を落としたままだ。ふう、危ない危ない。
――その瞬間、愛花がぱっと立ち上がった。
「さてと。お料理手伝ってくるね。青典くん、今日も食べていくでしょ? 待っててね!」
え? 愛花はコタツから足を抜き、ぴょんと台所の方へ走っていった。
リビングに残されたのは、俺と……美咲ちゃん。
「……え?」
俺の足に、まだ絡みついたままの細い脚。
今、愛花は台所にいる。
じゃあ、この足は……?
恐る恐る、視線を美咲ちゃんに向ける。彼女は教科書に顔を埋めたまま、でも口元に薄い笑みを浮かべていた。
彼女の足は、俺の股間にぴったりと押し付けられたまま、ゆっくりと円を描くように動いている。
「美咲……ちゃん?」
声が震えた。
美咲ちゃんは顔を上げず、教科書をめくるふりをしながら、小さく囁いた。
「お兄ちゃん……これ、誰の足だと思ってたんですか?」
心臓が爆発しそうだ。
俺は慌てて足を引き抜こうとしたが、美咲ちゃんの足はまるで蛇のように絡みつき、離してくれない。
むしろ、もっと深く俺の股間に押し込んでくる。
「や……やめて、美咲ちゃん……。これはちょっと、洒落にならないって……」
俺は思わず腰を浮かせてしまった。
俺がコタツの中でイチャイチャしてたのは、愛花じゃなかった。その相手は、五年前の、付き合ったばかりの頃の愛花と瓜二つの美咲ちゃんだった。
付き合いたての最高にラブラブ真っ最中の! 愛花と! 瓜二つの!
あまつさえ愛花よりも性的な魅力が大きい!
距離感がバグった義理の妹!
俺のこと好きなんじゃないかって錯覚してしまう!
そして男は自分のことが好きな女の子を好きになる生き物である!
頭がおかしくなりそうだ!
コタツの中は熱い。
テレビの笑い声が、遠くに聞こえる。
台所からは愛花とお母さんの楽しげな話し声。美咲ちゃんの足は、まだ俺を離さない。
俺も、ぼーっとした思考で、なんとかその足をどけてもらおうと……足を延ばして抵抗するのだ。……彼女のふくらはぎを上り、太ももを通り抜けて、美咲ちゃんのショートパンツの裾に触れた。
コタツの熱とはまた違う熱気を感じた。
ハっと我に返る。
いやいや、俺は、何をしようとしていた?
義理の妹の、あそこを、足蹴に……。
このままじゃ、戻れなくなる。急いで足を引き抜こうとした。が……。
「……お兄ちゃん。待って。まだ、このまま……」
彼女の声は、教科書に顔を埋めながら、甘く響いた。
俺は、答えられなかった。
ただ、コタツの中で震える自分の足と、絡みつく美咲ちゃんの細い脚のなめらかさを味わいながら、ただ呆然と、理性が溶けていくの感じている他なかった。
――そして、理性が限界を迎えた俺が、伸ばした足を、更にその奥へと進めるべくつま先をピンと立てた瞬間。
美咲ちゃんが、小さく高い声を上げた。
「んーっ♡ 終わったー!」
美咲ちゃんはすっと足を抜き、何事もなかったように教科書を閉じた。
いたずらな笑みを携え、俺を見る。
「お兄ちゃんの足、ゴツゴツの感触が気持ちよくて、めちゃくちゃ勉強に集中できました! ありがとうございます♪」
あ……そういうこと……!?
最初の方はいたずらで、俺の勘違いが面白くて足を絡めてたけど、途中から勉強集中モードだったってコト!?
一人でモンモンとしていた俺が完全にバカだ……! 自分に呆れてものも言えない。
「美咲ー! 青典くーん! ご飯できたよー!」
台所から愛花が声をかけてきた。この香り。今日の晩御飯は魚の煮つけだ。美咲ちゃんの好物だ。
二人で「はーい!」と返事をして、一緒に台所へ向かう最中、美咲ちゃんは俺にこしょこしょと耳打ちをした。
「ところでお兄ちゃん、あの、私の足に当たってた、あのふにょふにょしたところって足のどこの部分だったんです? 途中からめちゃくちゃ力入れて、筋肉バキバキにしてましたけど?」
俺は答えに一瞬つまり、しかし即座にこう切り返した。
「……インナーマッスル」
なお、俺の股間のインナーマッスルは、未だにバキバキである。




