1:彼女の妹は青春時代の顔をしている
「青典くん、好きです。私と付き合って下さいっ!」
高一の夏。俺は愛花に告られた。
同じクラスだけどあまり話したことのない子だった。友達とオタトークしてると、チラチラこちらの様子をうかがっているのは知っていたから、てっきりオタ仲間が欲しいのかなとしか思っていなかった。
まさか、俺のことが好きで、見つめていただなんて、考えもしなかった。
「はい! よろしくおねがいします!」
俺は二つ返事で了承した。
男子学生というものは、例えよく知らない相手だろうと、自分を好きになってくれる異性はこちらも無条件で好きになってしまうものなのである。
俺はその時、その瞬間から、内田愛花のことがたまらなく好きになったのだった。
それから順調に交際を続けて、五年になる。
お互いに大学生となった今でも、これまで喧嘩一つせず、仲良く交際を続けさせてもらっている。
愛花のご両親もすっかり俺に良くしてくれるので、俺も彼女の実家には気兼ねなくお邪魔して、こうして日曜日も夜までリビングでダラダラさせてもらっているわけだ。
愛花と一緒にゲームしたりテレビを見ながら、のんびりコタツで過ごす。
金のない大学生身分が背伸びをする必要はない。こうして一緒に過ごせるだけで幸せなのだ。
そんな矢先、愛花が急に立ち上がった。
不服そうな顔で、じっと俺を見つめる。え、なに……?
「ごめん、もう限界……。コンビニ行ってくる」
「え、今? どしたん急に?」
「もう無理なの。ごめんだけど、止めないで」
愛花はいそいそとコートを羽織って出て行ってしまった。外では車のエンジンがかかる独特な音色が響いて、ブォンと遠のいていった。
ぽつんと残された俺は、コタツに潜り込んでスマホをいじりながら今の出来事を反芻する。
ああ、ダイエット……。
俺も巻き添えに、お菓子禁止令を自分に敷いていたもんな。
そうか。とうとう限界が来てしまったか……。
彼女の謎の行動に合点がいったところで、再びスマホをいじる。やがて寝落ちしそうなほどリラックスしていると……頭上で無邪気な声がした。
半開きの目をバチっと見開くと、そこにいたのは愛花の妹。……美咲ちゃん。
「やっほー。お兄ちゃん♪」
黒髪ロングの高校二年生。
白状しよう。俺は美咲ちゃんが苦手だ。
なぜなら、……似てるのだ。五年前の愛花に。
だからどうしようもなく、ドキっとしてしまう。それが愛花にも、そして美咲ちゃんに対しても、どうしようもない罪悪感を産んでしまうのだ。
とうぜん彼女たちはそんな俺の内心なんて知る由もない。
だから俺がただ黙っていれば丸く収まる話なのだが……。
……問題はまだある。
それが、美咲ちゃんその距離感だ。
美咲ちゃんは当然のように、コタツに潜り込んできた。
わざわざ、俺の隣に。ぴったりと。
美咲ちゃんは昔からこういう子だった。初めて彼女の家にお邪魔して、中学生だった美咲ちゃんとの初顔合わせ。初対面はオドオドした内気な子だと思ったけど、何回か通っていると、慣れてきたのか、俺も家族の一員であるかのように接してくれるようになった。
屈託のない笑みで「お兄ちゃん♪」と呼ばれるのが嬉しかった。
半面……心を許した相手への距離感がバグっているのも、当時から既に片鱗を見せていた出来事だ。
「お兄ちゃん♪ 今日は一緒にお風呂入ろっ!」
なんて言われた時は飲んでたコーラを噴き出した。
姉の愛花とはよく一緒に入浴するらしく、そんな仲の良い姉の彼氏とだって当然一緒に入ってもいいものだと思っていたらしい。
ご両親の説得によりなんとかそれ以来言ってこなくはなったが、その時の美咲ちゃんの驚愕した表情と捨て台詞は忘れられない。
「え……? じゃ、じゃあプールは……?」
プールと同じ感覚だったらしい。
五年という歳月が流れ、中学生だった美咲ちゃんも高校二年生になった。
しかし、色々と常識とか、節度とか、それらを成長の過程で自然と身につけてくれるものだと思っていたのだが……。
残念ながら、身体だけが大きくなった、感性はあの頃のままの美咲ちゃんがそこにいるのだった。
しかも、顔つきは当時の愛花に瓜二つで、黒髪ロングもそっくりだし……いやボディラインはむしろ美咲ちゃんの方が肉付きがいい……って、ああ! 違う! でもそんなことを考えてしまう自分が嫌になる!
どうしても当時の、愛花を好きになった青春時代を、美咲ちゃんに重ねてしまって……!
「ちょ、待って待って。愛花もうすぐ戻ってくるから……」
離れようともがくが、コタツの中は狭い。まんまと侵入を許してしまった俺の落ち度だ。
下手に動くと……色々、当たる……!
そんな俺の焦燥など意に介さず、美咲ちゃんはふふんと笑った。なぜか得意げだ。
「大丈夫! お姉ちゃんが言ってましたもん」
美咲は俺の耳元に顔を寄せて、囁くように言った。
「あのね。『妹とナカヨシなのは浮気じゃない』って……♡」
……常識とか、節度とか、何一つ身に着けちゃくれなかったが、この子は年相応に、恋愛やそれに類ずる知識を身に着けてしまっていた。
だから、こうやって茶化してくる。
俺には悪魔のささやきにしか聞こえなかった。
「お兄ちゃん、だから……マッサージして?」
しかし悪魔は、囁くだけに留まらない。
美咲ちゃんはおもむろに上着を脱ぎ始めた。突然のことに心臓が爆発しかけたが、下はキャミソールを着ていたので爆死は免れた。
でもうつ伏せでごろんと寝転がる美咲ちゃんの上目遣いと、肌面積が増えたことによる、性的な魅力に、頭がクラクラする。一体どうした、なんでそんな……。
「美咲ちゃん、悪ふざけはもうやめてくれ。 そういうの……俺、もう……」
「冗談じゃないです。本気です」
美咲ちゃんは上目遣いで俺を見て、にっこり笑った。
本気……? 彼女の言葉に、俺は目を丸くした。
「最近、マジで肩こり酷いんです。私、YouTubeでいいマッサージ方法見つけて、力強いお兄ちゃんにずっとこれ、やってほしかったんです」
……。助けてくれ。この子は本当に、ただの天然なんだ。
俺が欲望に負けて、そんな彼女の天然な誘惑に乗ってしまいそうになるのが、一番怖い。
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