子どもたちの困りごと
「もー、おじさんむかつく!」
店を出たあとも、ミロは頬をぷくっと膨らませたまま、不機嫌そうに歩いていた。
「せっかく紹介したのに、あの態度、なんなのさ……」
アルテアは隣で肩を並べながら、くすりと笑う。
「いや、いい情報屋だったよ。さすがミロ」
アルテアは笑いながら彼の頭を軽く撫でた。
「それで、次は?」
ミロは照れたように、話題を変えた。
「そうだね……」
アルテアが言い終える前に、路地の向こうから声が飛んできた。
「おーい、ミロー!」
声をかけてきたのはミロと同年代の子どもたちだった。
「この人は?」
「アルテアだよ! すっごく強くてカッコよくて……、すっごい美人なんだ!」
ミロが胸を張って言った。
「初めまして」
アルテアがフードを取って挨拶すると、男の子たちは『うわっ!』と騒ぎ出し、女の子たちは目をキラキラさせて見つめた。
ミロはアルテアの隣に立ち、順に子どもたちの名前を紹介してくれた。
「ところでみんなはどうしたんだ?」
ミロが尋ねた。
「うん……実は困り事があってさ」
ミロの友達の一人、くせ毛の茶髪の毛の男の子、ナッシュが少し声を潜めて言った。他の子どもたちは顔を見合わせたまま黙り込み、小さく唇を噛んでいた。
「どうしたの?」
アルテアが穏やかに尋ねると、ナッシュが一歩前に出て、早口で話し始めた。
「この近くの闇市で、俺たちの友達が変な男に捕まっちゃってさ。リコって女の子なんだけど、今朝、薬草を売りに出たらしくて……そしたらよく分からないけど『借金のカタだ』って連れてかれちゃったんだ」
「そいつ、ダスクロウの裏ででかい顔してる借金取りで、ダルモンって言うんだけど、でっかい棍棒持ってる怖い奴なんだよ。助けたいけど……ぼくたちじゃどうにもならなくて」
シャツがよれた少年、レムは足元を見つめたまま、小さな声で言った。
「リコ、すごく真面目なんだ。家で病気のおばあちゃんの面倒見てて……。朝早くから薬草集めてたのに……」
小柄な女の子のティナが目を潤ませた。
「でもさ、リコの兄ちゃんがちょっとトラブル起こしてたって噂は聞いたんだ」
ナッシュが口を挟む。
「何でも、借金がどうとかって……あの怖い借金取りに目をつけられたのは、それが理由らしいんだけど……詳しいことは、よくわかんない。肝心のリコの兄貴もいないし」
ぽっちゃりした体型のバールが付け加えるように言った。
ミロがパッと顔を上げて胸を張る。
「大丈夫だよ! アルテアなら絶対なんとかなるって。すっごく強いんだから!」
アルテアは小さく微笑み、子どもたちの不安を包み込むように視線を送った。
「ふーん、借金取りか。……うん、きっとなんとかなるよ。私たちで、リコを迎えに行こう。ミロ、闇市ってどこ?」
「うん! あっちの路地の奥、酒場の裏にあるよ。案内する!」
ミロが勢いよく手を挙げた。
アルテアの言葉に、子どもたちは顔を見合わせた。
しばしの沈黙のあと——
ティナが袖をぎゅっと握り、声を絞り出した。
「……リコ、泣いてると思う。……だから、行こう」
その声に、他の子どもたちの顔にも、少しずつ力が戻っていった。