マムの飯屋
市場の端に着くと、小さな木造の店が目に飛び込んできた。看板には『マムの飯屋』と殴り書きされ、焼けた肉と香草の匂いが漂ってくる。ミロが得意げに言う。
「ここ、肉シチューが美味いんだ! パンも焼きたてでさ、姉ちゃんが元気だった頃はよく一緒に食べてたんだよ!」
「へえ、肉シチューか。よし、入ろう!」
アルテアはミロと一緒に店に入った。
店主のマム——恰幅のいいおばさんがミロを見るなり、「あんた! またスリなんてしてないだろうね!」と叱りつけると、隣のフードを外したアルテアに気付く。
「おや、新顔だね」と笑顔で近づいてきた。
「ミロが迷惑かけてないかい? この子はいい子なんだけどちょっとやんちゃでねぇ。ああ、座って座って。サービスしとくよぉ。さあさ、何にする?」
アルテアとミロは壁際の木のテーブルに腰を下ろした。
「肉シチューと焼きたてパン、お願いします!」
アルテアが勢いよく注文すると、マムが「元気な子だねぇ」と笑って厨房に戻った。
シチューが運ばれてくると、深い茶色のスープにゴロゴロと肉と野菜が入っている。しっかり焼き色のついたパンには湯気が立っていた。濃厚な肉と香ばしい小麦の匂いにアルテアは鼻をヒクヒクと動かした。
シチューをスプーンで一口食べて、パンをちぎって頬張った。
「うわっ、美味しい! 肉がホロホロだ。スープのコクもすごい…。パンも外はカリッとしてるのに中はふわふわ!」
「でしょ? 姉ちゃんにも食べさせたいな……」
ミロが少し寂しそうに呟くと、アルテアはパンを咀嚼しながら閃いたように手を叩いた。
「そうだ、お姉ちゃんにお土産買おうよ! このシチュー、持ち帰りできる?」
マムが厨房から顔を出し、「壺に詰めてやるよぉ。ちょっと待ってな」と答える。アルテアは「じゃあ、お土産用に一つお願い!」と頼んだ。
壺に詰めたシチューとパンを受け取り、支払いをしたアルテアとミロは店を出た。ミロが嬉しそうに言う。
「姉ちゃん、びっくりするだろうな。アルテア、ほんとにありがとう!」
「いいのいいの。美味しいものはみんなで食べなきゃね。さあ、お姉ちゃんに届けに行こう」
アルテアはフードを被り直し、壺をそっと抱えた。
二人は夕闇迫る街を歩き、隠れ家へと向かった。アルテアのフードの下で、金髪がそっと揺れていた。