第七章
それから四か月後のある晩、エリスとヴァンドーヴァーは、アイダ・ウェイドとベッシー・ラグナと機械工フェアで「デート」した。ヴァンドーヴァーが父親のところに行かなければならなくて、九時半まで会場には来られなかったので、エリス、ベッシー、アイダはアートギャラリーで彼と待ち合わせることになった。みんなは十時までフェアを歩き回って、その後、男性二人は、二組に分かれて女の子たちをクリフハウスに連れ出そうと目論んだ。すべてがエリスとベッシーによってお膳立てされたもので、ヴァンドーヴァーは苛立っていた。エリスはもっと分別を持つべきだ。女の子を連れて来るのは大いに結構だが、機械工フェアにはみんなが来るんだ。僕はターナーやヘンリエッタ・ヴァンスのような立派な女の子たちに、こういう娼婦と一緒にいるところを見られたくない。それは社会的地位のないエリスにとってはまったく平気であっても、僕には途方もなくおかしなものに映るんだ。もちろん、僕は今、その真っ只中にいる。甘んじて批判を受けねばならないだろう。こういう女の子に、あなたと一緒にいるところを見られるのは恥ずかしい、と言うわけにはいかない。かといって、すべてを抱えれば完全に窮地に陥る可能性がとても高い。
ヴァンドーヴァーが機械工パビリオンに到着したのは十時二十分頃で、入場口を通り抜けると、色と動きでいっぱいの巨大な円形の会場に入り込んでいた。
何千という足がたてる大きなシャカシャカという音と、大きな工場の騒音のような、会話によるこもった轟音があって、遠くの機械の低い音と、仮設の噴水の水しぶきと、ブラスバンドのリズミカルな騒がしさが、これらに混ざった。一方、ピアノの展示場では、雇われた演奏者が盛んにコンサート用のグランドピアノを弾いていた。もっと近くでは、会話の断片や笑い声、ブーツのきしる音、動くドレスや硬いスカートの擦れる音が聞こえた。あちらこちらで学童のグループが人ごみを肘でかき分けて進み、甲高い声で叫び、両手いっぱいに広告のパンフレット、うちわ、絵入りのカード、しろめの笛がグリップについたおもちゃの鞭をかかえていた。空気には出来立てのポップコーンの匂いが満ちていた。
エリスとベッシーは上の階のアートギャラリーにいた。アイダの母親のウェイド夫人は手描きの教室をやっていて、ここに作品を展示していたので、二人はそれを見つけたがっていた。ビロードに描かれて金箔の額縁に入れられた黄色いケシの花束だった。二人はその前に立って、少しの間感想を述べ、それから絵から絵へ渡り歩いた。エリスはカタログを購入し、すべての絵のタイトルを見つけようと心に決めた。ベッシーは絵を描くのが大好きだと公言していた。一度「始めた」ものの、油かテレビン油か何かのせいで気分が悪いというだけの理由で途中でやめてしまった。「もちろん、私は批評家じゃないもの、自分の好きなものしか知らないわ。ほら、あそこにあるあれ、私、ああいうの好きよ。ああいう理想的な頭って素敵だと思わない、バンディ? あっ、ヴァンがいる!」
「こんにちは!」ヴァンドーヴァーが近づいてきて言った。「アイダはどこにいるの?」
「こんにちは、ヴァン!」ベッシーが答えた。「アイダは来ないわ。それってあんまりじゃない? 風邪をひいたから来られないって言ってたけど、口から出まかせを言ってただけなのは見え見えよ。風邪気味だってだけで、彼女からは何も聞き出せないの。あなたたち二人、喧嘩してないわよね? まあ、あなたたちに限ってそんなことがあったとは思わないけど、彼女は何かを心配してるわ。今週、家から一歩も出てないのは確かね。でも、こういう行事に冷や水を浴びせるなんて、彼女もあんまりじゃない? 私にお説教までしてきたくせにね。それに、自分は改心するんだなんて言ってるのよ」
「まあ」ヴァンドーヴァーはとても安心して言った。「それは残念だ。今夜はたっぷり楽しめたかもしれないのに。すごく残念だよ。それで、きみたち二人はどうするつもりだい?」
「まあ、僕たちは予定どおりに僕たちの部分を最後までやることになると思う」エリスは言った。「でも、きみはあぶれたみたいだな」
「わからないよ」ヴァンドーヴァーは答えた。「ひとまずダウンタウンに行って、誰か見つかるか確認してみるとしよう」
「そうだ、ドリー・ヘイトがこの近くのどこかにいるぞ」エリスが言った。「僕らはついさっき、チェスのマシンのそばで見かけたから」
「それじゃあ、探してみるよ」ヴァンドーヴァーは答えた。「まあ、そっちはそっち二人で楽しんでくれ」彼が背を向けかかると、ベッシー・ラグナが駆け戻ってきて、彼を少し端っこに連れて行って言った。
「できれば、すぐにアイダに会いに行ったほうがいいわよ。きっと、何かで完全に参っちゃったんだわ。彼女、あなたにならきっと会いたがると思う。正直に言って」急にかなり深刻そうに言った。「私、アイダがあんなに落ち込んでるの見たことがないわ。何かものすごい悩みを抱えてるのよ。彼女、あなたに会いたいんだと思う。私には何も話そうとしないのよ。あなたが行って会ってあげて」
「わかった」ヴァンドーヴァーは微笑んで答えた。「行ってみるよ」
ヘイトを見つけようと階段をおりていたとき、アイダの悩みが何なのか、思いついた。彼は突然大きな恐怖に襲われて、一瞬、寒気がして力が抜け、階段の手すりに手を伸ばし、もたれかかって体を支えた。ああ、何たる災難だ! 災難にもほどがある! 何て恐ろしい責任なんだ! 何て罪を犯してしまったんだ! 彼はこの考えを頭から締め出すことができなかった。アイダはああいう場所に足を踏み入れたんだから事実上同意したんだ、結局、僕だけの責任じゃない、それにまだ確かなことは何もないんだ、と彼は自分を説得しようとした。彼は、そのとき誰もいなかった階段に立って、親指の先を噛みながら、低い声で自分に言った。
「何たる災難だ、何て恐ろしい災難なんだ! ああ、この悪党め! この大馬鹿者め、考えもしなかったとは!」お菓子売り場の一つのカウンターの女の子二人が、大声で喋りながら彼の後ろの階段を降りてきた。ヴァンドーヴァーは不快な話題から自分を解放するかのように、腹立ち紛れに肩をすくめて先へ進んだ。
下の階でヘイトを見つけられなかったので、再びギャラリーに戻った。しばらくしてから、誰もいないベンチに座って、杖をつき、通り過ぎる群衆を眺めている彼に出くわした。
「やあ、大将!」ヴァンドーヴァーは叫んだ。「きみがどこかで見つかるってエリスが言ってたんだ。ちょうどあきらめかけていたところだよ」彼は友人の横に座った。人が通り過ぎると、二人はその人について話し始めた。「ほら、あの赤い帽子の人!」突然、ヴァンドーヴァーは叫んだ。「彼女が通り過ぎるのはこれで三度目だな」
「エリスはベッシー・ラグナと一緒に行っちゃったのかい?」ヘイトは尋ねた。
「うん」ヴァンドーヴァーは答えた。「あの二人はクリフハウスでひとときを過ごすつもりだよ」
「そいつは最悪だな」ヘイトは答えた。「エリスが、あんな女におぼれるとは。初めてここに来たときに、とても素敵な人たちと知り合いになっていたはずなのに。あの女の子とウイスキーのせいで、自分でつかんだかもしれないすべてのチャンスを台無しにしてしまったんだからな」
「チャーリー・ギアリーがいるぞ」ヴァンドーヴァーは突然叫んで、口笛を吹いて手招きした。「おーい、チャーリー! どこに行くんだい? おや」ギアリーが近づいて来ると、彼はいきなり叫んだ。「おや、彼の新しい服を見てみろよ?」二人ともギアリーの新しいスーツの優雅さに圧倒されたふりをした。
「おおお!」ヘイトは叫んだ。「これは、これは、恰幅のいい名士ですな。ちょっと触らせてくれ!」
ヴァンドーヴァーは目を覆って、まぶしそうに顔を背けた。「これはたまらん」と息をのんだ。「これほど見事で、これほどの紫、しかも上質のリネン」それから突然叫んだ。「おお! おお! このズボンの皺を見てみろ。いやあ、実にすばらしい、たまんないな」
「いいから黙れよ」ギアリーは二人の狙いどおりにいらついて言った。「そうなんだ」彼は続けた。「自滅覚悟だよ。僕はまるひと月、働き詰めだったんだ。ビールの事務所に入ろうとしてるもんでね。〈ビール&ストーレイ〉だよ。先週、内定をもらったんだ。だから、ボロいのでいいから思い切って買おうと思ったんだ。まる一日かけてサンラファエルまで行って、いとこを訪ねてたんだ。すばらしいひとときを過ごしたよ。ボート漕ぎにも出かけたぞ。ああ、それにすばらしい食事もしたな。マヨネーズがかかったレタスのサンドイッチ。ただただすばらしかった。四時の船で戻って、一、二時間、カーニー通りの鉄道に乗りっぱなしだった」
「それで?」ヘイトは適当に言って、しばらくしてから付け加えた。「これは賑やかな人混みじゃないか、典型的なサンフランシスコの人混みで……」
「五時十五分頃、インペリアルでカクテルを飲んで」ギアリーは言った。「エリートで葉巻を買って、それから服を取りに行ったんだ。ああ、僕が仕立て屋を怒鳴ったのをきみたちは聞くべきだったな! 僕は率直に言ってやったよ」
ギアリーが少し話をやめると、ヴァンドーヴァーが言った。「ねえ、少し歩こうよ。歩きたくないかい? また赤い帽子に出くわすかもしれない」
「僕はそいつに言ったんだ」ギアリーは動かずに続けた。「もし僕のために今後も仕事をしたかったら、急いでもらわないとな。もしそうしていたら、僕は怒ったりしなかったんだ。そいつが言うんだ。『ねえ、ギアリーさん、私がこの仕事を始めてから、お客さんにこんな話をされたことはありませんよ!』だから僕は言ってやったよ。『じゃあ、アレン、そのときが来たんだ!』って。ああ、確かに、僕は率直に言ってやったんだ」
「ヴァンドーヴァーは赤い帽子の女の子が気になって仕方がないんだ」彼らが立ち上がって歩き始めたときに、ヘイトが言った。「ここ来る途中で会わなかったかい?」
「僕は仕立て屋を出た後、グリルルームに行ったんだ」ギアリーは続けた。「ダウンタウンで夕食をとったんだよ。ああ、店が出したステーキは必見だったね! 厚さが幅と同じくらいあったんだから。僕は給仕に五十セントのチップをやったよ。常連になるなら、店の者とはいい関係を築くに限るからね。僕は週に四、五回はそこで昼食を食べるんだ」
彼らは一階に降りて中央の通路を歩き、かわいい女の子たちを物色していた。ソーダ水売り場のあるお菓子屋の店頭で、彼らは再び赤い帽子の女の子を見かけた。ヴァンドーヴァーは彼女の顔を正面から見て少し笑った。彼が通り過ぎざまに振り返ると、女の子はヴァンドーヴァーの目をとらえて、おどけた笑みを浮かべて背を向けた。ヴァンドーヴァーは立ち止まって、にやりと笑い、帽子を上げて「あれはもう僕のものだと思う」と言った。
「きみは行かないのかい?」ヴァンドーヴァーが立ち止まったので、ヘイトは叫んだ。「なあ、頼むから、ヴァン、一日のうち一時間くらい、女の子のことは放っておけよ。さあ! 僕らと一緒にダウンタウンに行こう」
「いや、いい」ヴァンドーヴァーは答えた。「僕はあとを追いかける。じゃあね。きみたちとはまた後で会うかもしれない」そして彼は振り返って女の子を追いかけた。
「あれを見ろよ!」ヘイトは憤慨して言った。「ここで知り合いに出くわすかもしれないと知っていて、それでもよそへ行って、ああいう女の子と腕組みしたがるんだ。悪いにもほどがある。すてきな女の子がこんなにたくさんいるのに、どうしてじっとしていられないのかな?」
ギアリーは何かが自分でできるよりも上手に処理されてしまうのを見るのが好きではなかった。ちょうど今、彼はヴァンドーヴァーが自分を出し抜いたことに腹を立てていた。しばらく女の子の後ろ姿を見送って、さげすむようにつぶやいた。
「安っぽい肉だ! ああ、僕はあんなのはごめんだな。僕は少しばかり賢すぎるから、ああいうふうに自分の首を絞められないと自負している。僕はああいうことより自分の利益に気を使うよ。なあ、ドリー」彼は話をしめくくった。「僕は喉が渇いた。ヴァンとエリスは女の子と出かけちゃった。きみと僕とでどこかに行って何か飲もうよ」
「そうしよう。ルクセンブルクはどうだい?」ヘイトは答えた。
「それじゃ、ルクセンブルクに行こう」ギアリーが賛成すると、二人は振り返ってドアに向かった。外に出ようとしていたときに、誰かが後ろから駆け寄ってきて、二人の腕を取った。ヴァンドーヴァーだった。
「よお」ギアリーはうれしそうに叫んだ。「さっきの女の子に振られたな?」
「そんなことはない」ヴァンドーヴァーは答えた。「それどころか、彼女はすばらしいよ! 名前はグレース・アーヴィングって言うんだ。いや、彼女は僕を振らなかったよ。僕は来週の水曜日の夜に彼女とデートする約束をしたんだ。この辺で彼女と一緒にいるところを見られたくはなかったからね」
「もちろん、彼女はそのデートの約束を守ってくれるだろうな!」ギアリーは言った。
「ああ、僕は彼女が守ると思ってるよ」ヴァンドーヴァーはむきになって言った。
「まあ、行こうぜ」ヘイトがさえぎった。「みんなでルクセンブルクに行って、冷えた飲みものでも飲もう」
「いや、それよりもインペリアルにしよう」ヴァンドーヴァーは反対した。「フロッシーが見つかるかも知れない」
「なあ」ギアリーが叫んだ。「きみはある種の女性を追い回さずには生きられないのか?」
「そうなんだよ」ヴァンドーヴァーは認めた。「僕にはできないんだ」しかしそれでも彼はインペリアルに行こうと相手を説得した。
インペリアルでは、赤目のウェイターのトビーが注文を取りに来た。
「こんばんは、みなさん」トビーは言った。「しばらくこの辺では見かけませんでしたね」
「ああ、そうだね」ギアリーは言った。「僕はものすごく忙しかったんだ。ある事務所に入るために、最近はすっと働きっぱなしでね。きっとやり遂げるよ……大丈夫だって。筋の多いウサギと、ドッグズヘッドを一パイント持ってきてくれ」
「いやあ、働いた、働いた」ギアリーはビールとウサギを片付けた後で続けた。「犬みたいに働き続けたよ。もし法律に則って成功するつもりなら、せっせと働かないといけないからな。僕は絶対にやり遂げるつもりだ、あるいはその理由をつきとめるかだ。僕はこの町で自分の道を切り開いて財産を築くんだ。ここには稼げるお金がある。僕だって他の人と同じくらいうまく稼げるかもしれない。みんなが自分の利益を追求する、そういうことなんだよ、僕が言うのは。そうやってうまくやるものなんだ。利己的かもしれないが、きみだってそうしなきゃならないんだよ。だって! それが人間の本性なんだから。そうじゃないか、え? そうじゃないか?」
「ええ、その通りですね」ヘイトは礼を失しないように努めながら認めた。この後、会話は少し滞った。ヘイトはアポリナリスのレモネードをストローで飲み、ギアリーはエールを飲み、ヴァンドーヴァーはチーズトーストとスペイン産のオリーブを食いしん坊らしく黙々と楽しそうに食べた。やがて、食事を終えて、葉巻や煙草に火をつけると、みんなは最後のコティヨンについて話し始めた。その催しにはヴァンドーヴァーもヘイトも参加していた。
「ねえ、ヴァン」ヘイトは自分の葉巻の煙を避けるために頭を片側に傾けて片目をつぶって言った。「ねえ、きみが夕食後にドアン夫人と踊るのを僕は見なかったかな?」
「見たよ」ヴァンドーヴァーは笑いながら言った。「男はみんな、夫人とダンスをしようとしていた。彼女は出来上ってたしね」
「まさか?」ギアリーは信じられないとばかりに叫んだ。
「それは本当だよ」ヘイトは認めた。「ヴァンの言うとおりだ」
「彼女はテーブルで僕の向かいの席にいたんだ」ヴァンドーヴァーは言った。「そして僕は彼女がシャンパンをボトル一本空けるのを見たんだ」
「へえ、僕はコティヨンでそんな酔い方をする人がいるなんて知らなかった」ギアリーは言った。「てっきり、とても素晴らしい人たちばかりだと思ってたよ」
「まあ、もちろん、普通は酔ったりしないさ」ヴァンドーヴァーは答えた。「もちろん、ヘンリエッタ・ヴァンスのように、コティヨンの一員で、コティヨンをコティヨンらしく、そのあるべき姿にしている女の子たちもいる。でも、ドアン夫人やリリー・スタナード、そしてトラッフォード家の娘たちのように、近頃はシャンパンがかなり好きという女性だっているんだ。それを忘れちゃいけない! ああ、でも、僕はそれを酔っ払ったと言うつもりはないね」
「どうしてさ?」ヘイトはイライラして叫んだ。「どうしてそれを『酔っ払った』って言わないんだい? どうして物事を正しい名前で呼ばないんだい? そうすれば、そういうことがどれほどひどいかがわかるのに。街の名士たちがいるはずの会で、こういうことが起こるのは恥ずかしいと思うよ。じゃあ今度は、シーズンの最初の頃、僕がこの同じコティロンのひとつで目撃したことを話したい。リリー・スタナードが夕食後に姿を消し、みんなは彼女が具合が悪くなって家に帰ったと言ったんだが、僕は何があったのかを正確に知っていた。だって僕は夕食の席で彼女を見ていたんだから。僕は煙草を吸いに外の階段に出ていた。すると、僕のいとこのヘティがちょうど出てきたんだ。まだ十九でね、家の中がとても暑かったんで僕と一緒にそこにいたんだ。そして彼女は夕食のときにリリー・スタナードがシャンパンをたらふく飲んでいるのを目撃してしまい、それをどう受け止めていいかわからずにいたんだ。それで、僕たちがちょうどそのことを話していて、僕がヘティにリリー・スタナードは具合が悪くなったんだと信じさせようとしていたら、そこへリリー自身が出てきて彼女の馬車まで行ったんだ。メイドが彼女を支えていたよ、半分運んでいたようなものだったがね。リリーの顔は白粉をまぶしたように真っ白で灰のようだった。髪は完全に乱れ、しゃっくりをしていたよ。なあ」ヘイトは目をパチパチさせ、二人の友人の叫び声に負けないほど声を張り上げて続けた。「これは本当なんだ。実際に起こったんだと僕は名誉にかけて断言するよ。これは噂で聞いたんじゃない、僕がこの目で見たんだ。立派なもんじゃないか?」彼は怒りながら続けた。「起きた通りに事実が話されると、よく聞こえるだろ? その女の子は泥酔していた。まあ、彼女は間違いを犯したのかもしれない。それが初めてだったのかもしれない。でも、彼女がいつもコティヨンでシャンパンをたくさん飲むという事実は残るし、他の女の子たちもそこで酔っ払ってたんだよ。ヴァンが話したドアン夫人は『酔っぱらって』いた。そう言えばいいんだよ。その夜、彼女は泥酔していた。そして、僕の小さな従姉妹がそこにいた。ヘティは悪酔いした男性さえ見たことがなかったのに、そこに立ってすべてを見ていたんだ。もちろん、みんなでそれをもみ消して、かわいそうな女の子が病気になったと言ったさ。でもヘティは知ってしまった。彼女はコティヨンに行くのはとても立派な非の打ち所のない人たちだといつも教わっていたんだぞ。きみはこれがそういう小さな女の子にどんな影響を与えたと思う? ヘティは決して以前と同じ小さな女の子には戻らないだろう。まったく、うんざりするよ」
「でも」ギアリーは言った。「男性が真面目でいることに、どうして女の子がそんなに騒ぐのか僕にはわからないな。あえて言うけど、もしこのスタナードって女の子が、僕たちが四か月くらい前のあの夜に……きみたちがルクセンブルクから追い出されたあの夜に……どれほど酔っ払ってたかを知ったら、僕たちみんなに知らんぷりをするぞ」
「いやぁ、彼女がそんなことをするとは思わないな」ヘイトは言った。
「彼女ならそのせいできみに好感を持つよ」ヴァンドーヴァーが口を挟んだ。「じゃあさ」彼は続けた。「女性が男性に、男性が女性に求めるのと同じ道徳基準を求めているという話は、理論上は聞こえがよくても、実際の生活ではどうなんだ? 女性はそんなものまったく求めてないよ。こういう大都市の平均的な上流階級の女の子を考えてみろよ。僕たちがティーパーティーやレセプションや催し物で出会う女の子たちだが……そういう子たちは僕たち男性が送っている生活を知っていると思わないか? 当然、知っているさ。詳しくは知らないかもしれないが、女性は僕たちが酔っ払ったり、いかがわしい店に行ったり、そういったことをやっているとだいたい知っているんだ。だからって女性は僕たちを見限るだろうか? 見限らないよ。そうはならないんだ。だってね、いいかい、女性っていうのは僕たち男性に少しばかり尊敬の念さえ抱いてるんだ。女性は男性が物事を知っていて経験豊富であることを好むものさ。まじめ一本槍で、潔癖で、遊び好きの女性とは絶対に付き合わない男性を馬鹿にしているよ。もちろん、女性は男性の悪癖を細部まで知りたがらない。女性が求めるのは、男性が善悪をわきまえていて、悪いことをいろいろ知っていることだよ。実は僕は、男性がこうなってしまったのは女性のせいだとかなり思っている。もし女性がもっと高い道徳基準を求めれば、男性はそれに応じるさ。女性が男性をそそのかして堕落させるんだからね……そして男性は病気でボロボロになり、妻まで駄目にし、子供を持つと……それがその……『まだらのカエル』なわけだ……それからだよ、男性に対して大きな声があがって、女性が本なんかを書くのは。そのときだって、その時間の半分は、女性は男性に働きかけてしかいないんだよ」
「ああ、まあ」ヘイトは反論した。「女の子がみんなそうでないことはきみも知ってるだろ」
「社交の場で会う人のほとんどはそうだよ」
「でも、彼らは最高の人たちなんだろ?」ギアリーは尋ねた。
「違うね」ヴァンドーヴァーとヘイトは口を揃えて答えた。ヘイトは続けた。
「違うよ、きみの言う『最高の人たち』はほとんど社交の場に出て行かないと僕は思っている……立派な行動原理を持ち、昔ながらの美徳などを守り続ける人たち、レイヴィス家のような人たちはね。知ってるだろ」彼は付け加えた。「あの家は毎朝朝食後に家族でお祈りをしているんだ」
ギアリーは微笑み始めた。
「まあ、僕はしないけど」ヘイトは言い返した。「そういうのは好きだな」
「僕もだ」ヴァンドーヴァーは言った。「うちじゃ、親父が食事のたびにお祈りをさせたがるんだ。それに、どういうわけか僕は親父がそれをやらずにすますのは見たくない。でも、まさか、きみ」最初の議論のテーマに戻りながら彼は続けた。「都会育ちで、この十九世紀末を生きているアメリカ上流階級の子女が、物事を知らないとは言うまいな。だって、どうすれば知らずにいられるんだい? 兄弟がいる人たちを見ればいい……そういう人たちなら知ってるって思わないか? もし知ってれば、どうして自分たちの影響力を使ってそれをとめないんだい? 言っておくけど、もし誰かが、僕たち都会の若者が日没後に送っている生活を書き立てても、人はそんなものを信じようとはしないだろう。ヘンリエッタ・ヴァンスが先月開いたパーティには、二十人くらい若者がいて、僕は全員知っていた。夕食のテーブルを見回して、この若者の中でいかがわしい店に入ったことのない者が何人いるのだろうと考えていたよ。ドリー・ヘイトの他にたった一人しかいなかった」
ヘイトはこれを聞いて叫ぶと、感じよく笑って、親指をくねらせ、わざとらしくもじもじして目を伏せた。
「まあ、それでも本当のことだからな」ヴァンドーヴァーは続けた。「僕たち都会の若者は立派なもんだよ。僕は駄々をこねてるわけじゃない。僕はすべての責任を女の子にかぶせるわけじゃないけど、ある程度は女の子にも責任があると言ってるんだ。女性は男性が「男らしく」て、時代の先端をいっていて、世慣れていて、その手の悪い習慣に染まることを求めてる。でも、それがいかに堕落し、忌み嫌われているかを知らないし、夢にも思わないんだ。でもね、僕はお説教してるわけじゃないよ。僕は自分が他の人たちと同じくらい悪いのは知ってるからね。それに僕はできる間は楽しい時間を過ごすつもりなんだ。でも、時々、きみが立ちどまって考えるときや、ドリーの言う、物事を正しい名前で呼ぶときに、どうしてきみは、自分でもわからないのに、変に感じるのかな」
「僕はそれがきみが言うほど悪いとは思ってないよ、ヴァン」ヘイトは答えた。「でも、善良な女の子が悪い習慣についてちゃんと知っておくべきというのは、かえって間違ってると思うな」
「それはおかしいだろ」ギアリーが口を挟んだ。「今どき、アメリカの女の子が二十年も都会で暮らしていて、何も知らないと思う方がありえない。今どきの普通の女の子が、たとえば五十年前のような完全に純粋で無垢の女の子でいられると思うか? とんでもないよ。女の子だって最近じゃ物事をちゃんとわかってるさ。きみが教えられることは多くないぞ。それでも平気なんだ。女の子は自分の身の処し方を知ってるからね。これは教育の一環だよ。もし女の子が悪いことに対する知識がなくて、普通の若者がどんな生活を送っているかを知らないのなら、母親が教えてあげるべきだと僕は思う」
「うーん、僕はそうは思わないな」ヘイトは反論した。「若い女の子にそういうみだらなことを教えておく必要があるという考え方には、どうも抵抗があるな」
「いや、違うだろう」ギアリーは答えた。「そうしなかったら、女の子は最初にやってくる男性に堕落させられるかもしれないんだ。これは女性の貞操を守るためだよ」
「ふん! そんなこと信じられんな」ヘイトはイライラして叫んだ。「僕は、女性が天性の直感的な純粋さを持って生まれてくると信じてる。それは一撃をかわすのと同じくらい本能的に、女性に貞操を守らせようとするものだ。もし道を踏み外したければ、女性はその本能を克服するために自分で努力しなければならないだろうね」
「もし女性がそれをしなければ」ヴァンドーヴァーは熱くなって叫んだ。「もし女性がそうしなければ……自分の貞操を守らないのなら、男性にはその女性といけるところまでいく権利があるというのが僕の意見だ」
「そいつがやらなくても、他の誰かがやるだろうからな」ギアリーは言った。
「ああ、きみらじゃあ、そうなるのは避けられないか」ヘイトは微笑みながら答えた。「たとえ本人の意に反して守らなくてはならないとしても、女の子を守るのは男の義務だよ」
その夜、帰宅してから、ヴァンドーヴァーはヘイトのこの言葉を思い返し、その考え方に立ってインペリアルの個室で起きた出来事を振り返った。気持ちが高ぶり、落ち着かなくなり、ひどく不安になった。やがて、この問題を頭から締め出そうとした。下火になっていた暖炉の火を起こし、火かき棒でつっつき、「起きろ、お前!」と話しかけた。服を脱ぐと、バスローブを着てその前に座り、その熱を存分に吸収し、炭をのぞき込み、いつものように体を掻いた。しかし、それでも神経が高ぶっていらいらし、その夜はよく眠れなかった。
翌朝、彼は風呂に入った。ヴァンドーヴァーは風呂好きで、いつも入浴に二、三時間費やした。お湯がかなり沸くと、目の前の棚に小説を置き、手頃な近くにチョコレートの箱を置いて湯に浸かった。一時間以上そこにいて、ものを食べ、本を読み、時々煙草を吸ったりしたが、やがて体力を消耗させる蒸気の熱が徐々に圧倒してくると、彼は眠りに落ちてしまった。
この日の朝、九時から十時の間にギアリーが立ち寄り、いつものようにヴァンドーヴァーの部屋までやってきた。出窓の狼の毛皮の上で寝ていたコークル君は、荒々しく吠えて飛び起きたが、彼に気がつくと、短い尻尾を振って近づいた。ヴァンドーヴァーの服が床に投げ散らかされて、浴室のドアが閉まっているのがギアリーの目についた。
「おーい、ヴァン!」彼は声をかけた。「チャーリー・ギアリーだけどさ。入浴中か?」
「はーい! 何ですか? どなたですか?」とドアの向こうから声がした。「何だきみか、チャーリー? やあ! 調子はどうだい? ああ、僕は入浴中なんだよ。眠ってしまったに違いない。ちょっと待ってくれ、今、出るから」
「いや、お邪魔してもいられないんだ」ギアリーは答えた。「ダウンタウンで約束があったのに寝坊しちゃって、朝めし抜きで行かなくちゃならないんで、参ったよ。十一時頃、グリルルームで何か食べるよ、多分ステーキでも。でも、僕はそんなことを言いに来たんじゃない。アイダ・ウェイドが自殺したんだ! 大変なことじゃないか? ダウンタウンに行く途中に立ち寄って、きみにそのことを話そうと思ったんでね。ひどい話だ! 朝刊に全部載ってるよ。彼女は頭がおかしくなっていたに違いない」
「何だって……彼女がどうしたって?」ヴァンドーヴァーの声が返ってきた。「新聞……は見てないけど……彼女がどうしたって? 教えてくれよ……彼女が何をしたんだ?」
「昨夜、アヘンチンキを飲んで自殺したんだ」ギアリーは答えた、「理由は誰も知らない。何の書き置きも手紙もそういうものは何も残してないんだ。あまりに突然のことなんで恐ろしい限りだが、彼女は一、二週間くらいとても落ち込んでいて、何かで参っていたらしい。昨夜十時頃、自分の部屋で部屋着一枚の状態でテーブルに突っ伏しているのが見つかったんだ。そのときには意識がなくて、亡くなったのは一時から二時の間だ。ずっと昏睡状態だったんだ。じゃあ、僕はもうぐずぐずしていられないんだ、ヴァン。ダウンタウンで約束があるんでね。ちょうど家の前を通りかかったんで、立ち寄ってきみにアイダのことを話そうと思ったんだ。近いうちにまた会って、この話をしよう」
コークル君はギアリーを階段のてっぺんまで丁重に見送って、それからヴァンドーヴァーの部屋に戻り、浴室のドアの隙間から鼻をくんくんさせて、主人がまだそこにいるかを確認してから、狼の毛皮まで戻り、短い尻尾の上に座って、あくびをした。ヴァンドーヴァーに会うのが待ち遠しくて、無駄に長湯をしているなと思った。再びドアまで行って、耳をすませた。中はとても静かだった。物音ひとつ聞こえなかった。ヴァンドーヴァーをそこにそんなに長居させられるものは何だろうと再びいぶかしがった。自尊心がありすぎて泣き言を言えなかったので、狼の毛皮まで戻って、日差しを浴びて丸くなった。しかし眠ることはなかった。
やがて、かなり長い時間が経ってから、浴室のドアが勢いよく開いて、ヴァンドーヴァーが出てきた。彼は体を拭きもせず、裸でびしょ濡れだった。部屋の中央にあるテーブルに直行し、朝刊を手に取って、ギアリーが話していた記事を探した。最初は見つけられなかったが、難病児施設向けのチャリティーコンサートの広告横の、内側のページの印刷の灰色のぼんやりした中から、それが突然目に飛び込んできた。そこにアイダの写真があった。それは彼女が彼に与え、今でも彼の鏡のフレームとガラスの間に挟まれている同一の写真から複写されものだった。ヴァンドーヴァーはその記事を最後まで読んだ。記事は、紙面を制限された記者に容赦なく簡略化されて、彼女の人生と人柄と死亡状況を伝えた。この論調からすると、死因は不明だった。近頃は落ち込んで体調が優れなかったことが述べられていた。
ヴァンドーヴァーは新聞を投げ捨て、裸で水滴を垂らしながら立ち上がって、両手を頭に当て、息を殺した低い声で言った。
「僕は何をしたんだ? いったい何をしてしまったんだ?」
突然、大きな巻物が広げられたみたいに、彼は、彼女の死と、命よりも大きな彼女の中の何かを破壊した自分の責任に直面した。これから彼女はどうなるのだろう? そして自分はどうなるのだろう? ほんの一瞬、最終的にアイダは同意していた、と自分を説得しようとした。しかし、そうではないことを彼は知っていた。彼女は同意していたが、彼が同意を強要したからであり、彼の罪であることに変わりはなかった。そして、物事をその真実の光の中で見たその恐ろしい瞬間に、因習だとか詭弁のすべての覆いが引き裂かれて、ヘイトが語った言葉がよみがえった。女性が同意したかどうかに関係なく、たとえ女性の意思に反してでも、女性を守ることは男性の義務だった。
湯気を立て、両手で頭を打ち、叫びながら、彼は大股で床を歩いた。「ああ、恐ろしい、恐ろしいことだ! いったい、僕は何をしたんだ? 彼女を殺してしまった。そうだ、さらにもっとひどいことをした!」
彼は自分に起こりえたもっと悪いことについては何も考えられなかった。どんな種類の責任も嫌いで、退屈なことからさえもいつも逃げようとし、気楽さと快適さと心の平穏を愛してやまなかった彼が背負うのは、何と重い責任だろう!
このとき彼は片時も休まずに自分がしてしまったことのさまざまな結果を考えた。これは、自分の人生が破滅し、この罪が生涯、石臼のように首にぶら下がる、ということだった。もうどんなことも楽しめなくなるかもしれない。今まで僕を楽しませていたささやかな喜びとささやかなわがままは、すべて興がさめて楽しめなくなった。残りの人生は、長い懺悔の日々になるにちがいない。手に入れるかもしれないどんな楽しみも、僕の罪をさらに忌まわしく思わせるだけにしかならないだろう。
これは、アイダのことで自分をこのようなひどい誤解に導いた自分の思い違いに対する激しい反感だった。自分自身に対するものと、自分をこんなことに引きずり込むのを許してしまった自分の中の獣性に対する無言の無力な怒りだった。
このとき彼を襲ったのは、亡くなった少女に対する計り知れない憐憫の波だった。そして、彼は自分を別の人間として見て、汚れた情熱を満たすために、彼女が最も大切にしていたものを破壊していたことに気づいた。
今や、これは彼にとって恐怖だった。世間は僕をどうするだろう? この事件に僕が関与していたことは確実に知られるだろう。彼はこういう犯罪に対する処罰はどういうものになるかを考えようとした。僕もまた殺人者と見なされるのだろうか? このくらいでは絞首刑にならないのだろうか? 彼の想像力はかつてないほど活発になり、恐怖はかつてないほど激しくなった。隠れるにせよ逃げるにせよ、すぐにたくさんの計画が頭に浮かんだ。
しかし何よりも悪いのは、絶対に逃れることのできないあの処罰のことや、ここでどう言い繕い言い逃れようとも、彼の罪が正しい割合を引き受け、正しい審判を受け入れることになるあの奇妙な別の場所について考えることだった。そのとき一瞬、まるで自分の足もとが開いて底なしの深淵ができた気がして、純粋に身を守るために彼はその縁から体を引き戻さなければならなかった。その方向をいつまでも見続けるのは、間違いなくただの愚行だった。
この間ずっと、彼は部屋のあちこちに寝っ転がった。白く長い腕はがくがくぶるぶると震え、濡れて輝く髪は顔面を覆うように流れ、まばらな長い髪の毛は足や足首にかかり、すべてがまっすぐ水を垂らしていた。時々、ものすごく大きな理由のない恐怖が、突然、身の毛のよだつ、押しつぶすほどの勢いで彼に襲いかかり、彼はベッドでのたうち回った。そのために彼は、うめき、すすり泣き、爪で頭皮をかきむしり、叫びたい欲求を噛み殺し、凄まじい精神的苦痛と闘ってもがき続けた。
その日も次の日も恐しかった。ヴァンドーヴァーにすれば、自分の世界のすべてが変わってしまったからだ。ギアリーが来た朝以前に起きたすべてが、何年も前に自分の人生の別の局面で起きたことのように、彼には思えた。一晩中目を覚ましたまま横になって、家の軋む音や水道の蛇口の水のしたたる音を聞いていた。忌み嫌うように食事から顔を背けて、父親には具合が悪いと告げ、できる限り自室にこもって、自分のことがばれていないか確認するためにすべての新聞に目を通した。彼がひどく驚きながらもほっとしたのは、アイダは体調を崩して、一時的に落ち込むという状態が長く続き、その最中に自殺したという説が有力だったからだ。もしアイダの家族が真相を知っていたなら、明らかに、自分たちの不名誉を隠すために最善を尽くしていた。ヴァンドーヴァーは自分の安全が脅かされることをひたすら恐れたので、自分が安泰でいられるかもしれないこの説明に後ろめたさを感じてはいられなかった。彼の関与を示唆する推測さえまだなかった。
我ながらこの重圧によく耐えているものだと思った。しかし二日目の夕方、夕食を食べるふりをしていると、父親が使用人を外に使いに出し、彼の方を向いて優しく声をかけた。
「どうしたんだい、ヴァン? 最近、元気がないじゃないか?」
「元気とは言えませんね」ヴァンドーヴァーは答えた。「また喉の具合が悪いんですよ」
「死人のように真っ青だぞ」父親は答えた。「目はくぼんでいるし、何も食べていないだろ」
「はい、自分でもわかってます」ヴァンドーヴァーは言った。「気分が全然良くないんです。今夜は早く寝ようと思うんですが、自分でもわからなくて」……少し間を置いてから、父親に見られるのを避けたい一心で話を続けた……「この先どうなるんだか自分でもわからないんです。僕の代わりにコークル君にエサをあげるよう、コックに言ってくれませんか?」
彼がテーブルを押して後ろにさがる間、父親は見ていた。
「どうした、ヴァン?」父親は言った。「どこか悪いのか?」
「ああ、朝になれば大丈夫ですよ」と神経質に答えた。「今はちょっと気分が悪いんです」
「何が問題なのか、お父さんに話した方がいいとは思わんか?」父親は親身になって言った。
「問題なんてないですよ、お父さん」ヴァンドーヴァーは強く言った。「ただちょっと気分が悪いだけですから」
しかし、自分の部屋で服を脱ぎ始めると、突然の衝動が、父親にすべてを話してしまいたいという抵抗できない子供じみた願望が、彼を襲った。ひとりでは耐えられなくなり始めていた。立ち止まってこの衝動を理性的に考えようとはせずに、再びベストに袖を通して下の階に降りた。喫煙室で父親が暖炉の前の大きな革張りの椅子に座っているのを見つけた。
ヴァンドーヴァーが入ってくると、老紳士は立ち上がって、まるで彼を待っていたかのように何も言わずにドアまで行って閉め、鍵をかけた。戻ってきて暖炉の前に立ち、ヴァンドーヴァーが近づいてきて、さっき立ち去ったばかりの椅子に座るのを見守った。ヴァンドーヴァーは二言三言で事の次第を父親に語った。言葉を選ぶでもなく、同じ表現を何度も繰り返し、これで終わりにして片付けたい一心だけで動いた。
それはまさに雷鳴だった。父親が恐れていた最悪の事態は、これほどひどくなかった。かなり深刻な子供の悩みだろうと予想はしていたが、これは大人の犯罪だった。じっと息子を見つめながら、マントルピースの端を探し求めるように手を伸ばして、しっかりとつかんだ。しばらく何も言わなかったが、やがて口を開いた。
「すると……お前は彼女を誘惑したと言うんだな」
ヴァンドーヴァーは顔を上げずに「はい」と答え、それから付け加えた。「怖いんです。そのことを考えると、ときどき頭がおかしくなりそうな感じがするんです。僕は……」
しかし、老紳士は手を伸ばして彼をさえぎった。
「やめろ」父親は素早く言った。「今は何も言わんでくれ……頼む」
二人ともしばらく黙ったままだった。ヴァンドーヴァーはテーブルの上の小さな青と赤の花瓶をぼけっと見つめ、父親がこの知らせをどう受け止めて、次に何を言うかを考えていた。老紳士は短く息をして、時折咳払いをした。目は漠然と部屋の壁をさまよい、指はマントルピースの端でおろおろしていた。そしてようやく襟を緩めるかのように首に手をやり、ヴァンドーヴァーから目を背けて言った。
「頼む……出て行ってくれないか……少しの間離れていてほしい……少し、お父さんをひとりにしてくれ」
ドアを閉めるとき、ヴァンドーヴァーは敷物の端をドアと敷居の間に挟んでしまった。邪魔にならないように敷物を押し出そうと再びドアを開けたとき、父親が椅子に沈み込み、テーブルに腕を置いて、その上に頭をうなだれているのが見えた。
その夜は再び父親に会うことはなく、翌朝の朝食のときも、二人の間に言葉は交わされなかった。しかし父親はいつもはしていたのに、昼前にダウンタウンの事務所に出かけなかった。ヴァンドーヴァーは朝食後すぐに自分の部屋に行き、家の裏の小さな庭を見下ろす窓の前に座った。
完全に惨めで、神経は擦り切れ、時々また、この前の朝突然襲ってきた、あのヒステリックな理由のない恐怖を感じた。
また、新しい悩みができた。彼が父親に与えた打撃だった。彼には老紳士がそれに押しつぶされたのがわかった。まかさ自分の息子がこれほど卑劣になれるとは想像していなかったのだ。ヴァンドーヴァーはどうしようか考えた。父親が彼に注いた愛情をすべてを自分が打ち砕いてしまったように見えた。彼は老紳士が、自分を、そしてすべてを、見捨てるのではないかと震えた。たとえ父親が彼と縁を切らなかったとしても、どうすれば二人が元通りになれるか彼にはわからなかった。同じ家に一緒に住み続けるのはいいとしても、互いに知らない人のように離れた存在になるかもしれなかった。しかしそうなるとは思えなかった。父親はおそらく弁護士か代理人を通して、生きていけるだけのお金を出してやり、目につかないどこかに彼を送り出す可能性の方がはるかに高かった。考えれば考えるほど、これが父親の決定になるという確信が強くなった。老紳士はこれを考えるのに一晩、決断を下すのに十分な時間、をかけた。その朝息子に話しかけも見もしなかった事実は、ヴァンドーヴァーが予想したことの表れに過ぎなかった。彼は、この決断がどのように実行されるか、ののしりや怒りの爆発はなくて、冷静に、悲しげに、必ず実行されると予見できるほど、自分は父親をよく知っていると思った。
正午になる頃、父親が部屋に入ってきた。ヴァンドーヴァーは父親の方を向き、相手が言わなくてはならないことに全力で耳を傾けた。これで取り乱しては駄目なことを彼は知っていた。自分の惨めさが限界まできてしまったように感じたからであり、今さら何ものも彼に手を触れたり、影響を与えることはできなかった。
父親は片手にポートワインのデカンター、もう片方の手にグラスを持っていた。グラスを満たして、ヴァンドーヴァーに差し出し、優しく言った。
「これを飲んだほうがいい。お前はこの三日間、ほとんど何も食べてないんだから。かなり気分が悪いのか、ヴァン?」
ヴァンドーヴァーはグラスを置いて立ち上がった。突然、大きな嗚咽が彼を震わせた。
「ああ、親父!」と叫んだ。
まるで母親かいとしい姉を相手にしているようだった。この放蕩息子は幼かった頃以来初めて父親の首に腕を回してしがみつき、胸が張り裂けんばかりに泣いた。